芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第五十六話 試験日の成人強化と目下無双

 

001

 

 

 

 黄彩が勝ち抜けし眠り始めてしばらく経った頃。

 

「障子ちゃん、どう?」

 

「クラスの奴の姿は見えない」

 

 雄英生たちは黄彩、裂那と別れた後も度重なる襲撃に遭い、いくつかのグループに分断されてしまった。

 響香は八百万、蛙吹、障子との四人で摩天楼地帯、建物の中にいた。

 

「他のエリアにいるのかしら……」

 

「おそらくな。八百万、聞いたな。通過者は半数を超えた」

 

「私たちも合流を諦めて、打って出た方がいいんじゃないかしら」

 

「ええ、そうですわね……」

 

 三人が話し合っている間に、響香は壁にイヤホンジャックを挿すことで周囲の人間を探っていた。

 

「階段を上がる足音四つ、十階下。多分、うちらのこと分かって登って来てる」

 

「……やってくるのが四人だけというのが気になりますわね。各学校、もっと大勢でチームを組んでもいいはず」

 

「お仲間が倒されて、ここに逃げ込んできたというのはないかしら」

 

「絶対無い。心拍が安定してるし息遣いも冷静そのもの。会話もしてないから盗聴も警戒してる。っやば!」

 

 焦ったように響香がイヤホンジャックを抜くと、さしていた壁の向こうで爆発が起きた。

 

相殺音(キャンセリングノイズ)、タイプインパクト!」

 

 新たに変音機能を搭載したスピーカーを鳴らすと、こっち側まで響いて来た爆発音が止んだ。

 

 数秒待ち、イヤホンジャックをスピーカーから抜き、次は床に刺した。

 

「まずい。一気に数が増えてる! 罠だ!」

 

「ケロ!?」

 

 響香が叫ぶとほぼ同時。そこら中の窓ガラスが何かに打ち抜かれてひび割れた。

 

「ウチらの個性、多分全部知られてる。次は梅雨ちゃんかヤオモモ……。次の試験くらいにまでは、取っておきたかったんだけど、まぁ仕方ないよね」

 

 そう言いながら、響香はイヤホンジャックの片方を自身の首元に刺した。

 

「響香ちゃんなにを!?」

 

心拍鳴音(ハートハウリング)……」

 

 蛙吹が叫ぶのも仕方がない。響香の血管が目に見えて脈打っていて、心音が聞こえてくるのだから、どう見てもその光景は異様だ。

 

 熱っぽい吐息を吐き、火照った顔で、響香は歪な笑みを浮かべる。

 

「形状記憶、耳郎響香……」

 

 体育祭の時は、爆豪の爆破の熱で強引に発動させた急成長を、響香は心拍を強引に強めて自力で起こした。

 

「うし、行ける。相手の策に乗っちゃいけないからね。飛び降りるよ!」

 

「「「はっ!?」」」

 

 背丈が伸びて臍を露出させた響香に、三人が驚愕の叫びをあげた。

 

 

 

002

 

 

 

 大人の姿になってすぐ、蛙吹を背に背負い、八百万と障子を小脇に抱えて、響香はひび割れた窓を蹴破って飛び出した。

 

「響香さん一体なにを考えていますの!?」

 

「実体音響、足踏み! まずは一人目を蹴り飛ばすんだよ、恨みとかいろいろ、込めてねっ!!」

 

 飛び石の上を跳ねるような動きで、響香は空を跳ねた。

 

「キャー!?」

 

 離れた別のビルの屋上まで飛び移り、スリングショットを搭載したグローブを装備した女生徒を蹴り飛ばす。

 

「ウチ、十年前、ってまぁつまりは今日になんだけど、こいつに耳撃たれててさ。結構痛かったんだよねぇ〜」

 

 三日月のような笑みを浮かべながら、蹴られて頬を腫れさせて怯えた女生徒の近寄る。

 

「ヒィッ! こ、こないで!」

 

 スリングショットで鉄球を放つも、羽虫を払うかの如く払い飛ばされる。

 

「ウチの左耳は高いよー」

 

 棒読みの言葉に、女生徒は顔を真っ青にした。

 

「大丈夫安心して。命だけは取らないから」

 

「キャアアアアアアアアアア!!??」

 

 両耳にイヤホンジャックが突き刺され、脳に直接響香の増幅された心音が轟く。苦悶の表情で顔を染め、断末魔とともに倒れた。

 ターゲットにボールを当てて徹底的にとどめを刺し、響香は満足気な表情を、思いっきり引いている蛙吹達に見せる。

 

「せっかくだから、あいつら全員踏み台にしよっか」

 

「耳郎、なんだかすごく爆豪っぽいぞ」

 

「今この時のウチと比べてそうなのは自覚してるよ。生き方が似てるからね。むしろ生き様かな」

 

「爆豪さんのような方がそういらっしゃるとは思えませんが……」

 

「これはなるべくしてなるキャラ、らしいよ。ほら、もっかい跳ぶから梅雨ちゃん乗って」

 

「ケロ……。あ、暖かいわ」

 

 体勢を低くして背負われやすい姿勢にした響香に乗った蛙吹は、背に触れた途端にピタリとくっついた。

 

「一回体温を四十度まで上げなきゃいけないからね。ほら、ヤオモモと障子も行くよ」

 

「あ、いや……」

 

「お待ちください! 私、心の準備が……」

 

「準備不要!」

 

 思わず後ずさった二人を捕まえ、今度は首ねっこを掴んで跳び出す。

 

「締まってますわ!? 首っ、首ィー!!」

「グォ〜〜!!?」

「ケロ〜〜!?!?」

 

 三人が叫ぶ中、響香は空中で立ち止まった。三人はつい足元を見て、悲鳴も忘れて顔を青ざめさせる。

 

「実体音響、薔薇(バラ)!」

 

 アニメや漫画でしか見られないような、巨大な飛ぶ斬撃。侍が竹を両断するように、響香はビルを切り落とした。上半分が隣の低いビルの上に落下し、天井の切り落とされたエレベーターに乗っていた、先の女生徒と同じ制服の女が目と口を丸く開けて呆けていた。

 

「おい、誰かしら死ぬんじゃないか」

 

「平気。その辺はちゃんと考えてるから、さっ!」

 

 一時停止を解いたかのように、響香は再度跳び出し、ビルの断面へと着地した。

 

 

 

 一網打尽。あるいは、天下無双。あるものは八百万製の装備で武装した障子の腕達に薙ぎ払われ、あるものは響香に殴り飛ばされ、あるものは蛙吹に蹴り潰される。

 

「思ったより大したことない、かな。ウチの時はもっと強かった気がしたんだけどな」

 

「ケロ、響香ちゃんが強すぎるのよ」

 

「蛙吹さんもですわ。脚力が優れているというのは知っていましたが、こうも攻撃的な必殺技を編み出していたなんて」

 

「親切な魔女さんに勧められたのよ。まだまだ付け焼き刃だけれど、これだけ有利な状況ならかろうじて使えるわ」

 

 とは言っているものの、ポーカーフェイスでも隠し切れないほどの疲労が目に見えていて、足が震えている。

 

「ま、これでクリアなんだから休めるよ。ウチもいい加減戻らないとだし」

 

 

 

003

 

 

 

 一次試験を通過できた響香達は、ターゲットから聞こえてくる声に従い、控室に来たのだが、響香は忙しなくあたりを見渡している。

 

「黄彩に、それから裂那も、まだクリア出来てないのかな……」

 

『はいっ、ここで八名通過来ました、残り十名です!』

 

 雄英生でまだここにいない者も残りわずか。

 

「おっ、結構ギリだったか」

 

 アナウンスが流れたタイミングで、ターゲットまで金色に染めた裂那がやって来た。

 

「あ、ねえ。黄彩見てない?」

 

「は?」

 

 響香が尋ねると、裂那は首を傾げる。

 

「見てねぇっつーか、オレらと別れる前にあいつもうクリアしてたぞ。まさかまだ寝てんのか……?」

 

 硬くて寝心地の悪そうな石のベッドで黄彩が寝ていたのを裂那は思い出し、響香に伝える。

 

「あー、もう……。ちょっとウチ行ってくるから、みんなに伝えといてっ」

 

「お、おう。大変だな、お前」

 

「マジそれ!」

 

「「耳郎!?」」

 

 一次試験ギリギリで通過できた雄英生達の頭上を飛び越えながら、会場へ逆走して行く。

 

 

 

 黄彩を探し始めてすぐに黄彩は見つかった。

 

「君は、合格した子だね? 早く控室に向かいなさい」

 

 通過できなかった受験生を回収する係員達の担架で、黄彩は眠っていた。

 

「黄彩を迎えに来たんです。あの、ウチが連れて行きますんで」

 

「我々で連れて行くつもりだったけど、そういうことなら任せよう。二次試験もがんばりなさい」

 

 係員が担架を下ろすと、響香は黄彩を抱き抱える。

 

「うにゅ、……あ、きょーか」

 

「起きたんなら自分で歩いて」

 

「やー。もうちょっと抱っこ……」

 

「はいはい」

 

 黄彩は甘えるように響香の首に腕を回し、頸に鼻を押し付ける。

 

「汗臭いでしょ。やめて」

 

「ウフフ、頑張った匂いだよ。ボクこれ好き」

 

「変態っぽいから二度とそれ言わないで」

 

「ウフフフ〜」

 

 

 仮免許取得試験、一次試験。雄英高校一年A組、全員突破。

 

 

 

 

 

 

 




技紹介
蛙吹梅雨――蹴り

 小さい動物が人間と同等のサイズになったら超強い的なアレ。

 転生の魔女の師、天聖の魔女にアドバイスを受け、必殺技として身に着ける。

 カエルの個性ということもあり、元々脚力は凄まじかったものの、元の筋肉が跳躍力に特化した物に育っていたため、絶賛訓練中。
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