芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第七十一話 集合体の歓迎昼食と正義談義

001

 

 

 

 後日譚。

 

 死穢八斎會はチームの尽力により一人も逃さず逮捕、連行。死人は掃除屋に掃除された。

 

 ヒーロー側唯一の死亡者、通形ミリオもららの個性により肉体は完全に蘇生された。

 

――消された個性は戻らない。

 

 正確に言うなら、ららには戻せないと言ったほうが正しい。

 

 楽羅來ららの個性は万物創造。石油だろうと宝石だろうと、地球だろうと太陽だろうと、宇宙だろうと世界だろうと、万物を創り出すことも消し去ることも出来てしまう個性だ。

 故に、ららは個性が目覚めたその日のうちに外国へと売り払われ、世界各地を転々としながら求められる資源を生み出し続ける幼少期を過ごしていた。

 名探偵に保護された今、もう一度同じことを繰り返さないためにも、影響力のありすぎるヒーローにららの利便性を見せるわけにはいかない。

 

 そもそも、見せてやるほどチームもお人好し集団ではない。

 

 

 

 日本全国に蔓延っていた死穢八斎會の支部組織は、その全てがメイド喫茶のメイド長によって葬られた。

 襲撃を察し本拠地へと向かった阿呆もいるのにはいたが、それらはオーバーホールの前に立つこともなくリューキュー、麗日、蛙吹の活躍で即座に捕縛。怪我人は皆ららによって治療された。

 

 

 これまでまともに表社会に出てこなかったチームの活躍は、すぐに話題となり、あらゆるメディアがチームへと食いついた。

 筆頭はやはり、リーダーの彩織と、チーム加入以前にはテレビ出演していた七七七だ。

 ニュース番組に始まり、バラエティ番組にも出演したことで誰よりもチームの面々が驚愕した。

 

 

 ヒーロー側の主目的であった壊理の保護は、個性の解明もかねてなんとチームに任せられることになった。

 

 壊理の個性は、巻き戻し。ららと同じ突然変異、それも強固性。人型の危険物の扱いにはヒーローより手慣れたものだ。

 それに、方法はともかく自身を助けた、それも自分と容姿の似通った彩織に懐いたというのも大きかった。

 

 

 

002

 

 

 

 場所は、千葉のとある森林にある、樹生第二研究所。

 第三研究所と違い、人が迷い込むことも無い場所に設置された建造物。一辺五百メートルの巨大で赤い立方体。

 その正体は、大量のコンピューターの集合体。居住スペースは地下に広がっており、偶然にもその構造は死穢八斎會の本拠地とも似通っている。

 

「響香! 出来たぞ持ってけ!」 

「きょーかっ、こっちもー!」

 

「あー!! うちは使用人かぁ!!」

 

 一通り事が済み、ある程度落ち着いた頃に、壊理の歓迎会をすることになった。午前中には七七七、彩織と共に近隣の観光地を巡り、昼食にはカインと黄彩の手料理が待ち受けている。

 ただでさえ少ない人手がこのタイミングで支障をきたしており、黄彩の工程省略の個性で手早く大量の料理を作り、カインの弦操術でミシン糸を操りさらに大量の料理を作り、それらを響香と偶然居合わせたメイド長、刹那が二人掛かりで片っ端から会議室に運んでいく。

 

 会議用の机を詰めて出来た巨大なテーブルは見る見る埋まっていき、響香はこれまでにないほどに絶叫を上げている。

 

「あっはっは! まぁまぁ、きょーたん! これもお客様のためだよっ!」

 

「アンタは本職でしょうが!!」

 

「ただのアルバイトだけどね!!」

 

「「「マジで!?」」」

 

「ちょ、カインにかしぎたんまで!?」

 

 はしゃぎながらも、一度に四つ五つと運んで見せる刹那は器用にダンスまでして見せる。サボりの可思議は退屈そうにしていながらも、しっかりと楽しんでいた。

 

「あの、チームって九人なんですよね?」

 

 そしてもう一人のサボり、千葉に歓迎されてきた被身子が料理をつまみながら尋ねる。その問いには、可思議が答えた。

 

「暇じゃないやつも多くってね。名探偵のあられ、ついでに弟子のららは今日も普通に仕事。美少女の依璃(えり)は呼んだけど既読無視。永久欠番は永久欠番」

 

 裏社会の中でも影に足を踏み入れている被身子には少なからず聞き覚えのある名も出てきたが、しかしすぐに興味が失せたらしくフライドポテトに手を伸ばす。

 

 が、響香のイヤホンジャックがその手を叩いた。

 

「およ、なんですか響香ちゃん」

 

「テツダエ……」

 

 血管の浮き出た耳たぶでも皿を運んでいる響香を見て、思わず被身子はうなづいて席に立った。

 

「……トガヒミコ、ここは君にとっても居心地のいいところだろうし、いくらでも居ていいし来てもいいけれど、でも、」

 

「わかっています」

 

 可思議はフライドチキンの下敷きになっていたレタスをかじりながら被身子に話しかけるも、途中で遮られる。

 

「私はヴィラン連合で殺人鬼。響香ちゃんのお友達で使駆くんの友達です」

 

「蝙蝠はいつか痛い目見るよ。小説家の私が言うから間違いない」

 

「いつか痛い目見ないとヴィランではないのです。そうでないとあなた達ヒーローは困るでしょう?」

 

「うん? 別に私、ヒーローじゃないんだけどな」

 

「ヒーロー免許を持ってるのも私だけですよ」

 

 被身子の言葉に可思議が首を傾げていると、壊理を連れた彩織が部屋に入ってきた。

 

「えっ、えと、こんにちわ!」

 

 死穢八斎會に囚われていた頃とは見違えるほど、服も髪もお洒落された壊理が丁寧にお辞儀して挨拶した。

 

「わぁー! かぁいいです、かぁいいです壊理ちゃん!!」

 

 真っ先に釣れた被身子が壊理を担ぎ上げる。

 

「わっ、わっ!?」

 

 無造作に伸びっぱなしで乱れていた髪は整えられ、彩織と同じように真っ直ぐ下ろされている。服装もボロ布ではなく、白いワンピース。包帯も怪我が治され、穢れのない腕が見えている。

 

「ちょっといおりん色に染めすぎじゃない? 次は私にコーディネートさせて!」

 

「刹那、うぬの服は全てメイド服であろう? 幼子にコスプレさせる気か」

 

「なにおう、ななみん。幼女のコスは幼女にしか出来ないんだぜ?」

 

「そのクソみたいな超理論は今すぐ捨てろ。……壊理、妾の服も幾つかくれてやろう」

 

「う、うん……」

 

「ななみんのゴスロリもコスプレみたいなもんじゃない?」

 

「メイド服よりは確実にマシであろう?」

 

「二人とも大差ありませんよ。というか主役を困らせない」

 

 衣装討論を始めた七七七と刹那をなだめ、被身子に壊理を下ろさせる。

 

「できれば全員集合でやりたかったのですが、まあ仕方ありません」

 

 料理を終えたカインと黄彩も、最後の皿を持って会議室へときた。

 

「我々の新たな友人と家族に、乾杯」

 

「「「「乾杯!!」」」」

 

 

 それからしばらく経って、主役そっちのけではしゃぎ出したチームを遠巻きに見ながら、壊理も笑っていると。そこへ、数多の料理をのせて運びながらカインがやってくる。ヤクザと言われても疑いようのない容姿に、壊理は思わず笑みを消した。

 

「もっと肉食えよ、肉。ガキがダイエットとか考えんじゃねぇぞ」

 

「あ、……う、うん……」

 

「まぁ、ここにいるの大概がろくでなしだからビビってもしゃあねぇけどな」

 

 壊理のあまり汚れていない皿に次々と肉料理をよそいながら、カインは話しかける。

 当然、何よりも自分の顔に怯えている事がわかっていて。

 

「あの、……みんなヒーロー、なんだよね」

 

 隣でフライドチキンの骨をうっかり噛み砕いて吐き出してるカインに、壊理からも話しかけた。

 

「あ〜、んや、違ぇよ」

 

「え?」

 

「ヒーローってのは、要するに正義の味方だろ? 俺たちは正義そのものだ。ヒーローなんて柄じゃねぇんだよ」

 

「違うの?」

 

「掲げる正義が違うんだ。わかりやすいのはりんごだな。ほら、あっちでジュース混ぜてるやつ」

 

「リンゴ、飴?」

 

「果物じゃなくて、名前な。りんごって名前なんだよ。あいつの正義は『世界のための正義』だ。世界のためなら人類だって食い尽くすぜ」

 

「……悪い人?」

 

「知らん。どうせしばらくは一緒なんだ、そのうちわかるぜ」

 

「じゃあ、いおりお姉ちゃんは?」

 

「彩織の正義は、『可愛いは正義』だ。可愛ければ悪い奴でも助けちまう」

 

「ななみお姉ちゃん」

 

「七七七は、『腐り果てろ正義』っつって、他人の正義を踏みにじる奴だ」

 

「ええ……。あ、あっちの、……ボサボサの人」

 

 壊理が指さしたのは、スパゲティを一本ずつ啜っている可思議。

 

「可思議は、なんつってたかな……」

 

「可思議の正義は『298円でDIYしたお手軽正義』、ですよ。彼女にとって正義とは手軽に作れる適当なものなんです」

 

「あ、いおりお姉ちゃん」

 

 彩織が、デザートにリンゴをウサギに切り分けられたものを持って来た。

 

「仲良くしているようで何よりです。ちなみにカインの正義は『家族のための正義』です。困った時は頼るといいですよ」

 

「……お兄さん、もしかしていい人?」

 

「うっせぇ。恥ずかしいだろうが」

 

「ほら、可愛いでしょう?」

 

「え、ええ??」

 

 あえて黙っていた己の正義を言われて顔を逸らしたカインを、彩織は微笑んで見つめている。壊理にはまだ難しい次元の話に困惑する。

 

「メイドの正義は『時と場合に依る正義』です。旅人というか放浪者の彼女には、明確な正義はないんです」

 

「あっちの、お団子の姉さんは?」

 

 彩織からリンゴをもらいながら次に指さしたのは、響香と黄彩とで一緒に何か遊んでいる被身子。

 

「あの三人は私たちチームとは違いますよ。被身子は殺人鬼でヴィラン。耳たぶが伸びる響香はミュージシャン。白いツインテールの黄彩は芸術家。絵が上手なんです」

 

「そういや、あいつらは一旦帰るんだったか」

 

「そろそろ学校で文化祭の時期ですしね。お別れ会もやりますよ」

 

「……今日じゃ、ねぇよな? 流石に材料も体力もねぇぞ」

 

「後で確認しましょうか。後片付けは他でやりますから、壊理や黄彩と遊んでてください」

 

「お〜。んじゃあ、絵でも書いてみるか? 黄彩に習いながら」

 

「う、うん!」

 

 

 

 

 




 人間寸前の正義――《可愛いは正義》
 神の落書きの正義――《家族のための正義》
 名探偵の正義――《依頼人は正義》
 メイド長の正義――《時と場合に依る正義》
 人類最賢の正義――《腐り果てろ正義》
 禁忌の正義――《世界のための正義》
 美少女の正義――《ボクのための正義》
 売らない文豪の正義――《298円でDIYしたお手軽正義》
 永久欠番の正義――《愚かなる正義》
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