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001
平和な世界というのはつまり、平凡に平坦で、和やかに穏やかな世界ということで、そこに怪我人や病人なんて居てはいけない。
なんて、そんなことをいうつもりはない。それじゃあまるでパラノイアの世界だ。幸福な世界には幸福でない人間は不要です。しかし不幸でない人間が幸福かはわかりません、なんて。
オレこと、この世界を平和にするために生まれた創作物、神刺裂那に言わせるならば、平和な世界ってのは暴力の無い世界じゃあなくて、悪の無い世界だ。
悪。又の名を、正義。
悪には悪の都合がある。正義には正義の都合がある。結局は都合にいい奴が正義の味方で、都合に悪い奴が悪い奴だ。
だからこそ、あのショタ親父はオレを正義の象徴ではなく平和の象徴としたのだろうし、引退して引き算の権化みたいになったおっさんも正義の味方でも象徴でもなく、平和の象徴を選んだんだろう。
この世界でこんなことを言うと、それは自虐も自虐、いっそ自殺みたいなもんだが、オレはヒーローに向いていない。
人を救うのに向いていない。どっかの誰かがいつか言った、平和主義の最終兵器。なるほどその通りじゃねぇか。
後に殺させないように全てを殺す。人類が絶滅すれば殺人事件は起こらない。そんなことを言って黄金の国を襲撃したバカみてぇな悪がいたが、オレとそいつは合同。存在位置が真逆なだけで、やってることも言ってることも同じだ。
神刺裂那はヴィランである。いや、この言い方は盛大に誤解を招きそうだ。この場合のヴィランってのはこの世界の個性で暴れまわってぶっ殺したりぶっ殺されたりしてる犯罪者って意味ではなく、言うなればクラスの問題児みたいなニュアンスだ。
快楽のために、娯楽のために、極楽のために。つまりは楽するために生きてきたようなオレだが、そんなオレがヒーローであるはずがない。
ヒーローでないならそれはヴィランである、なんてクソみたいな二極化理論を掲げるつもりは毛頭ない。
本質的な、あるいは表面的な話で、オレの性格は、オレというキャラクターは、ヴィランであった方が正しい人間だ。
強引に平和の象徴って型に押し込んで歪んだ生き方するより、ヴィランっつーオレが入るには大きすぎる型でくつろいでる方が、よっぽどお似合いだ。
オレは風呂よりシャワー派だけど。
居心地が悪い。身長に合わせすぎた棺桶で寝てるみたいに、まるでお前に成長の余地は無いと言われ続けるような生き方が、オレに向いているとは思えない。
……でもそれが、オレの存在意義であり生きる理由なのも確かだ。
昨今でよく見かける、魔王が主人公で勇者がラスボスのラノベみてぇに、オレも世界の四つや五つくらい救ってやろう。ついでにモブの一億や十億くらい救ってやろう。
嗚呼、マジで居心地悪い。人選ミスにも程があるってんだ。
002
「大した怪我はしてねぇ。親と逸れたらしいが、どっかいるだろうからこっちで暇なやつに探させとけ」
仮免許取得試験、二次試験。裂那は妙に顔面の濃い子供を他の受験者に任せ、何故子供がいたのか不可解な工業地帯へと戻ろうとした、そのとき。
会場の壁が爆発し、黒煙を上げ始めた。
「あん? なんだよ」
裂那を含め、受験生達は警戒しながら爆発のあった方に注目する。
「っ! ギャングオルカ……」
煙が晴れてくれば、そこから侵入してきた者の名を誰がが言うと、それを聞いた多くが騒ぎ始める。
「……いや、誰だよ。とりあえずヴィランってことでいいんだな?」
周囲の反応に引きながら、裂那はギャングオルカと呼ばれたものへと飛びかかった。全身金色の人間はどうしても目立つため、その目はしっかりと裂那を捉えている。
「誰だか知らねぇが、邪魔だからすっこんでろ」
『ヴィランが姿を現し、追撃を開始。現場のヒーロー候補生は、ヴィランを制圧しつつ、救助を続行してください』
「フンッ!!」
裂那の拳を強引に薙ぎ払い、弾き飛ばす。
叩きつけられたボールのように岩の地面をバウンドし、裂那は地に落ちた。
「撃てぇ!!」
追い討ちをかけるように、部下達が腕につけた銃のようなものを裂那に向け、液体状の何かを発射する。
「いってぇじゃねぇかクソ野郎!」
「意外としぶといな。……だが、平和の象徴とはその程度か!!」
裂那は回避のために上空へと跳躍する。が、当然のように眼光と銃口は即座に上へ向く。
「危ねぇ!」
再度裂那に放たれた弾は巨大な氷によって防がれ、裂那は氷の上で轟に、横抱きの姿勢で受け止められた。
「大丈夫か? 一人で突っ走るな」
「うっせぇ邪魔すんな。あいつはこの神刺裂那様のご尊顔に砂付けやがったんだ。蹴って殴って踏み潰す」
降ろした轟には目もくれず、裂那は氷の塊を蹴り飛ばし、ショットガンのように面の射撃を放つ。
「これしきの攻撃ぃ!!」
ギャングオルカの個性、シャチの能力である超音波で、氷が当たる前に粉々に砕かれてしまう。
「ぶん殴られろ!!」
砕けた攻撃すらあくまで陽動。裂那が紛れて飛び込み、拳が脳天を叩こうとするが――
「ふぅーきぃーとぉーべぇ!!」
――まるで爆風のような暴風が、部下達と共に裂那を吹き飛ばした。
「ヴィラン乱入とかっ! なかなか熱い展開にしてくれるじゃないっすかぁ!! ……っ!!」
「――っ!」
味方を吹き飛ばしたことなど露知らず、暴風を起こした夜嵐と轟は睨み合っている。
「このアホハゲ!
二度目の不時着に、明らかに気を悪くさせた裂那が叫ぶも、暴風が相まってかその声は届かない。
氷が通じないと判断した轟が、次は炎を放つが、夜嵐が追加で放った風が炎を吹き飛ばし、風は炎を熱で浮かされ、……互いに足を引っ張り合い、その攻撃は全く届かない。
「なんで炎だ! 熱で風が浮くんだよ!!」
「氷結を防がれたからだ! お前が合わせてきたんじゃねぇのか!! 俺の炎だって風で飛ばされた!」
「あんたが手柄を渡さないよう合わせたんだ!」
「はあ!? 誰がそんなことするかよ!」
「するねぇ!! だってあんたはあの! エンデヴァーの息子だ!!」
「……さっきからなんなんだよお前。親父は関係ねぇだろ!」
粗末な口喧嘩が始まり、思わずヴィラン役達も呆れて立ちすくんでしまっている。
「あー、もうお前らうるせえ、耳障りだ」
「「アアッ!? 『『俺たちは土下座してる』』っ!?!?」」
唐突に、不自然に飛び出た己の言葉に従うように、轟と夜嵐は姿勢を整え、地に額を押し付けるように身を縮こませた。
003
「何を、お前まで手柄をっ!」
「うるせぇっつったのが聞こえなかったのか? 邪魔だから視界から消えてろよ。――
叫ぶ夜嵐を無視して、裂那は魔法少女を呼び出した。
「呼ばれちゃほいほいとついて来ちゃうのがこの私! 殺風景の魔法少女――
しかし魔法少女と呼ぶには、些か地味な格好だ。ボロ布のような麻色のワンピースを身につけ、ステッキのように握り締めた棒はただの木の角材。
「絵狩、お前は雑魚どもを黙らせろ。オレはあのイルカをぶん殴る」
「お任せを〜!」
まるで槍でも振り回すかのように角材を振り回して逃げ惑うギャングオルカの部下達の意識を蹴散らす。
――殺風景も殺風景。
短調な絵面で、地味な攻撃で、風も鳴り止み、色彩もモノクロになったかと錯覚させるほどの殺風景な戦場。
「イルカじゃないシャチだ! オルカだ!!」
「うるせえうるせえ黙って殴られろクジラ野郎!」
対照的に、武器を使うでもなく個性を使うでもなく殴り合っているギャングオルカと裂那の方が、幾らか見栄えしている。
「まろやかジューシーに死ね!」
「シャチは食物連鎖の頂点! 食べるなら水銀の汚染に気を付けろ!!」
「蝶のように死に蜂のように死ね! 棒に当たって死に、木から落ちて死に、鳴かずば撃たれまいと思いながら死ね!!」
「羽虫でも犬でも猿でもキジでもない! シャチだ!!」
「シャチフレーク!!」
「シャチじゃないシャケだ!! 間違えたシャチだ!!」
「シャチに小判!!」
「猫でもないわぁ!!!」
まるで漫才のように叫び合いながらの、拳の横行。会話の中身とは裏腹にその拳は全力全開で、そこに無粋な殺意は欠片もなく、あるのは怒りの促しと発散。
「サーモン危うきに近寄らず死ね! タコは投げられて死ね! マグロ暁を覚えず死ね!! サメ骨髄に徹して死ね!!!」
「シャチだと言っているだろうがぁ!!!」
「シャチ猫を噛んで死ね!!」
「シャチだっ!? シャチだぁぁああ!!」
両者クリーンヒット。互いが互いの顎を打ち砕かんと拳が命中した。
……が、それもお互い大したダメージにはならず、殴り合いを続けようと、機能をやめた脳を放棄して腕を振るう。
「「アンッ!?」」
そこへ、炎と風が飛来して、ギャングオルカが炎の渦へと閉じ込められる。
「うおおおお!! やったっす!!」
「そのまま仕留めろ!!」
相変わらず土下座の姿勢のままで叫ぶ二人に、裂那は呆れた様子でため息を吐く。
「……なんでお前ら仲良ししてんだよ。白けたぜクソが」
裂那もギャングオルカも、疲れ果てたように地面へと腰を落とす。
「ケロォ!!」
「スマーッシュ!!」
「実体音響、
避難が概ね片付いたのか、次々と受験生達が絵狩に加勢してギャングオルカの部下達を仕留めて回る。
「いっきますよ〜! まとめて射止める! 殺戮風情!!」
幾ら倒しても拉致があかないと、絵狩は戦法を切り替えた。さっきまでが角材を武器に戦う接近戦なら、今度は魔法を使った遠距離戦。
現れた鉛色の球体が絵狩の周囲を衛星のように周り、その直径を広げていく。
「うっひゃひゃひゃ! 私名物、枯れ尾花! 風情も幽霊も例外なく殺戮します!!」
鉛色の球体が、鉛色の線になって場を駆け巡る。次々と部下達の武器を破壊し、防具を破壊し、有様を台無しにし尽くす。
と、ここで。
もうひと踏ん張りだと受験生達が気合を入れ直したタイミングで、終了を告げるブザーが鳴った。
『えー、ただいまを持ちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。誠に勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程終了となります』
「ちっ、面白くねぇ。おいシャチ馬鹿野郎、喧嘩続けんぞ」
「くッくく、望むところだ!」
轟、夜嵐による炎の渦が晴れると、ギャングオルカと裂那は拳を構え直す。
『やめてくださーい! ……集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ、他の方は着替えて待機で、お願いします。……本当に喧嘩はしないでくださいね?』
004
三十分ほどが経過し、怪我人の治療、点数の集計が終了した。
『えー、みなさん。長いことお疲れ様でした。これより発表を行いますが、その前に一言、採点方式についてです』
一箇所に集められた受験生達は、緊張した顔つきで、一秒でも早くの発表を待ち望んでいたが、すぐに発表とは行かなかった。
『我々ヒーロー公安委員会と、HUCの皆さんによる、二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり、危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています。とりあえず、合格者の方は五十音順で名前が載っています。……今の話を踏まえた上で、ご確認ください』
スクリーンに表示された名簿を、受験生達は穴が空くほどに注視して己の名を探す。
「あ、ボク受かってる。きょーかも」
「……ウチより早く見つけるなよ」
「自分で言うのはなんかあれだが、オレが受かってんのはミスじゃねぇのか?」
黄彩、響香は当然のように合格し、後半は喧嘩していただけの裂那も、なぜか合格していた。
キャラ紹介
殺風景の魔法少女――
地味系女子を極めきった魔法少女。裂那や太陽、名無しの女のように派手な戦い方をする面々に紛れ込むように、一人だけ絵面が地味で浮いていることが多い。
テンション高めのキャラは後付けのキャラ作りで、自室では前髪を下ろし、メガネをかけ、色の少ない表紙の小説を読んでいるような日陰の住人。
実力は魔法少女の中では中堅。名無しの女の処刑を受けた一人である。