芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第五十四話 試験日の早朝起動と宣戦響告

001

 

 

 

 必殺技の会得に死屍累々の演習試験を乗り越え、雄英高校ヒーロー科に遂に仮免許取得試験を受ける日がやって来た。

 

 場所は仮免許取得試験会場、国立多古競技場。

 

 到着して、響香がまず真っ先に始めたのは黄彩の目覚ましだった。

 

「ほら黄彩、遅刻するから起きて」

 

「うに、……あと五世紀、うにゃ……」

 

「試験どころか寿命が終わるわ。……えい」

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!?」

 

 寝言にツッコミを入れながら、響香はイヤホンジャックを黄彩に突き刺した。

 

「まったく、ウチなんて緊張で寝れなかったのに」

 

「ふわぁ……、試験ってさ、なんで朝からなのかな……」

 

 目覚めた黄彩は少ない荷物を手に、席を立った。

 

「さっさと降りろ、耳郎、有製。情けないとこ見られると嘗められるぞ」

 

 相澤に急かされ、急いで二人はバスを降りた。

 

「どうも、大変失礼いたしましたァァァアアア!!!」

 

 直後。黄彩と響香の耳に盛大な謝罪が飛び込んできた。

 

「なっ、なに!?」

 

「うにゃ、……消しゴムの人、あれ何?」

 

「士傑高校。雄英(うち)に匹敵する高校だ」

 

「ふぅん……」

 

 黄彩は見渡すように、地に頭を付け謝罪する丸刈りの男と同じ制服の者達を見て、口元に手を当てて嘲笑う。

 

「ウフフ、変な髪の人達だね」

 

「「お前が言うな、白髪ツインテール」」

 

 響香と相澤の言葉が、蝶の羽ばたきの様に違わず被った。

 

「一度言ってみたかったっス、プルスウルトラ! 自分、雄英高校大好きっス! 雄英の皆さんと競い合えるなんて、光栄の極みっス!!」

 

「そういえばボク、プルスウルトラって言ったこと、多分あんま無い」

 丸刈りの男の言葉を聞き、思い出したように黄彩は言った。

 

「……まぁ、根性とか気合とか円陣とか、アンタ似合わないもんね」

 

 なんとなく、響香は黄彩の頭を撫でながらため息まじりに告げる。

 

 

 

 なんとなしに話していると、いつの間にか士傑高校の生徒達は雄英生の前から去っており、別のものがやって来た。

 

「よぉ、ゴキゲンウルワシュウ。クソガキども」

 

 黄金。金色。この試験で最も目立つ外見の持ち主が誰かと問われたら、間違いなく三本指に入る少女、神刺裂那だった。

 

「テメェは……」

 

 あからさまに警戒しながら、爆豪が裂那の前に立った。

 

「お、いつだかの拉致られた奴じゃねぇか。元気そうだなぶっ殺すぞ」

 

「アアン? …………ちっ、借りはいつか返すぞ」

 

 シニカルな笑みと共に放たれた殺害予告に、反射的に威嚇するような声が出るも、爆豪は踏みとどまり、不機嫌そうに、一人で会場へと向かって行った。

 

「今年中に受けるのは聞いてたが、まさか被るとはな」

 

 相澤が声をかけると、裂那は笑みを深める。

 

「はっ、被せたに決まってんだろ。知ってる奴がいたほうが幾らかやり易いしな」

 

 わざわざ振り向いて見せた裂那の微笑みに、生徒達は冷や汗を流す。

 

「なっ、なぁなぁ! あのおっぱい、じゃなくて、ジェーンっつー奴は来てねぇよな!?」

 

 勇気ある者、と言うわけではなさそうな峰田が尋ねる。

 

「ジェーン? あぁ、お前らあいつにぶっ殺されたんだっけか。あいつはオレの個性っつー括りだからな。必要になれば呼び出すぞ」

 

「終わったぁ!! オイラもう免許とかどうでもいいから帰りてぇ!!」

 

「おい、落ち着け峰田」

 

 と、逃げ出そうとした峰田を相澤の捕縛布がとらえる。

 

「気持ちはわかるが、今回は別に敵じゃねぇ。あいつだって殺し合いしに来たわけじゃねぇんだ」

 

「あったりまえだろ、バーカ。オレは普通に仮免許が必要になって来ただけだ。ハンターハンターのイルミみてぇなもんだよ」

 

「殺人鬼じゃねぇか!!」

 

「アッハッハッハ」

 

 

 

002

 

 

 

「イレイザー?」

 

 裂那も会場へ向かっていくと、次の宣戦布告がやって来た。

 ヒーローらしき女性に呼ばれた相澤は、先の峰田に似たような表情を浮かべる。

 

「イレイザーじゃないか! テレビや体育祭で見てたけど、こうして直で会うのは久しぶりだなぁ!」

 

「うにゃ、誰? 元カノ?」

 

「違うしお前の口からそんな言葉が出たのもビックリだよ」

 

「あの人は……」

 

 生徒達が、相澤とどんな関係なのかと頭を悩ませ、ヒーローオタクの緑谷は気が付く。

 

「結婚しようぜ?」

 

「しない」

 

 笑いながら、冗談のようなプロポーズを相澤は諦めた表情で断る。

 

「スマイルヒーロー、Ms.ジョーク! 個性は爆笑! 近くの人を強制的に笑わせて、思考行動共に鈍らせるんだ!」

 

 と、緑谷が思い出しながら解説する。

 

「彼女のヴィラン退治は狂気に満ちてるよ!!」

 

「……ボク、笑いながらぶん殴る知り合い結構いるんだけど、もしかしてあれも個性なのかな」

 

「一応聞くけど、それ誰のこと?」

 

「轢殺の殺人鬼と、刺殺の殺人鬼。あとすじ肉の人」

 

「それは個性じゃなくてただ個性的な人」

 

 指を折って数える黄彩を、響香は嗜める。

 

「私と結婚したら、笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞっ!」

 

「どっかでしわ寄せが来て、耐える間も無く家庭が崩壊しそうな人だね」

 

「ブハッ! いいなぁ君! 面白い!」

 

 黄彩の言葉に吹き出し、ジョークは黄彩の肩を叩きながら爆笑する。

 

「うにゃ、なんか気に入られた?」

 

「黄彩って、変な人に気に入られるよね。……ウチもあんまいえないけどさ」

 

 

 

003

 

 

 

 始まる前からカロリー高めな仮免許取得試験だが、ようやっと始まる。

 参加者一同が一つの空間に集められ、先の黄彩以上に眠そうな男が説明を始めた。

 

『えー、ではえー、仮免のやつをやりまーす。……あー、僕、ヒーロー公安委員会の、米良です。好きな睡眠はノンレム睡眠……。よろしく……』

 

 なんかもう、睡眠薬でも盛られたのではと邪推してしまうほどにくたびれた自己紹介だ。

 

『仕事が忙しくてろくに寝れない……。人手が足りてなーい……。眠たーい……。――そんな心情のもと、ご説明させていただきます』

 

 合間時間を寝袋で過ごし睡眠をとっている相澤は、もしかしたら本当に合理的な生活を送っているのかもしれない。ともすれば、この男が寝不足なのは自業自得だと言って言えないこともないかもしれないが、しかしそれを責めるのも酷だろう。

 

『仮免のやつの内容ですが、ずばりこの場にいる1540人。一斉に、勝ち抜けの演習を、行ってもらいたいと思います』

 

「はっ、なんかマジでハンターハンターみてぇな試験だな」

 

(((確かに……)))

 

 裂那の言葉に、聞こえた者の多くが内心頷いた。

 

『現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降、ヒーローのあり方に、疑問を呈する動きも少なくありません』

 

――ヒーローは、見返りを求めてはならない。

――自己犠牲の先で得る称号でなければならない。

 

 それが、ヒーロー殺しステインの主張だ。

 

『まぁ、一個人としては、動機がどうであれ、命がけで人助けしている人間に、「何も求めるな」は、現代社会に置いて無慈悲な話に思うわけですが……』

 

 ヒーローだって金がなければ生きていけない。食べなければ生きていけない。それなのに一切求めるなというのは、本物の英雄にだって難しい。オールマイトにしても桃太郎にしても、報酬があるからこそ英雄となっているのだから。

 

『えーとにかく、対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが、救助、ヴィラン退治に切磋琢磨して来た結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今、引くくらい迅速になっています。君たちは、仮免許を取得し、その激流の中に身を投じる。そのスピードについていけない者は、はっきり言って厳しい。――よって試されるはスピード。条件達成者100名を通過としまーす」

 

 例年では合格率五割。対して、一次試験で既に一割以下まで絞られる今回の試験に、受験者達はどよめく。

 

「うわぁ、黄彩大丈夫? 走るの苦手なのに」

 

「ウフフ、ボクの個性は工程の省略。早さなら負けないんだよ?」

 

「バテても知らないからね」

 

「うにゃん、きょーかはきっと助けてくれるからだいじょーぶ」

 

「……ウチに変なプレッシャーかけないで。これでも緊張してバックバクなんだから」

 

「んっ、ほんとだ」

 

 じゃれ合うように響香はイヤホンジャックを黄彩の胸元に突き刺す。増幅のされていない心音が伝わって来て、黄彩は頬を緩める。

 

『まー社会で色々あったんで、運がアレだと思って諦めてくださーい』

 

 説明者の気怠げな言葉が、受験者達に火をつけた。

 

 

 

 

 

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