芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第七話 芸術家の不在演習と侵入事件

 

001

 

 

 

 マスコミ侵入事件の翌日。再びヒーロー基礎学の時間だ。

 教壇に立った相澤が生徒に説明を始める。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助訓練だ」

 

 コスチュームの着用は各自で判断し、訓練場まではバスで移動する。すぐに準備を始めろと生徒達に告げた。

 

 自分のコスチュームを手に取りながら、今回も大変そうだと呟く上鳴に対して、切島は人命救助こそがヒーローの本分だと熱を入れる。

 

 

 

 

「水難なら私の独壇場、ケロケロ。……そういえば響香ちゃん、有製ちゃんは今日は参加しないのかしら」

 

「黄彩なら眠いとか言って、どっか行ったよ。多分保健室か美術室」

 

「もったいないよねー。せっかく強い個性なのに」

 

「まあ、黄彩の個性はメンタルがもろに作用するから。やる気がない時の黄彩はほとんど無個性だし」

 

「やっぱり、個性が使えない状況でも戦えるようにならないとまずいよね!」

 

 そう言ったのは透明化の個性を持つ、葉隠透。

 

「葉隠がどうやって入試実技受かったのかって、謎だよね」

 

 響香のセリフに、その場の女子達が首を縦に振った。

 

「えへへ、ひ・み・つ!」

 

 

 

002

 

 

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!」

 

 準備を済ませてバスが待機している場所へ行くと、飯田がキビキビとした動きでクラスメイトを並ばせていた。

 しかし乗り込んでみればバスの席は対面するタイプで意味がなく飯田は落ち込んでいた。芦戸が「意味なかったなー」と心ない言葉をかけたりした。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。……緑谷ちゃん」

 

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 移動中、こんな会話があった。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

 その一言で緑谷が滅茶苦茶に慌てた。

 

「そそそそそうかな!? いやでも僕はその――

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 偶然にも一人のセリフが緑谷は救われたようで、そっと胸を撫で下ろした。

 

「……しかし増強型のシンプルな個性はいいな! 派手でできる事が多い!」

 

「でも派手つったら、爆豪と轟と有製もだろ」

 

「有製ちゃんはすぐに人気でそうね」

 

「子供は泣くんじゃねーか? 前のオールマイトとの戦いだって、割とホラーだったぜ? あのマスターハンドとクレイジーハンドみたいなの――「《苦難の左手》と《裕福な右手》だよ。黄彩にとって作品は我が子同然だから、タイトル以外で呼んだら怒る。みんな、気をつけてね」、お、おう。実体験か?」

 

 切島に響香が食い気味に言うと、全員を困惑させた。

 

「ウチじゃないけど、小六の時。黄彩が描いた絵に勝手にタイトルつけた奴がいてね。ブチギレて、ウチ以外のクラスメイト全員がどっかに転校することになった」

 

「なんか、相澤先生みたいっすね」

 

「……俺とあいつを一緒にするな。格も次元も世界も違う。もう着くから黙れ」

 

 冷め切ったテンションの中全員静かに「はい」と答え、そうしていると、すぐにドーム状の建物、演習場に到着した。

 

 

 

003

 

 

 

 相澤に引率されるようにして演習場に入ると、生徒が「スッゲー! USJかよ!」と叫ぶ。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc、あらゆる災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も《嘘の災害や事故ルーム》!!」

 

「……怒られねぇよな? さっきあんな話聞いたせいで若干こえぇんだけど」

 

 生徒の言葉に首を傾げながら現れたのは、宇宙服のようなものを身に纏った教師。

 

「スペースヒーロー13号だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

「わー! 私好きなの13号!」

 

 緑谷の説明に小さく頷きつつ、13号は長々と小言を語り、

 

「人命の為に個性をどう活用するかを、この授業では学んでいきましょう。君達の個性は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」

 

 最後の小言に差し掛かる頃には、生徒達は漏れなく心打たれた。

 

「そんじゃあまずは……」

 

 生徒達の拍手が止むと、相澤は授業を始めようとするが、ふと振り返る。何人かの生徒が視線につられて同じ方向に目を向けると、広場の噴水の前に黒いモヤが漂っていた。

 

 モヤは見る見る大きくなっていき、漆黒の渦を巻き始める。そしてモヤの中から悪意に満ちた瞳がこちらを覗いた。

 

 瞬間、相澤は叫ぶ。

 

「一固まりになって動くな! 13号、生徒を守れ!」

 

 急激に増大した黒いモヤからは悪趣味な格好をした人間が次々に姿を見せる。しかし、ほとんどの生徒は状況を把握しておらず、相澤の声に対して、呆けたような反応を示していた。

 

「動くな! あれは(ヴィラン)だ!」

 

「どこだよ、オールマイト。せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ。……子どもを殺せば来るのかな?」

 

 相澤の警告と体中に手を貼り付けた男から発せられた悪意によって、生徒たちは否が応でも気付かされる。

――ヴィランの襲撃。その事実に生徒の多くが目を見開き、顔を引き攣らせてしまう。

 

「ヴィラン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

「何にせよセンサーが反応してねぇのなら、向こうにそういう事が出来る個性がいるって事だな。バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 轟は冷静に状況を判断して言い放つと、場の緊張度が更に増す。相澤も轟と同様の判断を下し、すぐに的確な指示を飛ばし始めた。

 

「13号避難開始! 学校に連絡試せ! センサー対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「っス!」

 

 上鳴は慌てながらも放電を利用した連絡を試すが、あの手もこの手も結果は振るわない。妨害されているのは間違いないようだ。

 

「とにかく、全員避難しろ!」

 

「先生は!? 一人で戦うんですか!?」

 

 相澤はゴーグルを着けて首元に巻いている捕縛武器を構えるが、緑谷はそんな臨戦態勢をとった彼を引き留める。

 黄彩が初日に見抜くほどにヒーローオタクの緑谷は、当然イレイザーヘッドのスタイルにも詳しく、彼が単独で正面戦闘を行う事は無謀だと思っていた。

 

 しかし、相澤はオールマイトほど明るくはないが、不適な笑みを浮かべる。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、生徒を任せたぞ」

 

 相澤は階段を飛び降り、大勢のヴィランへと飛び込んだ。個性を消されて混乱しているヴィランを捕縛武器で絡め取り、異形系には打撃で次々に沈黙させていく。

 

「すごい…! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ」

 

「分析してる場合じゃない! 早く避難を!」

 

 飯田に急き立てられ、緑谷も慌てて避難を開始する。

 

――が、黒いモヤのような身体のヴィランが回り込んで立ちはだかった。

 

「初めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

 そのヴィランの言葉に生徒の多くが息を呑む。その場の全員が理解してしまったのだ。オールマイトを狙って来たのならば、つまりヴィランたちにはオールマイトを殺せる算段があり、つまりは殺せる可能性のある者がいると言うことだ。

 ……黄彩が一度勝ってしまっているが故に、生徒達のオールマイトの絶対性も下がっているのだ。

 

「まあ、それとは関係なく私の役目はこれ」

 

 そう言って黒いモヤのヴィラン、黒霧はユラリと動きをみせるが、13号はブラックホールを構えて黒霧を牽制、轟は右手を構えつつも考えを巡らす。

 

「その前に俺たちにやられる事は考えてなかったか!?」

 

「ダメだ! どきなさい二人とも!」

 

 爆豪の爆破によって黒いモヤが一瞬散るが、すぐに集まり余裕の姿を見せる黒霧。13号は二人に下がるように大声で注意するが、相手の方が上手だった。黒霧は爆豪と切島を盾にしてモヤを周囲に展開する。

 

 13号はブラックホールで必死に吸い込むが、黒いモヤは一向に消える気配は無く、ついに生徒たちを包み込んでしまった。

 

「皆!」

 

 しばらくして黒いモヤは晴れたが、その場にはヴィランと13号、そして六人の生徒しか居ない。十四人の生徒たちが忽然と姿を消してしまい、愕然とする13号とクラスメイトたち。

 

 黒いモヤのヴィランが不敵に笑う中、六人のクラスメイトを探す声が辺りに響いた。

 

 

 

004

 

 

 

 一方その頃、美術室。

 

「もう安心して。ボクだから」

 

「ハッハッハッハッ! それはあれだね! わたしのリスペクトだね?」

 

「芸術は押し並べてリスペクトから始まるんだよ」

 

「ハッハッハッ!」

 

 石のソファで黄彩と、骸骨のように痩せ細ったオールマイトが対面し、決め台詞談義をしていた。

 

 

 





 感想で言っちゃったので、黄彩くんの個性の解説をここにそのままコピペしますね。
 本編中で似たような説明が入るかもだけど、まあそん時は許して。

黄彩くんやそのパパが持つ個性、《図画工作》は空間を三次元的に知覚しないと使えないもので、わかりやすく言うと、サイコロの1と6を同時に見えないといけません。そこで視覚だけでは足りないので、同時に触覚で凹凸を見る、あるいは1の裏は6であるという知識で補います。

パパの射程範囲である四畳程度、黄彩くんと比べたら雲泥の差ですが、四畳でも十分に化け物です。普通、図画工作は手元で行う作業ですから。十分に超能力と言えましょう。

メートル単位の射程をもってようやっと戦闘に使える段階ですが、ここまで出来てしまえば、作ることは八百万ちゃんの創造よりずっと簡単。粘土を捏ねたり、彫刻刀で適当に掘るのは誰にでも出来ますから。
芸術品は単に黄彩くんのスタイルです。
とはいえ、一定の製造工程とタイトルを関連付けることで《裕福な右手》みたいに量産できるので無駄ではありません。

言ってしまえば、オーバーホールの個性を一般人向けな別物に魔改造したような個性です。

例外的な使い方として、死柄木弔の個性のように、触れた部分を切ったり、歪めたり出来ます。
また、自分の肉体に使うことで異形型モドキになっていましたが、これも邪道な使い方で、その部位には彫刻刀で切り刻まれるような激痛が走ります。麻酔無しでのセルフ手術です。
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