これはこれで楽しい……。
001
――人を人と思わぬ非道な行い。
人を人と思わぬ、という言葉を、アニメや漫画でよく聞くけれど。
ウチこと、耳郎響香が思うに、その人間の非道さを測るなら他人をどう思っているかよりも、自分をどう思っているかの方が、割合大きいと思う。
――自身を人と思わぬ殺人鬼。
恐ろしい。怖い。自身を機械だと思って殺す殺人鬼なんてまず怖いし、怪物だと思って殺す殺人鬼なんて言わずもがな。神様だと思って殺す殺人鬼なんて会いたくもない。(そもそも殺人鬼なんて会わない方がいいのだけれど)
ウチの身近なところに、自分を人と思っているのか怪しい人が結構いる。
――自分すら材料とし、工作して作品にしてしまう芸術家。
――自分すらキャラクターとして、人形劇に立って出る人形師。
――自らの危険を顧みず、悲劇を美談に塗り替えるヒーロー達。
ウチに言わせるなら、そこらのヴィランなんて一般人と大差無い、普通の人間だ。
まぁ、人間ですらないラスト姉さんが妙に人間っぽいのだから、人間とは何か、みたいな哲学の話になってくる。
――人間であるか、否か。
それを定義するのはきっと簡単。自分を人間と思っているかどうかだ。
あの綺麗に可愛く美しい芸術家は、自分も人間という名前の材料としか見ていないのだから、だから人間でないと言えるし、同時に人間ではあるとも言える。言ってしまえる。
定義し切れていない気もするけれど、定義なんてそれくらい適当なモノだとも思っている。
ライトノベルとは何か、純文学とは何か、みたいな。
ライトノベルでないのなら、それは重いノベルなのか?
純文学でない文学は全て不純なのか?
そもそもライトノベルは本当にライトなのか?
純文学は純粋なのか?
……やめよう。この話題は一人でしても片付かない。
話を戻して。
あの一人
身近なヒーローは、ヒーロー科にいる以上それなりの数いるけれど、代表としてあげるならやっぱりオールマイトと相沢先生、あと人外代表として根津校長だろう。
性格やスタンスが対極的な三人だけど、しかしこの話題に関しては先に語った二人よりずっとわかりやすい。
相澤先生は人間を人間と見えている人だし、自分を人間だと疑わない人だ。疑うことすら合理的でないと、あのツンデレ合理主義者は言うだろう。
根津校長は人間ではない。個性を持ったネズミだし、そう自覚している。人間だと思い込んでいるネズミではないし、ネズミの個性を持った人間でもない。だからこそ、人間の上に立ちながらヒーローができるのだ。
オールマイトは、正直怪しい。典型的な英雄タイプの人だけど、典型的な英雄が人間的かは微妙なところで。
あの平和の象徴は、人を救うためなら神にだってなれる人だから。悪魔にだってなれるかもしれないし、生贄にだってなれるかもしれない。
生贄。
――人身御供。
昨今の日本じゃまず聞かないけれど、当時。雨や作物、神や妖怪のために生贄を捧げた昔の人たちは、生贄になる人を人間と見ていたのだろうか。
否だ。そうでなきゃその人達はただの殺人鬼だから。
食料として見なければいけない。豚や牛と同列に見ていないと、そんなことが許されるはずがない。
生贄になった人からは自分を人間と見ていたのだろうか。
きっと否だ。そうだと思いたい。そう願っている。だってそうじゃないと、その人達が哀れで仕方ない。
002
何故ウチがこんな、似合いもしない語り部みたいなことをしているかと言えば、ただの現実逃避でしかない。
「使駆くん、ちょっとさっきのジェットコースターと競争してみてください」
「ギャハハハッ! いいなぁそいつは愉快だ!!」
「うにゃい……、気持ち悪いんだよぉ……」
現実は小説よりも奇なり。とは言うけれど、でもだからって、これはひどい。
殺人鬼と殺人鬼と芸術家とウチの四人で、ウチらは遊園地に来ていた。
なんでこの面々なのかと言えば、ウチと黄彩の両親がどっちも暫く家から離れることになって、ちょうどそのタイミングで使駆が四人分のチケットを持って現れたからだ。
もう一人、使駆と面識のある梅雨ちゃんでも誘おうかと思い連絡したが、学校からの通達を律儀に守るつもりらしく断られてしまい、そこで使駆が呼んだのが刺殺専門の殺人鬼、渡我被身子だった。
ウチと、女体化してる時の黄彩が合宿のときに会っているが、その時の記憶は無いらしく、ウチらもほとんど覚えていなかったため二度目の初対面。
使駆と黄彩がいればまぁ安全ではあるかとウチも話してみれば、渡我はいわゆるヤンデレというやつなのだとすぐに分かった。
好きな人の血が吸いたい、その人そのものになりたい。歪んだ性癖も相まって、それゆえの殺人鬼なのだろう。
例としてどうかと思うが、戯言シリーズの《零崎》という存在を、普通に女子同士のように話していて思い出した。
ウチが渡我に、何故人を殺すのかと聞いてみれば、まさしく零崎が語ったような話が出てきたから、かもしれない。
「ヴィランのお友達にも聞かれたことがあります。……きっと、私はそういう人生、道を歩くために生まれてきたんです。それも、血を吸った人になれるっていう、その道専用の補助輪付きで」
「他のことに使えるとは思わなかったの?」とウチが尋ねれば、渡我は諦めたような笑みを浮かべながら答える。
「優れた能力を持つヴィランが捕まると、いろんな人がそう言いますけど、本人である私に言わせるなら、私が殺さずに生きるというのは何もせずに生きているのと同じなんです。誰にだって、これが無いなら生きる理由なんて無い、生きていられない、みたいなのがあるでしょう? 食事や睡眠と同レベルの、趣味みたいなやつです」
趣味。あるいは、生きがいというやつか。
「それは人によって、スポーツかもしれないし、ヒーローかもしれないし、ヴィランかもしれません。仕事や子育てと言う人もいるでしょう。しかし多くの人はその道から降りられるうちに離れていきます。いろんな理由で」
いろんな理由。その道を行くことが出来なくなるほどの、致命傷。
「それでも降りなかった人が、ドロップアウトでもしないかぎり降りることが出来なくなった人が、例えばオールマイトであり、例えば使駆くんであり、私なわけです」
「……そしてウチはまだヒーロー以外の道に行くことも出来る程度にしかヒーローの人生を進んでいないし、一部のヒーローは副業を本業に切り替えることもできる」
「ドラゴンクエストVIの転職システムみたいなモノです。魔法使いのバーバラが魔法職でしかいられないように、武闘家のハッサンが前衛職でしかいられないように、私は殺人鬼以外にもなれるかもしれませんが、あるいはそれがヴィランなのでしょうが、それでもヒーローにはなれません」
なんか急にコミカルな例えになったが、しかしなんとなくしっくりきた。
才能が個性というわかりやすい形で現れる今の社会なら、どうしても努力や我慢ではどうしようもない向き不向きは存在してしまう。
「とにかく、そういうわけで、私にとって殺人とは呪われた装備がはずせない様にやめられないモノで、途中で嫌になってもやめられないモノなのです」
使駆という前例を見ているから今更驚きはしないが、渡我は話してみれば話せる奴だった。
お互い、若干の躊躇いはあったものの、ウチと渡我は友達になった。
閑話休題。
ついさっき乗っていたジェットコースターを見上げながら、どこか侵入できる場所はないかと探る轢殺専門の殺人鬼と、ナイフではなくチュロスを握りながら、人を喰ったような笑みを浮かべて満喫している刺殺専門の殺人鬼。
そしてジェットコースターで酔った芸術家。あれよりずっと速くて揺れる道徳的な龍を乗り回してたのに、何故ジェットコースターで酔ったのか知らないが、とりあえず背中を摩ってやる。
「あ、あっちから入れそうです!」
「おっしゃ、ちょっと言ってみっか!」
自然な程度に変装しているとはいえ、殺人鬼として顔が割れているのに交渉する気らしい二人はとりあえず置いておいて、ウチは黄彩に専念する。ぶっちゃけあっちは他人のフリでなんとかなる。
「大丈夫? トイレ行く?」
「やー。かぁいく無いからいかないの」
「アイドルかお前は」
アイドルはうんこしないみたいな謎理論を掲げているが、その顔色は確実にアイドルのものでは無い。もともと色白なのも相まって、その肌色はほとんど青色だ。
「吐かれても困るし、ほら行くよ」
「うん〜」
003
今回のオチ、と言っていいのかわからないけれど、あのあと殺人鬼二人は案の定通報され、逃亡した。
押しつけられた土産は家に郵送して今度渡すことにして、ウチと黄彩は観覧車を締めに帰宅した。
「ウフフ、あの吸血の人。可愛い人だったね。一途って言うか、向こう見ずって言うか」
「ただの殺人鬼でしょ。それ以外の生き方を選べなかった、って意味じゃ、確かに一途、というか視野が狭いんだろうけど」
「うにゃぁ、そんなのボクもきょーかも一緒だよ。ボクだって芸術家以外になれたかもしれないし、きょーかはミュージシャンにだってきっとなれる。吸血の人にしたって、殺人鬼以外にも何かなれるかもしれない」
「ふーん。……例えば?」
「さぁね。お嫁さんとか?」
「包丁は似合うだろうけどね」
「お医者さんかもしれない」
「えっと、注射器のこと言ってる? それともナース服?」
「ウフフ、きっと可愛いよー」
キャラ紹介
核融合の魔法少女
女 34歳
核融合炉を体内に持って生まれた、特異体質持ちの魔法少女。
焼き尽くすように明るいオレンジ色の髪に、炎のように綺麗な朱色の瞳の少女。
スチームパンク、という言葉が似合うような衣装を着ているが、身体から伸びているパイプに流れているのは蒸気ではなく生み出されたエネルギー。
魔法少女は少女でなければならない。
というわけでは無いが、訳あって魔導士三種にはそれぞれ年齢制限があり、その年齢を過ぎると強制死刑となる。
――魔法使い、100歳
――魔女、30歳
――魔法少女、15歳
その訳を覆す存在として黄金の国に君臨するのが、転生の魔女。通称、魔法少女救済システム。(魔女と魔法使いは自力でなんとかする者も多いが故の通称)
自らの転生という体質を魔法的に研究し、他者の死へ転用、殺した相手に限り、ある程度の設定を施して転生させることができる。
煌綺太陽は転生の魔女に処刑された魔法少女の一人で、十六歳の誕生日の日に、全身全霊の抵抗の末に、犬歯の魔女、魔の魔法使いと協力の元殺され、不老不成の肉体で転生した。
屈指の実力者であり、神刺刹那に並び悪を数多く殺してきた魔法少女。
魔導士達の中では犬歯の魔女によく懐いていて、休日はその二人でのんびり暮らしている光景がよく見られる。