芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第六十二話 三年生の蜜蝋殺人と自己紹介

001

 

 

 

「うう……」

「ゲホッ、ゲホッ」

「あぐぅ……」

 

 死屍累々。あるいは一網打尽と言った様子だ。

 黄彩を除いた全員が腹パンされ、うずくまっている。

 

「あとは君なんだけど、なんだ諦めたのかい?」

 

「ウフフ、そんなわけがないだろう? ボクの響香をこんな目に合わせたんだ。ただじゃ帰さないとも。傑作No.02《失敗》」

 

 黄彩は地面から生えるようにしてできた玉座に腰掛ける。

 

「傑作No.04《ハニードール》」

 

 続けて、黄彩は変態した姿からさらに自分の体を変化させる。

 

――ハニードール。

 黄彩のいくつかある身体のうち、最も幼い子供の姿。幼女は幼女でも、まごうことなくそれは美幼女であった。

 

「ウフフフフフフフ。さぁ、ボクを殴ってごらんなさい? 途端水風船みたいに弾けてボクは即死するのだわ」

 

 既に勝ち誇ったような表情で語る美幼女は、低い視線でミリオを見下す。

 

「うーん、弱ったなぁ。流石にこう言うの、ヴィランでもヒーローでもなかなかいないからなぁ」

 

 相澤も、天喰も、波動も目を丸くしている中、元々丸い目を持つ通形は日幼女へと歩み寄る。

 

「えい」

 

「ギャン!?」

 

 通形は軽めにチョップした。つもりだったが……。

 

「「「んな!!」」」

 

「うわー!?!?」

 

 美幼女が言った通り、その身は水風船のように弾け、血飛沫が飛び散った。

 

「……おい有製、流石に冗談、だよな」

 

 相澤も心配半分、疑問半分に口にすると、案の定あのわざとらしい笑い声が聞こえてくる。

 

「ウフフフフフ、あーあ、ダメだったかー」

 

 と、笑いながら現れたのは黄彩は黄彩でも女体化状態の黄彩であった。

 

「傑作No.04、ハニードールはね、弱さと儚さの作品なんだ。とっても繊細で、壊れやすい。蜜蝋のワイングラスみたいにね」

 

 黄彩は血みどろになった玉座から肉片をかき集めて死体の山にする。

 

「あ、あの、これは」

 

「ウフフ、心配なんていらないぜ。全くわかってたろうに。――傑作No.15《ボク》」

 

 慌てふためく通形を無視して、黄彩は死体の山で工作する。

 

「ウフフフ、三途の川から一本釣りされちゃったよ。ただいま、ボク」

 

「おかえり、ボク」

 

――黄彩をヴィランにできない理由は二つあり、その一つが捕らえておく手段がイレイザー・ヘッド以外にないこと。もう一つが、殺しても簡単には死なないことだ。

 

「「ウフフ。さあ、第二ラウンドだ」」

 

 

 

002

 

 

 

 瞬殺だった。

 

 二人に増えようと、二億人に増えようと、きっと結果は変わらなかっただろう。

 

 黄彩が蘇ったと理解した途端に通形は気を取り直し、それでも加減に加減を重ねた腹パンで黄彩二人を気絶させた。

 

「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど、すみませんね女性陣! っとまぁ、こんな感じなんだよね」

 

「訳わからず、全員腹パンされただけなんですが……」

 

「ボクなんて一回死んだよ。もぅ……」

 

 全員、腹を抑えて話を聞くどころの様子ではなかった。

 気絶した黄彩もすぐに気を取り戻し、一人に戻ることでなんと語っているが、それも響香の支えあってのことだ。

 

 

 十分ばかり休憩を挟み、それから話が再会された。

 

「俺の個性、強かった?」

 

「強すぎっす!」

「ずるいや! 私のことも考えてっ!」

「すり抜けるしワープだし! 轟みたいなハイブリッドですかー!?」

 

 通形の言葉に、何人も食いつく。

 

「いや、一つ! ――、」

 

「はーい! 私知ってるよ個性! ねえねえ言っていい? 言っていい?」

 

 説明しようとしたところを、波動が割り込んできた。

 

「透過!」

 

「……波動さん、今はミリオの時間だ」

 

 そして勢いそのままに、満面の笑みで言ってしまった。

 

「そう、俺の個性は《透過》なんだよね。君たちがワープと言うあの移動は、推察された通りその応用さ。えと、ごめんて」

 

 なぜか遮られた側なはずなのに、頬を膨らませてむくれている波動に通形は謝る。

 

「全身で個性発動すると、俺の体はあらゆるものをすり抜ける。あらゆる、つまり地面もさ」

 

「っは、じゃああれ、地面に落っこちてたってこと?」

 

 あれとは、響香の攻撃すら躱した地中に消えていく技。

 

「そう、地中に落ちる。そして、落下中に個性を解除すると、不思議なことが起きる。――質量のあるものが重なり合うことはできないらしく、弾かれてしまうんだよね! つまり俺は、瞬時に地上へ弾き出されてるのさ。これがワープの原理。体の向きやポーズで角度を調整して、弾かれた先を狙うことが出来る!」

 

「ゲームのバグみたい」

 

「言い得て妙!?」

 

 芦戸の心ない発言に、通形はわずかながらダメージを受けた。

 

「攻撃は全て透かせて、自由に瞬時に動けるのね。やっぱりとても強い個性」

 

「いいや、強い個性にしたんだよね」

 

 蛙吹の言葉に、通形は笑みを深めながら言う。その言葉に、さっき一網打尽にされた一同は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「ウフフ、きょーかが言ってたでしょ。本来ボクの図画工作と同じく、透過の人の個性は戦闘には全く不向きな個性だよ」

 

 と黄彩が語るものの、通形にしても黄彩にしても、弱い時を見ていないが故に理解よりも謎が深まる。

 

「個性発動中は、肺が酸素を取り込めない。吸っても、透過しているからね。同様に鼓膜は振動を、網膜は光を透過する。……あらゆるものがすり抜ける。それは、何も感じることができず、ただただ質量を持ったまま、落下の感覚だけがある。そういうことなんだ」

 

「ウフフフ、重力まではすり抜けられないみたいだね」

 

「うん、そうなんだね! そんな感じだから、壁一つ抜けるにしても、片足以外発動、もう片方の足を解除して設置、残った方の足を発動してすり抜け。簡単な動きにも、いくつか工程がいるんだよね」

 

「あ、そう言う意味じゃ、工程を省略する黄彩とは、個性は似たタイプだけどやってることは逆なんだ」

 

「きょーか、なんかそれだとボクが何にも考えてないみたいになってる」

 

「……考えてるの?」

 

「……きょーかのバカ」

 

「はいはい、ごめんごめん」

 

 響香や黄彩は冗談めかして話しているが、二人以外はその個性の使い勝手の悪さに慄く。

 

「そう、案の定俺は遅れた。ビリッケツまであっという間に落っこちた。服も落ちた。この個性で上にいくには、遅れだけはとっちゃダメだった。……予測! 周囲よりも早く、時に欺く! 何より予測が必要だった。そして、その予測を可能にするのは経験。経験則から予測を立てる。長くなったけど、これが手合わせの理由。言葉よりも経験で伝えたかった。インターンに置いて我々は、お客ではなく一人のサイドキック、プロとして扱われるんだよね。それはとても恐ろしいよ。プロの現場では、時に人の死にも立ち会う。けれども、怖い思いも辛い思いも全てが、学校では手に入らない一線級の経験! 俺はインターンで得た経験を力に変えて、トップを掴んだ! ……ので、怖くてもやるべきだと思うよ! 一年生!」

 

 満面の笑みで語り切ったと言う風の通形ミリオに、拍手が送られる。

 

「そろそろ戻るぞ。挨拶!」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 

 

003

 

 

 

 放課後、職員室。

 

「うちの生徒に、インターンの、()()? まだ募集すら掛けてないでしょう」

 

 根津校長から相澤に、一通のメールが転送された。

 

 内容を要約すれば、つまりは黄彩にインターンに来て欲しいという内容だった。

 

「差出人は、……不可思議(ふかしぎ)可思議(かしぎ)? で、読み方あってます?」

 

「それであってるのさ。一年生が仮免許取得というだけでも異例なのに、その上インターンが依頼された。しかも彼、いや彼女かもしれないけど、ネット界隈じゃそこそこの有名人でね」

 

「……聞いたことの無い名前なんですが」

 

「人呼んで《売らない現代文豪》、ペンネーム不可思議(ふかしぎ)可思議(かしぎ)。ファンタジーに始まり、サイエンスフィクション、ノンフィクション、ホラー、ミステリー、ラブロマンスと、幅広く活動している小説家なのさ!」

 

「……色々突っ込みたいんですが」

 

「一つずつお願いね」

 

「じゃあ、売らない現代文豪とは」

 

「そのままの意味さ。売らない、つまりはお店じゃ売ってない。十分以上に売り物になるだけの内容の小説を、自前のホームページに投稿していて、広告費から収入を得てるみたいだよ」

 

「……まぁ、その小説家からインターンが来たのは」

 

「その辺、残念ながら謎だね。僕としては、君と有製君の判断に任せたいところだけど」

 

「……とりあえず、近々個別で話してみます」

 

「任せたよ、イレイザー・ヘッド」

 

 新たな面倒ごとの予感に、相澤はゆっくりと頷いた。

 

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