芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第五十三話 試験前の英雄芸術と妖精演劇

 

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 もうあと数日で仮免許試験という日。

 雄英高校が全寮制になってから、黄彩は授業をサボることが比較的減ったのだが、今日は朝から黄彩は居なかった。

 

「ねぇねぇ響香ちゃん、黄彩君は?」

 

 共用の洗面所で、いつも通り女子力の原液を顔や髪に塗りたくる葉隠が響香に尋ねる。

 

「今日は朝から出かけるってさ。芸術家の仕事関連だと思うけど、ウチもよくは聞いてないよ」

 

「そっか〜」

 

 

 

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 某県某市。

 とある美術館では、数名のヒーローを招いての芸術展覧会が催された。

 

「今日は誘ってくれてありがとうね、シトリング=ラフィ」

 

 招かれたヒーローの一人が、林間合宿で出会ったピクシーボブ。

 性能より外見に重点を置かれた土魔獣を引き連れていて、本人もいつもの奇抜な衣装ではなくドレスなため、いつになくカリスマのようなものを醸し出していた。

 

「うにゃ。あんまり認めたくないけど、ボクってば巻き込まれ体質、ていうか事故誘発体質、みたいなのがあるみたいでね。警備で適当なヒーロー呼んでも良かったんだけど、こっちの方が面白いでしょ?」

 

「ええ、そうね。みんないつもと違う仕事に戸惑ってるけど、不満に思ってるヒーローはいないわ」

 

 展覧会が始まるのは午前十時から。始まるまでまだ数時間あるが、その間に黄彩は作品を披露するヒーロー達にアドバイスまがいのことをして回っていた。

 

 作品の中には当然黄彩の作品も並んでいて、体育祭で目立った《苦難の左手》と《裕福な右手》や、移動手段でもあるし見栄えもいい《道徳的な龍》、見栄えはしないが雰囲気はあるマネキン《不個性》など、黄彩の個性で動かせる物品が惜しみなく並んでいる。尚、黄彩の絵や彫像はここではなく、美術館の本館に寄贈され、展示されている。

 

 黄彩の指導を受けて、より洗練させた土魔獣の慣らしもかねて二人が見て回ると、遅れてやって来た者が声をかけた。

 

「うふふふふふ。楽しそうね、黄彩」

 

 と、まあ黄彩の母親、蒼だった。幼児体型の黄彩や蒼と大差ない大きさの、宙に浮く妖精のような人形を七体引き連れて歩く光景はまるで絵本の一ページで、ピクシーボブは目を丸くする。

 

 ヒーローではないが蒼もまた、展示する側として招かれた一人だった。人形達と同じ方向の妖精らしい服装を着ていて、やはり一児の母には見えない。

 

「楽しいわ、あたしも。黄彩ったら急に呼び出すんだもの。素晴らしいサプライズだわ」

 

「ん。ママは、今日何するの?」

 

「見てわからないかしら? 浦島太郎よ」

 

「亀と太郎といじめっ子と姫は?」

 

「亀も太郎もいじめっ子も姫もいらないわ。いわゆるあたしだもの」

 

 不思議そうにそう言った蒼は、専用に用意されたステージの方へと向かって行った。

 

 

 黄彩とピクシーボブは二階に移動し、吹き抜けから全体を見渡す。

 

――中央で巨大な樹木を築き上げたシンリンカムイ。

――炎を操りアニメーションを作るエンデヴァー事務所のサイドキック達。

――専用の展覧会会場の建築も手掛け、石像を作っているセメントス。

――オールフォーワンからの怪我が治りきっていない状態で参上し、繊維を操ることで動く絵を披露するベストジーニスト。

 

 他にも、黄彩の作品や、個性を生かした作品とヒーローが立ち並んでおり、その光景は――

 

「ファンタジー系のRPGのマップみたいな画ね」

 

「ママが妖精、真ん中が世界樹、炎のアニメが終盤のダンジョンみたいな?」

 

 他にもドラゴンや、巨大な両手など、ファンタジーそのままだ。

 

「冗談で言ったけど、そうとしか見えなくなってきた」

 

 ふと、ピクシーボブは自分の作品である土魔獣を見て、ストーリー中盤のボスにしか見えないと思ったとか。

 

 

 

002

 

 

 

 土曜日、休日ということもあってか開館前から多くの客が集まり、予定より時間を早めて展覧会が始まった。

 

 例の事件の暴露があって尚、根強く復帰を願っていた黄彩のファンや、各ヒーロー達のファン、蒼のファンが次々と訪れる。

 

 暇人ばかりではないヒーローを呼び出したこともあって、決して安くない入館料なのだが、それでも満員以上となるのはさすがと言えよう。

 すぐに順番待ちとなり、ピクシーボムの土魔獣や、劇を終え会場を飛び回る妖精人形達が列の整理に駆り出される。

 

「これは、シトリング=ラフィの作品が高くても売れるわけね……」

 

 土魔獣を人を傷つけないように操るために、見渡せる二階からピクシーボブは呟く。

 

「うにゃ、ボクの絵でも普段はここまで集まらないよ。ヒーローのファンとママのファンがそのまま足し算された感じだね」

 

 と、隣で言うのは若い客からサインをねだられ、それがいつの間にかサイン待ちの行列になったのを一人一人処理している黄彩。階段の半分が行列になっているのを見て、ピクシーボブは苦笑いを浮かべる。

 

「ねえ黄彩! もっと別の劇もやっていいかしらあたしっ!」

 

 妖精や道徳的な龍に混ざって飛んでいた蒼がやってきて、黄彩に尋ねる。

 

「うにゃん、好きにしていいよ。今日来てる誰かと一緒にやったら面白いんじゃない?」

 

 蒼はペンを動かす手を止めずに言った黄彩に微笑み返し、「それもいいわ〜」と、客に囲まれながら披露しているヒーロー達の元へと降り立っていった。

 

 

 

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 このような面々が出揃って尚、良からぬことを考えるものは多いようで――

 

「ウハハハハハハハ!! ウハハハハハハハ!!!」

 

 集団の窃盗犯が、展覧会ではなく本館へと侵入。係員以外人の居ない美術館から、シトリング=ラフィの絵を窃盗した。

 

「待ちなさい!!」

 

「待て!!」

 

 すぐに黄彩の携帯電話に、絵から通報が届く。ヒーローの中でも動きやすかったピクシーボブとシンリンカムイが、美術館の敷地内で窃盗団達を拘束した。土流と樹木で拘束された窃盗犯は、しかし不敵に笑った。

 

「ちっと我慢しろよ野郎ども! ウオラァ!!!」

 

 まるで飴細工のように、土も樹木も砕け散った。

 

「ウハハハハハハ!! 俺の個性は《脆性》! 触れたものに脆性を付与することで、サンドバックだって叩き割れる!!」

 

 パキリ、パキリと纏わり付いた土や木の残骸を払いながら、窃盗団は手放してしまった黄彩の絵を担ぎ上げた。

 

「ずらかるぞ野郎ども! 捕まったらぶっ殺すから覚悟しとけぇ! ウハハハハハハハハハ!!!」

 

「シンリンカムイ! あんたは他のヒーロー呼んできて!」

 

 自慢の機動力で展覧会会場へ向かって行ったシンリンカムイを尻目に、ピクシーボブは動きやすいようにドレスの裾を縛り上げ、そこらの花壇の土で土魔獣を造兵する。

 

「うふふふふ。加勢するわ、あたし。黄彩の大切な絵だものね」

 

「っ! 危険だから早く逃げて!」

 

 シンリンカムイと入れ替わるように、三体の妖精を引き連れながら蒼がやってきてピクシーボブは叫ぶ。

 

「うふふふふふふふふふふ。あらゆる心配が不要だわ、あたし。母親という生命体は全宇宙で最も危険性の高い生命体なのよ。つまりあたしね」

 

 指揮棒を振るような動きで蒼は両腕を振り下ろす。すると妖精達は何かに引っ張られるように逃げ惑う窃盗犯達に突撃し、首を両手で掴み、大の大人を振り回し始めた。

 

「妖精とは残酷さを可愛さで包み込んだキャラクターよ。その可愛さは可愛ければ可愛いほど、それだけ残酷に残酷なの」

 

 絶叫マシンで叫ぶ若者のように叫ぶ窃盗犯の体が、妖精から逃れた他の窃盗犯にぶつかる。脆性の個性を持つリーダーらしき男が振り返り、妖精を破壊しようと試みるも、それはピクシーボブの土魔獣に足止めされた。

 

「はっ! 砕いちまえば関係ねぇ!!」

 

「土は砕けても土よ!!」

 

 すぐに砕かれる土魔獣だが、脆性を得た破片が集まり、より鋭利で乱雑な造形の魔獣に組み上がる。

 

 もう一度土魔獣を砕き先へ進もうとするが、今度は砕けない。ガラスの破片が入った袋を殴りつけるようなものだ。破片が細かくなったところで、破片が破片であることに変わりはないのだから。

 

 回り込むように、追加の妖精人形が回り込み、他のヒーロー達が駆けつけて、窃盗犯達は妖精人形に運ばれてきたベストジーニストの個性で拘束、警察に届けられた。

 

「うおおおお!!!」

 

「さんきゅー、ベストジーニスト!!」

 

「蒼ちゃーん! 可愛かったわー!」

 

 飛び出して行ったヒーロー達の活躍を一眼見ようと飛び出してきた一般人達が歓声をあげる。遅れて道徳的な龍に乗ってやって来た黄彩が、窃盗団の持ち出した絵を確認する。

 

「残念だけど、書き直しだね」

 

 黄彩が絵を撫でると、塗料が紙を離れて、絵は白紙になった。

 

「ウフフ、ここは美術館だからね。静かにしないと」

 

 黄彩が笑いながらそう言うと、歓声を上げていた一般人はピタリと口を閉じ、代わりに拍手を始めた。

 

「うにゃ、……まぁいいけどさ」

 

 絵から離した塗料を混ぜて新たな色を作り、全く別物の絵を書き上げて再度美術館に寄贈し直された。

 

 その後午後六時まで、計三度の窃盗事件や計十五人の迷子探しなどアクシデントを起こしながらも展覧会は続き、ヒーローも客も満足して帰って行ったと、後日美術館オーナーは語った。

 

 

 

 




技、……技? 紹介
有製蒼――妖精人形

 今回は七体が連れてこられたが、同じ型の妖精人形が百体前後いて、時にはその全てが出演する劇もあるのだとか。

 見たみによらず力は凄まじく、人間くらいなら容易く持ち上げる。これは観客として来てくれた子供を持ち上げたり遊んだりするための物だが、それはそれで好評だったりする。

 全て蒼が操っているのだが、別に糸で動かしているわけではなく(糸で操るのも得意だが)、個性《人形劇》は人形を自在に動かす個性。
 効果範囲は偶然にも、黄彩や(あかり)の《図画工作》と同じく、知覚している範囲全て。黄彩の異常な五感は母親譲りである。

 妖精と同じように自身も浮かせる理由は、本人曰く、「人間だって人形(ヒトガタ)、つまり人形(にんぎょう)なのだから、動かすのにわけは必要ないと思うわ、あたし」とのこと。

 確かに例えば死体と人形の違いは構造と材質だけだなと納得したのは、夫の(あかり)のみ。
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