芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第四話 芸術家の愛憎好悪と芸術筋肉

001

 

 

 

 雄英高校、美術室。ヒーロー科が訪れることがほとんどないその場所で、黄彩は粘土のようなものを捏ねていた。

 午前中に終了した個性把握テストから一時間ばかりが経ち、太陽が天辺に登った頃に、彼女がやって来た。

 

「あの、有製さん、お話、よろしいでしょうか?」

 

 緊張、怯えで震えまじりの八百万の声に、黄彩はピクリとツインテールを揺らしてから振り向いた。

 

「んー、君、誰?」

 

「……覚えて、ませんの?」

 

「ボクは今お仕事中なんだけど、用事?」

 

「50m走の後、お話いただく約束をしていただいたと思うのですが……」

 

「50メートル……、ああ!」と、捏ねる手を止めて黄彩はピシッと八百万を指差した。

 

「創造の人! ボクの嫌いな人!」

 

「八百万百ですわ! そしてそのことについて聞きたかったんです!」

 

「いいよ! 何でも聞いて! ちょっと今行き詰まってるから、誰かとお喋りしたかったんだ!」

 

 嫌悪する人間に向けるとは思えない明るい笑みに、八百万はホッとした表情で頷いた。

 

「では改めて。私のことが嫌いというのは、どういうことなのでしょうか?」

 

 黄彩は捏ねていたものを転がすようにして伸ばしながら答える。

 

「別に、誰かにどうして欲しいってわけでもない、ボクの、ボクなりのスタイルって奴でね。――それがどんな駄作であれ、自作を愛さない奴に傑作は作れない」

 

「自作を愛する、……それは有製さんの、芸術家としてのスタイル、ということですか?」

 

「君の個性、創造はいい個性だと思うよ。ボクの個性との相性もかなりいい。うん、気が合えば、あるいはボクがヒーロー志望だったらきっと良いお友達になれる。……でも、肝心な君は自分の作品に愛着を持ってない。そこが気に入らないんだよ」

 

「……愛着、それはヒーローとして必要な要素なのでしょうか」

 

「んー、要らないと思うよ。ボクなりのって言ったでしょ。人はそれぞれキャラクターがある。オールマイトの人気とフィジカル、イレイザーヘッドの緩めの合理主義、緑谷出久のオタク気質、青山優雅のナルシズム、そしてボクは芸術家」

 

「はあ、……あの、名前を覚えるのは苦手なんじゃ……」

 

「ねえ、ちょっとデッサンしたいからあっちの椅子座ってよ」

 

「い、いきなりですね?」

 

 困惑する八百万を差し置いて、黄彩はキャンバスとシャープペンを取り出す。

 

「描けたらあげるから楽しみにしててよ」

 

「家宝にしますわ!」

 

「ウフフ、君なら国宝になれるよ」

 

「さ、さすが人間国宝……」

 

 

 

002

 

 

 

 細い芯がキャンバスを引っ掻く音が、静かな美術室に響く。

 

 八百万は優雅に腰掛ける風で、しかしその実、緊張でガッチガチになっていた。

 

「んー、まあ後で可愛くすればいいか。もう崩していいよ」

 

「え、まだ十分も経っていませんわ」

 

「プリンターだって何分もかからないでしょ。……この後ちょっと修正して、軽く着色して、まあ明日には渡せると思う。もういい時間だし、帰ったら?」

 

「……ええ、そうさせていただきますわ。お時間いただき、感謝します」

 

「うん。……もし君がボクに好かれたいのなら、嫌われたくないなら。君の作品で、君のスタイルで、ボクに並べ。ボクを超えろ。ボクは機能美を見捨てるほどアホじゃない」

 

「……人間国宝の芸術家。私のハードルは高いですね」

 

「ボク、背は低い方だと思うけど」

 

「そういう意味ではありませんわ。……最初の目標として、有製さんには私の名を覚えていただきます」

 

「あっそ。で、君だれ」

 

「個性《創造》、八百万百ですわ!」

 

「ん。言うまでも無いだろうけど、ボクは自分の作品を忘れたことはないよ。この絵のことも、死ぬまで覚えてる」

 

 

 

003

 

 

 

 雄英高校二日目。

 午前は基本必修である普通教科の授業が行われる。いかにも不良然とした爆豪ですら真面目に受けてる中、一つだけずっと空席があった。

 

 言わずもがな、黄彩。職務につき公欠となっているが、しかし黄彩は前日からずっと雄英にいた。

 

 そして、お昼休みが終わった頃。昼食を終え、教室で《ヒーロー基礎学》の授業を待ちわびていると――

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来たぁ!!」

 

「そしてボクもキタァ!」

 

「ぬぉわ!?」

 

 ドアから現れた筋骨隆々の巨漢、オールマイト。そしてオールマイトを蹴り飛ばして入室して来たのが、まるでオールマイトのような巨体を首から下に纏った、公欠のはずの黄彩だった。

 オールマイトの身体にツインテールの少年の顔が生えてるのは異様な光景で、生徒達は微妙な表情を浮かべる。

 

「見て見てきょーか! 作品No.72《すじ肉》!」

 

「うん……、みんな見てる」

 

「これね、これね、……えっと、筋肉の人、名前なんだっけ」

 

「オールマイトだ、少年……」

 

「そうそれ、カロリーメイトの身体能力を完全再現したパワードスーツ! 遊びが最小限だから無個性と一部の人しかちゃんと使えないけど、これで体力テスト、ボクでも走れる!」

 

「やり過ぎるなっていつも言ってるのに……」

 

「というかすじ肉って、それ私がモデル……」

 

「すじ肉の人、ボクこの授業は受けるね」

 

「まずは名前覚えような有製少年!」

 

 ショックそうな顔のオールマイトに「は〜い」と返事しながら黄彩は席につくと、オールマイトも乱れた服と表情を直しながら教壇に立ち直した。

 

「早速だが、今日はコレ! 戦闘訓練!! そしてそいつに伴ってこちら! 入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた、戦闘服(コスチューム)!!」

 

 教室の壁が迫り出して、戦闘服が入ったロッカーが現れる。これには生徒達のテンションが上がる。中には立ち上がって喜ぶ者もいる。

 

「着替えたら、順次グラウンドβに集まるんだ!」

 

 教室を飛び出し、更衣室へと駆け込んで行った。

 

 

 

004

 

 

 

「黄彩アンタ、その格好……」

 

 面々が集まり始めた頃、響香は黄彩の髪を結び直しながらツッコミを入れた。

 

 黄彩の格好は、十人十色な戦闘服が並ぶ中でも異質。

 

 雄英高校の制服に、服が汚れる工作をするときにだけ着ける黄色のエプロン。動きやすさで言うなら体操服以下だろう。

 

「ボクなりの勝負服ってやつ。どうせ運動苦手だしね」

 

「あー、無理しないようにな」

 

「ボクだよ」

 

「知ってる」

 

 

 黄彩の髪が結び終わる頃には、クラスメイト全員が揃っていた。

 

「おーい、黄彩くーん! ……エプロン?」

 

「あ、酸の人。いいでしょこれ! 勝負服!」

 

「えっと、花嫁修行?」

 

「ボク女子力は高い方だよ!」

 

「ハッハッハ! 有製少年! ……今は家庭科の時間じゃないぞ?」

 

「料理も喧嘩も一緒でしょ? すじ肉の人も肉叩きとかするじゃん」

 

「単語のチョイスはともかく、実は君私のこと結構知ってるだろ!」

 

「ウフフ、しーらない。あ、創造の人! 絵、出来たからあとであげるね!」

 

 

 初めてのヒーロー基礎学は、屋内での対人戦闘訓練。『ヴィラン組』と『ヒーロー組』の2対2のコンビに分かれて屋内戦を行う。

 状況設定は、

・ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。

・ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか核兵器を回収する事。

・ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえること。

・核兵器の回収はタッチする事。

・捕まえるには捕縛テープを相手に巻き付ける必要がある。

 

 

 コンビと対戦相手はクジで選ぶ流れとなった。

 しかしクラスは21人。生徒として別枠の黄彩は最後だ。

 

 

 

 緑谷出久と爆豪勝己の派手に危険な戦闘訓練から始まり、以降のペアは恙無く、訓練は進み、最後の黄彩の番になった。

 

「ねぇ響香ちゃん。黄彩くんって、ぶっちゃけどうなの? 昨日はアレだったし、戦えそうには見えないけど」

 

「強いよ。ウチが百万人いても喧嘩じゃ勝てない」

 

「し、信じてるんだね! 響香ちゃん!」

 

「まあ、付き合い長いし」

 

 

 講評が終わり、オールマイトは黄彩に声をかけた。

 

「さて待たせたな有製少年! クジでもいいんだが、誰か希望のペア相手はいるかい?」

 

「んーん、いらない! みんなにボクの作品だけを見てもらいたいしね! それより、相手は誰?」

 

 黄色の言葉にオールマイトは意外そうな表情をしたのち、笑みを浮かべた。

 

「君の相手は私がしよう。安心したまえ、加減はする」

 

 オールマイトの不敵な笑みに、黄彩もニッコリと微笑み返す。

 

「ウフフ、わかった。綺麗に可愛く楽しい喧嘩で魅せようねっ、オールマイト!」

 

 ヴィラン、ヒーローはジャンケンで決まった。負けた黄彩がヴィランで、勝ったオールマイトはヒーロー。

 

「ウフフ、ああ、楽しみだっ! 今すぐ紙とペンが欲しい!」

 

「あの、有製少年? 美術の時間でもないぞ?」

 

「大丈夫安心してっ! 芸術作品にしてあげる!」

 

「欠けらも安心できない!?」

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