芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第五十一話 試験前の集団転生と殺戮遊戯

 

001

 

 

 

「「「「集団訓練?」」」」

 

 必殺技を編み出す演習を終えると、翌日から別の訓練が始まった。

 

「これから平和の象徴達で作り上げる社会に必要なのは、単独で無双できるオールマイトのようなヒーローもですが、それ以上に、集団で補い合える群衆ですわ。……というわけで取り返しのつくオレ様が裂那に送られてきましたの。B組にはやりすぎないオレ様のベストフレンドが送られましたわ」

 

 と、久々のUSJで語るのは転生の魔女、名無しの女(ジェーン・ドゥ)

 神野区での事件で直接助けられた爆豪が微妙な表情をしている。

 

「中途半端に時間が余ったんでな。神刺裂那に交渉したらこんな感じになった。内容は俺も把握して無いんだが、大丈夫なんだろうな?」

 

 相澤が尋ねると、名無しの女は優雅に微笑む。

 

「取り返しがつくと言ったでしょう? ルールは簡単、かくれんぼ。皆様にはこれからバラバラに別れてもらい、オレ様はここから確保に向かいます。そこを、どんな手を使ってでも、何をしてでもオレ様という(ヴィラン)を止めてください。一時間という授業を逃げ切るか、オレ様を食い止めれば皆様の勝利ですわ」

 

「な、なぁ! 何をしてでもって、本当に何してもいいのか!?」

 

 いつも真っ先に質問する飯田よりも早く、峰田が興奮した様子で質問した。女子達から醜いものを見る目で見るし、相澤も叱ろうと動き出すが、名無しの女が止める。

 

「ええ、何をしても構いませんわ。オレ様はこれから、犯そうが殺そうが、何をしても許されるほどの凶悪犯になりますの。それとせっかくですから相澤、あなたも参加なさい?」

 

「……は?」

 

 名無しの女の発言に唖然としながら、相澤は魔の抜けた声を出す。

 

「オレ様は転生の魔女。名はとうに捨てていますわ。――名無しの弾丸(クリアバレッド)

 

 両腕を指鉄砲の形にすることで全員が警戒を見せるが、既に遅く。A組生徒全員と相澤の上半身がまとめて消し飛んだ。

――転生魔法。自身の体質、転生を魔法的に解析し、他者の死に適用させる魔法。生まれ変わる位置は名無しの魔女の思うがまま。

 

「ゲームスタートですわ!!」

 

 

 

002

 

 

 

「やはり最初はあなた達ですわね」

 

 場所は移り、大火事救助演習のための演習場。

 

「マンチェスタースマッシュ!!」

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!」

 

 かかと落としを仕掛ける緑谷と、錐揉み回転しながら突撃してくる爆豪。一度殺されたからだろう。恐怖や畏怖を怒りで上塗りしながら襲いかかってくる。

 

 抵抗や後先を考え、回避や反撃も想定していた二人だが、想定外に名無しの女は無抵抗。

 

 超パワーのかかと落としは脳天を砕き、特大火力の爆発は吹き飛ばし、燃え盛る建物の壁に叩きつけた。

 

「おっしゃー!!」

 

「っ!! まずいよかっちゃん! 僕らやり過ぎた!」

 

「アアン? 何言ってんだ、殺しても構わねえっつってたろうが」

 

「いやいやいやいやいやいや!?」

 

 感情に支配された緑谷は叩きつけられた名無しの女を見て冷静さを取り戻し、顔を青ざめさせた。

 対して爆豪は、名無しの女がオールフォーワンに殺されるところを間近で見ているためか普段通り。

 

「ええ、その通りですわ。決して不味くなんてありませんの。甘すぎるあなたはやり直し(コンティニュー)ですわ。――名無しの弾丸(クリアバレッド)

 

「避けろデクッ――クソがぁ!!」

 

 断末魔さえあげる暇もなく、爆豪が振り向いた先には緑谷の首無し死体しかなかった。

 

「さぁ、掛かってきなさい。オレ様は逃げも隠れもしませんわ」

 

「ぶっ殺す!!」

 

「殺してもオレ様は止まりませんわよ?」

 

 指鉄砲から放たれる不可視の弾丸は爆豪の顔面を打ち砕くが、勢いそのままにその場で転生し襲いかかる。爆発する手汗のようなものが蓄積された右手が、名無しの女の鳩尾に打ち込まれ爆裂する。

 

「グゥッ!」

 

「死ねやぁ!!」

 

 腹部を爆破され、上半身と下半身に分かたれた名無しの女は即死。即座に爆豪の目の前で転生した。

 

「殺していいと言ったのはオレ様ですが、まさか殺しで抑えられるとでも思いましたか?」

 

 二度死んで、尚無傷で立ち続ける名無しの女を爆豪は睨み付ける。次の手を撃たせる前に追撃しようとするも、その前に別の者が来た。

 名無しの女は漁で使うような網に覆われる。

 

「ヴィラン捕縛用ネットですわ!」

 

 偶然にも口調の似た、八百万だった。

 

「模範解答的な行動ですわね。故に百年前から想定内ですわ。――悔い亡き終焉」

 

 それはきっと、自殺用のものなのだろう。爆炎を全身から吹き出し、名無しの女は焼身自殺した。

 

「クソッ! 逃げやがった!!」

 

「そんなっ!? 次の手を考えませんと……」

 

 

 

003

 

 

 

 場所は移り、水難事故の演習場。

 巨大な湖の真上に、名無しの女は転生して現れた。

 

 空中に浮きながら、岸でこちらを見上げる蛙吹、響香、相澤に指先(銃口)を向ける。

 

「実体音響、狂い()()!!」

 

「あなたとは一度会いたかったですわ!」

 

 大人化している響香が、今までの物より明らかに良くなっているスピーカーを鳴らす。

 

 実体を持つ音。薄く伸ばされた不可視の斬撃。

 

 不可視と不可視がぶつかり合い、三人から大きくズレた位置に二箇所、クレーターは生じた。

 

「ケロォ、響香ちゃんの技、かなり強力なはずよね」

 

「ギリ切れたって感じかな。相澤先生」

 

「個性は発動していた。……つまり個性じゃないってわけか」

 

 破壊された周囲を見渡しながら蛙吹、相澤は考え、響香は飛び出した。

 

「実体音響、足踏み」

 

 空中を踏み締めるように跳び、名無しの女を蹴る。

 

「フフフッ、可愛がって差し上げますわ」

 

 飛来してきた相澤の捕縛布を軽く払い退けながら、響香の足と名無しの女の足とで轟音を鳴らす。拳、頭突きと続き、再度蹴りを放つ。

 

「ぶっ、飛べぇ!」

 

「流石に、やりますわねっ!」

 

 実体を持つ音を足場にしていた響香と違い、ただ浮遊していた名無しの女は踏ん張りが足りず水面に叩き付けられた。

 

「ケロ、水中なら私の独壇場よっ」

 

 響香が跳んだ隙に飛び込んでいた蛙吹が、名無しの女を待ち受ける。長い舌を伸ばし、胴へと巻き付けた。

 

「溺死は好むところじゃありませんわ。――水神の息吹」

 

「ケロ〜〜!?」

 

 突如名無しの女を中心に発生した渦巻きに、蛙吹は巻き込まれた。

 

やり直(コンティニュー)して的確な攻撃を考えなさいな。――名無しの弾丸(クリアバレッド)

 

 泳ぐこともままならない様子の蛙吹の頭部が撃ち抜かれ、渦巻きの収まった湖に赤い染みが広がった。

 

「よくも梅雨ちゃんをっ! 実体音響、(むら)裂き!」

 

「全盛期はよろしいですが、行動に冷静さが伴っていないのならまだまだ成長の余地ありですわ」

 

 響香が放ったのは不可視の斬撃の乱れ打ち。

 対して名無しの女の不可視の弾丸は斬撃に対する狙い撃ち。的確に狙われた弾丸はどれもこれも真っ二つに分かれ、ぶつかり合い、クレーターを作るほどの威力が空中で発散し、響香を吹き飛ばした。

 

「おっと。さすが先生、でしょうかね?」

 

 狙っていたのか、赤が薄れる湖に顔をしかめながらも、今度は名無しの女を拘束した。

 

「いくら蘇るにしても、生徒を殺す光景を見過ごすわけにはいかんのでな!」

 

「蘇るのではなく、生まれ変わるのですわ」

 

 吊り上げられた魚のように、名無しの女は岸へ引きずり上げられた。

 

「これでこのゲームは終わりか」

 

「いいえ、まだまだ。ここで終わったら演習の意味がなくなってしまうでしょう?」

 

「お前、何を……」

 

 何かする前に捕らえようと胸ぐらを掴むが、名無しの女は物言わぬ肉塊となっていた。

 

「トラウマにならなきゃいいが……」

 

 相澤は名無しの女の死体を捨て、蛙吹の遺体を念のため回収しようと湖に飛び込むが、遺体どころか血液すら残っていなかった。

 

「やってることはいつかのワープのヴィランと一緒か」

 

「相澤先生! 梅雨ちゃんは……」

 

「耳郎か。……無事だろうが、居場所が分からん」

 

 響香は大人の姿から、いつもの姿に戻って相澤の元へと戻って来た。

 

「お前の全盛期に引きずり上げるとかいう技、あれ今どれだけ持つ」

 

「長くて三十分、激しい動きをすると縮んだり、眠ったまま記憶が飛んだりします」

 

「ならそのままでついてこい。まずは人数集めないと相手にならん」

 

 相澤は自身の招いてしまった地獄のような訓練に、思わずため息をついた。

 

 

 




魔法解説
転生の魔女――名無しの弾丸(クリアバレッド)

 転生の魔女が生まれるよりずっと昔の戦争で使われた、水晶弾(クリスタルバレッド)という水晶を飛ばして攻撃する魔法を転生する際に持ち帰り、改変したもの。

 黄金の国の世界観ではそもそもMPとHPの区別が曖昧なのだが、名無しの弾丸はHPとMPの両方を消費して発動する。
 常人なら威力は高いが乱発はできないはずだが、転生の魔女は好んで使う。

 尚、魔法少女は魔法も使わずフィジカルだけで回避するため、もっぱら雑魚殲滅用として使われることが多い。
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