001
黄彩の両親は現在、父親は彫像師の仕事で海外を転々としていて、母親は人形劇の仕事で日本中を巡っている。そのため、黄彩は昔から縁のある耳郎家のお世話になっているのであった。
「えっと、」
「お帰りなさい、黄彩くん。……あら、今は黄彩ちゃんなのね」
「ただいま、お母さん。ウギュ……」
病院から帰ってきた黄彩を、響香の母親、耳郎美香が出迎えた。玄関で靴を脱いだタイミングを見計らって、黄彩を思いっきり抱きしめる。
「お腹空いたでしょ。お昼ご飯、できてるわ」
「ん、いただくよ。ああ、聞いてるかもしれないけど、響香ちゃんも一応無事だってさ。そのうち目ぇ覚ますって」
「ええ、担任の先生から聞いたわ。二人とも、無事で何よりよ」
「ウフフ、……うん」
「黄彩ちゃん?」
「うにゃ、なんでもないよ。ちょっと着替えてくるね」
「ええ。準備して待ってるわ」
黄彩は自分の服を置いている響香の部屋へと向かって行った。
響香の部屋で、響香のものであるギターを無作為に手に取って、弦を弾いた。
まともに弾けるわけでもなく、ただ無作為に、乱雑に、撫でるように弾く。
「ウフフ、あーあ。やんなっちゃうぜ。結局、ボクじゃ何にも出来ないんだもんなぁ」
ギターを元あった場所に戻し、ラストが着替えに持ってきた体操服を脱ぐ。
夏の暑さに汗が滲んだ下着も脱ぎ去り、裸となった。姿見に、完成された美しい女体が写る。
「綺麗さ、可愛さ、美しさ。……何が、たった三つしか知らないボクとは違う、だよ。ボクには無い芸術作法? ボクなんて綺麗で可愛くて美しいだけじゃんかさ。バーカバーカ」
鏡に写る自分を嘲笑うように罵倒するも、その気持ちは晴れない。
「綺麗で可愛くて美しいだけのボクが、綺麗で可愛くて美しいボクに敵うわけないじゃん。……やだなぁ、人任せって。助けられるって。ボクだってボクなんだぜ? ちょっとくらい自分に夢見たっていいだろうが」
響香を助けられなかったということが、なす術なく使駆に助けられたということが、黄彩の表情を美しく歪める。
「ヴィランなんてどうでもいい。ヒーローなんて勝手にやってろ。ボクはボクだ。ボクなボクもボクがボクだろうとボクなんだ。……ボクたちが後悔させてやる」
髪を慣れない手つきでポニーテールに結い、クローゼットの中から、響香が絶対に着ないような、水玉模様のワンピースを取り出し、慣れた手つきで着る。
「あ、下着わすれてた」
002
「そういえばさ、お父さんは?」
「普通に朝から仕事よ。途中に病院寄って、黄彩ちゃんと響香の顔見て行くって言ってたけど。会わなかった?」
「残念ながら、タイミングが悪かったみたいだね」
冷やし中華をすすりながら、二人は雑談に花を咲かせる。
「彼には会ったの? 巻解くん。二人を助けてくれたんでしょ?」
「ウフ、まさかまさか。使駆くんは殺人鬼なんだぜ。最近は顔も知れ渡っちゃったみたいだし、病院には居られないんじゃないかな」
「残念よね。根はいい子なのに」
「根っこだけは善性だからね。曲がり歪んでるけど。だからこそお友達なんだけどさ」
「……やっぱり、黄彩くんも貴女も、蒼ちゃんの子よ」
「ボクはボクの子さ。人の子ですら無くってね」
「そういうところよ。自分が特別だと思ってる」
「異常なのさ。欠陥かな。……どっちにしても特別に異常なのは間違いないとも」
「私たち、親からしてみれば、あなた達はただかわいい我が子なのよ」
「当然だとも。ボクは可愛いからね」
「そういうところよ、……黄彩くん」
美香はキッチンから、もう一人分の冷やし中華とお茶を運んできた。
「うにゃ? ……よく分かんないけど、ただいま」
「ええ、お帰りなさい」
どこからともなく、初めからそこにいたかのように、雄英の制服姿の、男子小学生の姿の黄彩がテーブルについていた。
「やぁ。顔を合わせるのは初めてだね、ボク。なんだ、ボクに似て可愛いじゃないか」
「ん、ボクだからね。……うん、我ながら綺麗で美しいよ」
「なんか、価値観が狂いそうな光景ね……」
白髪メッシュのツインテール美少年と、白髪メッシュのポニーテール美少女が互いに自画自賛のような褒め合いをしている光景は、母親代わりである美香には不可思議極まりない光景だった。
「それで、作ってたものは完成したのかな?」
「ん、まぁなんとかね。……239人壊して、2428人殺して、2668人目でやっと出来た、美麗に華麗で端麗なボクの傑作」
「ふぅん。可愛いの?」
「もちろん。我が子が可愛くないわけ、ないからね」
「響香ちゃんよりも?」
「ウフフ、例えボクでも殺すよ」
「望むところだとも。ボクだってボクなんだぜ?」
「……うにゃ、うん。じゃあ、またね」
「愛してるぜ、ボク」
可愛らしい微笑みを浮かべながら、黄彩は光に溶けるように去って行った。
「黄彩くん、ちゃんと残さないで食べてね」
美香は黄彩の食べ残していった冷やし中華を、黄彩の前に出した。
「うん、頑張る」
003
傑作No.22《
傑作No.22《
傑作No.22《
傑作No.22《
黄金の国は、
彼女が生まれるまでに239人の赤子が個性に耐えきれず壊れ、2428人の神刺裂那が理想に溶けて死に絶えた。
2668人目の神刺裂那が生きていられるのは、全くの偶然だ。それまでと大した差なんて無かった。同じ親から生まれ、同じ友と暮らし、そして理想に死んだ。神刺裂那だって、大差はない。ただちょっと思考が異なりすぎた。
ハートフルという単語に、心暖まる、のような意味を見出していたからこそ2428人は死んだ。
ハートフルという単語が、痛ましい、という意味であることを理解したからこそ2668人目は生き延び、そして完成した。
――ハートフルピースフル。痛みの先に平和あり。
作品名《
詰め込めば人間三人は入りそうな試験管から黄金の液体が抜けていき、空になるとガラスの管も格納される。
「おはようございます、と言ってももうお昼ですが」
「……おう、誰だテメェ」
こけしのように切り揃えられた金髪に、タオルを持ったラストを睨みつける黄金の瞳。中学生ほどの身長に凹凸の乏しい体。
「私は最終技術集結人型自動機構人形と申します」
「長ぇよ」
「ではラストとお呼びください。貴女の製作者、黄彩くんのお姉さん的なポジションです。お姉ちゃんと呼んでくれても良いのですよ?」
「ふざけろ殴るぞ」
「……平和の象徴の言葉ではありませんね」
ラストは呆れた様子で裂那の体を拭いていく。肩から腕、胸、腰、腹と順に撫でていき、身体から水分を拭いきれたら、もう一枚のタオルで髪を拭う。
不機嫌そうにしながらも、裂那はされるがままにされている。
「大体のことはわかってる。オレを作りやがった馬鹿は何処にいるんだ?」
「響香ちゃんの家で食事中だと思われます」
「じゃあ、作る原因になったクソどもは?」
「さて、場所は私も把握していませんが、じきにわかるでしょう。馬鹿と煙は目立つものですから」
ラストが雄英の制服と同じデザインの服を裂那に着せる。
「おや、これは……」
裂那が身につけた衣類が、次々と黄金に染まっていく。所々が白く残り、なんとか衣服に立ち止まっているが、うっかり全身が染まろうものならそれはもう衣服ではない何かだ。
「ん、体質でな。……こっちじゃ個性だったか」
「おしゃれのし甲斐のない個性ですね」
「ファッションに興味はねぇが、オレもそう思うよ。目立ってしゃーねぇ」
「リボンまで金色に染まってしまいました」
「やめろ、オレにそういう可愛い的なやつをつけるな。似合わないだろうが」
「いえいえ、大変お可愛いですよ。抱きしめていいですか?」
「……勝手にしろ」
「では」
黄彩が作業するときに座っている玉座にラストが座り、膝の上に裂那が乗せられる。
「口調の割に素直というか、従順というか、……大丈夫ですか? 悪い人に騙されちゃいけませんよ?」
「現在進行形で騙されてるようなもんだろ。オレがここにいることがもう詐欺被害みてぇなもんじゃねぇか」
「黄彩くんは可愛いくて良い子だから大丈夫ですよ〜」
「オレは可愛くもなければ良い子でもないけどな」