001
死穢八斎會の千葉進出。それは彩織達チームにとって、決して無視できる事態ではない。労力と暴力の限りを尽くして平和な街を作り上げたのだ。そこにヤクザが入り込んできているのだ。
「戦争です。一網打尽の戦争です。標的は死穢八斎會。老若男女の区別なく、毛髪一本の生存も許しません」
彩織は
「しかしリーダーよ、いくらうぬとカインといえど、流石に人手が足りないのではないか?」
可思議と黄彩は相変わらず引きこもって作業しているようだが、それ以外。チームの暇していたもの達と彩織、響香はリビングに集合していた。
七七七は眼鏡を掛けて、タブレット端末を操作しながら彩織に物申した。
「仮にりんごと
「そう言うということは、つまり何か手があるのでしょう?」
「無いとうぬ一人で潰し回るであろうが。させぬよ、そんなアホみたいな真似」
と言いながら、七七七は彩織にタブレットを手渡す。
「妾らが奴らの動きを勘づいているように、ヒーロー達も少なからず警戒を始めており、そっちもそっちで会合、会議がある。あの名探偵と響香も連れて行ってくるがよかろう」
「え、ウチも!? さっきからずっと場違いだと思ってたんだけど!?」
「あん? 何言ってやがる。ここは場違いと気違いの溜まり場だぞ。七七七が言ってんだ、行ってこいよ」
カインはそう言いながら、響香の背を押す。
「ふむ、まあヒーローとの関わりは持っておきたいところでしたし、ちょうど良いですね。響香、きっといい経験になりますよ」
「え、ええ?」
度々重なる急展開にもそろそろ動じなくなってきた響香だが、それでも乗り気には見えない。
「そうと決まれば、名探偵にも連絡しましょう」
――魔術探偵八ツ星
消しゴム一つから全校生徒集団失踪までのあらゆる無くし物に、完全犯罪に見せられた殺人事件、生後一ヶ月の赤子による強盗殺人事件など、千葉に留まらず多くの事件を解決してきた、自他ともに認める名探偵。
証拠も証言も無い事件までも解決するその手腕から、別名魔術探偵である。
002
それから四日後。
千葉から電車で移動し、東京都。
結局、名探偵は合流するには間に合わず、現地集合することになった。
彩織と響香はとあるビルのミーティングルームに通された。
「おや、私たちで最後のようですね」
「なっ、緑谷に麗日、梅雨ちゃんに切島!? あと相澤先生まで!?」
そこには、雄英のビッグ
相変わらず小汚い格好で目立っていた相澤が、響香達の方へと歩み寄る。
「急に声をかけられたんだ。ざっくりとだが、事情は聞いてる。……お前こそ、なんでここにいる」
「さ、さあ……。いい経験になるとかで、連れてこられちゃいました」
「実力者との関係は、そのまま己のスペックに加算されます。このような場に参加してコネを広げるのも、悪いことでは無いでしょう?」
ヒーローらしからぬ、ゲームでしか見ないような武器を背負った彩織が不敵に笑いながら言う。
下心隠さぬ彩織を相澤は睨みつけるも、とうの彩織はどこ吹く風。さてどのヒーローから喧嘩を売ろうかと品定めしていると、この場を設けたヒーロー、サー・ナイトアイが姿を現した。
「あなた方から提供いただいた情報のおかげで、調査が大幅に進みました。死穢八斎會という組織が何を企んでいるのか。知り得た情報の共有と共に、協議を行わせていただきます」
「あの真っ黒師弟、相変わらず遅刻でしょうか」
「真っ黒師弟って、まさかそれ例の名探偵のことですか?」
ここに来るまでの道中に名探偵の偉業の数々を聞かされた響香は、あんまりにもあんまりな呼び名に尋ねる。
「二人とも髪が真っ黒ですから」
「……意外と由来がしょぼい」
会議用の机と椅子が用意され、協議が始まった。
「えー、それでは始めて参ります」
と、整った場で話し始めたのはサー・ナイトアイのサイドキックである、青肌の女性、バブルガール。
「我々ナイトアイ事務所では、約二週間前から、死穢八斎會と言う指定ヴィラン団体について独自調査を進めています」
「きっかけは?」
ヒーローの一人が尋ねる。
「えー、とある強盗団の事故からです。警察は事故として片付けてしまいましたが、腑に落ちない点が多く、追跡を始めました」
「……ありましたね」
と、また別のヒーローが思わず呟く。
バブルガールに続くように、もう一人のサイドキック、スーツの上にムカデの首と頭の男性が語る。
「わたくし、センチピーダーがナイトアイの指示のもと、追跡調査を進めておりました。調べたところ、死穢八斎會はここ一年の間に、全国の組織外の人間や、同じく裏稼業団体との接触が急増しており、組織の拡大、金集めを目的に動いているものと思います」
「そして、ヴィラン連合とも接触していた、でしょう?」
七七七から聞いて情報を超えるものが出ないことにうんざりした様子の彩織が口を挟む。
「資金源は壊理という少女の細胞から作り出した個性を消す銃弾と、それを治す血清。血清の方はまだ完成していないようですが、そちらの雄英ビック3の一人が実際に試作品で撃たれた。他にも個性を強化する薬品なんかもばらまき、知名度と資金を獲得」
「「「…………」」」
彩織が語る内容に、ナイトアイ事務所の三人は思わず黙ってしまった。
「その情報の根拠はなんだ。出所は。そもそも誰だお前は」
錠前のような耳飾りをつけた男が威圧的な態度で問う。
「私はチームのリーダー、白神彩織。ヒーロー、銀翼として活動を始めたのもつい最近、それも基本的に千葉県のみの活動でしたので、皆さんとは始めましてになりますね。どうぞよろしく」
「チームだと!? 無個性のチンピラ風情が、そんなデカイ情報を集められるわけねぇだろうが! ガセに決まってらぁ!」
「おやまぁ、自分たちの住む地ですら平和に仕切れぬヒーロー風情がなんと喧しい。叩き文句に無個性というワードが真っ先に出るあたり、程度が知れますね。都会は治安が悪くて嫌になります」
激昂する男に対して、彩織は一貫して笑いながら語る。
「私に情報を聞かせたのは人類最賢。あなた達の百聞百見以上の信憑性はあると言っていいでしょう。これはここ四日間程で潰した死穢八斎會の支部で見つけてきた押収品、個性を消す薬品の入った弾丸です」
言いながら、彩織はその弾丸が入ったケースをどこからか取り出し机に放り投げる。
「おお! そいつぁまさしく、切島クンのおかげで手に入ったやつと一緒や!」
全体的に丸く、坂を転がり落ちそうな体型をしたヒーローが立ち上がりながら叫んだ。
「持ち運べるような物品は他にあまり見られませんでしたが、他にもいくつかの薬品を研究所に預け、絶賛研究中というわけです」
サー・ナイトアイが押収品を手に取ると、彩織は要らないからくれてやると言わんばかりに手を振った。
「詳しく聞きたい。チームのことはそもそも情報がほとんど見られない故に、我々はどうしても信用仕切れないのでな」
ナイトアイが尋ねれば、やはり彩織は笑い続ける。
「……少々、喋り疲れましたね。――あられ」
彩織の呼んだ言葉は、お菓子のことではなく、人の名だ。
扉が開かれ、黒髪で根暗な雰囲気の男と、追従する、黒髪ロングの小学生か中学生ほどの少女が入ってきた。
「魔術探偵八ツ星の所長、八橋あられだ。リーダーの口の代わりとして参上した」
「同じく、魔術探偵八ツ星、先生の弟子の、
「二人とも、遅刻ですよ。遅れるなとは言いませんが、連絡してください。心配するでしょうが」
ヒーロー達が、突如目の前に紙の束が現れたことに困惑している中、彩織だけは呆れた目で二人を見ていた。
003
「話の理解がしやすくなるから、資料は見るなり捨てるなり好きにしてくれ」
ナイトアイ事務所の者が二人の分の椅子を用意し、二人は腰掛ける。
「我々チームは千葉県を拠点に活動している。現在千葉は表と裏、という風に分けられるほど治安が分裂しており、表は万引きすら無い平和な街、反面裏側は日本全国から集まった弱小ヴィランが群れて暴れている」
「はっ、仮にもヒーローなら仕事しろってんだ」
先の錠前の男が言うと、あられは男を冷めた目で見る。
「それはこちらのセリフだ。現在、日本に千葉出身のヴィランは皆無と言っていいほどにいない。千葉に湧くヴィランは全て貴様らヒーロー達が見逃し、ヒーローの少ない千葉を良い狩場だと勘違いした者達だ」
「つまり先生は『お前らもっとちゃんと仕事しろ』って言いたいわけですね。全く迷惑していますよ」
「らら、やめろ。このような場でわざわざ言うようなことじゃ無い」
ゴチンと、金属を殴り付けたような鈍い音が響いた。
あられは弟子のららに拳骨をしたものの、ららに命中する前に、鉄の塊のようなものが拳を受け止めていた。舌打ちをして、あられは話を続ける。
「調査を始めたきっかけだったな。それは、死穢八斎會が裏ではなく、表に拠点を置いたからだ。我々チームはそれを宣戦布告ととり、近いうちに死穢八斎會の完全殲滅を行うつもりだった」
「……で、そんな時にこの集まりがあったから来たってわけか」
頭抜けて老齢のヒーロー、グラントリノが言うと、彩織とあられは頷く。
「それで、テメェらはどうやってその完全殲滅とやらをするつもりだったんだ」
グラントリノは彩織を鋭い目で見る。
「私と私の彼氏の二人で潰して回ろうかと。一般人への被害は皆さんヒーローにでも頼ろうかと思ってましたよ。もちろん壊理と言う少女は保護するつもりでした」
「……少女の肉体を削いで磨いて商品に。あっはは、懐かしいですね」
口を挟んだのは、らら。顔を青くさせて、指先を震えさせながら言い出した。
「……思い出したら腹が立ってきました。彩織さん、私もその殲滅、参加させてください」
「ダメですよ。個性を使ってチームとしての活動は基本認めません。それに目的は変わる。私たちチームはナイトアイ事務所の目的を執行します」
「らら、下がっていろ。お前の力は人の身に余る。お前はヒーローに相応しくない」
「先生が私を語りますか」
「でなきゃ誰が語るんだ。……説明ももういいだろう。あとは勝手に調べろ。それより、至急貴様らの目的を問おう。答えによっては俺の弟子がヴィランを絶滅させかねんぞ」
ららの頭に手を置きながら言うと、雄英生二人、緑谷と通形が席を立った。
「「壊理ちゃんを助ける!!」」
「そう。それが今回私たちの目的となります」
サー・ナイトアイが、二人は一度壊理と顔を合わせており、それでいて助けられなかったことを語った。
「パーフェクトです。あらゆる障害は私たちが排除しましょう。存分に救いなさい。……らら、今回の作戦に限り、救助活動に限り、銀翼の名をもってあなたの個性の使用を許可します。それで我慢しなさい」
「……わかりました」
それから、作戦の詳細を話し合いと怒鳴り合いで固め、会議はなんとかかろうじて終了した。
キャラ紹介
八橋あられ 21歳 男
無個性(魔術師)
魔術探偵八ツ星という探偵事務所の所長。
魔術師とは、黄金の国の魔導師とは全く異なる存在。古くから密かに存在していたものの、個性社会ができると共に廃れていき、あられの代に残されたのは魔術的特製を持つ道具のみ。炎を放ったり、触れずにものを動かしたりする魔術はあられには使えない。
魔術道具を活用しての探偵稼業を営んでおり、その腕は一級品。森に隠された木の葉を見つけ出すことも可能で、千葉には迷子のペット探しの張り紙が存在しないと評判。
チームに加入すると同時に大学を中退、探偵事務所を立ち上げることになった。
弟子の楽羅來ららはとある依頼で購入、保護することになり、本人の希望で弟子となった。
我が子のように溺愛しているが、同時に世界を破壊しかねる爆弾という認識もあり、その関係性はただでは語れない。
暗い雰囲気の格好は魔術師としての習性のようなもので、事務所も殺風景でららや依頼人には大変不評。