芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第六十五話 千葉県の鉄塔崩壊と神罰対象

001

 

 

 

 響香は彩織率いるチームと共に昼食を終えると、コスチュームに着替えて外に出た。一方で黄彩は可思議と作業するらしい。

 

「食後の散歩ついでに、もう少し千葉を紹介します」

 

 彩織の格好も二人をここまで連れてきたときの私服ではなく、白いワンピースに、手足と胸あたりに鎧のようなものがついたコスチュームに身を包んでいる。

 

 先導する彩織についていくと、さっき道中に死体の山のようになっていたところは完全に清掃されていて、血痕の一つも残っていなかった。

 

「あの、来るときのあいつらってどうなったんすか?」

 

「その辺は掃除屋の仕事ですね。千葉ではああいった惨状の処理は警察ではなく、掃除屋と呼ばれる専門家達が担っています。ヴィランは専用の病院か警察へ届けられてますよ」

 

 しっかり響香の吐瀉物まで片付けられてるし、悪臭も一切なくなっている。ただ水で流したというわけでも無いようで、水溜まりができたり、アスファルトが濡れたりしているわけでも無い。

 

「前もって言っておきますが、千葉の裏側においてああいった襲撃事件はよくあることです。というのも、表が平和過ぎて外からヴィランが集まるんですよね」

 

「平和、過ぎて?」

 

 平和というのは、それこそヒーローが目指す世界と言っていいもの。

 

「魔術探偵八ツ星があるおかげで、消しゴム一つから人間まで行方不明という概念は千葉から消えました。私やカインが殲滅したので、例えばヴィラン連合のような組織は表社会から消えました。他にもりんごちゃんや七七七の情報網で小さな事件まで取り締まることができます」

 

 千葉からは、事件そのものが打ち消され続けてる。故にヒーローの数も減り、外から来たヴィランはたった一つの脅威を恐れて裏へと誘い込まれ、そして群れを為す。

 

「なので、ヴィラン殺しやヒーロー殺しのような異名を持つヴィラン、犯罪者はここにはいません。いるのは大半、がっ!」

 

 と、彩織が急に立ち止まって真横に拳を振るう。

 

「グベラッ!?」

 

「こういう不良崩れヴィラン未満のアホか、私たちでも認知できなかったマジでやばい化け物です」

 

 メリケンサックを握りしめて殴りかかってきた男の顔面を殴ったあと肘打ちで地面に叩きつけ、拳をメリケンサックごと踏み砕く。

 

「うわ……」

 

「さ、行きますよ。私たちがいると掃除屋が仕事できませんから」

 

「忍者かなんか何すか、その人たち」

 

「その認識で構いませんよ。顔を合わせることはありませんから」

 

「はあ……」

 

 響香はこの街の異常さに目眩を覚えつつも、砕けた拳に悶える男から目を逸らして彩織の背を追う。

 

 

 

002

 

 

 

「オォッラァァアアア!!!」

 

 ビルが根元から崩れていく。辺り隣のビルも巻き込みながら、一人の男のかかと落としで地盤も岩盤ももろとも粉砕してしまう。

 

「あの、あれってまさかさっき言ってたマジでヤバいやつ、だったりします?」

 

「いえ、あれはカインの仕業ですね。あーあー、もったいない」

 

 状況に反して、彩織のリアクションはひっくり返った弁当を見たような薄さ。

 

「よく見ていた方がいいですよ。あれが私の恋人、カインです」

 

 彩織は微笑ましいものを見る目で、崩壊していくビルを眺めている。

 

「纏めてぶっ飛べぁ!!」

 

 壊れたビルがさらに壊れ、壊れた残骸がさらに壊れ、壊れた破片がさらに壊れて、破壊し尽くした男の姿があらわになる。

 

 白と銀色の彩織とは対照的に、その男の姿は赤と黒。

 何処ぞの轢殺専門の殺人鬼と同じように、顔面に異国の文字の赤い刺青が彫られていて、服装はジーンズにパーカーというおそらく普段着。

 

 小石ほどに細かくなった破片に混ざって、全身に負傷した、ペストマスクのようなものを着けたヴィランが響香の近くにも落下する。

 

「ヒッ!?」

 

「……イヤホン=ジャック、あなたヒーロー志望なのでしたらこれくらいで怯えていてはいけませんよ」

 

「無茶言わないでください!!」

 

 足元が血と小石、時々ガラス片で染められていく現状に怯えていると、彩織が呆れた眼で突っ込む。

 

「おー彩織、来てたか」

 

「ええ。こっちはインターンで来たイヤホン=ジャック、耳郎響香です」

 

「いん、なんだ? まあいい。俺はカインだ。彩織ともどもよろしくな」

 

 変人たちにインターンはそこまで聞き覚えがないのか首を傾げながら、響香に笑いながら名乗った。

 

 カインは両手にヴィランを引きずっており、集団のトレードマークなのか引きずられる四人ともペストマスクをつけている。

 

「んなことよりこいつらだよこいつら。なんとか八宝菜って、座薬? とかなんとかども。ついにこっちまで来やがったぞ」

 

「八宝菜が座薬? 千葉ってそんなのまでいるんすか?」

 

「カインも響香も違いますよ。死穢八斎會(しえはっさいかい)、ヤクザや極道と呼ばれる旧時代の遺産です。例の事件以来活動が活発化しているので警戒していましたが、表から入り込んでくるのは想定外でしたね」

 

 この現場はチームの本拠地周辺のような一般人の近寄らないような場所ではなく、数分歩けば駅のあるような、一般人のいる都会。

 神野区での事件の時のバーも、紛れ込むような場所にあったが、今回はそれ以上に堂々とビル一つをアジトにしていた。

 

「一度戻りましょう。七七七に報告と指示を仰ぎます。カインも来てください」

 

 

 

003

 

 

 

「死穢八斎會。

 

「指定ヴィラン団体一つで、

 

「昔気質の極道、天然記念物などと呼ばれておる。

 

「ヒーローのこう隆盛によってこういったヤクザ組織のほとんどは摘発、解体されておるのだが、

 

「死穢八斎會は小規模ながらも若頭を中心に活発に活動しており、

 

「他の犯罪組織との交流の多さも相まって、裏社会に根強い影響力をもっておる。

 

「今はオールマイトの引退、オールフォーワンの逮捕をきっかけに勢いづき、

 

「ヴィラン連合との接触なんかもしておる。

 

「さてその若頭なのだが、名は治崎廻(ちさきかい)、ヴィラン名、オーバーホール。

 

「重度の潔癖性や洗脳、人心掌握に優れているなど、まぁ語れることは多いのだが、

 

「そんなものリーダーたちは興味なかろう?

 

「其奴の最終的な計画は、個性によって成り立つ現在の社会を根本的に変革すること。

 

「第一段階では組長の孫娘、壊理の個性である巻き戻しを応用して作られた個性を一時的に消滅させる銃弾を開発し、

 

「試作品の銃弾と個性を強化する薬品を市場にばら撒くことでの名売りと資金集め。

 

「そして第二段階では、資金を活用して作るより高性能な個性を消す銃弾と、それを戻す血清の量産体制を構築。

 

「尚、材料には壊理という女子(おなご)の細胞を使用するため、他の誰にも開発に割って入ることは不可能って寸法だの。

 

「個性を消す銃弾をヴィランに、血清をヒーローに売り捌くことでさらに資金を集めるのが第二段階。

 

「第三段階ではさらに集まった資金によって死穢八斎會を裏社会の頂点に立たせ、

 

「同時に、個性を破壊する力により、個性によって成り立つ超人社会の在り方を根幹から揺らがせていく。

 

「それが現在の死穢八斎會の計画であり、その計画は量産前の完成品を作り上げるところまで進行しておる。

 

 

 チマチマとお茶を飲みながら、七七七は死穢八斎會について語った。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいや! なんでそこまで知ってんの!?」

 

 長話に疲れたようで、カインが出した羊羹にかぶりついている七七七に響香は叫ぶ。

 

「言ったであろう? 妾は人類最賢。たかだかヴィラン程度の情報、妾にしてみれば羊羹を作るよりも容易いことよ」

 

「七七七テメェ、羊羹なんて作ったことねぇだろ」

 

「作らずともわかるから最賢なのだよ、かのんちゃん」

 

「ぶっ殺すぞカインだ」

 

「っ!」

 

「くふふ、おお怖い怖い」

 

 本名にちゃん付けで呼ばれただけで、カインは髪が逆立ちそうなほどの殺気を放つ。

 響香が鳥肌のたった腕をさすっていると、彩織が殺気の訳を聞かせる。

 

「カインの本名、祈和(いなぎ)歌夢(かのん)というのですが、その名前が女の子みたいで心底嫌いなんです」

 

「え、それだけの理由で……?」

 

「過去にカインをキャノンちゃんと呼んだ癒し系ツインテールの女の子は、そのツインテールが九尾に増えるという悪夢のような仕打ちを受けました」

 

 彩織の話を聞いてるうちに殺気は止み、響香たちの分の羊羹とお茶の用意をしていた。

 

「我が家の台所はカインが牛耳っています。美味しいご飯が食べたければ、是非とも仲良くすることをお勧めします」

 

「……あんな光景見せられて喧嘩売るとか無理っす」

 

 

 

 




キャラ紹介
高天原(たかまのはら)七七七(ななみ) 十四歳、女。
無個性。

 小学生の頃は人類最賢の小学生の名でテレビ出演したりもしていたが、中学校は義務教育との方向性の違いにより中退。今は私立裏影高校という学校の理事長をしながら、チームの一因としても活動している。

 情報網の広大さは未知数だが、噂では太陽系外にまで届くという噂。

 チームは全員無個性で、大半は無個性であるが故に決して人並みの学生時代を過ごせていないが、七七七の場合は個性も無個性も関係なく多を圧倒し過ぎたが故に生きにくい学生時代を過ごしていた。


 チームの古参メンバーで、彩織とは七七七の方から接触。
 知力と暴力と財力と権力の戦争の末に叩きのめされ、それからチームに属することになった。

 所謂ゴスロリという格好を好み、それ以外だと着物やドレスなど、どれも動きにくい服装ばかり。

 のじゃロリを幾らか若くしたような口調は、テレビ出演時のキャラ作りがそのまま染み付いたもの。
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