001
それもただの魔法少女ではない。
――核融合の魔法少女。
体内に核融合炉を持つ体質で、排出されるエネルギーを魔法で操ることで悪と戦う魔法少女だ。
別名、死神の死因。黄金の国を襲う悪を、推定一億度の熱エネルギーで灰も残さず悪を滅ぼす。黄金の国最強の一角だ。
転生の魔女は
曰く、転生の魔女は不死である。
否、それは誤りだ。彼女の死は終わりではない、というだけのこと。死後の世界に保管された、死んだ魔法を持ち帰ることができるという体質を持って生まれた元人間の魔女だ。
体質。有製黄彩の世界観でいうところの、個性。
黄金の国の国民は、オールマイトの恵まれた身体、プレゼント・マイクの声帯、ミッドナイトの特異体臭といった、個性で増幅されるまでもなく個性的な遺伝子を混ぜ合わせ、時に変異しながら受け継いでいった。(前例として、オールマイトはOFAを継承する前から肉体が完成しており、プレゼント・マイクは個性が目覚める前から声が異様にデカかった)
その果てに生まれたのが神刺裂那であり、煌綺太陽であり、
そんな三人が、ヴィラン連合の本拠地があると思われる、神野区に立ち並ぶビルの屋上で、奮闘しているヒーローと脳無を見下ろしていた。
「ねぇねぇ! あたしもう行っていいかな! あの頭丸出しマン、悪いやつだよね!」
スチームパンク、という言葉の似合う衣装に身を包んだ少女、太陽がすぐにでも飛び降りようと裂那にねだるが、名無しの女と裂那の二人に止められる。
「いけませんわ、太陽。こちらでは悪でも殺しは御法度。貴女はあくまでも、裂那がピンチに陥ったときのためのボディガードでしょう?」
「えー、ヤダヤダ、つまんなーい!」
ローブのフードを深く被り、いかにも怪しい格好をした
「呼び出しといて悪いが、もうお前ら帰ってろ。必要になったらまた呼ぶから」
「ま、それが妥当ですわね。帰りますわよ、太陽。向こうで遊びましょう」
「ムゥ……、ジェーンちゃんまで言うなら、分かった」
太陽はむくれながらも抵抗を止めると
すると、二人は黄金の波に溶け込むように、その場から消えていった。
神刺裂那の個性、《黄金の国》は数多の体質――個性が複合された、個性特異点の典型例のような個性だ。うち一つの能力として、黄金の国に住まう住民をこちら側の世界に連れてくることができる。
002
しばらくの間、裂那は一人で戦いを観戦していたが、戦況に動きがあり、目つきを変える。
オールマイトを始めとしたヒーロー達が、ヴィラン連合のアジトとなっていたバーに突撃して行ったが、ヴィラン連合のボス格、オールフォーワンによって爆豪が再度拐われ、オールマイトの嘆く怒号が神野に轟いた。
「はぁー……、んじゃ、いくか」
見据える先は、荒地のように地面が剥き出しになり、建物は廃墟のように破壊されている一帯。その中央地点に、黒いマスクをつけた男が立っていた。
そのまま受け継がれたオールマイトの遺伝子由来の素質と鍛錬による身体能力で、ビルの屋上を飛び石を辿るように跳躍するようにして、オールフォーワンの元へと飛び着く。
「よぉ、はじめまして。ヴィラン」
「誰だい、君は」
近くのビルから飛び降りるように登場した黄金の少女に、オールフォーワンは純粋な疑問を抱いた。それは、この場に居合わせていたヒーロー達も同様。
「君! 今すぐここから逃げなさい!!」
ヒーロー達が皆倒れる中、比較的軽傷なMt.レディが叫ぶが、裂那は聞く耳を持たない。
「有製黄彩が最新作、傑作の駄作、
裂那の怒号に呼応するように、周囲一面の荒地が塗りつぶされるように黄金色に染まる。
「へぇ、彼の。……悪いけれど、僕は悪いからね。そういうわけには、いかないなぁ!!」
「話し合いで解決しようぜ、平和的にな!!」
「ダメー!!!」
オールフォーワンは右腕を異様に肥大化させながら裂那に駆け寄り、殴りつける。負けじと、裂那も打てば折れそうな細腕の拳で迎え撃つ。
――木端一つ、砂一粒すらも、破壊されることはなかった。断じてMt.レディの叫びが通じたわけではない。
「……派手なだけの個性かと思ったけれど、そうではないみたいだね」
「
さながら武士の鍔迫り合い。裂那の細腕とオールフォーワンの豪腕が、まるで互角であるように、拳と拳をぶつけ合う。
「なるほど、染めた範囲に独自のルールを強制させる個性か。厄介だが、それだけだ。弔とは性の合わない個性だ」
「平和の象徴になるやつの個性がヴィラン向きなわけねぇだろ」
「ああ、そうだね。君はここで殺しておいた方が良さそうだ!!」
どんな攻撃を仕掛けたのか裂那に、衝撃が襲う。
「だぁから、破壊の二文字はねぇっつってんだろ。お前あれだな? 説明書読まないタイプの馬鹿だな?」
衝撃がまるでそよ風であるかのように、裂那はダメージを受けた様子もなく、その場に立ち続ける。
「ゲッホッ、クッセェ。……んじゃこりゃあ!?!?」
次の手と言わんばかりにその場に黒い液体のようなものが現れ、そこから人間が落ちてくる。それは、さっき何処かへと拐われた爆豪だった。
彼を皮切りに次々と黒い液体が現れ、出てくるのはさっきまでバーにいたヴィラン達。突然のことだったようで、困惑している様子だ。そして――
「やはり来たか」
オールフォーワンは何かを察知し、上空を見上げる。
「全てを返してもらうぞ、オールフォーワン!!」
「……また僕を殺すか? オールマイト」
上空から飛来してきた、現平和の象徴、オールマイトが両手の拳でオールフォーワンを殴りつけた。
「無駄らしいよ、彼女の個性のおかげでね」
オールフォーワンは棒立ちで見上げた姿勢のまま、オールマイトの攻撃を受ける。が、裂那同様にダメージが入らない。
「随分遅かったじゃないか。君の後継者を自称する彼女と遊ぶくらいに余裕があったよ」
「なんだよ、この悪趣味なフィールドは」
ダメージが一切入っていないのを見て、オールマイトは攻撃の手を収めて距離を置き、周囲を見渡す。
「悪かったな、悪趣味で。こうなったらない方がマシか?」
睨み合う二人に割り込むように裂那は間に立ち、あたり一面を染めていた個性を解き、オールフォーワンの方へと体を向けた。
「どきたまえ、見知らぬ少女。私はそいつを捕らえねばならない」
「ハッ、すっこんでろ先輩。ここは便利な後輩に任せて療養してろ。――
先の黒い液体のように、黄金の液体が現れ、そこから
「呼ぶのが遅すぎますわ、裂那。オレ様、血湧き肉躍って仕方がありませんのっ!! ――
オレ様という一人称にお嬢様口調という単独で混沌とした魔女が、両手を指鉄砲の形にして、何かを撃った。
「グゥッ、……まさか、複数の個性を持っているのかな」
オールフォーワンは肥大化していた右腕が不可視の弾丸に撃ち抜かれ、吹き飛んでいったのも気に留めず、腕を再生しながら首を傾げた。
「申し遅れましたわ、オレ様は転生の」
「油断は禁物だよ」
見た目以上に素で強いのか、オールフォーワンはオールマイトが対応できないほどの速さで、
「っ! 貴様ぁ!!」
想定外の弱さに困惑したオールフォーワンは、当然人死にに怒ったオールマイトの攻撃にも気付いていたが、しかし回避できなかった。
「オレ様は転生の魔女というものですわ。名はとうに捨てていますの。――
何もない上空からスポットライトの光がオールフォーワンを照らした。
「っ!?
状況についていけずとも、チャンスは逃すまいとオールマイトは強烈なパンチを何度も繰り返す。
「ジェーン、好きにやれ」
「ええ、言われずともわかっていますわ、裂那。……オレ様、今一度死にましたの。貴方も二度や三度程度、死んでも文句は言わせませんわ! ――地獄の
何度も殴打されようともその場から動けないオールフォーワンの足元から、木の根のようなものが伸び、オールフォーワンを支柱のように縛りつけた。
木の根は衣服やマスクを破壊しながら伸び、首元まで覆ったところで成長が止まる。オールマイトも、思わず攻撃の手を止めた。
「取れたて新鮮の魔法ですわ。……裂那、できましたわ」
「おう。――黄金の国《ハートフルピースフル》」
再度、周囲が黄金に塗り潰された。
「オゥ、協力感謝するが、君たち一体何者なんだい?」
「ハッ! こんなクソ野郎の相手してるんだぜ? 平和の象徴に決まってんだろ。……とりあえず、第一ラウンド終了ってとこか」
オールフォーワンが物言わぬ様子になり、完全に意気消沈してしまっているヴィラン達を裂那は見下ろす。
「さぁ、話し合いで解決しようぜ? 平和的にな」
言葉とは裏腹に、裂那は拳の骨をゴキゴキと鳴らした。