001
二人に成った彩織と、壁も床もすり抜けてショートカットしてきた通形、人類最賢の案内のもと、片っ端から殺し回っていた七七七とりんごが、死穢八斎會の若頭と出逢うのに、そう時間差はなかった。
――僅かな時間差。
それが、致命的な致命傷であった。
「情け無いですね、ヒーロー。別に期待もしていませんでしたから、失望もしませんけど」
「言ってはいけませんよ、私。可哀想じゃないですか」
二人の彩織が、倒れた通形を見ながら口々に言う。
「リーダーが二人だと!? ここは地獄か!?」
「彩織お姉ちゃんが二人!? なにそれ悪い夢にしてもタチが悪すぎるよっ!!」
嘲笑う彩織達を丸い目で見ながら、七七七とりんごが叫ぶ。
「……なんだ。なんなんだ、お前達は」
オーバーホールは、可愛らしい殺人鬼によって作られた惨殺死体と、四肢と個性と気を失い倒れた通形を見下ろしながら言う。
「りんごちゃん、七七七。そこのヒーローをららのところに連れて行ってください」
「リーダーよ、それは妾達にとってそこの阿呆を殺すよりも有益なのかの?」
「りんごちゃんが何人殺したのか知りませんが、知らなかったことにしてあげます。ストッパーとして働かなかった七七七もです」
「うむわかったよしわかったよくわかった頼れる妾達に任せてリーダーは存分に殺し合ってくれ」
早口に言いながら、七七七は通形の首を掴む。
「え〜、もう帰るの?」
「一人食べ損ねるだけで暴食がなかったことになるのだ。損得勘定をいい加減覚えろ、りんご」
「……は〜い。わかったんだよ。彩織お姉ちゃん、なんで二人になってんのか知らないけど、分けてあげる」
「来い、りんご」
外へ向かって歩き出した七七七に、りんごもついて行く。
因果が二つこの場を去り、彩織は大剣四本を掲げて嘲笑う。
「私たちがなんなのか。そう問われましたね」
「私たちはチームです」
「九つの因果」
「九つの一因」
「あなたが例え殺人鬼でも」
「あなたが例え魔王でも」
「神でも」
「悪魔でも」
「私の名は白神彩織です」
「九の因果を身に宿し」
「九の使命を執行します」
双子芸のように語った彩織が、大剣と銀髪を翼のようにはためかせながらオーバーホールに襲いかかる。
「……壊理、お前のために、お前がいるから、お前のせいで、二人の馬鹿がまた死ぬぞ」
「ダメ!!」
触れたものを分解する両手を構えて、オーバーホールが言うと、怯えて岩陰に隠れていた壊理が叫んだ。
「心配はいりませんよ」
「私の名は白神彩織ですから」
自身が自身の存在証明であることを語り聞かせながら、一本百キロ近い剣をまるでナイフのように軽々と振る。
死者を連れ去る天使のように。死者を導く死神のように。彩織達は銀翼で叩き切る。
002
「個性、オーバーホールでしたか」
「肉体が死んでも無傷で蘇る」
「サンドバッグとしてなら一級品ですね」
元々、オーバーホールの側近達が既に惨殺されていたが、塗り重ねるように床や壁にオーボーホールの血が飛び散っている。彩織達も彩織達で相応に返り血を浴びており、白色や銀色だったコスチュームも髪も、斑模様に彩られている。
「ふざけるな……、いくら元に戻るとはいえ、分解するときはちゃんと痛いんだぞ……」
肉体以上に精神に多大なストレスを受けているようで、愚痴りながらも立ち上がる様子すら見えない。
「それなら私も切る時に心を痛めてますから、おあいこですねぇ」
「それなら私はどれだけ切ろうと痛みませんから、圧勝ですね」
二人の彩織は互いに心にもないことを平然と、ただ服が肌に張り付く不快感に顔を顰めながら言う。
「私たちチームの掲げる正義の一つに可愛いは正義というのがありますが、しかし」
「あなた、ぜんっぜん可愛くありません。それに血もおいしくありませんし」
「生きる価値ありませんよあなた」
「殺す価値ありませんよあなた」
――否定。
「酸素の無駄です。呼吸もしないでいただきたいですね」
「血が勿体ないです。心臓も止めてください」
――否定。
「あなた程度のクズ、世の中には掃いて捨てるほどにいますよ」
「あなた程度のゴミ、世の中には燃やして捨てるほどにいますよ」
――否定。
「あなたのやったことなんて誰のためにも成っていないんですよ」
「あなたのやったことなんて誰かの迷惑にしか成っていないんですよ」
――否定。
「居るだけ無駄です」
「生きるだけ無駄です」
――否定。
言って聞かせる劇薬が水責めのように流れ込む。
身も心も三角刀で削られるような拷問。
これまでの罪が全て己に牙を剥いたような恐怖。
敵を騙すにはまず味方から騙すように、人を殺すならまず心から殺すように、罪を流すならまず血から流すように、人間未満の人間寸前、銀翼の天使がオーバーホールの全てを刳り削いでいく。
「死んだように生きてください」
「生きたまま死んでください」
003
地上にいるららの元へ向かうために、道中で事切れた通形を引き摺る七七七と、ゲーム機を没収された子供のように退屈そうな表情をしたりんごは、カインの先導するヒーロー達と出会した。
「死体見たときからいるとは思ってたが、やっぱいたかお前ら」
血塗れの少女と、場に似合わぬゴスロリの少女にヒーローが警戒する中、カインが呆れた様子で言う。
「子供……? 死穢八斎會か? それとも報告にないがヴィラン連合か?」
首に巻き付けた捕縛布に手をやった相澤が呟くと、七七七が耳聡く聞き答える。
「妾は人類最賢、高天原七七七」
「あたしは樹生りんご!」
「二人ともチームのメンバー、まぁ味方だ」
カインが注釈を入れるも、その注目は七七七の手に引き摺られた通形に注目が集まる。
「ミリオ!? おいどういうことだ!!」
通形――ルミリオンのインターン先のヒーロー、サー・ナイトアイが通形の遺体を七七七から奪い取り抱き上げる。
「む? なんだ、
七七七の不謹慎極まりない冗談に、サー・ナイトアイは武器である印鑑を抜くも打たれるより先に七七七が両手をあげた。
「うむ、問われるより先に誤解を解くのが妾の役目。どうせ死穢八斎會の若頭、治崎なら今頃リーダーに叩きのめされておる。どうか妾の話を聞いておくれよ、英雄様」
皮肉気に笑う七七七は、返答よりも先に答える。
「うぬらのしている誤解、つまりは妾達がそのヒーローを達磨にしたのではないかと言う誤解というか疑いは、全くもって見当違いでしかない。
「それをしたのはオーバーホールだ。単独で挑み負け、手足を失った段階で気を失ったと妾は見ておる。
「その後に妾達がそこに出会し、奴の側近を捻ったところでリーダーが到着。
「あっちは今頃、治崎の何もかもを修復不可能なほどに痛め付けているところかのぅ。
「なぁに、心配はいらん。白髪片角の女子は無傷で無事だし、
「その達磨も、消された個性までは戻せんが、二、三日以内なら蘇生も容易い。
「既に千葉の掃除屋を呼び出しているからここに残ったヴィランの連行も不要。
暗に、もうお前達に仕事は無いと語る七七七。歳不相応な口調の少女に向けられる視線は、そのどれもが鋭い。
「うぬらが納得しようがしなかろうが、極論妾達をヴィランとして敵対しようとどうでもよい。妾達は己の正義と使命を執行するまでだからの」
先に戦闘能力はないと語ったばかりだというのに、七七七の目には怯えの一片すら見えない。
「手柄と見栄えを求めるうぬらヒーローと、平穏と安寧を求める妾達チームではあらゆる意味で次元が違う」
その一言一言が、ヒーロー達の逆鱗を鑢で撫でる。
「死穢八斎會に喧嘩を売られたのは妾達が先。リーダーは元々チームだけで絶滅させるつもりだったのだ。そのリーダーに手を組ませるよう促した妾が言うのも変だが、うぬらヒーローなんぞ、そもそもあてにしておらん。一枚でも多くの免罪符がほしかっただけでな」
チームを民衆に危険視させないための、免罪符。
「たとえうぬらが百戦錬磨の英雄達であろうとも、妾の名は高天原七七七。九の因果を理解して、妾の使命を執行しよう。――望みとあれば、人類最賢、
「やめろ馬鹿」
「ギャン!?」
夜行の一鬼のように妖しく笑いかけた七七七の脳天に、カインの拳が落ちた。
「ヒーローと敵対しないためにこいつらと組ませたんだろうが。組ませたテメェ本人がぶっ壊しにかかってどうする」
「む、すまんすまん。妾としたことが失念しておったわい。さ、帰るぞ。ここは死体臭くてかなわん」
ヒーロー達のすぐ隣を通り過ぎ、七七七とりんごは地上へと進み出す。