第四十九話 試験前の必殺会得と英雄願望
001
「黄彩くんおは〜、眠いね……」
「うにゃ〜、うにゃん」
「黄彩、せめて日本語で」
全寮制が始まって二日目早朝。
芦戸は前日の疲労が抜け切っていない様子で、黄彩は寝起きで足元おぼつかないまま響香に連れられるように、共用の洗面所にいた。
「うん〜」
「ほら顔拭いて。髪やっちゃうから」
「うな〜」
「手慣れてるなー」
髪が短い響香と違い、黄彩の髪は女子の並よりも長い。自分の倍以上の量の整髪料を付けて櫛で梳かし、乱れが無くなったらツインテールに結ぶ。
「ケロ、朝から大変そうね響香ちゃん。有製ちゃんもおはよう」
「おはよ。まあいつものことだから」
「ん、んん〜、はよ〜」
「おおっ、黄彩くんが人の心を取り戻した!」
「三奈ちゃん、なんの話かしら」
「えっと、……なんの話だっけ」
「寝ぼけてんじゃない?」
「ボクだって人だよぅ」
「ケロ、お喋りもいいけれど、急がないと朝食に遅れちゃうわ」
「「梅雨ちゃん準備早ぁ!?」」
「部屋で出来る事はしてきただけよ。朝の身支度ってなんだか見られると恥ずかしいじゃない。……透ちゃんなんかは朝、楽そうね」
「え、なになに、なんの話?」
蛙吹が話題にあげたことで、離れたところで身支度してた葉隠が荷物を抱えてやってくる。
「透明人間って朝の支度が楽そうって話。……何その大荷物」
葉隠の持つバッグには化粧水や整髪料、他にもスキンケアのためのものがいくつも詰まっていた。
「やー、そんなでもないよ? 鏡に映んないから自分の髪型わかんないのに、変な髪型になってるとなんかこう、モヤっとするし」
「ケロォ、……結局は隣の芝は青いというやつなのね」
「うにゃ、透明の人、髪、後ろの方跳ねてるよ」
「え? あ、ほんとだ」
「そして黄彩にはやっぱり見えてると」
「ん、きょーかなら、耳で似たようなことできるし、今度やり方教えてあげる」
002
全寮制とはいえ、寮から出てしまえばいつも通りだ。
徒歩五分の道を十分かけて歩き、教室に付けばホームルームが始まる。
「昨日話したと思うが、ヒーロー科一年A組は、仮免取得を当面の目標にする」
――ヒーロー免許
ヒーロー活動をする上で、絶対に欠かせない資格。人命に直接触れ合うため、取得の難易度は医師免許や建築士と同等かそれ以上になる。
「仮免といえど、その合格率は例年五割を切る。そこで今日から君らには、一人最低でも二つ、必殺技を作ってもらう!」
相澤が言うと同時に、教室の扉が開き、教師三人が入ってきた。ミッドナイト、エクトプラズム、セメントスだ。
「「必殺技!!」」
「「格好良くてそれでいてっ!!」」
「「「学校っぽいのキター!!!」」」
テンポ遅れて、生徒達が叫ぶ。
「詳しい説明は実演を交え、合理的に行いたい。各自コスチュームに着替え、体育館γに集合だ」
相澤が生徒達の表情を見れば、流石に学生。必殺技という言葉に舞い上がるのも仕方ないかと思うが、一名だけ首を傾げていた。
「うにゃ? ヒーローなのに、必ず殺す技を作るの?」
それはある意味、殺しを経験して、それを非難されたが故の疑問だろう。
教師の中でも黄彩と付き合いの多いミッドナイトが、黄彩の頭を撫でながら伝える。
「殺す技じゃなくて、必ず殺させないための技よ、黄彩君。君みたいな簡単に殺せる個性は必ずしも全力全開の技じゃなくて、オールマイトや13号みたいな、パワーを抑える型作りでもあるの」
ミッドナイトの教えに、黄彩の他にも威力をセーブしなければならない上鳴や芦戸は「おおっ!」と声を上げる。
003
とまぁ、そんなわけで体育館γに集合した。
黄彩のコスチュームは相変わらずエプロンのようで、内側には制服ではなく私服らしきワンピースを着ている。
全員が集まると、相澤は説明を始める。
「体育館γ、通称、トレーニングの台所ランド。略してTDL」
その略称はまずいんじゃないかと生徒達は鳥肌を立てたが、多分問題ないだろう。
「ねぇ、なんとなく黄彩のアトリエと似てない?」
「ん、多分使い方も似た感じだと思うよ。床がセメントの人が動かせる材質になってる」
黄彩が指さす方向では、セメントスが跪く姿勢で両手を床に当てると、床が岩山のように盛り上がる。
「ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意出来る。台所っていうのはそういう意味だよ。……まぁぶっちゃけ、有製君の下位互換だから、彼にも同じこと以上のことができるだろうね」
セメントスが自虐じみたことを言い残すと、飯田が挙手して質問をした。
「質問をお許しください! なぜ仮免許の取得に、必殺技が必要なのか! 意図をお聞かせ願います!」
生真面目越えてクソ真面目な飯田ならしてくると予測できていた質問のようで、相澤が「順を追って話すよ」と手を下させる。
とは言ったが、相澤ではなくミッドナイトが指を立てながら話しだす。
「事件、事故、天災、人災、あらゆる被害から人を救い出すのが仕事よ。取得試験では当然その適性が見られることになるの。諜報力や判断力、機動力、戦闘力。他にもいろいろあるけれど、中でも戦闘力はこれからのヒーローに極めて重視される項目になります。さっきも話したけど、戦闘力の高さと攻撃力の高さは全く違います。例えば、見ただけで石化して死ぬような個性を制御できずばらまくような人は、ヒーローの適性が無いと判断されるわ」
続けるように、セメントスが話す。
「状況に左右されることなく、安定行動が取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」
準備に取り掛かるセメントスを引き継ぐように、エクトプラズムが話す。
「技ハ必ズジモ攻撃デアル必要ハナイ。例エバ、飯田君ノレシプロバースト。一時的ナ超速移動。それだけで脅威になるため、必殺技と呼ぶに値する」
「あれ必殺技でいいのかぁー!」
飯田は感極まった様子で震えている。
「ん、きょーかが体育祭でつかった、ハートビートアイランド、あれもわかりやすく必殺技だよね」
「おおっ、そうだな! あれはまじでエグかったぜ……」
増幅させた心音で地面を浮島のように、何度も跳ね上げさせる技を黄彩があげると、くらった切島が思い出す。
「うん、多分、あの技は未来のウチがここで作ったんだと思う」
生徒達が盛り上がり始めたのを遮るように相澤は咳払いして、話を続ける。
「中断されてしまったが、林間合宿での個性を伸ばす訓練は、必殺技を作るためのプロセスだった。つまり、これからは個性を伸ばしつつ、必殺技を編み出す圧縮訓練となる。なお、個性の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えていくように。――プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか!」
「「「「はい!!」」」」
「あ、ボクすじ肉の人に用事あるんだけど、行ってきていい? こっち連れてくることになると思うから」
「空気読めよ。……職員室にいると思うぞ」
「いえ、彼の性格的に、こっちに向かってきてると思うわ」
「……だ、そうだ。とっとと行って来い」
「んー。じゃ、きょーか。あとでね」
「うん」
見送られながら、当然のように飛んできた道徳的な龍に乗り込んだ黄彩は体育館γから飛び立っていった。
「ねえイレイザー。オールマイトがどうなるのか賭けない?」
「ミッドナイト、流石に教師が賭け事は不味いでしょう」
「ジュースくらいなら問題ないわよ、きっと。私はサイボーグになって来ると思うわ」
「まあ、用心はしておいてほうが賢明か。……希望的観測も込めて、全身治療されて完全復活で」
当たらずとも遠からず、という結果がやって来て一波乱あるまで、あと少し。
……必殺技作るって時、原作だとまだ一応夏休みみたいですね。
まぁ、原作とのいろいろな差異で、原作をスケジュールとした場合予定が遅れて、普通に始業してから全寮制が始まったってことで許して。