001
「見つけましたわよ、裂那の創造主」
「うにゃ、まぁ隠れてないからね。――作品No.06《苦難の左手》」
場所としてはスタート地点に戻ったところ。わざわざ戻って来たのか、黄彩は玉座に腰掛けて待ち構えていた。
転生して現れた
「流石に大き過ぎますわ!? ――
時折、個性でも見られる小型化魔法。名無しの女のそれは縮尺を変換する魔法で、重量は変わらない。
小指のように小さくなった拳が弾丸の如く、心臓を貫いた。魔女といえど、即死は免れない。
「フフフ、残機が無いとはいえ、死ぬのは普通に苦痛なのですわよ?」
黄彩の背後に転生した名無しの女は、黄彩の座る玉座を木っ端微塵に蹴り壊した。
「うにゃ、……もしかしてバレてた?」
転けた黄彩は地べたに這いずりながら、名無しの女を見上げる。
「そうでなくとも怪しんで当然ですわ。……傑作No.01《失敗》、ただ愛用の椅子というわけではないのでしょう?」
――玉座。
黄彩の部屋や、アトリエにも同型のものが設置されており、当然それも黄彩の作品だった。
「よく言ったものですわ、失敗は成功の母。効果としては精度の向上でしょうか」
「うにゃ、そんな面白い効果は無理。座り心地が悪いだけの椅子。常に僕に反省を促してくれる、傑作の原点。ウフフ、強度の見直しが必要かな」
地面から削り出され、新たな玉座がそこら中から無数に現れる。
「無数など、オレ様の前では数のうちに入りませんわ! ――多重転生・
名無しの女は自身の頭脳を打ち抜き、増殖し転生した。
全方位超火力集中射撃。蜂の巣よりも蜂の巣に。椅子にも黄彩にも穴すら残さぬ銃撃は、残骸も遺体も残さなかった。
「他人との協力というものをもう少し学びなさいな」
002
「うにゃ、死ぬかと思った」
「いいえ有製ちゃん、きっと私たち、死んだわよ」
黄彩が目覚めたのは、USJでも、雄英高校でもなく、教会のような建物の中。待っていたのか偶然居合わせたのか、蛙吹もそこにいた。
――お待ちしておりましたわ。
と、話しだしたのは蛙吹ではなく、不自然に中央に鎮座した陶器のように白い十字架。
――わたくしは転生の魔女の師、天聖の魔女。既に掟に従い故人となった身ですが、どうかわたくしの意をお聞きくださいませ。
「ケロ、あの魔女のお師匠さん、かしら?」
――今はあの子の守護霊的なことをしていますわ。あるいはライトノベルのプロローグでしょうか。こうして、転生する方に謝罪の意を込めてアドバイスまがいのことをしていますの。
「うにゃ〜、ボク早く戻りたいんだけど」
――ご安心を。ここは時間の流れが都合よく不安定な空間ですので、どれだけ寛いでも支障ありませんわ。精神と時の部屋の上位互換みたいなものです。言うなれば生死の暇の部屋、とでも名付けましょうか。
「つまりボクたちは暇つぶしの相手?」
――先ほど来られた殿方は言葉の通じない方でしたので。
「きっと爆豪ちゃんか緑谷ちゃんね」
――その両方ですわ。退屈なお二人でしたので、ここには出禁、パスしていただきましたの。
と、まぁそれから長々と二人へアドバイスが続いたのだが、それで話が終わる、ということはなかった。
――あの子ったら、わたくしが死んだ途端にやさグレちゃって、他の魔女や魔法使いの方々に多大なご迷惑を……。
「師匠というより、もうお母さんみたいね」
――ええ! それはもう、わたくしは我が子のように接していましたし、あの子もわたくしをまるで母親のように慕ってくれましたわ。それなのに、いえ、だからこそなのかもしれませんが、わたくしの死がよっぽどショックだったのでしょうね……。
――わたくしを処刑した処刑人を処刑し、わたくしの処刑を命じた国王を処刑し、わたくしの処刑を見ていた者全てを処刑し、ついについた仇名が処刑姫。
――今でこそ処刑人という職に就き、皆に慕われているのですから誇らしくありますが、それでも天聖の魔女として、何より母として、あの子の過去を見過ごすわけにはいきませんの。
――わたくしの仲間であった死の魔法使いや、犬歯の魔女、最端の魔女、その弟子の異端の魔女は、今もあの子を気にかけていてくれるのですが、しかしあの子は恩を仇とも言い難い方法でしか返せず……。
――最近はあの金色のお友達と一緒に戦ったりしているみたいで、楽しそうだなーとか、幸せそうで良かったとか、わたくしは思っているのですが、何か皆さんにご迷惑おかけしていませんか?
口より物を言う十字架から、雑談を交えたアドバイスを聞き受けた黄彩と蛙吹は無事、生まれ変わった。
「……ケロ、どういう状況かしら」
「蛙吹、有製も一緒か」
場所は移り、土砂災害演習場。響香、相澤のペアと八百万、爆豪のペアが鉢合わせたタイミングで、そこに黄彩と蛙吹が生誕した。
「おいクソガキィ!! テメェも負けたんか!」
「ウフフ〜、負けも負け、完膚も容赦も無く完全敗北だったね」
掌に爆破を起こしながら尋ねられて黄彩は答える。
簡易的な椅子を作り腰掛けようとすると、爆豪に胸ぐらを掴まれ持ち上げられた。
「テメェ、オールマイトに勝ってんだろうが。元だろうとNo.1ヒーローの名前安くしてんじゃねぇよ」
「うにゃ、転生の魔女はヒーローじゃないよ。だから世界が違うし次元も違うの。どっちが上ってわけでもないけどね」
「だからって負けていい理由にはならねぇだろうが」
爆豪は突き飛ばすように離すと、黄彩は掴まれていた胸元を直し微笑み返した。
「ウフフフフフ、大丈夫。まぁ何をするにも何よりも、まずは人数を集めなくっちゃ」
「何か策がありますのね?」
「人数集めるのに策なんていらないとも。ボクの目はゴミ箱の底にだって届くし、指は空の鴉にだって届くんだから」
003
偶然にも、過去のUSJ襲撃事件の時と同じように、名無しの女を探したり探されたりしている生徒たちに向けて、壁画による道案内を行うことで、全員が土砂災害演習場に集まることができた。
そしてそれは、名無しの女も例に漏れず。
「流石に規格外の効果範囲ですわね。ですがそれは、かくれんぼを放棄したことと同義ですわ」
「ウフフ、ヒーローは鬼から逃げるんじゃなくて倒す仕事だから、これが最適解に決まってるんだよ。――作品No.14《人肉砲》」
指鉄砲を構える名無しの女に対し、黄彩が構えるのは両腕を合わせてできた巨大な砲身。
「いくぞお前ら! 殺さず捕らえろ!」
黄彩が空砲を放つと同時に、鬼を仕留めようと相澤の声に呼応して英雄見習い達が飛び出す。
「フフフフフフ、オレ様は天聖の魔女の弟子、転生の魔女。名はとうに捨てていますの!」
嘲るように笑いながら、名無しの女は魔導士特有の名乗りを挙げた。
004
――後日譚。……というほど日がたったわけでは無いから、後時譚、とでも言おうか。気持ち悪いしやっぱ後日譚でいいや。
――後日譚。
授業終了後、相澤とブラドキングの両方から神刺裂那と、実行犯である送られて来た名無しの女、魔の魔法使いへと抗議が行われたという。
精神的に大きなダメージを受けた生徒も少なくなく、プレゼントマイクにミッドナイト、オールマイトなど、多くのヒーローがメンタルケアにあたった。
勝敗としてはA組、B組共に勝利を収めたが、誰も彼も単独では完膚なく叩きのめされたため、勝利を喜ぶものは少ない。
峰田曰く、名無しの女の胸はローブに隠れているのがもったいないほど素晴らしく、張りと柔らかさが両立し、優しさと暖かさの詰まった一品だと語ったとか。
技紹介
傑作No.999《耳郎響香》――実体音響
名の通り、実体を持つ音。
物質が微弱の光や熱を放出するように、それは音を放出し続ける。
《狂い咲き》
季節外れに咲く花のように、音より素早く、薄く伸ばされた実体が飛ぶ。その有様はさながら飛ぶ斬撃。
《斑裂き》
狂い咲きと同じく斬撃を飛ばすが、狂い咲きほどの速度はない。しかし代わりに連写速度に優れる。
連写速度は心音に比例する。
《足踏み》
実体を持つ音を空中に留め、足場にする。耐性がないと触れただけで振動でダメージを受け、踏み場にして攻撃することで打撃に振動を乗せることも可能。