第六十一話 三年生の事故紹介と集団手合
001
仮免許試験を終えた一年A組に知らされたのは、緑谷と爆豪の謹慎処分だった。
とまぁ、黄彩がそんなことに興味を持つはずもなく。それから三日後。
「あーー……。あーー……」
珍しく目の下に隈を作り、まるでゾンビのように呻き声を上げながら、響香の背負われていた。
「ねえねえ、黄彩君どったの?」
「あー……」
「遅れて来た全身筋肉痛だってさ。後でリカバリーガールのとこに連れてく」
「ふーん。へー……」
響香の話を聞き、芦戸は悪どい笑みを浮かべた。
「それ!」
それは動けない者への嫌がらせの定番、くすぐり。
「あにゃっ、……なに」
「あっれぇ、思ってた反応と違う……。子供ならみんな効くと思ってたのに!」
「うにゃ、ボクを子供扱いしないで。口の聞けない身体にするよ」
「ウチの背中で物騒なこと言うな。席についたから下ろすよ」
「うん〜」
響香に地に下された黄彩は、痛む身体に鞭を打って腰を椅子につけ、机に突っ伏した。
002
「おい有製、サボるよかマシだが、寝てるだけなら欠席扱いにするぞ」
「い〜よ〜。そんなことより疲れたし寝た……」
「「「「寝た……」」」」
黄彩の寝落ちと共に、朝のホームルームが始まった。
「……おはよう。じゃあ緑谷も戻ったところで、本格的にインターンの話をして行こう」
――インターン。
簡潔に言って仕舞えば、職場体験のグレードアップ版であり、実際に働いたり訪問したりすること。
だが、そんな基本的なことを説明する気は相澤にはないようで。
「じゃあ入っておいで」
と、ドアの方に声をかけた。
「職場体験と、どういう違いがあるのか。直に経験してる人間から話してもらおう。心して聞くように」
やって来たのは、現雄英生でトップに君臨する三人の三年生。
「通称、ビック
つぶらすぎる瞳とミスマッチな、筋肉質な肉体の光属性な男子生徒に、目と耳が尖った威圧的な、
これまでの経験からこれらを即座に見抜いた響香は、黄彩の好みそうな二人を見て辟易とする。
「じゃ、手短に自己紹介よろしいか? まず、
相澤に指名された、闇属性な男子は何も言わず、ただ思いっきり睨みつけた。A組一同は怯え鳥肌を立てる。
「…………だめだ。ミリオ、波動さん。じゃがいもだと思って臨んでも、頭部以外が人間のまま、依然人間にしか見えない……。どうしたらいい……、言葉が、出てこない……」
意外すぎる言動に、畏怖も忘れ皆々首を傾げる。
「頭が、真っ白だ……。辛い、帰りたい……」
「「「「ええ……」」」」
ただの人見知り、あがり症らしい。
「あー! 聞いて天喰くん! そう言うの、ノミの心臓って言うんだって! ねー人間なのにねー! 不っ思議ぃー!」
完全に壁の方へ顔を向けて震え上がっている天喰をまるで嘲笑うかのような言動を、そしらぬ顔で美少女は放つ。
「彼はノミの
突如、まるで優等生のように話し始めたが、しかし響香の目が節穴であったというはずもなく、彼女は「けどしかし」と、その場から動き出す。
「ねえねえ、ところで君はなんでマスクを? 風邪? お洒落?」
「これは、昔――
「あらぁ! あとあなた轟くんだよねぇ! ねぇ! なんでそんなところを火傷したの?」
「それは――
「芦戸さんはそのツノ! 折れちゃったら生えてくる? 動くのねぇ!」
「あの――
「峰田くんのボールみたいのは髪の毛? 散髪はどうやるの?」
聞くだけ聞いて答えを聞かず、一網打尽に質問攻めしていく様子に相澤は静かに青すじを立て始める。
「蛙吹さんは雨蛙! ヒキガエルじゃないよね? 耳郎さんはイヤホンジャック! パソコンにつないで操作とかできるの?」
「……やばい、この人蒼さんレベルかもしれない」
「この人と同レベルの黄彩くんのお母さん、むしろ何者?」
響香はこれまで出会って来た天然記念物達を脳内で羅列し、黄彩の母の隣にこの青髪美少女を並べた。
「うん〜、どの子もみんな気になるところばっかり! 不思っ議ぃ〜!」
「うにゃ、……うるさい」
疾風怒濤の不可思議弾幕に、ついに我らが不思議系、黄彩が目を覚ます。
「君は有製くん! 芸術家なのにヒーロー科なのはどうして? どうしてそんな子供みたいな身体なの? 身体は子供、頭脳は大人!?」
「……ふわぁ、……、ん、誰?」
「ん?」
「「……?」」
波動の波動をものともせずに、欠伸をしてからようやく波動を認識した黄彩は首を傾げ、つられて波動も首を傾げた。
「……合理性に欠くねぇ」
疾風怒濤が鳴り止み、すっかり静かになったところで相澤は三人目を睨みつけながら言う。
「ッイレイザーヘッド! 安心してください! 大取りは俺なんだよね!」
光属性な男子は冷や汗を流しながら応じる。
「前途〜?」
静まりかえった空間をさらに真空にしたかのような状況が一瞬で生まれた。
「多難〜っつってね! よーっし! 掴みは大失敗だ〜!!」
一発ギャグが滑り倒した羞恥心を誤魔化すように、光属性くんは腹を抱えて笑った。
「……まぁ、何がなにやらって顔してるよね。特に必修というわけでもないインターンの説明のために現れた三年生だ。そりゃわけも無いよね。うーん、一年から仮免取得、だよね。うん。今年の一年ってすごく、元気があるよね」
光属性くんはクラスの一人一人を見渡しながら、考える。
「うん! 君たちみんな纏まって、俺と戦ってみようよ!」
「「「「え、えええ〜〜!?!?」」」」
急な想定外の言葉に、A組一同は叫ぶ。
「俺たちの経験を、その身で経験した方が合理的でしょう? どうでしょうね、イレイザー・ヘッド」
「……好きにしな」
結局、光属性くんの名前は分からずじまいだった。
003
場所を移り、体育館γ。全員体操着に着替えて集まった。
「あの〜、マジっすか?」
「マジだよねっ」
瀬呂が尋ねれば、光属性くん――通形ミリオは笑顔で答える。
「……ミリオ、やめたほうがいい。インターンについては形式的に、こういう具合にとても有意義ですと、語るだけで十分だ。みんながみんな、上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。……立ち直れなくなる子が出てはいけない」
「え……」
相変わらず顔を壁に向けたままの天喰の言葉への反応は、生徒それぞれ。
「あ〜! 聞いてー知ってるっ! 昔挫折しちゃって、ヒーロー諦めちゃって、問題起こしちゃった子がいたんだよ。知ってた〜?」
芦戸のツノを弄りながら、波動は語る。
「大変だよねー通形。ちゃんと考えないと、辛いよー。これは辛いよー」
「おやめくださいぃ……」
波動と天喰の言葉が、心の暑苦しい部分に火をつけた。
「待ってください。俺たちはハンデありとはいえ、プロとも戦っている」
「そしてヴィランとの戦闘も経験しています! そんな心配されるほど、俺ら雑魚に見えますか!」
常闇、切島の言葉にも、通形は頷く。
「うん。いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だー?」
煽りなのか天然なのか、三人の言葉は常々油を注ぐ。
「お前ら、いい機会だ! しっかり揉んでもらえー!」
相澤の言葉とともに、戦いは始まった。
「近接隊は一斉に囲ったろうぜ!」
「よっしゃ!」
全員、臨戦態勢に入る。
「そいじゃぁ先輩、せっかくのご好意ですんでご指導をっ! よろしくお願いしまーっす!!」
「作品No.33《シトリング=ラフィ》、13《若者》」
「
真っ先に飛び出したのは、成長した姿へと成長、変態した黄彩と響香。そして緑谷だった。
「「んなっ!?」」
そして、響香と緑谷、他にも女子達は思わず足を止めてしまう。
――通形の服が身体を透け、落下した。
「命見知らず、後遺症はなしで行こうね」
お構いなしに、シトリング=ラフィは両腕の刃で斬撃を繰り出す。
回転するように振るわれた凶刃は、しかし一撃も当たらずに通り抜けた。
「ウフフ、なるほどね」
続いて、緑谷の蹴りも響香のイヤホンジャックも、まるで空を切ったかのように通り抜ける。
「すり抜ける個性っすよね。あいっ変わらずチートくさいなぁ」
大人になった響香は
「揃って顔面かよ」
通形は笑って言う最中にも、顔面をテープとビームと酸が貫通する。
「っ待て! 居ないぞ!」
飯田が叫び、攻撃の手を止めさせると、そこには通形はいなかった。
「作品No.06《苦難の左手》」
姿が消えようと瞬間移動しようと、敷地内は黄彩の射程。岩山を削って出た巨大な左手の握り拳が、さっきまでとは別方向に飛来していく。
「おーっと危ない危ない! 君は後ろにも目があるんだね」
「ウフフ、ボクの目は地中にだって届くのさ。傑作No.08《この世で最も不要なもの》」
苦難の左手だったものが、無数の剣へと変化し襲いかかる。が、やはり当たらずに全て地面に突き刺さった。
「ワープにすり抜けって! どんな強個性だよぉ!!?」
追い回し、攻撃したところですり抜けてしまう。近接を得意とする面々も、遠距離を得意とする面々も、攻撃される前から悲鳴をあげてしまう。
「……違う。ミリオの個性は、決して羨まれるような個性じゃない」
「黄彩と同じ、努力と才能と技術でカバーすることで真価以上の力を発揮するタイプ」
「つまりどう言うことアダルト響香ちゃん!!」
「黄彩並の化け物ってこと! あとその呼び方やめろ三奈!! ――実体音響、荒波!!」
響香は前傾姿勢に姿勢を低くし、実体を持つ音の波を通形だけの方向に放つも、透けて地中へと消えていって躱される。
音も酸も超パワーも影もビームもテープも何もかもが通り抜けていく。
「ウフフ、どうしよっかなぁ。
遥かに少ない運動量ながら息を乱している黄彩は、戦場から一歩引いたところで策を練り始めた。