芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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 川越大戦篇は黄彩君も出る予定ですが、もう少し先になりそうです。
 もう、藍華ちゃん先生が可愛すぎて! つい!


第七十三話

001

 

 

 

 彩織と響香が藍華に送り出されて、校門まで来た時。一人の女子生徒が待ち受けていたことに気がつき、向こうも二人に気がつく。

 

「はじめまして、白神彩織前会長」

 

 見るまでもなく堅物とわかる口調に、聞くまでもなく堅物とわかる外見。

 化粧っ気の無い顔に、腰あたりで切り揃えられた漆黒の髪。

 

「私は神先(かんざき)みさき。イジメ撲殺委員会の現会長をしています」

 

 それは決して先人への敬意の見える態度ではなく、どころか敵意や懐疑心を隠さぬ態度で、目で見える程度に軽く頭を下げる。

 

「アレは私達が卒業すると同時に消えたと思っていましたが、なるほど。後継がいましたか」

 

 彩織の意外そうな言葉に、響香は疑問よりも納得を抱く。

 

「白神前会長。私はあなた方の何もかもが嫌いです。本件は私が対処しますから、どうぞお帰りください」

 

「はて」

 

 目を丸くした彩織は響香と向き合い、首を傾げる。

 

「私があなたに従う理由は欠片もないし、見知らぬ学生に仕事を任せる理由もありませんね。行きますよ」

 

 と言いながら、立ちはだかる神先を素通りしようとするが、RPGのモンスターのように回り込む。

 

「本件は私が対処すると言ったはずです」

 

「なら私は学生に仕事を任せる理由もないと言ったはずですよ」

 

 ああ言えばこう言う、という高次元な話ではない。ただの職務妨害である。

 

「一応私もヒーローの端くれですし、母校の後輩のよしみで教えて差し上げますが、……そんなんだからイジメ撲殺委員会会長なんかになるんですよ」

 

「……何が言いたいのか分かりかねます」

 

「はっきり言ったつもりでしたが、ではもっと直球に言いましょう。あなたがイジメにあったのは、そのうざったい性格が原因だと言ってるんですよ」

 

「……私が疎まれていたとでも」

 

「いま(まさ)しく私達が疎ましく思っていますよ。いえ、恥じる必要はありません。これから私達が相手する者はあなた以上に鬱陶しいイジメっ子の成れの果てですし、あなた以上のクズなエリートはいくらでも居ます」

 

「あなたのそういうところが陰湿で嫌いなんです。言葉と暴力で人を傷つけて、やってることはただの私刑(リンチ)

 

「言葉と暴力のない世界で暮らしたいのであれば、どうぞ無人島へご移住ください」

 

「うわぁ……」

 響香は語る本人がもうクズだなと思いながらも、どんぐりの背比べを見守るつもりで静観することを決めた。

 

「そういう私だけの話をしているのではありません。あなたの被害にあった方々の恨み辛みが、本件の根源になっているのです」

 

「その恨み辛みを駆除するのが今回私の仕事です。そもそもが、カインへの嫌がらせから始まったことです」

 

「自分がされて嫌なことを誰かにするなと、ご両親や弓月先生に教わらなかったのですか」

 

「自分がされて嫌なことを相手に笑顔でするのがヒーローの仕事です。私もあなたも警察官ではありませんよ」

 

「ヒーローがそんな外道であっていいはずがありません。ヒーロー殺しを支持するわけではありませんが、確実に、あなたはヒーローに向いていない」

 

「仕事と言ったでしょう。私は善意のみ報酬見返り一切無しでボランティアをするニチアサヒーローではありませんよ」

 

「話を逸らさないでください。あなたに人を救う資格はないし、あなたが暴力で物事を解決していることを、私は決して許しません」

 

「ええ、どうぞ。暴力と権力と財力と知力の限りを尽くすと決めた時点で、多方から睨まれることを私は許容しています」

 

「っな、……っな、……」

 

 

 

002

 

 

 

 不毛な言い合いは響香がベンチを見つけて座り、さらにスマホを出しはじめた頃まで続いたところで、見かねた藍華が君臨し、二人とも悪い口を閉ざした。

 

「神先さん。あなたの正義感を私は決して否定しませんが、あなたはヒーローでも警察でも無い、学生であり子供です。私達教師と親御さんに守られ、駆けつけて来たヒーローにはありがとうとお礼を言う立場です」

 

 気まずそうに顔を逸らした神先を、腰に両手を当ててプンプンという血の沸き立つ音を鳴らしながらしたためる。

 

「彩織さん。あなたの正義を象徴となった私には、あなたに対して見ず知らずの他人に優しくしろとは言えませんが、不用意に敵を作るなとは教えたはずですよ」

 

「敵になる前に叩きのめしたら藍華は怒るでしょう」

 

「敵になる前に叩きのめしたら私ではなく警察が怒るんです!」

 

「罪を犯してから捕らえるのでは遅いじゃないですか。死んだ人は戻ってこないんですよ」

 

「どの口が言うんですか! 未遂、現行犯という言葉を覚えなさい!」

 

「発想する状況を駆除したほうが効率的です。シビュラシステムの開発が待たれますね」

 

「このヒーロー社会にサイコパスを見てそんなことを思うのはあなただけです!」

 

「ヴィランの脳を集めて、似通った思考の人間を徹底的に特定、監視するだけでも効果的だと思うんですけどね」

 

「あなたは良心や道徳心をどこに置いてきちゃったんですか……」

 

「姉に預けているのですよ。その分私は怒りを借り受けてるんです」

 

「いつか、そんなこと言ってましたね……。まったくあなた達は……」

 

「あれ、りんごちゃんと七七七、刹那、黄彩あたりで合作すれば近い物くらいは作れそうですね」

 

「噂には聞いていますが悪い人と仲良くしちゃいけませんよ! というか誰ですか!? マッドサイエンティスト!?」

 

「マッドではあるかもしれませんね。だからこそ孤立するわけです」

 

「やめてください! 連鎖的に私がやばい人みたくなるじゃないですか!」

 

「私が愛する藍華が普通であるはずがないでしょう」

 

「っにゃっ!? にゃっにゃにゃにゃにをいきなり言い出すんですか! 冗談でもそんなこと言わないでください!」

 

「冗談? 私をバカするのはやめてください。心の底から、遺伝子の一本から、私は藍華を愛しています!」

 

「あなたが私をバカにしてます! 彩織さんがバカです!」

 

「バカになることで、愛することを覚えたのです!」

 

「人の気持ちを理解できない超絶エリート男子が初恋して人の心が芽生えたみたいなこと言わないでください! それはただの社会不適合者です!!」

 

「超絶エリートを追い出すとか、社会も地に堕ちましたね」

 

「彩織さんが血に沈めてるだけです!」

 

「私は気に入らない人間を沈めたりしませんよ。せいぜい、積み上げて山にする程度です」

 

「道にしているじゃないですか! ご遺体を踏み台にしてはいけません!!」

 

「登山道整備なんてしませんよ。雨が降ったら崩れますから」

 

「土砂崩れ!? それ結局は地となり道となって雨降って固まってるじゃないですか!」

 

「うわ、なんか巨大ゾンビゴーレムになって暴れ出しそうですね」

 

「恨まれることをするからです!」

 

「叩かれるようなことをするから社会から追い出されるのですよ。悪だから沈むのではありません。沈むから悪なのです」

 

「めちゃくちゃど畜生じゃないですか! 魔女裁判!? どうしてその口でヒーロー免許を取れたんですか!?!?」

 

「歯に衣着せて、舌を二枚に裂き、化けの皮を被り、猫を重ね着したんです」

 

「ホラー映画のクリーチャーに取れるわけないでしょう!?」

 

「失礼な! ホラーヒーロー事務所《死体安置所の呼び声》の皆さんに土下座して詫びなさい!!」

 

「いないでしょう!? そして混ざってます! そんな民衆のSAN値を食いつぶすようなヒーローが一人でもいたら大問題です!!」

 

「最近見知ったヒーローに、首から上がムカデのヒーローがいましてね」

 

「どなたか存じませんがごめんなさい!!」

 

「落ち着いた性格で、アロマ等を好み、紳士的な性格だそうです」

 

「重ね重ねごめんなさい! ……あれ?」

 

「どうしました、藍華。……あ」

 

 

 

003

 

 

 

 長々と話し込んでいるうちに、彩織も藍華も気がついた。

 

「えっと、神先さんは……」

 

「響香、どこに向かいました……」

 

 神先が、いつの間にか姿を消していた。

 

「ん? あ、終わりました?」

 

 ベンチに寝そべり、完全に寛いでいた響香はスマホをしまいながら身を起こす。

 

「……仕事中にベンチで寛ぐとは、いい度胸していますね」

 

「ウチが悪いんすか!?」

 

「まぁ、いいでしょう。あの、…………藍華、あの現会長の名はなんでしたっけ」

 

「あそこまで言っておいて忘れるって……。神先みさきさんです」

 

「そう、それです。その神先さんはどこに向かいました?」

 

「あー、めっちゃ不機嫌そうにどっか行っちゃいましたよ」

 

「藍華、連絡先は持っていますか?」

 

「いえ。神先さん、携帯電話を持っていないらしくて」

 

 校門から出ていた藍華が戻ってきて答えると、彩織は重いため息をついた。

 

「……嫌な予感がしますね。藍華、危険に近づかない程度に捜索をお願いします。プロヒーロー、銀翼の名も使っていいですから、警察も巻き込んで構いません。私たちは急いで駆除に向かいます」

 

「え、あ、はい! えっと、もし神先さんが危険な目に合っていたら、ちゃんと、助けてあげてくださいね」

 

 言いづらそうに言う愛子に、彩織は不敵な笑みを浮かべる。

 

「それが藍華の命令ならば、私の名に誓って」

 

「耳郎さんも、よろしくお願いします」

 

「はい!」

 

 長々と時間を食いつぶしてようやっと、彩織と響香は学校を出た。

 

 




キャラ紹介

 彩織の双子の姉、白神(しらかみ)詩織(しおり)

 髪色、髪の長さ以外は彩織と瓜二つの、一卵性双生児。

 彩織同様の美少女であるため、一部からはいわゆる学園のマドンナ的な存在として崇められ、藍華と並べて女神と言われることも。

 彩織、カインの同級生で高校も同じ。姉妹であることから同じクラスにはなれなかったものの、お互いに仲はクラスメイト以上に良かった。

 彩織と違い、社会不適合者というわけでも無個性というわけでもない。
 しかし、妹の彩織が彩織であったこともあり、恨みを持つ男子生徒から暴行を受けそうになったことが何度かある。

 身体能力は彩織と同じ血筋、遺伝子で生まれてきたため、素手での戦闘能力は彩織並。
 料理が趣味で、カインに姉御と呼ばれながらも教わっている。

 怒りを彩織に預けたそうだが、それでも実は彩織以上に暴力的な一面もあり、学生時代に流した血の量は彩織、カインの合計以上。



 イジメ撲殺委員会の設立に賛成した藍華だったが、生涯で最も悩ませた生徒の一人に数えられている。

 近々登場予定。
 神先ちゃん? 嗚呼、気にしないで。



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