芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第六十九話 集合体の落書殴殺と斬殺惨殺

001

 

 

 

 彩織が被身子と殺し合っている頃、カイン達も死穢八斎會の、オーバーホール直属の実働部隊、八斎衆の三人と遭遇していた。というか、案の定罠に嵌められた。

 

 地下通路を操っているヴィランによって、床に大穴を開けられ、カインと共に来ていたヒーロー達は落下。そこに待ち受けていたという形だ。

 

「オイオイ、上から国家権力が降ってきやがった。不思議なこともあるもんだぁ」

 

「よっぽど全面戦争したいらしいなぁ。流石にそろそろプロの力を見せつけ、」

 

「すっこんでろ。そもそも、こいつらの喧嘩を買ったのはオレらチームの方が先だ」

 

 ファットガムが拳を鳴らしながら参戦しようとするが、カインに止められた。

 

「テメェらなんざに権力はもったいねぇ。暴力だけで十分だ」

 

 問答無用。死人に口無し。

 ヴィランが何か言う暇を与えず、ヒーロー側が何か物申す間も無く、三名はカインの拳の前に沈んだ。

 

「せ、戦闘描写どころかセリフも……」

 

「うるせえ」

 

((((鬼だ……))))

 

 かろうじて気を失っていた一人が顔を上げて起き上がろうとしたものの、後頭部をカインに踏まれ、顔面を強打して気を失った。

 

「テメェらの仕事はガキの救出だろうが。仕事忘れてんじゃねぇ」

 

「お、おう。なんかすまんな……」

 

 一分とかけずに片付けてしまったカインの言葉に、思わずファットガムは詫びを述べる。

 

「おう。響香、方向探れ」

 

「っは、はい!」

 

 事前調査でおおよそのルートは分かっていたものの、道と壁と床の境界が曖昧になった今、そのルートは通用しない。

 響香は足元にイヤホンジャックを突き刺し、構造から人間の位置まで探る。

 

「壊理ちゃんっぽいのは、あっちっす。後、彩織さんが、……その、襲われてるっていうか、襲わせてるっていうか……」

 

「なに言ってんだ?」

 

 響香の言葉に、カインだけでなく全員が首を傾げた。

 

 

 

002

 

 

 

 一方その頃、彩織はといえば――

 

「ちぅちぅ……、ちぅちぅ……」

 

「私の血、というか人の血って、美味しいんですか?」

 

「ちぅちぅ……、んく。……人それぞれですが、かぁいい子の血は格別美味しいです」

 

 肩をはだけさせ、首筋から被身子に血を吸わせていた。

 

「それ、多分気持ちの問題でしょう? なんとなくわかりますが。あ、服に垂らさないように舐めとってください。終わったらすぐ止血しますから」

 

「殺さずに血を吸うのも、これはこれで……」

 

「……被身子? 聞いてます? 血って染みると大変なんですよ?」

 

「ちぅちぅ……、ん、何か言いました?」

 

「服に垂らさないようにしてくださいと言いました。まだ足りませんか?」

 

「いえ、個性を発動するのには十分ですが……、その……」

 

「はいはい、満足するまで飲んで構いませんよ」

 

「わぁい」

 

 

 この微笑ましくも血生臭い光景は、彩織からの提案から始まったことだった。

 拘束して被身子から個性の内容を聞いて興味を持った彩織が、それなら自分に変身して今回の事件手伝えば逃してやる、と。

 

 チームは無個性の集団だが、断じて個性を持つ、地球上の約八割の人間を嫌悪しているわけでも、敵対視しているわけでも、差別しているわけでもない。

 九つの因果、九人の一因。その中には被身子が血に霞むような殺人鬼もいれば、黄彩が小型に見えるほどに耳の広い賢人もいる。魔術師だって、人間寸前だって、美少女だって、メイド長だっている。

 個性がなくとも十分に個性的な人間が集まっている。

 ならもう、血を吸うとその者になれる変身の個性も、加工手順を省略できる個性も、耳たぶのイヤホンジャックを突き刺すことで音の送受信ができる個性も、所詮は身体的特徴の範疇でしかない。

 

 

 

 数分待てば、満足したのか、傷口を舐めてから被身子は離れた。

 

「これだけ飲めば、丸一日くらいは私に成りきれるのですよね」

 

「約束は守ります。それに、こっちの方が面白そうですから!」

 

 被身子は笑いながら服を脱いで、彩織へと変身する。

 

「「私の名は白神彩織。九の因果を身に宿し、九の使命を執行します」」

 

 四本の大剣は、敵意と悪意に濡れていた。

 

 

 

003

 

 

 

 さらに一方その頃、死穢八斎會本拠地の、彩織達のいるところよりもカイン達のいるところよりもさらに奥、目的地とは正反対の、トラップ地帯。

 

 血。肉。骨。

 

 赤色と桃色と白色と橙色。

 

 人が死に、床が死に、壁が死に、天井が死に、大気が死に、次元が死に、時が死に、そして死も死んだ。

 

 斬殺的な斬殺劇。

 

 惨殺的な惨殺劇。

 

――地獄。

 

「あはははははははははははは!! あははははッはははははは!! あっははっはっははははははははははは!!!」

 

「嗚呼、嗚呼……。これまた随分と派手にやったものだの。……止まれよ、りんご。リーダーに怒られる」

 

「あっは……」

 

 百人死んだか、千人死んだか。その判別すらできないほどの殺戮劇。

 その中心で、人の首を跳ね飛ばして心臓をえぐり出し、骨をへし折り筋肉を引きずり出す。殺戮のための形状をした大型ナイフを二本持った、幼い少女の骨肉を持った殺人鬼。殺人鬼の肉片をも喰らう食人鬼。

 

 口の周りを穢した鬼、樹生りんごは、その両手のナイフを死んだ肉塊に突き立て、笑いと共に止まる。

 

「妾たちはリーダーに無言で来ておるのだぞ? 警察に感づかれれば怒られる。嗚呼、怖いのう。思わず背と腹が裏返りそうだわい」

 

「それはやだなぁ」

 

「それとは、どっちの話かの?」

 

「でもね、でもねっ、今なら百億人でも百兆人でも喰べられそうなんだっ!」

 

「食べるなと言っておるのだ。見ているだけで胃がむせ返りそうだわい」

 

「まだ肺とか腸もあるでしょ? なら平気へーきっ!」

 

「……うむ、ならば仕方あるまい」

 

 クフフと、七七七は夜行の一鬼のように妖しく笑う。

 

「みな殺せ。みな喰らえ。妾の胃と肺と腸程度で世界が良く成るというのなら、それが樹生の結論なのなら、きっとリーダーも喜ぼう」

 

「アッハァ、いいなぁ都会! 次の拠点はここにしようよ!」

 

「事故物件極まりないのう。元ヤクザの拠点が、殺人鬼の台所が、食人鬼の食卓が、次の妾達の住処か」

 

「たのしぃよぉ。きっとたくさん楽しい。お化け屋敷に住むなんて心が踊るっ!」

 

「ついでにナイフと針も踊り出しそうで気持ち悪いのう。そうなったら妾は帰るからな」

 

「あたしが死ぬまで返さないぜっ!」

 

 うんざりした様子の七七七に、りんごは血を払ったナイフ二本を向けて可憐に笑う。

 

「それはカインの真似か? うぬが言うとただの殺人予告だからやめておけ」

 

 七七七の言葉に、ため息混じりにナイフを腰のホルダーに収めて歩き出す。

 

「行くよ、七七七お姉ちゃん。喧嘩を売られたんだから、あたし達も飛びついて買わなきゃ」

 

「やれやれだわい。うぬがしてるのはせいぜい万引きがいいところなのだと知れ。……しっかり妾を守れよ、りんご」

 

 靴裏に粘着質な赤色のへばりつく感覚に顔をしかめながら、七七七はりんごの後を追う。

 

「あたしは樹生りんご。九の因果を禁忌して、あたしの使命を執行するね」

 

「妾の名は高天原七七七。九の因果を理解して、妾の使命を執行しよう」

 

 

 

004

 

 

 

 もっともう一方。その頃でもなくあの頃でもない頃。

 

『刹那、喧嘩です。死穢八斎會を滅ぼしますよ』

 

 雪吹雪く富士山山頂で、登山客に混ざりメイド服姿で浮いた美女は異世界にも過去にも未来にも通じる携帯電話で、彩織からの着信に応じた。

 

「いおり〜ん、私が今どこにいるかわかってて言ってんのぉ?」

 

『知るわけないでしょう。ナメック星でもホグワーツでも魚人島でもどこでもいいですから、あなたも参戦しなさい』

 

 荒唐無稽な彩織の言葉だが、しかしそれが刹那なら可能性に十分加わってしまう。富士山なんて、十分に近所だ。

 

「はいはいはいはい。不肖このメイド喫茶のメイド長、頭領たる銀翼、いおりんの指示に従いますよ」

 

『本拠地は私とカインが潰しますから、あなたは支部と残党を叩きのめしてください。場所は七七七が知っています』

 

 日本の最高地点で、刹那はせせら笑う。

 

「私の名は神刺刹那。九の因果に付き従い、私の使命を執行する。――カインにりんごたん、ななみんにもよろしくね、いおりん」

 

 刹那は通話を切ると、足腰を関節に従えて折り曲げる。

 

「重操術、宇宙歩法、月下独歩」

 

 さながら月の重力に従うように、地球の重力を踏み締めるように、刹那は富士山を飛び降りた。

 

 

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