001
二日後。
死穢八斎會の組長の孫娘、壊理の居場所が本拠地にいることが確信され、ついに作戦が決行となった。
「チームからは私とカイン、響香、ららが出ます。刹那にも連絡はしましたが、来るかはわかりません」
早朝にヒーロー達は集まり、簡易的な報告会議を行い、作戦の最終調整に入っていた。
「所詮は無個性だろ? お前達は入り口で警察と待機に決まってたらぁ!」
相変わらず口調のキツい錠前の男が言うも、彩織は首を横にふる。
「あなたには話しているつもりはありませんでしたが、言っておきましょう。私とカインは敵の若頭、オーバーホールの撃破を最優先で動きます」
「はなっから無個性なら、個性を消されようが問題ねぇ。むしろテメェらみてぇな個性ありきのやつの天敵だろうが」
「ま、最終手段として私が何もかも消し去るって手もあります。チームの心配はありませんよ」
シッシッとカインが手で払うと、肩車されたららが笑いながら言う。
「一応、あなた方チームの戦闘スタイルを聞いておきたいのですが」
と、情報共有を終えたサー・ナイトアイが彩織達に尋ねる。
「切ったり蹴ったり殴ったりします」
と、彩織。背負った大剣を軽く撫でながら言う。
「同じく、蹴ったり殴ったりが基本だ」
と、カイン。
「私の個性は万物創造。石油や宝石を創り出したり、概念を新たに創ったり、世界丸ごと作り直したりもできますよ。当然、その逆も」
と、らら。正確にはチームのメンバーですらないが、仲間として、救助に限り参加することになっている。
「ららの個性は国々がレンタルでたらい回しにする程に優良かつ危険な個性です。怪我の治療程度ならさせて構いませんが、決して戦闘をさせないでください。最悪、月が地球に沈みます」
何か考えているサー・ナイトアイに、他にも聞き耳を立てていたヒーロー達にも、忠告する。
「それって、ヤオモモの個性とは違うの?」
似た個性、創造を持つ八百万と違うのか、響香がららに尋ねる。
「さて、私のような個性を持つ人がそんなにいるとは思えませんが、その方は人類全員を相手に戦争を仕掛けて勝利を収める程度の人ですか?」
「……アンタ、もしかしてそのレベル?」
「さて、どうでしょうね。まぁ、怪我の治療くらい万全に可能だと語っておきましょう」
現地の警察とも話し合いは進み、作戦開始は八時三十分となった。
002
死穢八斎會、本拠地前。ヒーロー、警察が集まり、これから突入しようという時。
警察がインターホンを押し、令状を読み上げようとした時。
インターホンを押すよりも前に、門を内側から巨大な腕が破壊し、筋骨隆々の巨漢が警察に襲いかかった。
「なんなんですかぁ、朝から大人数で……」
吹き飛ばされた何人もの警察官には目もくれず、気怠げな口調でペストマスクの居館はぼやく。
「以下省略ってなぁ!!」
警察がシールドを構え包囲しているところに、カインが飛び込んだ。
自分の倍はある背丈の男の鳩尾に爪先を突き刺し、天高く蹴り上げた。
「こんなところで時間をかけてる暇はありません、っよ!!」
続くように彩織が飛び出し、大剣二本の腹を重ねるようにして、巨漢をアスファルトに叩きつけた。
「警察はさっさと拘束。ヒーローは私たちについてきてください」
彩織の言葉を聞いてようやっとヒーロー達は動き出す。警察も大量に用意してきたヴィラン用拘束具で縛り始めた。
静かに、しかし素早く突入していく彩織とカインを追いかけるようにヒーローも追いかけていく。
「……あれで無個性って、マジか」
「いくよ切島くん! 僕達出遅れてる!」
「お、おう!!」
遅れて雄英生達も追いかけて行く。
門を越えれば、そこには明らかにヤクザといった風貌の男達が待ち構えていた。
「やはり、都会は治安が最悪ですね。――私の名は白神彩織。九の因果を身に宿し、九の使命を執行します」
「ぶん殴るならやっぱ、クズに限る。――俺の名は祈和歌夢。九の因果と生き歩み、オレの使命を執行する!!」
揃って名乗りをあげ、道を切り開く。
彩織は両手ともに拳を握り、手当たり次第に男達の腕や足を殴り飛ばしていく。
カインは一人の男の首を鷲掴み、まるで武器のように振り回す。
「血の海に溺れてなさい」
「おっるるぁあああ!!!」
「おっしゃ行け行け!! あの二人に遅れをとるんじゃねぇぞ!」
足を止めない彩織とカインを、ヒーロー達は速度を上げて追いかける。
「フフ、カイン」
「オーキードーキー!」
建物の中に入り、フローリングの床に土足で踏み込んだカインは、全力で床を踏みつけた。
「「「「なにぃ!?!?」」」」
ビルすら一撃で踏み潰すカインの脚力により、フローリングが砕け散り、地下通路までの構造も崩壊した。
「いやいや、強すぎるやろ、お前さんら……」
難なく着地した膨よかなヒーロー、ファットガムが苦笑いしながら、尚も立ち止まらない二人を追いかける。
次々とヒーローが降りてきて、ファットガムに続く。
が、しかし。
「アン? 行き止まりだぁ?」
しばらく走り続けると、部屋の一つも見つからずに行き止まりにぶつかった。
「ウチが見ます!」
追いついてきた響香が、壁にイヤホンジャックを突き刺して、この地下室の構造を探る。
「え、なに、は……、は?」
「おい、なにが見えた」
相澤が訪ねてすぐ、響香は焦った様子でイヤホンジャックを抜いた。
「みんな伏せて! ここなんか、生きてる!!」
「どういうことですっ、なっ!」
彩織が追加で問おうとして、すぐに響香の言葉の意味を察した。
まるで蛇のように、軟体生物の内臓に迷い込んだかのように、床も壁も歪んで曲がり、捻れ、元々迷路のような構造だった地下がさらに複雑になっていく。各々床や壁に寄りかかり揺れに耐え忍ぶ。
「イレイザー・ヘッド、消せませんか?」
「本人を見えないと無理だ!」
「なら仕方ありませんね。崩落上等、突き進みます。――
さっきまでも異様に早かったが、それ以上の速度とパワー。叩きつけるように大剣を突き出し、まるで闘牛のように壁へ突進しだした。
揺れる壁を突き破って進む。彩織の通った穴はすぐに塞がり、姿が見えなくなる。
「あれ、カインさんはいかないんすか?」
「バッカお前、オレがおんなじことしたら壊理ってのが生き埋めになるだろうが。だからオレらは正攻法で真正面から叩き潰す」
不敵に笑うカインの視線の先に、道ができる。
「わ、罠じゃないのか?」
「だったらなんだよ。その程度にビビってて個性なんて兵器使えんのか?」
003
四度壁を突き通り、二度床を突き落ちて、ようやっと彩織は足を止めた。
「殺人鬼と相対するのは、結構久しぶりですね」
「ああっ! あああっ!! かぁいいなぁ、かぁいいなぁ!」
「時間は限られているのですが、仕方ありませんか」
「ボロボロになれば、もっとかぁいいです! 死体までちゃぁんと可愛がってあげます!!」
待ち受けていたのは、何故いるのか刺殺専門の殺人鬼、渡我被身子。両手にナイフを構え、彩織に飛びついた。
「私の名は白神彩織。九の使命を身に宿し、九の使命を執行します」
ナイフの二刀流対、大剣の二刀流。
速度は被身子に分があり、一撃の威力は彩織に分がある。
「こんなところさっさと帰りたいところでしたが、いい人と出会えましたぁ!!」
「生憎と、奇人変人の友人は間に合っているんですがね」
「なら私が加わっても問題ありませんね!」
「いりません!」
切り掛かった被身子のナイフが彩織の髪に触れた途端、切断されて刀身が落ちる。
「ご安心ください、私の髪はカインに手入れさせてますから。ナイフ程度じゃ、切ることもできませんよ」
「むしろ私のナイフが切れましたよ!? お気に入りなのに!」
「そんなものを仕事場に持ってきたあなたが悪いのです」
「私は殺人鬼でヴィラン。悪い子なのは当たり前です!」
幾つもナイフを持ち歩いているのか、被身子は新たなナイフを取り出し構える。
「というかそのナイフ、今さっきのと同じ型じゃないですか」
「違います! 良い人にはわからないのです!」
「ったく、可愛い殺人鬼もいたものですねっ」
今度は彩織の大剣に、被身子のナイフが突き刺さった。
「かぁいいなぁ、かぁいいなぁ!」
「生憎と、恋人はカインで間に合ってますし、妹はりんごちゃんで間に合ってます。せいぜい可愛がって差し上げますよ!!」
「アッハァ! 嬉しいなぁ!!」
ナイフが刺さったまま大剣を振ると、被身子もナイフを握ったまま振り回され、その勢いそのままに彩織の腹部を蹴った。
「惜っしいですね!」
「あっれ、もしやもしかしてもしかしなくても効いてません?」
脇腹に当たった足を、彩織は脇を締めることで捕らえた。
「私の異名の一つにして、必殺の必殺技、接触絶死《アンタッチ・ブル》の由来は、私に触れた尽くが壊れるところからきているんです」
「怖い怖い怖いです! お姉さん私になにするつもりですかっ!?」
ナイフも大剣も捨て、彩織は被身子の右足を掴んで持ち上げる。
当然スカートも腿につられて持ち上がるため、ナイフの持たない手で抑えながら怯えている。
「安心してください、被身子。命だけは取りませんから」
「ヒエッ」
キャラ紹介
無個性
神の落書きという異名で恐れられている、顔面刺青の男。
チームのリーダー、彩織の恋人で、家事全般を担っている。
顔面に彫られた異国の文字の刺青、その約が『神の落書き』であり、生まれて間も無くに彫られた。
両親がカルト宗教の人間で、夫婦というわけでもなく、天使を生み出す儀式を行った結果生まれた。
女の天使を生み出す儀式であったはずなので、儀式は失敗。ある種の恨みを忘れないために、カインの顔面には落書きと刻まれている。
物心つくまではカルト宗教の人間達によって育てられたが、両親からの虐待に耐えかねて脱走、彩織の母親に保護される。
学校には、彩織と共に高校だけ通っており、喧嘩の絶えない高校生活を送っていた。
本名で呼ばれるのを絶対的なまでに嫌い、敵味方関係なくカインの名で呼ばせる。
なお、カインは『最初の殺人者』という意味ではなく、単に名前と苗字の一部を組み合わせただけ。
増強系の個性があるんじゃないかとよく疑われるが、しかしずば抜けた身体能力の正体は個性ではない模様。
最近チームに加入した刹那に武器術を習い、生まれ持った戦闘センスでいくつかの術は刹那が認めるほどに仕上がった。
頻繁に使うのは弦操術、声操術、槍操術。他にも野菜やシャンプーなどでもそれなりに戦える。