芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第五十八話 試験日の救援試験と黄色屍線

001

 

 

 

『えー、一次試験を通過したみなさん、これをご覧ください』

 

 一次試験と、通過できなかったものの回収が終わると、放送が入る。

 

 ディスプレイにはフィールドの様子が移されており、当然ながら一見無人だ。

 

――爆音。轟音。

 街並みの崩壊する音が、スピーカーではなく外からも聞こえてくる。映像には何もかもが爆破されて崩壊する様子が移されている。

 

『次の試験でラストになります。皆さんにはこれから被災現場で、バイスタンダーとして、救助演習を行ってもらいます』

 

「「ばいすらいだー??」」

 

 峰田、上鳴が首を傾げる。

 

「バイスタンダー、現場に居合わせた人のことだよ! 授業でやったでしょー!」

 

「一般市民を指す意味でも使われたりしますが……」

 

 二人に教えるように、葉隠、八百万が語る。

 

『一次試験を通過した皆さんは仮免許を取得したと仮定し、どれだけ適切な救助を行えるか、試させていただきます』

 

 雄英生は並々ならぬ経験を経てしまっているのもあり、身をもって経験した事を想起している。

 と、映像に何かが映った。

 

「ひ、人か!?」

 

「あぶね! 何やってんだ!?」

 

 人間、それも老人に子供といった一般人と思わしき人間達が、先の災害に巻き込まれたのか怪我をしている。

 

『彼らは、あらゆる訓練において今引っ張りだこの、要救助者のプロ! HELP・US・COMPANY、略してHUC (フック)の皆さんです!』

 

 聴き慣れぬ存在に、受験者達は首を傾げたりなんかしている。

 

「要救助者の、プロ?」

 

「ケロ、いろんなお仕事があるのね」

 

「ヒーロー人気のこの現代に、即した仕事かもね」

 

「……うにゃ? 子供にそんなことさせていいの? マスコミ騒がない?」

 

「黄彩、あんただけは言うな。ウチも思ったけど」

 

『HUCの皆さんは傷病者に扮して被災現場の全域にスタンバイ中。皆さんには、これから彼らの救助を行ってもらいます』

 

「またボールぶつけるんじゃダメなの?」

 

『いい加減不合格にしますよ有製くん。……あー、今回は皆さんの救出活動を、ポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば、合格とします。十分後には始めますので、トイレなど済ましといてくださいね』

 

「……黄彩、顔に名前まで覚えられてんじゃん」

 

「ウフフ、ボクだからね」

 

「褒めてないっての」

 

 

 

002

 

 

 

『ヴィランにより大規模テロが発生。規模は○○市全域。建物崩壊につき傷病者多数』

 

 およそ十分が経過し、目覚まし時計のような音が響いたすぐ後に放送が入った。

 

『道路の損壊が激しく、救急隊の到着に著しい遅れ。到着するまでの救助活動は、その場にいるヒーローが指揮をとり行う。一人でも多くの命を救い出す事。それでは、スタート!!』

 

 一次試験と同じように、壁と天井が展開して試験が始まった。

 

「ウフフ、とりあえず街を戻そっか。その方が作業しやすいもんね。――作品No.68再構成(リメイク)《騒々しい静寂》」

 

 一斉に飛び出した受験者達が、驚愕と共に足を止めた。

 

 まるでパズルのように、バラバラに崩壊した瓦礫地帯が、元の街へと修復された。

 試験のシナリオとしての道路の損害による救急隊の遅れというのも、実際であればかなり解決する事だろう。

 

「傑作No.10《道徳的な龍》」

 

「キュイー!」

 

 異様な光景に受験者達が呆然としている中、黄彩は道徳的な龍の背に乗りこんだ。

 

「きょーか、一緒に来て。手伝って」

 

「え、あ、うん」

 

 響香は戸惑いながらも、黄彩の後ろに跨がる。

 

「ウフフ、いっぱい寝たからね。今度はちゃんとやるの」

 

「……なんだろ、悪いことはしてないはずなんだけど、なんか多方面から睨まれてる気がする」

 

 道徳的な龍は上空へと飛び上がり、即座に一人、要救助者を発見した。

 

 ビルとビルの間の路地で蹲る白髪で初老の男性。足から血を流し、さらに骨折しているのか腫れ上がっているように見える。

 道徳的な龍が道路に着陸すると、響香が飛び降りて男性に駆け寄る。

 

「大丈夫っすか!?」

 

「こっ、こここここれは一体どうなっている!?」

 

 崩壊したはずのビルが元通りに戻った事で、かなり驚愕しているようだ。

 

「壊れたのをボクが直したの。おじさん歩ける? 歩けるよね。人のいるところまでの道はわかるように書いとくから、そこまで自分で歩いて」

 

 響香が男性のみを起こすと、黄彩は道路の方を指差しながら言った。すると、男性は表情を怒りに歪めて叫ぶ。

 

「ヴァッカもんがっ!! わしゃ両足怪我してんだろうが見てわかんねぇのか!! 仮免持ちなら怪我の状況判断して瞬時に動くぞ! そして何より、こちとら不安と恐怖で胸いっぱいの被災者だぞ!! それなのに自分で歩いてダァ!? 減点だぁー!!!」

 

「……きょーか、これ殴っちゃダメ? ヴィランだってこれ」

 

「絶対ダメ! ウチにはこの人の怪我、歩けるようには見えないけどほんとに歩けるの?」

 

「ん、ただの特殊メイク。怪我人のフリして何がしたいのか知らないけど、ボクの眼は騙されないんだよ」

 

((……こいつ、まさか試験の内容忘れた?))

 

 響香と男性の心情が一致した。

 

「ねぇ黄彩、試験の内容分かってる?」

 

「うにゃ、もちろん。ヴィランが街壊して、怪我人いっぱい。ヴィランはまだ捕まって無いからどっかに潜んでる。怪しいからどうにでもなる方に連れてこうと思ったんだけど、……うにゃ、なんか間違った?」

 

 黄彩は本気で困惑し、首を傾げている。心配してか、狭くて入り込めなかった道徳的な龍も覗きながら、黄彩につられて首を傾げる。

 

「考えすぎじゃないかな、……多分」

 

 とはいえ、他人と同じ外見になれる殺人鬼兼ヴィランの友人がいるため、響香も半信半疑になってしまう。

 

「……いや、そういう事ならこっちの技術不足だ。レントゲン並みの眼で状況を判断して歩けるって判断させちまったのは我々の責任。……だがわしゃ骨折してて歩けない被災者って設定だ! 減点は取り消すからせめて丁重に運びやがれ!!」

 

 男性は呆れたような表情で語り、再度叫んだ。

 

「えっと、骨折した人を運ぶときは……」

 

 一年生ということもあり、救助の経験はほとんど無に等しい。座学で習ったかもしれない知識を響香が引っ張り出そうとしているが、しかし黄彩がすぐに答えを出す。

 

「振動とかで悪化するから揺らさないように、慎重に。――作品No.07《裕福な右手》」

 

 地面や外壁から削り出すようにして、人一人が乗れる大きさの右手が道路上に作られる。

 

「きょーか、乗せるの手伝って」

 

「う、うん!」

 

 男性を響香が持ち上げ、黄彩は足に負担がかからないように支える。

 裕福な右手に楽な姿勢で乗せたら、上空まで浮遊。二人が乗り込んだ道徳的な龍と並走させて、他校の生徒が救護者をまとめている場所まで護送する。

 

「黄彩、なんで骨折した人の運び方なんて知ってるのさ?」

 

「うにゃ、治癒の人に教わったよ? ほら、保健室で寝泊まりしてたとき、暇つぶしって言ってずっと喋ってるんだもん」

 

「それ、地味に嫌だわ……」

 

 そもそも、黄彩以上に人骨を弄ってきた人間なんてそうは居ない。材料としての人間の取り扱いは一通り熟知している。

 

 数分ゆっくりと飛び、救助に不向きな個性を持った人たちが傷病者を分類別け、看病してるエリアに無事着陸した。

 

「うわっ、ドラゴン!?」

 

「キュイッ!」

 

「あ、意外と可愛い……、じゃなくて! 怪我人の状態は?」

 

 道徳的な龍から降りた響香が、裕福な右手に乗せられた男性を下ろし、女生徒に受け渡す。

 

「両足骨折、あと全身擦り傷。多分瓦礫に潰されたって設定だと思う!」

 

「設定? まあいいわ、身動き取れない人はここだから、ここは私たちに任せて、どんどん傷病者こっちに連れてきて!」

 

「わかった! 黄彩、次いくよ!」

 

「うにゃ……、うん。わかった」

 

 黄彩と響香はまた道徳的な龍に乗り込み、街へと飛んで行った。

 

 




キャラ紹介
混沌の魔女――暗黒のファラオ、ニーア
年齢不明。既婚者で娘が一人。

 這い寄る混沌、ニャルラトホテプと同一の存在。
 黄金の国には地球と同一の神話が存在しており、小規模ながらも宗教もある。

 黄金の国を作るにあたり、制作の際に初めから組み込まれた存在の一つ。他にもいくつか超常の存在や、『色』が組み込まれている。

 裂那の時代よりさらに数百年前くらいまでは這い寄る混沌として、あるいは『悪』として猛威を奮っていたが、桜良(さくら)という少女に一目惚れし、次第に人の心に近いものを得る。同時にニャルラトホテプという自信と同一の存在に嫌悪感を抱き、一時期は自虐の日々を暮らしていた。

 恋は無事実り結婚、希依という娘まで生まれた。

 混沌の魔女ニーアはニャルラトホテプとしての顔の一つで、元々は真っ黒なコスチュームを仕事着にしていたが、妻と子の両方から思いっきり引かれた。威厳や畏怖を少しでも外に出すとあらゆる勢力に警戒されるため、基本的にダサい格好で外出する。

 普段は転生の魔女、魔の魔法使いの処刑職の裏方をしており、転生してきた魔法少女の案内役や一時的な保護者が主な職務。

 処刑職コンビよりも古参なため、幼少の魔導士相手に道徳教育の仕事をしていたり、核融合の魔法少女に核兵器について教育したりしていた。
 が、教育を受けた者の大半が歪んだ倫理観を身につけてしまっている。原因がニーアなのかは不明だが、教育の場からは生涯出禁になった。
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