芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第四十三話 桃花畑の蒼断殺人と殺人殺戮

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「いいないいなっ! 個性! ヒーロー! ヴィラン! きっと楽しぃぞぉう!!」

 

001

 

 

 

 某県某市。

 とある中学校の体育館で開かれた、有製蒼の人形劇は、突然の殺人事件によって幕を下ろされた。

 

 被害者は現場となった中学校の女子生徒。本日昼前、劇を行っていた時間帯。体育館の男子トイレの個室で、複数の男子生徒から暴行を受けた上、トイレのタンクに後頭部を強打して死亡した。

 

 現場に残された濁った液体を検査することで、犯人は十代前半というのが既に分かっているため、ヒーローではなく警察による捜査が始まった。

 

 生徒達は強制的に帰され、被害者の母親、クラスメイト、担任教師、居合わせた蒼が教室に集められた。

 

 

 クラスメイトの男子達が言うには、被害者の少女は女子達からいじめを受けていたらしく、いつ殺されるかと密かに心配していたという。

 

 クラスメイトの女子達が言うには、被害者の少女は三年生の男子から嫌われており、いつ殺されてもおかしくなかったという。男子の語ったいじめについては何かの勘違いだと口を揃えていった。

 

 担任の教師が言うには、被害者の少女は非常に優秀な生徒で、誰かに恨まれるとは到底思えないという。

 

 被害者の母親が言うには、娘は毎朝、学校に行くのを躊躇っているように見え、無理に鼓舞して通っているようだったという。今にして思えば、いじめに苦しんでいたのではないかと。

 

「悪いけれど、いえ、悪くないのだから、悪くないのだけど、って言うべきかしら、あたし。まぁ、何にも知らないわよ、あたし。殺されちゃった子の顔も見たけど、もしかしたら今日以外の劇を見てくれてるかもしれないけど、それでも知らない子よ」

 

 第一発見者ならぬ第二発見者である蒼が言うと、居合わせた警察官は頭を悩ませた。

 

 言ってしまえば、犯人を見つけ出すのは簡単だ。雄英ほどでは無いにしても、かつてとある小学校で起きた、侵入したヴィランが生徒一人に虐殺される事件以来、全国の学校のほとんどはセキュリティが強固になった。ならば犯人はこの学校の生徒か教師で、検査の結果を見るに十中八九、男子生徒だ。

 あとは全員をDNA検査でもしてしまえば、犯人は特定できる。

 

 問題は手間がかかりすぎることにあった。

 

 全校生徒1200名を誇る大きな学校、単純計算でも600人を検査するとなると、さすがに時間がかかりすぎるし、その間に犯人を逃してしまいかねない。

 

 警察がしようとしているのは犯人の特定ではなく、範囲の絞り込みだ。例えば一学年に絞るだけでも、作業の量は三分の一になるのだから。……それでも200人いるわけだが。

 

「お困りのようだね諸君!!」

 

 と、数値にしたら虚数になりそうなほど暗い雰囲気に包まれた教室に、桃色が現れた。

 

 

 

002

 

 

 

 華々(はなばな)花々(かか)

 スーパーマリオで言うところのルイージ、シャーロック・ホームズで言うところのワトソン、と、まぁ相棒ポジションによく立つ黄金の国の住人である。

 

 神刺裂那の親友にして、桃色という、裂那が着た衣服が黄金に染まるように、衣服が桃色に染まる体質を持って生まれた少女。

 

 決して身体能力が優れる体質を持つわけでも、神刺刹那のような特殊な体術を持つわけでも無いのに、厳重なセキュリティと捜査しているはずの警察官を素通りしてこの場に現れた。

 

「全人類の八割が異能を持つ社会で起きた、一般人の暴行殺人事件! 一体どんな事件なのか、面白そうだから来ちゃった!」

 

 爪先から首元まで、どこかの学校の制服と思われる服装の全てが桃色で統一された奇妙な少女が、桃色の髪を逆立てながら、教室に現れた。いや、逆立ちだから髪が奇妙な髪型になっているだけなのだが。

 

 本来、無関係な人間が入ってきたのだから警察が追い出すべきなのだが、警察官よりも先に被害者の母親が席を立ち激昂する。

 

「なんなのよあなたいきなり現れて!! うちの娘が殺されたのよ!? それをそんな、面白そうだから来たって! フザケンナ!!!」

 

 目力だけで殺せそうなほどに睨みつけた母親に一切動じず、花々は身軽な動きで教卓の上に腰掛けた。

 

「アハハッ! うわー怖い。ガクガクブルブル。……満足した? それじゃあ、……う〜ん、先に一応自己紹介した方がいいかな」

 

 なんとか捕まえ追い出そうとする警察官の手を払いながら、花々は教室の面々に名乗った。

 

「私は華々花々。レナ、えっと、こっちで平和の象徴になるーって言ってる金色の女の子の親友だよ。こっちにはレナに誘われて遊びに来たんだけど、レナはお仕事でどっか行っちゃってね。ってわけで、細かいとこ教えて? 面白そうだったら犯人教えてあげるから」

 

 バシーン、と妙にコミカルな動きで警察官を教壇に叩きつけ、この場で唯一退屈そうにしていた蒼の前まで跳躍した。

 

「教えてよ事件のことっ! お姉さんなら見えてたでしょ?」

 

「うふふ、なんのことかしらね? よくわからないわ、あたし」

 

 冗談めかして微笑む蒼に返すように、花々も微笑み返す。

 

「分かっちまうんだぜ、わたしゃ名探偵だからねっ! なぁんて、ほんとはコスプレとお喋りが好きな大学生だけどね」

 

 包み隠す、歯に衣着せるということを知らないのか、花々はさも事実のように語る。

 

「お姉さんの視野はかなり広い。ステージの上で沢山の人形を動かしながら自分も踊って、その上観客のこともちゃんと見てるんだもん。トイレを出入りした人のことなんて、見えないわけが無いでしょう?」

 

「あたしだからね。でも人形師よ、あたし。警察でもヒーローでも名探偵でもないあたしの言葉、一体誰が信じるのかしら」

 

「私が信じる。現実はいつだって残酷なんだから、私ぐらいは信じてあげないと、現実がかわいそうじゃない?」

 

 何様のつもりだ。その場の多くがそう思うも、蒼は対照的に、少女のように笑った。

 

「うふふふふふふっ、いいわね。楽しいわ、あなた。そしてあたし。きっといいお友達になれるわ」

 

 

 

003

 

 

 

 名探偵だった。名探偵と言っていい、あまりにも速すぎる答え合わせのような解決編だった。

 

 蒼の目撃した情報から実行犯の男子生徒四人の学年とクラスを特定し、女子達から被害者の少女をいじめていた八人を特定、これまでの非道な行いを包み隠さず全て、校舎を練り歩きながら証拠付きで、被害者の母親と担任の前で語り、とどめと言わんばかりに、男子生徒四人に暴行を命じたことを暴露した。

 

 警察は応援を呼び、女子生徒八人を逮捕、すぐに事情聴取を行う運びとなるらしい。

 いじめに気がつかず、今回の事件に至ってしまったため、担任の教師もただでは済まないだろう。

 ずっと楽しげに笑っていた蒼と花々を、被害者の母親は睨み続けていたが、最後には涙腺が決壊。渋々と言った様子で、虫の羽音のような声で、「ありがとうございます」と言った。

 

 

 ひとまず事件が解決し、蒼は次の現場へと出発。花々は警察の連絡を受けて駆けつけてきた裂那と共に中学校を出た。

 

「ねぇレナ、この世界に来て、楽しい?」

 

「んなわけあるかよ。ヴィランもヒーローもうざってぇし、オレの父親よかマシだが、ショタ親父も結構なクソ野郎だし」

 

「アハハッ、そっかそっか。私はレナが楽しそうで何よりだよ。ツンデレちゃんめ」

 

「殴るぞ」

 

「レナならそれも大歓迎。殺してくれてもいいんだぜ?」

 

「……お前も大概うざいんだったな。忘れてた過去のオレを殴りたくなってくる」

 

「過去の己は最高の友だよ? そんな乱暴なことしたら嫌われちゃうよ」

 

「未来のオレに恨まれてるからな。今更だ」

 

「じゃあ、代わりに私がレナの全てを愛してあげる」

 

「あー、ハイハイ、アリガトウ」

 

「むぅ、そういうとこも可愛いけど、もうちょっと素直になればもっと可愛いと思うんだ?」

 

「ふざけろ」

 

「ンフフー、今日は一緒に寝る?」

 

「今日がお前の命日でいいならな」

 

「一緒に永眠しようぜっ!」

 

「やめろ縁起でもねぇ!」

 

「アッハァ、レナって、意外と普通の女の子だよねぇ」

 

「……誰目線だよ」

 




キャラ紹介
華々(はなばな)花々(かか) 女 22歳

 身に付けた衣服が桃色に染まる、というだけの体質を持って生まれた少女。

 身長は女性にしては高い方で、低身長の裂那と比べて頭ひとつ高い。

 癖っ毛セミロングの髪も、無駄に愛嬌のある目も桃色であるため、たまに『魔人ブウ』みたい、とバカにされる。

 黄金の国、神刺裂那の親友で、お互いに《ハナ》《レナ》と呼び合う仲。

 頭ひとつ抜けて変な名前には、言葉を覚え始めた頃には既に疑問を抱いていた。が、それだけは永遠の謎となっている。

 オールマイトの素の身体能力を受け継いだ裂那や、メイド長である刹那ほど常人離れしていないが、運動はかなり得意でパルクールの技術はかなりのもの。

 推理力が異様に優れ、未来予知に匹敵すると噂されたり、千里眼のような体質を持っているのではないかとよく誤解されるが、そんな事実は一切ない。

 私服がコスプレという、黄金の国でも常時メイド服の刹那に並んで奇妙なファッションセンスの持ち主だが、そもそも身に付けた時点で桃色に染まるため元のキャラが何なのかもなかなか分かってもらえない。

 裂那が黄金の国に至る重要人物であり、制作時の失敗作である2428人の裂那には花々の存在が欠けていた。



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