芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第六十四話 千葉県の殺伐伐採と雄英歓迎

001

 

 

 

「私達チームの縄張り、つまりここ千葉において、個性という異能は単なる身体的特徴にすぎません」

 

 ヒーロー名銀翼こと、白神彩織は、色とりどりな武装集団を前に不敵に笑いかける。

 

「私の名は白神彩織。九の因果を身に宿し、九の使命を執行します」

 

 彩織が名乗りを上げると同時に、長い銀髪を翼のようにはためかせながら突撃する。

 

 チェーンソー、釘バット、包丁、ナイフ、拳銃、鍬、鎌、バイク、木刀、日本刀、鉄パイプ、スタンガン、警棒。一部どこから調達したんだと突っ込みたくなる武器で武装したヴィラン達の中には異形型や、発動系の個性を発動させて威嚇するものもいるが、しかし攻撃手段として見ていないのがわかる。

 

 錆びた金属を擦り合わせるような不快な音を鳴らすチェーンソーも、降るたびにカラカラと鳴る血の滲んだ釘バットも、刃の欠けた包丁も、何もかもが彩織の拳で、足で、髪で、砕かれ潰され、切り刻まれる。

 

 響く悲鳴。轟く絶叫。あるものは肩から先を殴り飛ばされ、あるものは腰を蹴り砕かれ、あるものは服ごと髪で切り裂かれる。

 

「血の雨、肉の山、臓物の丘。ここ千葉では時々見られる光景ですから、インターンを続けるならこれくらいは慣れてください。……とまでは言いませんがせめて、これらから逃げられるようにはなってください」

 

「ご、っごめん、ちょっとトイレ!」

 

「吐くのならその辺で吐いて構いませんよ。どうせすぐに掃除屋が来ますから」

 

「うにゃ、あいっ変わらず、変なところだよね」

 

 かろうじて死んではいないものの、誰も彼も重症なヴィラン達は彩織に投げられ、道路に山のように積み上げられる。

 

「表は平和そのものですよ。その分裏側にしわ寄せが来ているのですが。イヤホン=ジャック、水をどうぞ」

 

「あ、ありがと……」

 

 結局トイレは見つからず、物陰で胃の中を吐き出してきた響香は彩織からペットボトルを受け取り、口を濯ぐ。

 

「我が家まではもうすぐです。頑張ってください」

 

 

 

002

 

 

 

 黄彩と響香は、とりあえず一週間という期限をもうけ、インターンで千葉に来ていた。

 期限を設けたのは、相澤が千葉について調べ、その危険度を見計らったからだ。その期間も、見誤ってると今の響香ならいうのだろうが。

 

「ここが我が家、チームの溜まり場でもある、《樹生(きなり)第三研究所》です」

 

 血と汚物の臭いが蔓延る道の先に待ち受けていたのは、血のように赤く、窓もドアもない、ただただ四角いビルのようなもの。継ぎ目もなければ、表面はまるでプラスチックのように些細な凹凸も見られず、初めて見た響香にはここが空間を切り落としたようにも見えた。

 

 彩織が三度、壁をノックすると、手の触れた位置から波打つように全体へ光が迸り、人が通れるほどの穴が空く。

 

「これ、黄彩の作品じゃ無いよね」

 

「うにゃ、ボクでも作れないよ。材料も仕組みも、さっぱりわかんない」

 

「ほら、ついてきてください。ここまで来るヴィランはそういませんが、それでも安全と言い切れるほどではないので」

 

 彩織に先導されるままに、黄彩と響香はその異形の建造物へと足を踏み入れた。

 

 入ってすぐの廊下も外と同じく、ただただ赤い床と壁と天井が続いている。

 

「後で自由に出入りできるよう登録しますので、今は逸れないでください」

 

「いや、逸れるって言われても、一本道じゃ……、黄彩?」

 

 黄彩は壁に手を触れると、そこから斜め下方向に穴が開き、階段ができる。

 

「ボク、さっさと不可思議可思議とあってくるね。すぐそっち行くから」

 

 と、言い残し、黄彩は地下へと降りて行った。

 

「ここには色々な資料が保管されていますから、必然的にセキュリティも資料の重要度に比例して肥大化していくのです。と、ここがリビング。暇人達が待ちわびていますよ」

 

 突如として現れた、ステンドグラスの嵌め込まれた木の扉。彩織が扉を開き、響香を招き入れる。

 

「えっと、お邪魔します、でいいの?」

 

「うむ、よく来たの、耳郎響香」

 

 と、声をかけたのは、椅子に座って足をプラプラと振りながら湯飲みでお茶を飲んでいる、黒で統一されたゴスロリ姿の少女。

 

「妾は高天原(たかまのはら)七七七(ななみ)。個性は持たぬが、人類最賢ということになっておる。よろしくな」

 

「えっと、雄英高校一年A組、耳郎響香です。よろしく」

 

 想定外な年下の存在に、響香は動揺しつつも名乗った。

 

 そしてもう一人、七七七の向かい側に座っていた少女が振り向きながら笑って名乗る。

 

「あたしは樹生りんご! よろしくねっ、お姉さん!」

 

 響香より少し長い程度の茶髪にリンゴかサクランボのような髪飾りをつけた、リンゴの柄のTシャツに、桃色のミニスカートの少女。

 

「うん、よろしく」

 

「あと他のメンバーは出払っていたり、引きこもっていたりしますが、あなた達のことは伝えています。もうじき、黄彩と可思議も来るでしょうから、そしたら昼食にしましょう」

 

 彩織は響香の分のお茶を淹れながら言った。

 

 

 

003

 

 

 

 赤い階段を下ると、ドアがあるでもなく直接部屋へとつながっていた。

 

 赤なんてうんざりだと言わんばかりの真っ白な壁と床、天井。住宅の機能の全てを一部屋で果たそうとしているのか、薄いカーテンで囲われただけのユニットバスにトイレ、使われた形跡のないキッチン、メモで戸が埋め尽くされた冷蔵庫、ノートパソコンが置かれただけの学習机に、住人である不可思議可思議が寝転んだ豪奢なベッド。

 

「や、来たんだ。シトリング=ラフィ」

 

 雑に染められたのか、金髪と黒髪がまばらになり、生え際は黒一色という美しさのかけらもない、手入れもされていないボサボサの髪の女性が、スマホ片手に起き上がった。裸族なのか、全裸でベッドから降り、恥じる様子を見せずに黄彩の前に立つ。

 

「ん、服きて。あとお風呂入って。臭う」

 

「は? 私だって女なんだけど。男ならご褒美じゃないの? 女の裸と体臭」

 

 不可思議可思議からは汗の臭いが部屋中に充満しており、女の裸といえども、身体中が痩せ細り骨の浮き出ている体には、色気は感じられない。

 

「美少女に限るって注釈を忘れてる」

 

「私が美少女じゃないっていうのならこの世に美少女なんて一人しか存在しないね」

 

「美少女はお風呂サボらないし髪はもっと大事にする」

 

「シトリング=ラフィだって風呂は嫌いでしょ。あーあ、分かり合えると思ったのになぁ」

 

「ボクは誰かに理解を求めたりしない。いいからお風呂入って着替えて。ボクもうお腹すいた」

 

 いつになく不機嫌になる黄彩。可思議は諦めたようにため息をつき、スマホをベッドに放り投げた。

 

「はいはい。ほんと、はいはいってやつだよあんた。絵が下手だったら会いたくなかったよ」

 

「ボクだって、きみみたいな綺麗でなく可愛くなく美しくないやつなんて、小説が面白くなかったら関わりたくなかった」

 

「……」

 

「……」

 

 ジッと、静かに睨み合うこと五秒。表情そのままにお互い背を向け、黄彩はここまで来た階段へ、可思議は浴槽のカーテンの奥へと消えていった。

 

 

 

 




キャラ紹介
不可思議(ふかしぎ)可思議(かしぎ)
本名不明。年齢不詳。推定、十代後半。
無個性。

 ネットに小説を投稿し、広告料で収入を得ている、通称《売らない現代文豪》、モットーは『文句があるなら金を払え』である。
 なお、投げ銭など含め、金銭を彼女に払う手段はないし受け取る気もない。

 無個性であるがゆえに、幼少から決して楽な人生は歩めておらず、その心はすぐさま壊れていった。生まれつき体が弱く、それに引き摺られるように心も弱く、親は相当に苦労して子育てした。

 小説を書き始めたのは中学二年生のときで、その一年前から学校を不登校になり、隙を持て余したが故の軽い挑戦のつもりだった。
 しかし予想に反し、怒涛の勢いで多くのものに見られ、ランキング独走、処女作から書籍化を果たしたものの、しかしそこでまた悲劇が起きる。
 嫉妬した他の小説書き一名によるアンチな感想に可思議は心を痛め、既に売り出された小説を最後に小説は絶版に。以降は全てネットに投稿されるのみとなった。アニメ化、ドラマ化、映画化などと話が来るものの、一円でも金銭が関わる限りは可思議がその話を受けることはない。――それら業界の裏側で呼ばれる名は、最も死ぬべき小説家。

 執筆は何時何処でも急に書き始めるため、食事中や入浴中など、周りの目も自分の身体もお構いなし。スマホ、パソコン、手書きとツールも問わないため、過去には道路にチョークで書き始めたこともあった。

 身体が弱いのに何故か水風呂を好み、風呂は嫌いなのに水風呂には数時間入っていることもある。

 
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