001
神刺裂那の製造地、黄金の国にはいくつかの勢力が存在する。
一つは神刺刹那。黄金の国の代表にして黄金の国そのもの。
一つは魔導士。魔法使い、魔女、魔法少女の三つの総称であり、同時に一つの勢力図。
一つは飲食店連合。メイド喫茶のメイド長をはじめとする、全員が宇宙規模の危機に正面から戦える、黄金の国の最高戦力の集団。
一つは、二十人核。国に仕える二十人の軍人にして軍事兵器。
そして最後に語るべきは、《色》だろう。
赤橙黄緑青藍紫、白黒挟んで計九色。しかし勢力というには纏まりなく、組織というには括りなく、仲間というには関係のなく、種族というには相似なく。
歴史を紡ぎ、歴史を語り、歴史を作る、黄金の国での黄彩の目となり耳となる存在達。
その中でも異例の存在なのが、桃色、
赤と白の近親屍姦によって生じた、存在しないはずの色。冒涜的かつ衝撃的に生まれた混沌の存在は世界の影に生まれ、影に生き、陰ながらに影を照らしていた。
「あははっ! 楽しいな楽しいなぁ! ねえ見せてもっと見せて!」
仮免許取得試験の一次試験で、裂那の親友たる花々はパルクールよりも身軽な動きで、受験者達の猛攻から逃げ回っていた。
「ほーらほーら! ヒーローになるんでしょ? 私みたいなクソ雑魚美少女一人も捕まえられないんじゃっ! ヴィランどころか彼女の一人も捕まえられないよっ! この童貞どもめっ!!」
雄英や士傑のような高尚な学校ではない高校のヒーロー科生徒達が、顔を真っ赤に染めながら花々に遠距離攻撃を飛ばす。火の玉に氷の玉。手裏剣にナット、文房具各種に魚介類まで選り取り見取りだ。
「あっははははははは!! ほらほらもっと頑張ってー! あんよがじょーず! あんよがジョーズゥ!!」
まるでアクションゲームのキャラクターのように、ビルの外壁を蹴って右往左往、縦横無尽に飛び回る花々。
が、突如として花々はビルの壁に垂直に立ち止まる。
「うん、ダメだねみんな」
失望したような表情を浮かべる花々は、さっきまでの喜怒哀楽が荒れ狂った状態から感情が抜け落ちたように鎮まり、静かに受験者達へと飛び込んだ。
「ダメダメダメダメ、みーんなダメ」
頭頂部で逆立ちされた受験者は振り落とそうと振り回したり、周囲の受験者も頭上に拳や武器を向けるも、攻撃の一切が通らない。
「ダメな理由が無いくらいダメダメだよ。まだ無個性の小学生の方が見込みがあるね」
まるでモグラ叩きのように、あるいはマット運動のように、花々は受験者達の頭部や肩を足場に跳ね回り、虱潰しに気絶させる。
「ヒーローヒーローって、一体何がいいのか知らないけどさぁ、そのために努力してる時点で向いてないよ。ヒーローっていうのは誰よりも苦労して結果を残してる人なんだから」
赤と白の子、桃。
努力を知らず苦労を知らず、過程も知らなければ結果も知らない、常に歴史の先端でのみ笑う女。それが
002
二十人核の五、
あるいは、
騒がれるままに、美男の右半身と美女の左半身を強引に貼り付けたような美人であり、云われるままに、二次元を三次元へと引き摺り上げる名俳優。
「知ってるか? 超銀河戦士は拳で星を打ち砕くのですわ!」
美男が尋ね、美女が告げる。
美男が拳でアスファルトの道路を木っ端微塵にすれば、美女は不敵に笑う。
「知っていまして? 土星の女神は大地を手指のように操るんだぜ!」
美女が尋ね、美男が告げる。
木っ端微塵になったアスファルトを束ね、まるで巨大な手のように、戦意を喪失した受験者達を纏めて縛り上げた。
自身の創作したアニメ、漫画のキャラクターの能力を演じることができる。一度に使えるのは美男サイドに男性一人、美女サイドに女性一人、計二種類だ。
「ワーッハッハッハッハ! オーッホッホッホッホ!」
「私が三人分でも四人分でもがんばりますから、帰ってくださいよあなた……」
美男と美女が交互に笑う狂人に、パートナーである
「誰か代わってくれないかな……。無理だろうなぁ……。はぁ……」
「おい
「あなたさえ死んでくれれば、私の人生は円満ですよ」
「オイオイ、なんて酷いことを! 傷つきますわ!」
「……どうしてこう、強い人ほど平和に生きられないんですかねぇ」
003
混沌の魔女、ニーアは暗黒のファラオとも呼ばれた偉大な魔女である。
分かるものは分かるだろう。暗黒のファラオ、這い寄る混沌、膨れ女、闇をさまようもの、夜に吠えるもの。数々の異名を持つクトゥルフ神話の邪神、Nyarlathotep。
色黒黒髪、赤色芋ジャージと、ダサさ極まりない、お兄さんともおっさんとも言い難い外見の男こそ、暗黒のファラオそのものであり、そして混沌の魔女だ。
悪に立ち向かう魔導士の一員でありながら要注意人物であり、平和のためならまず最初に殺すべきとは本人談。
威厳を嫌い、畏怖を嫌い、信仰を嫌い、混沌を嫌う這い寄る混沌。一人の女に恋し己を捨て、妻子のために這い寄ることをやめたニーアにとって、平和というのは隠居のようなもの。
「私は混沌の魔女、ニーア。妻と娘に嫌われぬためにも、君たちには傷一つとしてつけない事を約束しよう。……精神までは、知ったことでは無いけれどね」
ジャージのポケットから、短い杖のようなものを取り出し向ける。
受験者たちの足元に魔法陣が無数に出現し、光を削るように闇深く黒い触手が足首を捉える。
「男なのに魔女なのかとはよく云われるけれど、だがそれでも私というやつはどうしようもなく魔女なのだよ」
触手は見た目の細さ、滑らかさとは裏腹に力が強く、一度巻き付けば踏んでも外れない。どころか、支柱を辿る植物のように巻きつきながら伸び、脇の下あたりまでを包み込んでしまう。
離すようニーアに懇願するも、しかし帰ってくるのは住宅街でたぬきを見たような意外そうな眼。
「無駄話なら幾らでも望むところだけれど、どうも喧嘩はね。裂那ちゃんと違って、私は蹴ったり殴ったりは好むところでは無いんだ」
しかし触手は伸びるし縛る。
「嗚呼、勘違いしないでくれよ。別に暴力が嫌いというわけでも、私が温厚というわけでも無い。本質的には私はどうしようもなく混沌であり邪なものだ。まあ、本質と言っているのに混沌というのもおかしな話だけれどね」
花屋で出会しそうな、人のいい笑みを浮かべながら、ニーアは振り下ろした杖を振り上げる。
とたん、受験者達は顔色を真っ青にし、中には泡を吹くものや白目を剥くものまでいる。
――恐怖の注入。
その魔法を掛けられたものは魂も凍るような恐怖心に苛まれる。
「英雄とは、常に我々のような危険物と相対し続けるからこそ英雄だ。その恐怖を乗り越えてヒーローになるものが一人でも現れたのなら、その時は謝ろう」
短い杖をポケットに収めると、触手達は初めから存在しなかったかのように消滅し、受験者達は重力に従う。
「やれやれヒーロー社会とは、全く恐ろしい世の中だよ。本当に全くだ」
キャラ紹介
二十人核、五の一人――
同じく五、
美男と美女を両断して張り合わせたような異形の人間。当然ながら靴、手袋なんかは左右でサイズが異なる。
経歴不明、出自不明、本名不明、正体不明。
漫画家として少年漫画、少女漫画、成人向け漫画まで幅広く手掛けている。ライバル的存在の小説家がいるが、その小説家はどの勢力にも属さないはぐれものなため戦場にはまず現れない。
俳優としてはその異様な外見故に、引っ張りだことはいかないが演技力の高さから一定以上の人気を博している。