芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第五十五話 試験日の弾幕試験と黄金五分

 

001

 

 

 

 仮免許取得試験の一次試験の内容は、ボール当て。

 各々、ルールに反さない程度に自由な位置にターゲットを三箇所に貼り付け、三つ撃ち抜かれれば脱落。二人を倒したものから勝ち抜けと言うルールだった。

 

「ねぇ黄彩、それ……」

 

「ん、傑作No.21《御供》だよ。これないとボク、めっちゃ雑魚だし」

 

 受験者達は、各校ごとに割り当てられた簡易更衣室でコスチュームに着替える。着替え終わった者から次々出てくる中、響香は黄彩の来ているものに突っ込まざるを得なかった。

 

「いや、死ぬから。三箇所どころか一発でも当たればそれで死ぬから」

 

「ウフフ、大丈夫。ボクだよ? すじ肉の人と練習したもん」

 

 胴だけでなく、手や足にまで肋骨のような外骨格のあるパワードスーツの上から、いつものエプロンを身に付けている。ターゲットは三つともそのエプロンの上だ。

 一人六つ支給されたボールは、一見どこにあるのかもわからない。

 

『えー、じゃあ()()後、一分後にスタートします』

 

「展開……?」

 

 聞いていた者の殆どが疑問に思っていたら、会場の壁、天井が数学の立体模型の展開図のように、開いた。

 

「うわ、すごいってか、金かけ過ぎでしょ」

 

「いいね、ボクのアトリエにもこういうの付けたいな」

 

「いや、周りの家とかどうするのさ」

 

「うにゃぁ、確かに」

 

 展開図の外には、広大な地形が広がっている。

 山岳地帯に、工業地帯、道路をもした地帯にビルの立ち並ぶ摩天楼地帯まで、色とりどりだ。

 

『各々、苦手な地形、好きな地形、あると思います。自分の個性を生かして、頑張ってください』

 

 

 

002

 

 

 

「みんな! あまりばらけず、かたまりで動こう!」

 

 開始直後、受験者達が飛び出す中、緑谷が言う。

 

「ふざけろ。ここは遠足じゃねぇんだよ!」

 

「ば、おい馬鹿待て!」

 

 しかし逆らうように、爆豪は緑谷達から離れていってしまい、仕方ないと切島もついて行った。

 

「オレも抜けさせてもらう」

 

 と、言い出したのは轟。

 

「大所帯じゃ、返って力が発揮できねぇ」

 

 雄英生たちが呆然としているのを尻目に、轟も別方向へと去っていった。

 

「轟君!」

 

「緑谷時間ねぇよ! 行こう!」

 

 緑谷は引き止めようと叫ぶも、峰田が止めた。

 

 

 

 

「ウフフ、来たよ来たよ。いいなぁ、戦争だぁ!」

 

 移動を開始して、山岳地帯に入り込んだ頃。あらゆる方向から、あらゆる高校の受験者たちが襲いかかって来た。

 

――俗に言う、雄英潰しだ。

 体育祭によって、個性不明という不動であるはずのアドバンテージを唯一失った雄英は、確実にここでは不利。……な、はずだった。

 

「テレビで見たよ。自らをも破壊する超パワー」

 

「ウフフフ、それは時代遅れってやつだ、ねっ!」

 

 黄彩のただの投擲。月まで届く砲撃でないだけ、慈悲はあるのかもしれない。

 

「グアッ!?」

 

 ボールは胸のターゲットを射抜き、勢いそのままにどこかへ吹き飛んで行った。

 

「有製君!?」

 

「ウフフ、ここはボクに任せて先にいけってやつだね。……逃げないと、巻き込むよ?」

 

 いつになく、黄彩の目は本気だった。

 

「作品No.93《天動設》」

 

 何もかもお構いなし、完膚なし、区別なし。石も岩も砂も投げられたボールも、黄彩を中心に円状へと軌道する。

 

「黄彩、一人で大丈夫なんだね?」

 

「ウフフフ、それは生意気ってやつなんだよ、きょーか」

 

 黄彩が微笑むと同時に、飛び回っていたものは重力に従い落下した。

 

「はっ、オレを忘れてんじゃねーぞテレビっ子共! 黄金の国(ハートフルピースフル)!!」

 

 神刺裂那の黄金の国が、荒々しい山岳地帯を侵色する。

 

「話し合いで解決しようぜ、平和的にな!」

 

 裂那は言葉とは裏腹に、接近していた受験生を殴り飛ばした。

 

「オラオラオラァ! とっとと伝えて来やがれテメェらの野心ってやつを!! エリートぶっ殺そうって思惑はどうした! 下克上は机上の空論か!?」

 

 手当たり次第、あるいは見的必殺(サーチアンドデストロイ)。ボールを当てるのでもダメージを当てるのでもなく、裂那は敵を殴り飛ばし、蹴り飛ばし、踏みにじり、振り回す。

 

「怒り、妬み、ストレス、嫌悪! 思いの丈を込めまくってぶつけに来い!!」

 

「ウフフフフフフフフ。そう言うわけだから、ボクらの心配は一切不要。――きょーか、頑張って」

 

「うん、頑張る」

 

 雄英潰しを目論んだ受験生たちの敵意が完全に二人に向いてるうちに、緑谷達はそこから離れていった。

 

 

 

003

 

 

 

「アッハハハハッ! なにあれなにあれイレイザー!」

 

「知ってんだろ……。平和の象徴に人間国宝。ヒーローにしとくにはもったいねぇ問題児共だ」

 

 会場の外側には、普段観客席として使われる場所が当然ある。相澤とその近くに座ったMs.ジョークは、最も盛り上がっている山岳地帯を話題にする。

 

「ピンチを覆していくのがヒーロー。個性晒すなんて前提条件。雄英(うち)の教育方針として常に先を見据えているが、中でもあいつらは別格だ」

 

「……へぇ。除籍者がいない時点でも思ったけど、気に入ってんだ」

 

「違う、そもそもあの金色は生徒ですらねぇ。世話焼くまでもなく勝手に燃えてくんだ。……どれだけ手間がかかってると思ってる」

 

「なんか、ごめん……」

 

 ジョークは神野での事件で、相澤も黄彩も話題になり過ぎていたことを思い出し、笑みを納めて思わず謝罪した。

 

 

 

004

 

 

 

「来い、五番目」

 

 ダメージが入らないのだから、当然敵の数はあまり減らず敵意は加速度的に増していく。

 逃げ去っていく有名高の受験者達を見て、裂那は笑いながら何かを呼び出した。

 

 波打つように現れたのは、両頬に《5》と刺青が彫られた黒い軍服の少女。

 

 新手に警戒を隠さぬ受験者達を見据え、少女は裂那とは違い可愛らしい笑みを浮かべた。

 

「ご安心ください。みなさん纏めてと私、戦況は五分五分です!」

 

――黄金の国唯一の軍事組織、二十人核。

 一から十まで、それぞれの数字に二人のコンビが割り当てられた、総勢二十名で構成された少数精鋭の極小組織。

 その一人が軍服の少女であり、単独で核兵器並の戦力を誇るが故の《二十人核》である。

 

――五分五分(ごぶりん)。一人の名であり、一人の持つ体質(個性)。その能力はその場の全員の戦力を数値化し、その合計値と同じ値まで自身の戦力を増強、あるいは弱体化する。……故に老人ホームや病院には近寄れない。

 

 

 少女の言葉を煽りと思い、個性を発動しながら少女に襲いかかる。

 

「ハハハ、よく誤解されるのですが、みなさんというのには裂那様なんかも含まれるんですよ、なんと」

 

 まるで申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら、少女は襲いかかって来た受験者をかかと落としで沈めた。

 

「ぐべっ」

 

「一見絶対防御に見えるこの国ですが、当然抜け道はあるんですよ。……例えば、原子レベルで精密に切り裂けるガラス製ナイフで柔らかい、例えば急所であれば簡単に切れたりするんです」

 

「ヒィィィ!?」

 

 五分五分(ごぶりん)が抜いた、透明のガラス製ナイフでコスチュームの股間部分を撫でると、男である受験者は悲鳴を上げながら気絶した。

 

「もちろん、冗談なんですけどね」

 

 とはいうものの、確かに破壊不可能なはずの状況でコスチュームの股間の辺りは切り裂かれていた。

 

「おい、遊んでる暇ねぇぞ五分五分(ごぶりん)

 

「……裂那様が平和の象徴とか、悪い冗談ですよねぇ」

 

 裂那は相手を誰一人として傷つけることなく、戦意を根こ削ぎ落とされた受験者達を見下していた。

 

「こいつらは平和を作るにいらねぇ。次行くぞ」

 

「はいはーい。創世主様、頑張ってください、ね……」

 

 裂那が屈服させた受験者にボールを当てて勝ち抜けしたらしく、黄彩のターゲットから音声で移動するよう急かされている。……が、とうの黄彩は黄金の国の外でベッドを作り眠っていた。

 

「ほっとけ。そいつは死んでも知らん」

 

『有製さーん、起きてくださーい! 羨ましいぃー!』

 

「ハハハハ、黄金の国(うち)に負けず劣らず、個性的な人たちが多い世界ですね」

 

 山岳地帯から黄金が抜け、裂那達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 




キャラ紹介
二十人核、五の一人――五分五分(ごぶりん)

 黄金の国が平和になる数年前、犯罪者夫婦の間に生まれた捨て子。孤児院に保護され、紆余曲折経て、名を捨て、国に忠誠を誓う。

 パートナーであるもう一人の五、2.5次元(ドットファイブ)が二重人格を疑われるほどの狂人であるため、どうしても常識人であることを周囲から強いられている。

 個性《五分五分》は常時発動型の個性で、効果範囲は戦場という曖昧なもの。戦闘中以外だと、病院などの施設の土地に限られたりする。
 一見増強型に見えるが、弱者一人を相手したりすると当然ながら弱体化する。

 対多人数のエキスパートだが、二十人核の中では中堅。パートナーの2.5次元(ドットファイブ)が核融合の魔法少女やメイド喫茶のメイド長クラスの文字通り怪物であるため、雑用はもっぱら五分五分(ごぶりん)担当。
 
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