芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第三十二話 救出鬼の不殺殺戮と刺殺尽諦

 

001

 

 

 

「飼い猫ちゃんは邪魔ねぇ」

 

「な、なんで……、万全をきしたはずじゃぁ、なんでヴィランがいるんだよぉ!!」

 

 黄彩と響香、B組の面々がガスに侵されるなか、肝試しスタート地点では蜥蜴のような風貌の全身に鱗を纏ったヴィランと、厚ぼったい唇の、オネェ口調の男が、まだスタートしていなかった生徒やプッシーキャッツを襲撃していた。

 

 おねぇヴィランの布に包まれた棒状の武器が、不意打ちでやられたピクシーボブの顔面を潰さんと乗せられている。

 

「ご機嫌よろしゅう、雄英高校」

 

 蜥蜴ヴィランが余裕飄々に両手を広げながら、生徒達の前に躍り出る。

 

「我らヴィラン連合、開闢行動隊!」

 

「ヴィラン連合!?」

 

「なんでここに……」

 

 怖気付く生徒達を嘲笑うように、おねぇヴィランは笑う。

 

「この子の頭、潰しちゃおうかしらどうかしらっ! ねぇ、どう思う?」

 

「させると思うか!!」

 

 虎が動こうとするが――

 

「待て待て、早まるなマグネ。虎もだ、落ち着け」

 

 と、おねぇヴィラン――マグネと虎の間に立つように、蜥蜴ヴィランが静止を促す。

 

「生殺与奪は全て、ステインの意思に沿うか否か」

 

 蜥蜴ヴィランはステイン――ヒーロー殺しの思想にあてられたヴィランらしい。

 

「……申し遅れた。俺はスピナー、彼の夢を紡ぐ者だ」

 

 蜥蜴ヴィラン――スピナーは名乗りながら、剣を抜く。剣と言っても異形であり、無数の剣やナイフなどの刃物をベルトで強引に纏めたような武器だ。

 

「なんでもいいがな、貴様らぁ。その倒れてる女、ピクシーボブは、最近婚期を気にしだしててなぁ、女の幸せ掴もうと、いい歳して頑張ってたんだよ。……そんな女の顔を傷物にして、語ってんじゃないよぉ!!」

 

 ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの仲間として、一人の男として、虎が怒り叫ぶ。

 

「ヒーローが人並みの幸せを夢見るかぁ!!」

 

 その怒りに憤りを重ねるように、スピナーが襲いかかる。

 

「虎! 指示は出した、他の生徒の安否はラグドールに任せよう! 私らは2人で、ここを抑える!」

 

 虎の隣に立ち、怒りを隠さぬマンダレイが叫ぶ。

 

「みんな行って! 決して戦闘はしないこと! 委員長引率!!」

 

「しょ、承知しました!」

 

 マンダレイの指示に従い、飯田は生徒を引き連れてその場を離れる。

 

 

 

002

 

 

 

 プッシーキャッツがスピナー、マグネと戦闘を初めて、生徒達の姿が見えなくなったタイミングで。

 

『スピナー、ヴィランながらかっこいいじゃない♪ 好みの顔してる♥』

 

「え……」

 

 マンダレイがテレパスで心にもないことを言って、スピナーが頬を赤くしてれたタイミングで。

 

「なに照れてんの、ウブね!」

 

 鋭い爪を備えた、肉球型グローブで殴りかかろうとしたタイミングで。

 

「ギャハハハハハ!! 見つけたぞクソ野郎ども!! ――パワーダッシュモーター」

 

「「なに!?」」

 

 森の中から、木々を轢き倒しながら、ライダースーツ姿の男がモーター音と共にスピナーの剣に突進してきた。

 ベルトを引きちぎり、剣を踏み砕きながら、使駆はスイッチを切る。

 

「誰!?」

 

「テメェは!!」

 

 思わず立ち止まり、使駆に注目してしまったマンダレイとスピナーに答えるように使駆は笑いながら答える。

 

「ギャハッ! ギャハハッ! ギャハハハハハハッ! 俺はヒーローじゃねぇが悪の敵! 殺すべきを殺す執行車!! ……ヒーローとガキがいる手前、殺しは無しっつー縛りプレイ中だが、テメェの人生くらいはぶっ壊す。――ノーマルモーター、ウエストアクセル」

 

「テメェ、ヴィラン殺しだな! ステインが、」

 

「聞いてねぇよ」

 

 叫ばずにはいられないとばかりに使駆に激昂するスピナーに容赦無く、使駆は腰の捻りどころか回転を加えた平手打ちをスピナーの顔面に当てる。

 

「ブベェ!?」

 

「ちょっと、スピナー!?」

 

 常軌を逸する速度で放たれた平手打ちを受け、スピナーはマグネ目掛けて飛ばされ、吸い込まれるように激突する。

 

 チャンスとばかりに、虎は個性《軟体》を駆使してマグネとスピナーを捕らえる。

 

「……ヴィラン殺し、アンチヴィラン。まさかそんな奴までヴィラン連合に」

 

 立ち止まり、上半身を四回転させてからモーター音を収めた使駆に、マンダレイは警戒を隠さない。

 

「ギャハハ! んなわけねーだろバッカじゃねぇのっ!! アンチヴィランもヴィラン殺しもクソダセェ呼び方で嫌いだが、それでも意味も分かんねぇほどテメェらは馬鹿か!? ギャハハハハハハ!!」

 

 嘲笑うように笑う使駆に顔を歪めながら、マンダレイが尋ねる。

 

「まさか、……味方ってこと?」

 

「ギャハハ、んなこたぁどうでもいい。黄彩と響香は何処だ?」

 

「貴様、二人に何用か」

 

「ギャハハ、あっちに行ったんだな?」

 

 虎が、肝試しの会場にした方向を気にしているのを見かね、使駆はその方向を指さす。

 

「待って、あなた、一体なにが目的?」

 

「金とダチ。ギャハッ! 生憎と、テメェらヒーローが好きそうな世界征服とか人類絶滅みてぇな、大層な目的なんて無くってなぁ! ――嫌な予感がする、急ぐか。スプリントダッシュモーター」

 

「待って!」

 

「待たねぇ」

 

 そう言い残し、使駆は肝試しコースへと駆け込んだ。

 

 

 

003

 

 

 

「むぅ、……帰りたいです」

 

 その場の誰よりも早く、渡我被身子は察知していた。

 ナイフで切りつけた麗日のことも忘れたように、天を仰ぎながらため息をつく。

 

「いきなり切りつけておいて、なんなのあなた」

 

 肝試し中に乱入した被身子は、麗日と蛙吹のペアを襲いかかったのだが、一度麗日の腕を切ったきり戦意を喪失し、全身から力を抜いていた。

 

「もう、終わりなんです。だって使駆くんが来ちゃったんですもん。ステ様もオールマイトも、ヒーローもヴィランもヴィラン連合も雄英高校も、闇鍋みたいにかき混ぜられて生ゴミです」

 

「……シクくん、誰や……」

 

「ケロ、なんで彼女が知ってるのか知らないけど、響香ちゃんと有製ちゃんのお友達の殺人鬼よ」

 

「あの二人の?」

 

「一度会っただけで、よくは知らないわ」

 

 被身子には二人が本当に認識できているのか、「あはは」と笑いながらナイフをホルダーに仕舞った。

 

「嗚呼、かぁいくない音がこっちに飛んで来る。モーター鳴らして、血も涙もなく薙ぎ払われる。もうダメです。もうダメなんです」

 

 何故か諦めた様子でその場から去ろうとする被身子だったが、ふと立ち止まった。

 

 さながらミサイルのように、三人を目掛けて木々が飛来してきた。

 

「梅雨ちゃん下がって! 私が!」

 

 触れたものを無重力状態にすることができる麗日なら、確かに木々の重量なんて問題にならないだろう。

 だが、その問題の前に立つ暇すら、与えられることは無かった。

 

「ダメです。そんなんじゃあ、かぁいい二人が台無しになっちゃうじゃないですか。使駆くん」

 

 ナイフの刃で撫でるように、木々の軌道を逸らすことでそれらは頭上を超えた先に突き刺さる。

 

「ギャハハハ、心配いらねぇよ。俺なら蹴り潰せてた。久しぶりだな、被身子」

 

 使駆の言葉を聞き入れたくないという風な表情で、被身子は頷く。

 

「ギャハッ、梅雨ちゃんも久しぶりじゃねぇか」

 

「……ええ、久しぶりね」

 

 面識のある蛙吹は訝しみながら、小さく手を振った。

 

「黄彩と響香がどこにいるのか知らねぇか?」

 

「……あなたがどんな目的か分からない以上、教えるわけにはいかないわ」

 

「ギャハハッ、オレのダチが愛されてるみてぇで、俺まで嬉しくなってくるぜ。……おい被身子」

 

「……なんですか」

 

「手伝え」

 

「ケロ!?」

 

 ヴィラン殺しがヴィランに言ったセリフに、その場の女子三人が顔を強張らせる。

 

「仲間を裏切れと?」

 

 渡我被身子は首を傾げながら尋ねる。

 

「ギャハハッ!! 俺もテメェも、殺してぇ奴殺せりゃどこにいようが同じだろうが。居場所を捨てろとは言わねぇよ、手伝え」

 

「……黄彩くんと響香ちゃんを見つけて助ければいいんですね。……裏切らない範囲で」

 

「ギャハハハッ! さすが同類、わかってんじゃねぇか」

 

 笑う使駆を背に、被身子はどこかへと歩き出した。

 

「使駆くんがいるんじゃ、可愛く殺す余裕が無いから。……ばいばい」

 

「ギャハハ、人のせいにしてんじゃねぇよ」

 

 使駆もモーター音を鳴らしながら、被身子とは反対方向に歩き出した。

 

「ああ、俺が走ってた方歩けばヒーローんとこに着くぞ。気をつけてな。ハイパーダッシュモーター」

 

 被身子が逸らすことで地面に刺さった木々も、生え並んだ木々も轢き払いながら、どこかに消えていった。

 

 

 

 

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