閑話休題。
本編どうぞ。
001
「き、黄彩くんこれは……!!」
「傑作No.21
A組が必殺技作りに励んでいる頃、黄彩とオールマイトは美術室にいた。
オールフォーワンとの戦いで疲弊し、運動をせずとも数十秒しか持たないマッスルフォームの姿のオールマイトは、いくつか種類のあるコスチュームとはまた違うコスチュームを纏っていた。
オールマイトの全盛期のコスチュームであるゴールドエイジをベースに、黄色の曲線的なデザインが足された格好だが、もちろん外見だけのものではない。
「理論上、それを着てればずっとそのマッスルフォームでいられるけど、でもあんまり長いと脱いでトゥルーフォームになったときに全身筋肉痛でうっかり死ぬから気をつけてね」
「え、私死ぬの?」
「着たままトゥルーフォームになってもスーツに握り潰されて真空パックのハンバーグみたいになるから、脱着するときはマッスルフォームでしてね」
「意外とリスキーだな……。え、本当にこれ一般向けに量産するの?」
「無個性の人なら体の構造的にリスクがほとんど無いからね。ブランド料、材料費、あと細かいのいろいろ合わせて五百万くらいかな」
「五百万!? 高い、……いや、黄彩君の作品なら安すぎないかい?」
「ウフフ、ドルだよ」
「ドルか……。あ、私も払った方がいいよね?」
「うにゃ、いいよ。御供を作るモデルになってもらったわけだし、特許料代わりってことで。それより試しに行かないと。緑の人みたくボロボロになられたら大変だし」
002
「私が久々のマッスルフォームで、キタァ!!」
再び体育館γに戻って。
「で、どっちですかオールマイト」
「ンン〜、ごめん相澤君、なんの話?」
「サイボーグオールマイトかリジェネレーターオールマイトか、自販機のジュースを賭けてたんです」
面倒なものをさっさと片付けてしまおうという態度の相澤を見かねたミッドナイトが代わりに説明する。
「それ、どっちもサイボーグじゃないかい? いや、このスーツを黄彩少年が作ってくれたってだけなんだけど」
「へぇ〜。……で、黄彩くん。何作ったの」
ミッドナイトの警戒を隠さない目がギロリと黄彩に向く。
「うにゃん? 元になったのはアレ、めーめーさんと合作した無個性の人専用の身体能力をすじ肉の人の全盛期と同等に引き上げるパワードスーツで、それを再利用して専用にしたのが、これ」
「うんちょっと待って。無個性の人がオールマイト並み?」
「平和の象徴量産計画をやろうと思って」
「……イレイザー、あなたちゃんと仕事してるの?」
入学当初より、黄彩をヒーローへ導く教育は相澤主体であるはずだった。……その結果がこの状況だが。
「……無個性のヴィランは確認されていない。そういう意味じゃ、合理的だな」
「そりゃそうでしょうけど……。万が一ヴィランに出回ったら不味いどころじゃないわ。無いと思って聞くけど、まだ売りに出していないのよね?」
「そりゃ、材料だってお金かかるしね。ボク用に調整したやつ二つと、すじ肉の人用に再利用したやつ。そもそもまだ三つしか作ってないね」
「……有製、放課後職員室に来い」
「え〜」
「必要な話だ。ほら行け」
相澤は冷たい目で、セメントスお手製の岩山を指さす。
「うにゃ、んー、じゃあすじ肉の人、使った感想よろしくね」
「ああ、ありがとう黄彩少年」
と、オールマイトは不敵な笑みで黄彩を送り出す。
003
「おお、きょーかよ。死んでしまうとは情けない」
「死んでないっての」
黄彩は真っ直ぐと響香の元へ来た。
セメントス監修の元、硬い地面や壁を狙い通りに壊したり、動かしたりしようとしていたらしい。
「んにゃ、心音弄りすぎてバテちゃったと。どっちかっていうとHPよりMPが切れた感じ?」
「大体、そんな感じ……」
寝そべった姿勢で関節を痛めないようにセメントスが床を変形させているが、響香は明らかに疲弊している。
「有製君、君は一体どんな技を考えてるんだい?」
「にゃーんにも。ボクってばおんなじことを何回もしたくは無いんだよね」
黄彩は答えながら、響香に膝枕する。
「ウフフ……、傑作No.999《耳郎響香》」
「え、ちょっと――」
響香の額に手を当てながら、黄彩は作品としての響香の名を呼ぶ。
骨格が引き伸ばされ、血肉が急激に増殖し、遅れて神経が繋がる感触。響香の言葉にならない悲痛に痛ましい絶叫が、体育館に轟いた。
「有製君何を!!」
「イッツー、……ちょっと黙っててセメントス」
黄彩を咎めようとしたセメントスを、立ち上がった響香が抑える。
大人の姿になった響香は手足の調子を確かめつつ、イヤホンジャックを動かし、黄彩の脇に入れて持ち上げる。
「うな〜」
「で、なんのようかな。黄彩」
響香は黄彩を地面に下ろし立たせる。
「んと、きょーかの手っ取り早い強化方法。今のきょーかの身体を、その身体に引っ張り上げようと思って」
「何十秒で死ぬハイリスクやつなんでしょ。ほらあと何秒?」
「二分くらい。職場体験と合宿で幾らか身体は鍛えられたらしくってね」
体育祭で一度見ているとはいえ突然な状況にセメントスは目を丸くさせているが、お構いなしに二人は話を進める。
「ふぅん。私のタイムスリップによるバタフライエフェクトってわけね」
「その理論でいくと、きょーかは全盛期を超える超人になるけどね。それじゃあ、ボクも。――作品No.33《シトリング=ラフィ》」
それは、先の響香より些か過激な変態。
骨の急成長に肉が追い付かず飛び出て、肉の成長に皮膚が追い付かず血が流れ、髪が急成長してゴムの位置が肩まで下がり、地面へと毛先が付く。
「っ、す、すまないが席を外す」
念のためにずっと見守っていたセメントスが、口元を押さえながら全速力で去って行った。
「あ〜、過激すぎたね。黄彩、ちゃんとあとで謝りなよ」
「ウフフ、悪いことしちゃったかな」
普段の子供姿が美少年なら、今の黄彩は美青年。小学生低学年ほどの身長から、成長期を飛び越え、大人の響香に匹敵する程度まで成長した。
相変わらず筋肉や日焼けとは無縁らしく、手や顔は色白で、腕はシャーペンの芯のように細いのだが。
「ウフフフフフ、心配はいらないさ。ボクの方はまた作りが違うからね。時間経過で壊れるほど柔では無いのさ」
「で、これから何するの?」
「特に何もしないさ。響香は今その状態が全盛期だから、安定してその体に慣れてしまえば下手なトレーニングは省略できる。まったくまったく、つくづく響香は作業工程を歪めてくれるね。あ、髪直して」
「いいけど座って。高くてやりづらい」
「長身というのも不便だね。削ろうかな……」
黄彩は岩山を変形させ、岩のソファを作って腰掛ける。手慣れた手つきで髪を結び直したら、響香も隣に座った。
「それじゃあ一度戻すよ。覚めたらもう一度だ」
「ん、任せた」
ちょうど二分。響香が黄彩の細い太腿に頭を預けると、額に手を当てて元の響香に戻す。数秒苦悶の表情を浮かべたものの、黄彩の手に撫でられればすぐに表情は和らいだ。
数分もすれば、響香は目を覚ます。
「……あれ、黄彩? なんか、デカくない?」
「ウフフ、おはよう響香。それじゃあもう一度やろうか。大丈夫、身体はちゃんと整えてるからさ」
「え、ちょ――」
同じような工程を何度も繰り返していくうちに、だんだんと響香の大人化での絶叫は薄くなっていき、同時に持続時間も分かりやすく伸びて行った。
作品紹介
作品No.33《シトリング=ラフィ》
黄彩が子供の姿じゃいられない時に使うために作った身体。本来は別で作った身体を用意して、精神を脳ごと移すなどして使うのだが、一応黄彩の肉体を材料にしてでも作れる。原材料はハガレン参照。
あり得ない未来の身体の金型を無理やり押し付ける形の傑作No.999《耳郎響香》とは違い、変態での負傷は大きいが維持に負担はほとんどかからない。
あくまでも外向きの芸術家活動のための身体で、身体能力は普通科の女子高生の平均以下。
それでも幾らか成長はしているため、元々広大な知覚範囲はさらに広くなり、精度も増している。……が、本人曰く太陽にガソリンを撒いた程度のもので、芸術活動でのメリットは少ないとか。
理論上、黄彩がこの姿でいることにデメリットは無いが、それでも黄彩が子供姿を好む理由は過去にも語ったが、子供の発想力に少しでも肖りたいがため。
《シトリング=ラフィ》でいるのは響香が共にいない時がほとんどなため、実は今話が初対面。