芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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 思いついたと言うか、落とし込んだって感じですが夏休み篇終了、全寮制開始篇です。


全寮制開始篇
第四十五話 全寮制の周知時後と緊縛不能


 

001

 

 

 

 夏休みが明け、雄英高校は全寮制を開始する。

 

 雄英から徒歩五分、築三日の学生寮、ハイツアライランス。

 

 生徒の登下校時の危険対策、情報漏洩の防止、裏の目的として内通者の捜索などなど、決して平和的な理由で実施されたものではないが、それでも生徒たちの気分は明らかに高揚していた。

 

「むぅ、アトリエから遠いし、やっぱやなんだよ……」

 

 いや、約一名だけ、若干不機嫌だった。

 美術室を半ば独占しているが、そこでは搬出に不便なため、大きいものとなると自前のアトリエを利用する必要がある黄彩だけは、全寮制が気に入らないようだ。

 

「ケロ、おはよう響香ちゃん。……有製ちゃん、どうかしたのかしら」

 

「うにゃ、はよ〜」

 

「おはよ。黄彩、今朝からずっとこんなでさ。アトリエが遠いって」

 

「ケロ、それは仕方ないわね」

 

 口元に指を当てながら微笑む蛙吹を見て、黄彩は首を傾げた。

 

 どこか不思議そうにしている黄彩に、蛙吹も黄彩と鏡合わせのように首を傾げた。

 

 次々と到着するA組の面々が、鏡芸のようなことをしている黄彩と蛙吹を疑問に思いながらも挨拶して行った。

 

「黄彩、どうかしたの?」

 

 蛙吹と一緒にメトロノームみたいになり始めた黄彩に響香が尋ねると、動きが止まって答える。

 

「うにゃ、もっと避けられると思ってたんだけど。ほら、ボクが殺したの知られちゃったみたいだし」

 

「ケロ、もしかして有製ちゃん、見ていないのかしら」

 

「そういえば黄彩は一回も返信してなかったっけ」

 

「うにゃん? 何の話?」

 

 響香は黄彩いスマホの画面を見せた。

 そこには、クラスのグループチャットで話し合いが行われた記録が残されていた。当然そのグループには黄彩も参加はしているため、皆黄彩も見たという前提でいるようだ。

 

「ケロ、昨日まで何回か、みんなで話し合っていたのよ。これから有製ちゃんとどういう風に接していくかとか、そういう話」

 

「ウチは例外すぎるから個人で何人かと話しただけなんだけどね」

 

「響香ちゃんの話は有製ちゃんとのこと以外でも色々ためになったわ。ありがとう」

 

 本人のいないところで何かが決まったのがむず痒いようで、響香の袖を掴んで聞く。

 

「それで、どうなったの?」

 

「どうって言っても、なるべく今まで通りにしようって感じ。飯田とか納得しきれないのもいるけど、そいつらに強制はしない。居心地を悪くするのはやめよう。何となくそんな感じだったよね」

 

「その通りだ有製君!」

 

 と、話を聞いていたようで飯田が乱入してくる。

 

「俺は君のしたことは許されることではないと確信している。しかし個人的に裁くことが出来ないのが現実。だからせめて、今後君に殺しをさせる機会を与えない!!」

 

 チャットの記録を遡って見てみれば、飯田のスタンスはその直立不動具合に似合って一貫しているらしい。

 まだヒーローでもない自分が勝手に黄彩を捕らえることは出来ないから、せめてこれ以上罪を重ねさせない、あわよくば罪を償わせる。といったスタンスだ。

 

「ふぅん。言っとくけど、ボクはボクのやったことを罪だなんて微塵も、これっぽっちも、思ってなんていないからね。生かしておけばよかったって反省はあるけど、誰かに叱られる謂れは無いよ」

 

 響香にスマホを返しながらそう言うと、飯田は直立不動の対義語のような黄彩の肩を掴んだ。

 

「いいか、殺しはいけないことだ。いかなる理由があろうと、それは最も忌むべき行為で恥ずべき行為だ」

 

「ウフフ、でもそれは、ボクを殺そうとした39人にも言えるんだよ。40人で殺し合って生き残ったのがボクってだけなんだから」

 

「それでも殺したのは君だ」

 

 話にならない。そんな思いを、黄彩は表情に露骨に出す。

 

「殺人未遂だって罪だよ。それに、肉食動物は平気で共食いをする。なのにどうして、人間は共食いも殺し合いも禁じられるのかな」

 

「それは…………、法でそう定められているからだ。ルールは守らなければならない。それに、なぜ殺してはならないのか、そういう問いそのものが非道徳的だ」

 

 飯田は幾らか間を開けて考える素振りを見せた後に黄彩の疑問に答える。

 

「うにゃぁ。ルールは守らなければならない、問うことそのものが間違っている」

 

 黄彩はうんざりした様子で、飯田の言葉を反芻する。

 

「そういうのって、思考放棄だと思う。赤信号を守らなければいけないのは危ないからだよね。法定速度を守らなければいけないのも危ないから。どんなことであれ、ルールは人を守るためにある。でも、人を殺しちゃいけないってルールをあのとき律儀に守ってたら、ボクはあの日に死んでるんだよ?」

 

 それも事実。

 

「ボクの知ってる殺人鬼は同級生を守るためにルールを破って、ルールじゃ守れなかった人を守ったよ。その中にはボクとか、きょーかもいる」

 

 黄彩の言葉に嘘偽りは一切無い。

 

「ルールって、道徳って、そこまで大切かな? ルールに縛られて苦しんでいる人に、それでも君はルールは守らなければならないって言える? ……ウフフ、そう人類に問いかけるのが、ボクたち芸術家だよ」

 

 いつの間にか注目が集まり、クラスメイトたちの興味は寮よりも黄彩の言葉に集まっていた。

 

 

 

002

 

 

 

「A組一同、偶然だろうが我々と概ね同じ結論に至ったようで何よりだ」

 

 黄彩の言葉に、ヒーロー志望として考えねばならなかった。そこへ一石を投じるように現れた相澤が声を掛ける。

 

「有製黄彩は何がなんでもヴィランにするわけにはいかない、それが上の結論だ」

 

 なんてこと無いように言った相澤に、緑谷が挙手しながら問う。

 

「相澤先生、それって、本当に仮にですけど、有製君が何をしてもヴィランにならない、ということですか?」

 

「正確には出来ない、だ。人間国宝だの上級国民だのとネットじゃ言われてるが、それ以前の問題だ。……飯田、お前なら何者にも触れることが出来ず、当然縛ることも出来ない幽霊みたいなヴィランを捕らえろと言われたらどうする」

 

 突然名指しされた飯田は、身体の向きを相澤の方へグリンと向けながら答えた。

 

「申し訳ございません! 何も思いつきません!」

 

「だろうな、俺にも思いつかん。有製黄彩がヴィランになった場合がそれだ。全員何かしらのニュースで見たろ、ヴィラン用の拘束具を余裕で引きちぎったこいつを。牢屋に捕まえとく方法が無い以上、多少強引にでも正当防衛を成立させるって方針だ」

 

「消しゴムの人の個性なら一応縛れるんだけどね」

 

「俺をドライアイで殺す気か?」

 

「ウフフ、まあボクだって好んで殺すわけじゃ無いよ」

 

 ともあれかくあれ、理不尽な権力のようなものを黄彩が握ったというわけでは無く、それを利用する気も無いようでクラスメイトたちは安堵した。

 

「ま、みんな集まれてよかったな」

 

「私は苦戦したよ〜」

 

 場の空気を変えようと、瀬呂が言うと、合宿の際に被害をモロに受けた葉隠が乗っかった。

 

「ウチら、ガッツリやられちゃったからね」

 

「うにゃ、今度は負けないもん」

 

「ケロ、無事集まれたのは先生もよ。会見を見たときは、居なくなってしまうんじゃと思って悲しかったの」

 

 蛙吹の言葉に、相澤は頷いた。

 

「俺もビックリさ。ま、いろいろあんだろうよ」

 

 相澤が見据えた先にいるのは、スマホでグループチャットの記録を振り返っている黄彩。

 この場にいられる理由の一つは、黄彩に対する抑止力というのもあるんだろう。抹消という稀少な個性は、黄彩を正面から叩きのめせる数少ない手段なのだから。

 

「さて。これから寮の説明に入るんだがその前に一つ。これから合宿中に取る予定だった仮免取得を目指して動いていく」

 

 相澤の話を聞き、生徒達は「そういやそんな話あったな」と思い出す。

 

「大事な話だ。……切島、八百万、轟、緑谷、飯田。お前ら五人はあの晩、あの場所に爆豪救出へ赴いたらしいな」

 

 なぜ知られているのか、など疑問や不安の感情に包まれる。

 

「その様子だと、行く素振りはみんなも把握していたわけだ。俺は神刺裂那の報告を受けて初めて知ったし驚いた。その上でいろいろ棚上げして言わせてもらうが、オールマイトの引退がなければ、爆豪、葉隠、耳郎以外は、全員除籍処分にしてる。有製に関しても俺が監視に付けばいいわけだしな」

 

 生徒たちの顔に浮かぶのは、後悔、反省、罪悪感。

 

「行った五人はもちろん、止められなかった十三人も、理由はどうあれ、俺たちの信頼を裏切ったことに変わりない」

 

 黄彩とて、状況は知った上で放置していた。

 

「正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。……以上。さぁ、中に入るぞ。元気に行こう」

 

 相澤は悔やむ表情を隠すように背を見せ、寮へ入って行った。

 

「……うにゃ、どうしたの? みんな行かないの?」

 

「「「なんでお前だけ平気そうなんだよ!!」」」

 

 疲れた様子で黄彩は早く部屋に行こうと相澤について行くが、来ない生徒に首を傾げながら問えば、男子たちが叫んだ。

 

「ボクは消しゴムの人にどう思われても興味ないからね。それより喋って疲れたし立ちっぱで眠いんだよ……。ふわぁ……、きょーか、抱っこぉ」

 

「ハイハイ」

 

 待ってましたと言わんばかりに、響香は黄彩を抱き抱えた。

 

 

 

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