001
「……先生を、離しやがれ!!」
木の根に縛られてピクリとも動かなくなったオールフォーワンを助けようと、死柄木が飛び出した。
「おっ、握手だな? いかにも国際交流って感じで嬉しいなぁっ!」
崩壊の個性を宿した右手を、裂那が握るようにして捉えた。
「はっ、離せ! なんできかねぇんだ!! ぶっ壊れろ!!」
上下に乱暴に振るも、裂那が手を離すことはない。
「んだよ、熱烈だな。お前オレのファンか?」
「離せって言ってんだ!!」
左手で拳を握り、裂那の顔面を殴るがダメージは入らない。
「うはは、まぁ落ち着けよ原住民。それとも原始人か?」
「裂那、不用意に煽る行為は平和的とは言えませんわ」
「おっと、悪かったな野蛮人。いや、ヴィランなんだから悪いのはお前の方か」
シニカルに笑う裂那に対して、死柄木の表情は焦りから怒りへと変わっていく。
「ふふ、抵抗は不要ですわよ。オレ様は裂那ほど優しくありませんの。――不殺の刺槍」
死柄木の加勢をしようとしたヴィラン達の足元に赤色の魔法陣が現れ、脚や腕から巨大な刺が生え、地面に突き刺さる。
「殺す気はねぇから安心しろ。生かす気もねぇがな」
死柄木の左手を掴み、背負い投げの要領で地面に叩きつける。すると死柄木の手足からも刺が生え、地面に縫い付ける。
「おい金髪女!!」
ヴィラン達を行動不能にし、オールフォーワンの方へと足を向けたとき。ヴィラン連合がほとんど無力化されたため自由の身となった爆豪が吠える。
「なんで速攻でぶっとばさねぇんだ! 余裕ぶっこいて手ぇ抜いてんじゃねぇ!!」
「ハッ、テメェが何を気にいらねぇのか知らねぇが、オレは平和的に、かつ華麗で美麗に端麗なやり方で解決する。ガキの指図なんざ聞いてやる義理もねぇ」
裂那は爆豪を無視して、オールマイトが警戒して睨みつけているオールフォーワンの顔面を、
――全力で平手打ちした。
「いやいやいやいや! 君! 話し合いで解決とか格好良く言ってなかったかい!?」
「拳の語り合いだって立派なコミュニケーションだ。暴力の挨拶だって立派な話し合いだろ?」
「それは裂那の言葉が暴力的で区別がついていないだけですわ」
「人はオレを聖人君子と呼ぶ」
「誰一人として呼びませんわ。いいところ星人軍師でしょう」
「誰がエイリアンだぶっ殺すぞ」
「その一言がもう鋭利の極みじゃありませんか。皆様を安堵させるためにも、鈍角な言葉で解決してくださいな」
「流石のオレでも言葉で撲殺はできねぇよ」
「刺殺か斬殺ならできそうな言い分ですわね」
「されてぇなら遠慮せず言え、心洗って待ってろ」
「一周回って綺麗な言葉ですわね」
突如始まった黄金と名無しの漫才。平和の象徴は宿敵の警戒も忘れ、困惑していた。
「ふ、ふふふ。……三途の川を三往復はしたよ」
「「っ!?」」
オールマイトと爆豪がいつ介入しようかと見計らっていると、オールフォーワンは意識を取り戻した。
「……筋力増強×3、切断力付与、皮膚硬化×2」
オールフォーワンは
「やってくれたね、
「うはは、第二ラウンドだ」
「いいや、そうはいかない。目的を思い出したんだ。僕はただ、弔を助けに来ただけだった。個性強制発動、黒霧」
触手のようなものを身体から生やし、気絶していた黒霧に突き刺した。
すると、身体から生えた刺も厭わず、ヴィラン達が霧に包まれる。
「させるか!!」
オールマイトは手近なヴィランに殴りかかるが、当たるより先に消え、拳は空を切った。
「……せめて、貴様だけでも!」
「愚かだな、オールマイト。君はニュースを見たかい? 教え子が、そこの彼女を生み出した彼が殺人鬼だったという事実を! 国がひた隠しにしていたという事実を! 君は知って尚、人々を救うのかい?」
オールフォーワンはただの嫌がらせのつもりだったのだろう。
しかし、彼が思っていた以上に、願っていた以上に、世界は歪んでいた。
「……知っていたさ。絶対にヴィランにしてはならない存在だと。殺すことも捕らえることもできないから、ヴィランにできないと。聞かされていたが、聞くまでもなかったさ」
――オールマイトの逆鱗。
「有製少年は、黄彩くんは、私達に並べるヒーローになれると、私は確信している!!」
「つーか、バラされといてどこ行ったんだよ、あのショタ親父は」
オールマイトが殴ると同時に、どうせ効かないからと防御の姿勢もとっていないオールフォーワンに拳が触れると同時に、黄金は解かれた。
「グアァ!!?」
吹き飛び、瓦礫に減り込み、崩れたビルを壊してやっと止まった。
「オゥケイ先輩、慈悲は抜きだ。断末魔を掻き鳴らすぞ」
「裂那、また言葉が尖ってますわ」
「ジェットコースターで溺死させるぞ」
「よし」
「よしなのかい!?」
黄金が解かれた状態で、オールマイトの渾身の一撃であって尚、大したダメージを負っていないオールフォーワンを見据えながら、裂那はシニカルに笑う。
「君たちを殴って、私は帰る!」
宿敵の謎の宣言に、オールマイトは黄彩に思い馳せた。
見計らったかのようなタイミングで、テレビ局のヘリコプターが上空を舞った。
002
一方その頃、黄彩はといえば、部屋でディスプレイに囲まれていた。ヘッドホンからは人の声や車のエンジン音、破壊音が漏れていて、ディスプレイには街中の映像が流れている。
何をしているのかと言えば、黄彩の五感に依存した射程範囲の増強だ。ライフルにスコープを付けるようなものと言えば幾らか伝わるだろうか。
嗅覚、味覚、触覚が不足するため精密な知覚はできないが、それはカメラと集音器の位置情報で補う。
「次の角右、数は三人」
『了解。――アトミックチューンモーター』
通話状態で机に放り出されたスマホからは、使駆の声が聞こえる。
黄彩の視覚は、使駆がヴィランを殺し財布を抜き取っているのを認識した。
『ギャハハッ。次だ、どっちだ!』
対ヴィラン連合のために、各地からヒーローが集められている現状。神野区から離れたヴィランや、ヒーローの減った街に襲来したヴィランを、黄彩と使駆のタッグで虱潰しに殺戮していた。
「絶滅確認、次の街に向かって」
普段の芸術家の目とは違う。執念に満ちた、嫌がらせを敢行する子供の目をしながら黄彩は指示を出す。
『ギャハハハハハ!! 楽しいなぁ! 踊りたくなってくる!』
僅か二分にして、一つの街からヴィランが絶滅した。
『なぁ、オールマンだったか、あいつどうなったんだ? クソどもの天辺と喧嘩してんだろ』
「ん、気にしなくてへーき。ボクの子がいるからね」
『オメデタ、でいいのか?』
「誕生日ケーキ、お願いね」
『金あんだろ、テメェで買え』
「ウフフ、やーだ。ほら、そこのカーブ抜けてすぐ、ヴィランだよ」
『ギャハッ! ――パワーダッシュモーター』
神野区の事件の影響かまともに車が走っていない道路を、使駆は法定速度を軽く超えた速度で駆ける。
窃盗犯なのか、似たような鞄をいくつも抱えて走る男が見つかると、認識されるよりも速く首を蹴り飛ばした。残された身体が倒れて血が滲むより先に財布だけを抜き取るという早技を見せ、黄彩と繋がったスマホを出す。
『次はどっちにいけばいい』
「三キロ直進、廃ビルが何個か窃盗団のアジトになってるよ」
『腐ってやがんな』
窃盗犯の財布の中には、一食分も入っていなかったために使駆の機嫌が悪くなった。