001
「どーっだ!」
響香の部屋を出て、次は三階女子棟の反対側に位置する葉隠の部屋。
「おぉー!」
「普通に女子っぽい!」
葉隠の部屋は、桃色や、可愛らしい柄の多い、男子中学生が思い浮かべる女子の部屋を再現したような部屋だった。
そこへ――
「ウフフフフフ、ボク、参上!」
ベランダから、女体化した方の黄彩が飛び込んできた。
「黄彩くん!? じゃ無くて黄彩ちゃん!?」
家主の葉隠が驚いていて、その光景を黄彩は微笑ましいものを見る目で見る。
黄彩は制服ではなく、上下縞模様の、一昔前の囚人服のような服装だった。
「あんた、寝るんじゃなかったの」
「ボクは寝てもボクは眠らないのさ響香ちゃん! こんな面白そうなイベント、参加しないなんて罪だろう? 相変わらず、ボクってやつは罪深いぜ」
響香の問いに答えながら、黄彩は衣装箪笥を開けて見る。
「相変わらず私に対して容赦無しか黄彩ちゃん!!」
「あ、これボクじゃない方のボクがあげたスク水じゃん。わざわざとって置いてくれたんだ」
「捨てるのも悪い気がしてねっ!」
箪笥が箪笥なら挟んで指が千切れそうな勢いで箪笥をしまうが、幸いそうなるタイプではなかった。
「あいつ、ナチュラルにセクハラしてやがる」
「プルスウルトラすぎるぞ有製!!」
上鳴と峰田が突っ込むも、黄彩の耳には届かない。
「鏡は置いてないんだね。やっぱり、透明人間だから?」
屈さぬ黄彩はクローゼットを開けながら尋ねる。
「もうそっちはいいや……」
「釣り糸で透ちゃんの服吊るしたらさ、分身の術みたいなこと出来そうじゃない? 触ってみなきゃ本物がどれかわからない、なんと本物は全裸で完全透明に! みたいな」
「何それ面白そう! 今度やるから手伝って!」
「もちろんいいとも! なんならボクの個性で服を歩かせたりできるぜ!」
険悪な空気になるかと心配したのも束の間、黄彩の思いついた企みに、葉隠は持ち前のノリを取り戻した。
「最初に見つけた人は透ちゃんの裸体を触り放題!」
「やっぱりいやー!」
「まあボクを除いて、見つけるのは響香だろうけどね。イヤーだけに!」
「イヤー!」
「変なことにウチを巻き込むな!」
「「ギャー!?」」
糊に海苔を重ねるようなノリに響香を無理やり載せ、黄彩と葉隠にイヤホンジャックが突き刺さる。
「なんだ、このノリ」
「次、行こうぜ」
悶える葉隠と黄彩を放置し、一行は四階へと向かった。
「次はあたしだー! ジャーン! 可愛いでしょうがぁ!」
芦戸の部屋は、ピンクはピンクでも葉隠とは違い、極彩色で包まれた趣味全開な部屋だった。
「「「おおー」」」
「三奈ちゃんって、クロマキー合成でピンク消したら消える?」
「どっから湧いたの黄彩ちゃん!?」
「もちろんベランダから。ボクの前に物理的施錠なんて意味ないんだぜ」
「私、ふっかーつ!」
「透ちゃんまで!?」
どこから入ってきたのか、囚人服から雄英の制服ではない学ラン姿の黄彩がカーテンを潜って出てきて、全裸になって完全な透明人間の葉隠が、芦戸のベッドのシーツを纏うようにして姿を現した。
「ウフフ、流石に全裸じゃ風邪ひくぜ透ちゃん」
と、黄彩が言いながら葉隠に渡したのは体育祭の障害物競走で渡したスクール水着。
「……普通に上着だったら相手が黄彩ちゃんでもキュンときたのに」
「ウフフ、ボクだぜ?」
「響香ちゃん、黄彩ちゃんは黄彩くんだったよ……」
「いや、意味わかんないから」
「三奈ちゃんって化粧どうしてるの? 青肌専用とか桃肌専用みたいなのってあったっけ」
「え、あーうん。そういうのあるし使ってるけど、え、何急に」
「全身に化粧したらどれくらい可愛くなるかなって」
「……それ、全裸じゃないと意味ないよね」
「そりゃもちろん。注目が集まるし一石二鳥だね」
「黄彩ちゃん、普通にぶん殴るよ」
「ごめんなさい」
「よし」
芦戸の部屋を出て、次は麗日の部屋。いい意味で特徴的な部屋が続いたため、どんな部屋が来るかと思いきや――
「味気のない部屋でございます〜」
「「「おおー」」」
女子の普通枠だった。
生活感のあるノーマルな部屋で、男子の背徳感をくすぐる。
「うーん、部屋の内装もある意味芸術だね」
「え、あの部屋作ったアンタがそれ言うの?」
響香が言っているのは、機材と玉座しかない黄彩の部屋のことだ。
「アレはあくまでボクが作った部屋だぜ? 空き部屋はあるわけだし、ボクの分も部屋もらおうかな」
「作っても住まないでしょうが」
「うん、確かに。オールマイトくんあたりが住んでくれないかな」
「女子棟におっさん住まわすな」
「じゃあミッドナイトちゃん?」
「……それはそれで危険な気がする」
「じゃあマイクくん」
「それだけはない」
「ウフフ」
次は蛙吹の部屋の番、となるはずだったが体調不良でパス。女子最後の八百万の番となった。
「それが、私見当違いをしてしまいまして……。皆さんの創意あるお部屋と比べて、少々手狭になってしまいましたの」
「デッケェ狭!?」
「ウフフ、キングサイズのベッドだね。どうやって運んだんだろ」
キングサイズ、一般的なシングルベッドと比べて、そのサイズは約二倍。部屋の床面積の半分以上を埋めてしまっていた。
「私の使っていた家具なのですが、まさかお部屋の広さがこれだけとは思っておらず……」
八百万の天然物なお嬢様っぷりに、一同は和んだ。
「ウフフ、ボクが作り直してあげよっか? 発想力の欠けるボクだけど、意匠をそのままにするなら余裕だぜ?」
「是非ともお願いしますわ!」
「ウフフフフ、うん。ボクの絵を大事にしてくれてるみたいだしね。これくらいはお安い御用さ」
黄彩の手によってベッドのサイズは幾らか小さくなり、ついでと言わんばかりに、入学当初に黄彩によって書かれた八百万の絵の額縁にも装飾を付け加えた。
002
「えー、皆さん! 投票はお済みでしょうか!」
蛙吹、爆豪を除いた面々は共用スペースに戻り、八百万お手製の投票箱に一人を指名して紙を投票した。
発案者、というかやはり実行犯の芦戸が集計を終えたようだ。
「それでは、爆豪と梅雨ちゃんを除いた、部屋王暫定一位の、発表です!」
あれやこれや言っておきながらも、勝負事となると負けたくはないようで。みんな目つきが変わる。
「得票数五票、圧倒的単独独走首位を叩き出したその部屋は!! ――砂藤力道」
「ハァ!?」
「ちなみに全て女子票、理由は『ケーキ美味しかった』、だそうです」
「部屋は!?」
一番驚いている砂藤は、女子票を独占した嫉妬の目を受けている。
「さー、終わった終わった。響香ちゃん、部屋でえっちぃことしようぜ」
「しない、帰れ」
「うん〜、じゃ、今日はこれで勘弁してあげる」
「んっ!?」
音が鳴らないほどスムーズに響香と唇を重ね、そのまま空気に溶け込むように消えていった。
「なっ、なっ、なー!!」
「響香ちゃん今のどういうこと!?」
「体育祭の時もそういえばしてたよねぇ!!」
「なー!!」
額から首元まで真っ赤にした響香が芦戸、葉隠にからかわれるも、言語能力が麻痺したのか反論ではなく威嚇が返ってくる。
003
「やれやれ全く、響香ちゃんが可愛すぎて帰りたく無くなるっての」
「だったら一緒にいればいいだろ」
「んふー。こんばんわ、裂那ちゃん」
「やめろ。お前にそんな呼び方されると吐き気がする」
「ハグしたげよっか?」
「やめろ。吐き気どころか血反吐を吐くぞ」
「可愛い君のなら鼻血だって受け入れて見せるとも」
「死ね、気持ち悪りぃ」
「ボクも君も芸術品だからね。不気味の谷の住人同士、仲良くしようぜ」
「お前とは同族嫌悪すらしたくねぇ。さっさと消えやがれ」
「ウフフ、ボクってば嫌われ者だなぁ」
「勝手に嫌われてろ。一人に好かれてりゃ十分だろ」
「うん、それもそうだね。みんなに愛されたいなんて、ボクみたいな駄作には高尚すぎる」
「ハッ、お前で駄作なら全人類は猿か?」
「全人類が猿なら、ボクは人工知能だね。思考し過ぎで身動き取れず、思考放棄で身動き取れず」
「だったらとっとと人になれ」
「ウフフ、なるとも。なって見せるとも。何せボクはボクだからね」