芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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 夏休み篇はいろんな書き方でやっていますが、今回は中でも異端な回になると思います。
 ではでは、本編どうぞ。


第四十四話 蛙響線の善悪判別と殺戮殺戮

ツユちゃん

『響香ちゃん、今いいかしら』

 

 黄彩が芸術家の仕事でどっかに出かけて、ウチは暇を持て余していた頃。好きなミュージシャンの曲を聞いたり、気まぐれに楽器を鳴らして過ごしていると、梅雨ちゃんからラインが来ていた。

 

キョーカ

『暇してたけど、どうかした?』

 

ツユちゃん

『その、有製ちゃんのことなのだけど、私、彼をどう見たらいいのか、どうしてもわからなくて』

 

キョーカ

『えっと、中学の時の事件とかのことだよね?』

 

ツユちゃん

『ええ、そう。記者の人たちやネットの情報に書かれていることももっともだとは思うし、遺族の人たちを気の毒にも思うけれど、でもそれだけを信じるわけにもいかないと思うの』

 

 なんというか、梅雨ちゃんらしいと思ってしまう。

 優等生だけどただ優等なだけでなく、前と上だけでなくちゃんと後ろと下も見ているというか、表だけでなく裏も見ようとしているというか。

 

 本当に、なんというかって感じだ。

 

キョーカ

『正直言うと、ウチだってよく分かってないよ。昔から、なんとなくそういう奴だって分かった上で一緒にいるわけだし、黄彩は黄彩でしかないからさ』

 

ツユちゃん

『響香ちゃんからすれば、家族同然だものね。でも、ヒーローを志す私たちは、有製ちゃんのことを見て見ぬふりしてはいけないと思うの』

 

 ウチはこう真面目っていうか、直線な人と話していると、自分の湾曲具合を実感する。

 黄彩なら螺旋、それも黄金比率の螺旋みたいなキャラだし、使駆や渡我みたいなのはぶつ切りの棒グラフだろうか。

 

ツユちゃん

『響香ちゃんは、知っていたのよね? 事件が起きてすぐ、私たちよりずっと早くに。あくまで参考までにだけど、どういう風に受け入れたのか、教えてほしいわ』

 

 受け入れる、とはどういうことだろうか。

 例えば使駆や渡我の殺人を、ウチは許容できてはいない。いけないことだとは思うし、警察に捕まれコイツらとも思っている。

 黄彩に関しても、黄彩を殺そうとした39人の同級生も、殺されそうになったから殺した黄彩も、どちらにしても捕まって刑務所に送られるってなったらウチは納得するだろう。

 

 ……ああ、そうだ。そう、なのかな。

 

キョーカ

『受け入れてなんかいないよ。ただ否定していないってだけで。だからって肯定もしないけど、でも拒絶だけは絶対にしないようにしてる。黄彩の中にもウチが居るから、離しちゃいけないんだ。……って、今思ったんだけどさ』

 

ツユちゃん

『二人はきっと、何があっても一緒なのね。それは素敵だけど、でもそれは、有製ちゃんがヴィランに、響香ちゃんがヒーローになった時を考えてしまうと、とっても辛いわ』

 

キョーカ

『ならないよ。黄彩にヴィランなんてヒーロー以上に向いてないし』

 

ツユちゃん

『……断言できる理由が、あるのね』

 

キョーカ

『結局、黄彩にしても誰にしても、そいつがヴィランになるかどうかって、周りにどう見られるかだからさ。例えばウチらクラスメイト全員が爆豪をヴィランだって騒いだら、爆豪はヴィランみたいに暴れだす、みたいな』

 

ツユちゃん

『その光景が簡単に想像できちゃうあたり、爆豪ちゃんも不憫ね』

 

キョーカ

『結局、これまで通りがベストだと思うよ。やったのはずっと前のことなんだし、みんなを騙してたってわけでもないし、警察もヒーローもすぐにどうこうするつもりはないみたいだし』

 

ツユちゃん

『ちょっと待って頂戴。騙してたわけではないって、どういうことかしら』

 

キョーカ

『あー、隠してたわけではないって言った方があってるのかな。ウチと、それからウチの両親もだけど、あの頃のヴィランが侵入して云々って報道されてる時に、ウチと黄彩が通ってる学校だから怖いねーって話をみんなでしてて、その時に黄彩が「ボクがやったんだよー」、みたいな感じ。聞かれなかったから誰にも話してなかったってだけなんだよ、今この状況は』

 

 今思うと、あの時は大変だった。

 ちゃんと聞いてみれば、確かに黄彩が間違ってるとも言えなくて、殺しはしちゃいけないって教えることは出来ても、殺したことを叱ることは出来ないっていう。結局、ウチらがどうこう言うより警察の判断に任せようってなったんだっけ。

 

ツユちゃん

『なんというか、難しいわね』

『響香ちゃん、本当に、ちゃんと、絶対完璧に正当防衛だったとして、殺人は許していいのかしら?』

 

 難しい問いが来てしまった。なんというか、正答のある心理テストを受けてるような気分だった。ウチは別に、正統な人間ってわけでもないのに。

 

キョーカ

『やっぱり、周りがどう思うかじゃないかな。例えば桃太郎が鬼を絶滅させたとして、それでおじいさんとおばあさんが喜んだのなら、人間みんなが感謝したのなら、それは許されたってことだと思うの』

『逆にみんなが桃太郎を鬼を殺した殺人鬼だーって言ったら、桃太郎は許されなかった、悪い奴になるわけだし』

 

ツユちゃん

『有製ちゃんは、許されるべきなのかしら?』

 

キョーカ

『それをウチに委ねちゃダメだと思うよ』

『でもまぁ、黄彩が39人に殺される未来と、39人が黄彩に殺される未来。どっちかを選べるのだとしたら、どちらかしか選べないとしたら、ウチは黄彩が助かる方を選ぶよ。それが39人死ぬ未来でも、39億人死ぬ未来でも』

 

 それだけは間違いない。価値の差とでもいうのだろうか。

 クラスが違ったとはいえ、面識がないわけでもなかったけれど、ウチの中で黄彩の価値はあの39人なんかよりずっと大きい。黄彩のために死んでくれって感じだ。いや、死んだんだけど。

 

ツユちゃん

『ごめんなさい、なんだかとっても悪いことを聞いてしまったわ』

 

キョーカ

『全然、気にしてないよ』

 

ツユちゃん

『有製ちゃんに関しては考え直してみるわ』

『話は変わるのだけど、殺人鬼の彼に誘われたっていう遊園地、どうだった、いえ、どうなったのかしら』

 

 ……忘れてた。そういえば事情を説明して誘ったんだった。そりゃ、心配もされるよね。

 

キョーカ

『とりあえず、ウチも黄彩も何かに巻き込まれたりはしてないから心配しないで』

『どうなったって言えば、ああ、梅雨ちゃんの代わりに、トガヒミコが来た。んで、話してるうちに友達になった。悪い奴ではあるんだろうけど、嫌な奴ではなかったよ』

 

 わざわざ隠すほどのことでもないだろうと思ったが、しばらく返信がこない。まさかヴィランと友達になったってだけで軽蔑……、されてもおかしくないわ。ヒーロー科だったわ、ウチ。

 

ツユちゃん

『合宿の時に私は彼女と会ったけれど、響香ちゃん。貴方もクレイジーだわ』

 

 幸い、五分もすれば返信がきた。かなり動揺したのが、なんとなく伝わってくる。

 

ツユちゃん

『もしかして私、響香ちゃん達にとっても悪いことをしてしまったかしら』

 

 梅雨ちゃん、良い子すぎるっ! そういえば体育祭で黄彩もそんな感じで褒めまくってたし、本質的に、根本的に善良な子なんだ。

 

キョーカ

『ほんと大丈夫だから。ヴィランってより、マジで使駆寄りの殺人鬼って感じだったから』

 

ツユちゃん

『殺人鬼が友達って時点で危ういわよ。失礼かもしれないけど、響香ちゃん、友達作りがヘタね』

 

 分かってる。分かってるけど、心臓に待ち針が刺されたような痛みが走った。

 

キョーカ

『縁が友を呼ぶっていうじゃん、……そのせいだと思いたい』

 

ツユちゃん

『響香ちゃんの縁は有製ちゃんの縁でもあるってわけね。こういうのもあれだけど、よく殺されなかったわね』

 

キョーカ

『黄彩は殺されかけてるから、殺されなかったとも言い切れないかな。まあ、友好的であるうちはいい、っていうかどうしようもないかな。渡我はよくわかんないけど、使駆とやりあえるくらいには強いって話だし』

 

ツユちゃん

『彼、そんなに強いのかしら』

 

キョーカ

『全速力が音より速いらしいし、ウチじゃまず無理。飯田よりも速いスピードで、コンクリより硬い脚で蹴られたら大抵のやつは死ぬでしょ』

 

 その大抵のやつっていうのが、幸いなことにヴィランなわけで。

 

ツユちゃん

『なかなか、反則的ね』

 

キョーカ

『おまけに異形型だから相澤先生の抹消とかも効かない』

 

ツユちゃん

『捕まっていない理由に納得したわ』

 

キョーカ

『一応補足しておくけど、ヒーローとか警察とか、一般人は殺してないはずだよ。ヴィラン以外は絶対殺さないって言ってたし、ウチとかが殺さないでって言えば、ウチが見てる時は殺さないで助けてくれたし』

 

ツユちゃん

『なんでヒーローになろうとしなかったのかしら』

 

キョーカ

『小学校のときにやらかして、正当防衛が許されなかったから。誰かを許さないって、そういうこともあるんだよ』

 

 

 ウチが送ったのを最後に、その日梅雨ちゃんから返信は来なかった。

 

 きっと色々考えたんだと思う。次の日に梅雨ちゃんから、『ありがとう』とだけ、返信が来ていた。

 

 

 

渡我被身子

『響香ちゃん! 暇になったので響香ちゃんの家に遊びと涼みに行って良いですか?』

 

キョーカ

『空気読め』

 

渡我被身子

『ええ!? 私何かしました!?』

 

キョーカ

『ごめんなんでもない。遊園地のお土産もうちに置いてあるから、持っていってね』

 

渡我被身子

『今から向かいます! 使駆くん号で!』

 

キョーカ

『あんたら付き合ってんの?』

 

渡我被身子

『そんなわけないじゃないですかやめてください気持ち悪いです使駆くんなんて可愛くないから嫌です』

 

キョーカ

『あっそ』

 

 うん、バカとのラインは頭使わなくて良いから楽で良い。

 ウチは来客の侵略に備え、冷蔵庫の麦茶の確認を急ぐことにした。無かったら急いで買いに行かねばならない。

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