001
響香、八百万、上鳴は黒い霧に包まれた後、山岳地帯へと飛ばされていた。
「不味い……、こういうとき黄彩なら……、ヤオモモ! 上鳴に電気流れる長物!」
「シンプルな鉄パイプですが出来ていますわ! 上鳴さん!」
「オーケー言われなくても分かる!」
「ウチらで時間稼ぐからヤオモモは上鳴のブッパ防ぐなんか作って!」
「わかりました!」
響香のスピーカーブーツから放たれる爆音の衝撃波と、上鳴が鉄パイプを持っただけの簡易スタンガン。
決定打に欠けるが、決して弱い攻撃ではない。時間を稼ぐには十分な戦力で――
「耳郎さんこちらへ! 上鳴さん、絶縁体シートですわ!」
「「分かった!」」
響香は八百万の作ったシートの中に飛び込み、シートが閉じたの確認した上鳴は不敵に笑う。
「今から俺はクソ強ぇぜ! 無差別放電130万V!!」
辺り一面に電光が走り、ヴィラン達を電撃が襲う。
「……効率的で素晴らしい指揮でしたわ、耳郎さん」
「うん、手順は少なければ少ないほど傑作になる。って、これは黄彩の作業スタイルだけどね。ってヤオモモ! ヤオモモのヤオモモがヤオモモしてる!」
「な、なにを言ってますの?」
「服! 前! 上鳴のアホがただの馬鹿になる前に!」
「え? あぁ、すぐに作りますわ」
「ウェ、ウェ〜イ……」
002
「手ェあげろ。個性も禁止だ。使えば、こいつを殺す」
偶然か必然か、ヴィランの中に一人だけ電気系の個性を持つ者がいたようで、八百万が服を作り直し終わった頃に、アホになっていた上鳴が人質になっていた。
「クッ、上鳴さん……」
「完全に油断してた……。全滅を扮して伏兵、アホの人質。十分想定できた」
「同じ電気系個性の良しみで殺したくないが、しょうがない」
ヴィランは手のひらに放電して見せた。正しく、上鳴と同様の個性だ。
「電気系、おそらく轟さんの言ってた通信妨害している輩ですわね」
「つまり、こいつさえ倒せてれば誰かが連絡できた……」
自分達の詰めの甘さを二人が悔やんでいると、ヴィランは近寄ってくる。
「そっちへ行く。決して動くなよ」
人質をとられて下手に動けない状況で、響香は何かに勘付き思わず振り向いた。
「っ!」
「動くなっつったろうが!!」
「耳郎さん!」
近くに来ていたヴィランは電気をまとった手で響香の顔面に攻撃をするが、横に飛ぶことで回避する。
「黄彩!!」
「キィィィィイイイ!!」
「なんだ!?」
奇声のような鳴き声が、上空から飛んできた。思わず全員が天井を見上げ、目を点にした。
「……命を粗末にするなよ。殺すぞ」
「黄彩! 《道徳的な龍》!」
黄色のワイバーン型の龍と、それに跨った黄彩が飛んできた。
「ドラゴンだと!? だが、おい! こっちには人質がいるんだぞ!」
「傑作No.10《道徳的な龍》、きょーか達を守ってて」
「キィイ」
龍は八百万達の方へ寄り、響香に甘えるように頭を下ろした。
「ひさしぶり」
「キュイッ!」
響香が撫でてやれば、龍は嬉しそうな声を出す。
「人質が見えてねぇのか! いいかげん殺しちまうぞ!」
「ウェーウェウェーイ」
ヴィランが声を荒げると、八百万が顔を青ざめさせるが、黄彩の目は酷く冷たかった。
「何度も言わせないでくれるかな。……命を粗末にするなよ。殺すぞ」
「アァン!? テメェ目ついてんの……か……」
「ウェーイ」
ドスッ、という重たい物が落ちる鈍い音が地面に響く。
「な、何をしやがったテメェ!」
「ウェイ?」
「作品No.69規制版《売れない肉屋の舞台裏》」
「な、なんてことを!」
黄色は一切動作することなく、周囲で倒れているヴィランや人質をとっている電気のヴィランの手足が一切の出血もなく手足が外れて落ちた。
唯一意識のある首と胴だけになったヴィランが叫ぶ。
「お前らみたいなのでも、地獄に落とすと怒られるからさ。せめて、自殺もできない地獄みたいな余生を満喫してよ」
頭を地面に打ち付けることしかできないヴィランの、悲痛な叫びが響き渡った。
「ゆ、有製さん。これは、こんなのはあまりにも……」
「うにゃん? 何かな、創造の人」
「あまりにも、惨たらし過ぎますわ!」
「ウェーイ!」
「上鳴ちょっと黙れ」
「ウウェイ?」
黄色は八百万の言葉に首を傾げた。
「殺したって一緒でしょ? こんなの生かしたって邪魔なだけだよ」
「殺しは相手がヴィランでも御法度ですわ!」
「だから生かしたじゃん。君みたいなのが怒るから」
「そうですがっ、私が言いたいのはそういうことではなくっ!」
「こいつらの罪状なんてせいぜい殺人未遂。そのうち外に出てきて、ボク達の知らない場所で、知らない誰かを襲ったり殺したりする。生かすか殺すか、どっちがファンの為かなんて、いうまでもないでしょ」
「でも!」
納得いかないようで噛み付く八百万と、道徳的な龍の頭を撫でながら語る黄彩。
「ストップ!! ヤオモモ、今は喧嘩してる場合じゃない。黄彩も」
見かねた響香が二人の間に入り嗜める。
「も、申し訳ありませんわ。助けていただいたのにも関わらず、私ったら……」
「ごめんね。悪いけど、今のボクは酷いスランプでさ。こういうやり方か殺すかでしか、無力化できなかった」
003
「そうだ黄彩! 他のみんなは無事なの!?」
「安心して、きょーか。成長した《道徳的な龍》はなんと大人二人乗りまで出来る! すじ肉の人連れてきたから。今頃、完膚なきまでに救いまくってるよ」
オールマイトを連れてきた。つまりは他の教師達にも連絡は届いていると理解し、八百万と響香は顔を綻ばせた。
「あの、ところで有製さん、このドラゴン、《道徳的な龍》と言いましたか? こちらは一体……」
「ん、後でみんなに説明するから軽くだけね。……この子は傑作No.10《道徳的な龍》っていってね、ボクのアトリエで飼ってるペットで、ボクの全盛期の傑作の一つ。成長する作品なんだよ! すごいでしょ!」
「成長する、作品? まさか個性で生き物を作ったんですの?」
なんでも作れるが、生物は創造できない八百万には、空想上の生物であるはずの《道徳的な龍》は驚愕どころではなかった。
「マジで成長してるね。ウチが初めてあったのが、確か十歳の時で、その頃なんて猫みたいで可愛かったのに。まあ、今もかわいいけど」
「五、六年で、猫からここまで巨体に……」
黄色は驚愕する八百万に満面の笑みを浮かべた後、道徳的な龍に跨った。
「それじゃあボク、これからその辺回ってくるけど、大丈夫?」
「あー、ウチらはこのアホ直ったらゲートの方に向かう。ヤバかったら呼ぶからよろしく」
「うん!」
「ウェ〜イ」
004
黄彩が上空からUSJを巡って、主力らしいヴィランが居なくなっているのを確認すると、オールマイトの骸骨のような姿、トゥルーフォーム状態をセメントスに隠されている所に降り立った。
「キィィイイ!!」
「すじ肉の人ー、生きてるー?」
「ああ! 助かったよ有製少年!」
肉の無い、振れば折れそうな腕を振りながら黄彩を呼ぶオールマイトに、居合わせているセメントスと緑谷が驚愕と困惑の表情をする。
「オールマイトいいんですか!? 姿が!」
「大丈夫だ、緑谷少年、セメントス。彼には隠し事が通じないみたいでね。結構前にバレちゃってた!」
「ああ、えっと、かなりの広範囲を三次元的に知覚できるんだっけ」
緑谷は黄彩のあまり無い情報を引っ張り出して尋ねる。
「分厚いコンクリートで完全に密閉されてたりしたら流石に無理だけど、建築基準法の都合上そんな場所はそうそう無いよ」
「今回の件、彼がMVPと言っていい。飯田少年がゲートを開いた時点でここの危機を察知し、廊下の壁に壁画を書くことで学校中のヒーロー達に素早く情報を伝達。《道徳的な龍》でこの姿の私を運ぶことで時間制限の節約までしてくれた。サボり魔が幸いしたな!」
「むー、すじ肉の人だってボクと一緒に遊んでたじゃーん」
「ウグッ、……いや、その、……ほんと、ごめんなさい」
「いえ。……というか彼、普通にヒーローとしてもトップヒーロー並みじゃ無いですか」
「効果範囲内なら絵や文字で不特定多数にメッセージを伝えられるのか。それなら災害時の救助でも市民の誘導がかなり効率的にできる。ここから校舎まではバスで移動するほどに距離がある。その距離で状況を察知できるなら怪我人を探すだけじゃなくてヴィランを見つけ出すことも可能。オールマイトにパワー負けしない攻撃ができる上、空を飛べるなら機動力もかなりある。……凄すぎるよ有製くん!!」
オールマイトの講評を聞きセメントスが感想を言うと、緑谷も同意するように長々と喋る。
「ヒゥッ!? す、すじ肉の人、なんか緑の人、怖い……」
オールマイトの頼りない背に、黄彩と道徳的な龍が怯えた様子で隠れた。
「ハッハッハ! 緑谷少年! ヒーローになるなら子供が怖がらせる行為は自重しなければな!」
「子供扱いしないでよ。死ぬ?」
「「「君が一番怖いよ!!」」」
「キュァアアァァァ……」
オールマイトの首筋に手刀を向け、セメントスと緑谷とオールマイトの三人が叫ぶのを尻目に、道徳的な龍はあくびをしながら身を丸め、眠る姿勢に入った。