芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第六十話 試験日の合否飛語と吸血至極

001

 

 

 

 合格発表がされ、次々と雄英生が「あった!」と名前を見つけ喜びの声を上げる中、轟、爆豪の名は無かった。そして当然のように、士傑高校の夜嵐の名も。

 

「轟っ! ごめん! あんたが受からなかったのは、オレのせいだ! オレの心の狭さの! ごめん!!」

 

 轟焦凍の父、エンデヴァーとちょっとした因縁のある故の、あの小競り合いだ。それ故の不合格を、いつもの勢い任せのものではない誠心誠意の謝意を込めての謝罪する。

 

「……元々俺の撒いた種だし、よせよ」

 

「けどっ!」

 

「お前が直球でぶつけて来て、気づけたこともあるから」

 

 あるものは喜び、あるものは顔を伏せる中での異質な光景に、二人へと注目が集まる。

 

 

「両方ともトップクラスであるが故に、自分本意な部分が仇となった訳である。――ヒエラルキー崩れたり!」

 

 峰田の最低な言葉に、飯田からの制裁が降ったりした。

 

『えー、続きまして、プリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通しておいてください』

 

 試験官である黒服の男達から、一人一人名を呼ばれ、詳細に分析された結果が手渡される。

 

『合格ラインは50点、減点方式で採点しております。どの行動が減点につながったのか、下記にズラーっと並んでます』

 

 尾白で61点、緑谷71点、瀬呂84点、飯田80点、八百万94点など、合格者達の中でも点差はバラバラであった。

 

 そして黄彩は、80点。

 

 飯田は《応用が効かない》、緑谷は《行動前の挙動》などが主な減点要因であった。

 

「うにゃ、納得いかない……」

 

 黄彩の減点要因は全て、《試験概要を理解しましょう》である。20回同じ理由で一点減点されている。

 

「まあ、黄彩にはある意味厳しかったかもね。マジの怪我人使うわけにもいかないし」

 

「む〜。……あ、黄金の国(ハートフルピースフル)は何点?」

 

 響香に抱きつきながら黄彩が尋ねると、裂那は無言で紙を手渡した。

 

「えー、なになに? 55点、……言動が荒々しい、行動が破壊的すぎる、気性が荒い、緊張感が欠ける言動。……ほとんどその口が原因じゃん!」

 

 黄彩の受け取った紙を響香も見て、思わず突っ込む。

 

「うっせぇ。どうしようもねぇだろこんなもん。作ったやつに文句言えってんだ」

 

「そーだそーだー」

 

「……いや、作ったのお前だろうがショタ親父」

 

 裂那の疲労感のにじみ出るツッコミに黄彩は「ウフフ」と微笑み返した。

 

『えー、合格した皆さんはこれから、緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、ヴィランとの戦闘、事件事故からの救助など、ヒーローの指示がなくとも、君たちの判断で動けるようになります。しかしそれは、君たちの行動一つ一つに、より大きな社会的責任が生じるということになります。……皆さんご存知のとおり、オールマイトと言うグレイトフルヒーローが力尽きました。彼の力は、犯罪の抑制になるほど、大きなものでした。……新たな象徴として名乗り出た黄金の国(ハートフルピースフル)神刺裂那や、どういうわけかヴィランのみを殺す殺人鬼、巻解使駆などが現れて来てはいますが、それでも心のブレーキの緩んだものはこれからグッと増えていきます。均衡が揺るぎ、世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が、社会の中心になっていきます。次は皆さんがヒーローとして規範となり、抑制ができる存在とならねばなりません。今回はあくまで、仮免許。半人前程度に考え、各々の学舎で、さらなる精進に励んでいただきたい!』

 

 開始時の眠気隠さぬアレとは別人なのではないかと思うほどに長々と語る話は、まだ続く。

 

『えー、そして不合格となってしまった方々。……点数が満たなかったからと言ってしょげてる暇はありません! 君たちにはまだチャンスが残っています。三ヶ月の特別講義を受講の後、個別テストで結果を出せば、君たちにも仮免許を発行する予定です』

 

 続いた話に、いつも以上に表情の消えていた轟や、テンションの虚数な夜嵐、怒りに身を任せ暴れ出しそうだった爆豪が顔を上げる。他にも合格しなかったもの達から歓声が上がった。

 

『今私が述べた()()()()に対応するには、より質の良いヒーローがなるべく多く欲しい。……一次試験は言わば落とす試験でしたが、選んだ百名はなるべく育てていきたいのです。そういうわけで、全員を最後まで見ました。……結果、決して見込みがないわけではなく、むしろ至らぬ点を修正すれば、合格者よりも優れたヒーローになりそうな者ばかりです。……学業との並行で、かなり忙しくなると思います。次回、四月の試験で再挑戦しても構いませんが……』

 

「当然!!」

 

「お願いします!!」

 

「……」

 

 三名とも、疲労を忘れてやる気は十分だ。

 

 

 

 とまぁ、ともあれかくあれ、仮免許取得試験の前工程終了。笑う者あり涙する者あり、しかし決して、人生における無駄な一歩ではなかった。

 

「ねぇきょーか、ボクお腹すいた。帰りにコンビニ寄ってこーよ」

 

「……黄彩、もうちょっと空気読もっか。あとウチじゃなくて相澤先生に言って」

 

 

 

002

 

 

 

 一方その頃、とでも言おうか。

 試験会場の近くの路地裏でのこと。

 

『やっとつながったぁ。どこで何してる、トガ』

 

「素敵な遊びをしていましたぁ」

 

 士傑高校の生徒に紛れ込んでいたらしいトガヒミコが、ヴィラン連合と連絡を取っていた、

 

『定期連絡は怠るなよ。一人捕まれば全員が危ないんだ』

 

「大丈夫なんです。私は今まで見つからずに生きて来たので。それに有益でした。弔くんが喜ぶよぉ! 出久くんの血を手に入れましたぁ!」

 

 電話を一方的に切り、被身子は口角を吊り上げながら、ガラス瓶の中の一滴の血を眺める。

 

 

 

003

 

 

 

 その日の晩。皆疲労に身を任せて眠りについた頃。

 

「ウフフ、少しぶりだね。吸血の人」

 

「遊園地のとき以来ですねぇ、黄彩くん。私は渡我被身子です。ぜひそう呼んでください。トガ、でもいいですけどね」

 

 雄英の厳重なセキュリティ下にあるはずの敷地内、それも寮の中庭で、被身子と黄彩は対面していた。

 

「ウフフ、やーだ。だってボクと君、気は合いそうだけど違えそうだもん」

 

「気違いはお互い様です」

 

 微笑みあいながら、ナイフと彫刻刀を向け合うトガヒミコとシトリング=ラフィ。

 

「じゃ、やろっか」

 

「ええ、始めましょう」

 

 ナイフと彫刻刀。刃物と刃物が、音も無くぶつかり合う。

 そこに一切の感情はなく、あるのは義務感と優越感と一欠片の友情。

 成長した姿といえども、黄彩の身体能力は所詮黄彩。殺人鬼にしてヴィランであるトガヒミコとは、その手足に天と地ほどの差がある。

 

 一度の足音もなく、一つの足跡も残さず、口を三日月のように歪め、瞬きを忘れられた眼は血走り、そして切れるものは一切無し。

 

 

 言ってしまえば、これは暇つぶしのようなもの。あるいは夜食感覚。やり足りない被身子が試験中にさり気なく堂々と黄彩に喧嘩を売り、同じくやり足りない黄彩が喧嘩相手を買って出た。

 

 殺人鬼が殺人を抑え、芸術家が芸術を抑えての試験。欲求不満を解消するように、被身子は己を遺体とするように、黄彩は己を作品にするように、自己嫌悪に自愛を掛け合わせて、好きも嫌いも綯い交ぜに掻き回す。

 

 十五分ばかり、静寂な攻防が続けば二人の手足は止まった。

 

「悪くありません。使駆くんよりずっと楽しいです。血沸き肉踊る気分です!」

 

「ボクもボクらしくなく楽しいよっ! 肉が沸き血が踊るっ! 今なら殺人鬼にだってなれそうだ」

 

「ふふ、おすすめはしません。響香ちゃんが泣いちゃいますよ」

 

「それはダメだね。あーあ、最悪だ。踊る血が凍りついた気分だよ。……肉が冷めた。ボクは寝る」

 

「今度は四人で水族館に行きましょう。私、サメと一緒に泳ぎたいです!」

 

「ウフフ、髪からも血の匂いがする吸血の人とじゃ、すぐに水槽が血みどろだよ」

 

「それはいけませんね。出禁になっちゃいます。じゃあ動物園にしましょう。チーターと一緒に短距離走です」

 

「うん、それがきっと良い。きっと楽しい」

 

「それじゃあ、今日のところは帰ります。夜をお楽しみに、黄彩くん」

 

「ウフフ、彼によろしくね、吸血の人」

 

「バイバイ」

 

「ばいばい」

 

 

 同時刻、演習場で緑谷と爆豪が喧嘩をしたことが話題になったが、そこに黄彩と被身子のことは全く出て来なかった。

 

 

 

 




 仮免許篇、完!
 なんかすっごい長かった気がするなぁ。
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