001
「えーっとじゃあ、誰がクラス一のインテリアセンスか、部屋王を決めるってことで!」
「別に決めなくてもいいけどさ」
既に普通すぎて敗北が決定している尾白は、女子が乗り気になったことで一気に冷めたようだ。
とりあえず続けて見ていこうと、一同は四階へと向かった。
「男子棟四階に住んでるのは、爆豪君と切島君と障子君、だよね」
麗日が配置図を思い返しながら言うと、飯田は爆豪がいないことに気が付く。
「爆豪君は?」
「ずっと前に、くだらねぇ先に寝るって部屋行った。俺も眠い……」
切島が言うに、黄彩と同じ理由で不在らしい。
「じゃー切島部屋!」
「ガンガン行こーぜぇ!」
くたびれた様子の切島と対照的に、実行犯である芦戸と葉隠のテンションは見る見る上がっていく。
「どうでもいいけど、多分女子にはわかんねぇぞ、……この男らしさは!!」
男子でも、黄彩や常闇、緑谷あたりは理解できなさそうな部屋だ。サンドバッグに大漁旗なんかが置かれており、運動部の部室と昭和の少年漫画、プロテインを煮込んだような空間がそこにあった。
「うん」
「彼氏にやってほしくない部屋ランキング2位くらいにありそう」
「暑いねっ! 暑苦しい!!」
女子で唯一、麗日だけ感動していて、切島は泣いた。
「次、障子!」
「何も面白いものは無いぞ」
面白いものどころか、物がなかった。暮らしに最低限の、ローテーブルと寝具のみ。まるで囚人の部屋のようだった。
「ミニマリストだったのか」
「まぁ幼い頃からあまり物欲が無かったからな」
「こういうのに限ってドスケベなんだぜ!」
と、峰田が探るもめぼしいものは無かった。
「次は、五階男子!」
「瀬呂からだ!」
「マジで全員やんのかぁ?」
と、瀬呂は言いながらも口角が上がっていた。
「「「おおー!!」」」
「エイジアーン!」
「素敵ー!」
意外も意外、尾白以上の地味部屋を期待されていたのに、意外性溢れる、エスニック調の部屋になっていて、ここまででトップクラスのインテリアセンスを見せつけた。
「瀬呂こういうのこだわるやつだったんだ」
「フッフッフッー、ギャップの男、瀬呂君だよ?」
優勝候補が一人、ようやっと現れた瞬間だった。
「次々ー!」
「次は轟さんですわね」
クラス屈指の実力者、イケメンと、女子たちの期待が集まるその部屋は――
「「わー!!」」
和室だった。
「つか、作りが違くねっ!?」
「実家が日本家屋だからよ、フローリングは落ちつかねぇ」
「理由はいいわ!」
「当日即リフォームってどうやったんだお前!?」
畳から何まで、構造から変わっている部屋に上鳴と峰田がツッコミをいれる。
「有製に手伝ってもらった」
「なんかそれ狡くね!?」
黄彩が手伝ったらしい。反則な気もするが、確かに黄彩ならできるだろうと皆納得した。
「エリートのやることはちげえなぁ〜」
「大物になりそう!」
次に待ち構える砂藤がため息をつく。
「じゃあ次、男子棟最後は!」
「……俺。まぁ、つまんねぇ部屋だよ」
尾白に似て普通のベッドに、机に椅子、ローテーブル。異様なのは食器棚や電子レンジなど、調理関連が多いことか。
「轟の後は誰でも同じだぜ」
「てゆーか、いい香りするの、これ何?」
切島が気遣っていると、尾白が何かに気が付く。
「だぁー、いけねぇ忘れてた! だいぶ早く片付いたんでよぉ、シフォンケーキ焼いてたんだ。みんな食うかと思ってよお」
と言いながら、砂藤は電子レンジを開けると、そこには焼けたばかりのケーキがあった。
「ホイップがあるともっとうまいんだが、食う?」
「「「食うー!!」」」
インテリアセンスは地味だったが、女子たちはしっかり釣れた。
「うまー!」
「瀬呂のギャップを軽く凌駕した!」
「素敵なご趣味をお持ちなのですね、砂藤さん!」
女子大絶賛だった。
「こ、こんな反応されるとはっ!? ま、まあ個性の訓練がてら作ったりすんだよ。甘いもん買うと高ぇし」
ある意味、砂藤は被害者となった。
「男子はこれで、あと黄彩くん? 起こしちゃ悪いかもだけど、あたし男子で一番見たい!」
「う、ウチに言われても。……まぁ、いいと思うけど」
芦戸が響香に詰め寄ると、思わず響香は頷いた。
002
一同は女子棟に移り、三階まで降りてきた。
「鍵はウチが持ってるから開けられるよ」
と、言いながら響香は芦戸と葉隠に背中を押されながら黄彩の部屋を開けた。
「……あ? んだよ、急に。ノックくらいしろよ、ヒーロー志望なら」
そこにいたのは、金色だった。
「「「うおー!?!?」」」
「あいつ、あんな可愛い顔してこんな趣味があったのか!?」
そんなもの目に入らないと言わんばかりに、黄彩の部屋中に設置されたディスプレイに映る画面に男子たちが興奮しながら叫ぶ。
いわゆる、エロゲーと呼ばれるものだった。肌色成分の多い画面が、部屋の壁を覆っている。しかも一枚一枚、映っているゲームが異なる。
「え、っちょ、ええ!?」
「はっ、ハレンチですわ!?」
「かっかか、彼氏にやってほしくない部屋殿堂入り!?」
女子たちは顔を手で覆うようにしているが、あからさまに指の隙間から覗いている。
そしてこれはもう部屋では無い、何かだ。
「人様の趣味勝手に見て何言ってんだよお前ら」
「人様の部屋で勝手に何してんのよあんたは」
一応面識のある響香がいうと、金色――裂那はコントローラーを触りながら答える。
「オレだってあのショタ親父の作品なんだ、あいつの性癖を知ってて損はねぇだろ」
「つっ、つつ、つまりこれ全部あいつのものなのか!?」
峰田が口からよだれを溢れさせながら叫ぶ。
「黄彩くんの性癖!? ……ああ、なるほどね」
芦戸が見渡すと、最後は裂那と響香に視線が止まった。
次々と、その場の視線が二人に集まって行く。
「え、なに?」
響香は困惑した様子で、ディスプレイを見ていってすぐに気がついた。
「響香さん、大変よく愛されていますわね」
「やめて恥ずい死ぬ羞恥死とかそんな感じでウチ今すぐ死ぬ」
画面に映る裸体の少女たちは、どれも髪型や体型に差異はあるけれど、響香と裂那に共通するパーツを備えていた。
「そういえば性欲は普通にあるとか言ってたもんねうん! 次行こっか次!」
頭ひとつ抜けて耐性のなかったらしい葉隠が爆発するように、黄彩の部屋から飛び出した。
「たまに全裸になるのになんで一番ダメなのさ」
「それとこれとは話が別だよ! 響香ちゃんはなんで平気なの!?」
「いや、まぁこういうのを持ってるのは知ってたし」
「なぁ、なら有製のやつはどこ行ったんだ?」
切島がそういうと、「あれ、確かに」と全員の脳内に疑問符が立った。
裂那のことは飯田が教師たちに通報するが、侵入者が裂那だとわかった途端に職員室の慌てた様子は収まり、電話越しに相澤から「有製の作品だ、一応私物扱いだし、放っておけ」と言われてしまった。
003
「さあ気を取り直して! 次は私たちだね!」
「もうこれ以上ウチを追い詰めないで……」
黄彩の隣であるため、女子一人目は必然的に響香だった。
「思ってた以上に楽器楽器してんなぁ!?」
開けてすぐ、上鳴が叫んだ。
「響香ちゃんはロッキンガールなんだねぇ!」
「これ全部弾けるの?」
「まぁ、一通りは」
ドラムにキーボード、ギターが幾つか、用途もよくわからない音響機器にスピーカーまで勢揃いの部屋だった。
「あれ、ベッドが大きいような、って黄彩くん!?」
部屋を漁っていた芦戸がベッドの布団をめくると、そこにはさっき部屋にいなかった黄彩がいた。
騒がしさに流石に目を覚ましたようで、身を起こした。
「うにゃ……、なに、どうかしたの?」
いつものツインテールでは無く、寝起きで乱れた髪をうっとおしそうにしながらベッドから出た。
「制服のまま寝るなってば、シワになるから。ほら、髪直すからこっち来て」
「ん〜、うんー」
慣れた手つきで黄彩の髪を直す様子を見て、全員が黄彩が女子棟になった理由を察する。
「こ、こいつがあんなドスケベなゲームを持ってるというのか!?」
思春期に歪み穢れた峰田ですら、部屋と本人のギャップに困惑していた。
「ねえねえ響香ちゃん! これだけ楽器だけど違くない?」
響香に直される黄彩をみんなが見守っていると、葉隠が一つの楽器を持ってきた。
いわゆる、ハープというやつだ。
「ああ、うん。それは黄彩のやつ。ベイビーハープっていう、ほら、天使とか人魚が持ってるあれね」
「へー。響香ちゃんも弾ける?」
「ウチも弾けないことはないけど、似合わないし」
似合わないというか、それこそキャラとギャップがある。
「なんでお前、男のくせにそんな女子女子して、んで部屋はあんなでゲームがアレなんだよ」
思わず切島が、誰が言うのかと牽制し合っていたことを言った。
「うにゃ、だって可愛いし、綺麗だもん。部屋のパソコンは、お仕事でなんか作るときに使うやつ。あぁ、ゲームは僕が描いた絵のやつのサンプルでもらったやつ。ホラーとかファンタジーがいっぱいあるよ」
「あ、だからウチっぽい絵が、……待ってやっぱ今のなし!」
「つーか大人も、未成年にあんなの描かせるなよ」
「未成年が描くからいいんじゃねぇか! っぎゃー!?」
「響香ちゃん、なんで結婚してないの? っぎゃ!?」
芦戸が首を傾げながら言うと、問答無用で響香のイヤホンジャックが襲い掛かった。峰田はついでだ。
「ボクまだ眠い、もう朝なのぉ?」
「ごめん、まだ夜。着替えてきてから寝な」
「ん、うん……」
全員響香の部屋から出て、黄彩は自分の部屋へと入っていった。