芸術家の英雄教室   作:那由多 ユラ

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第七十五話

 

001

 

 

 

 世間一般で、と言うほど自惚れるつもりはないけれど、裏社会の、それももっと奥底の世界で、ボクは美少女と呼ばれている。

 でもだからと言って、美少女を自称するほど自惚れているつもりも、やっぱり無い――不細工を自称するほど自虐趣味なわけでももちろん無い。

 

 チームのリーダーの彩織ちゃん、りんごちゃん、その辺を十段階で十だとしたら、ボクはせいぜい七か八だ。七は七七七ちゃんに譲ってボクは八でいよう。

 

 いや、別にこんな話がしたくて語り手に立ったわけでは無い。

 

 とはいえ、すんなり素直に本題を語り始めるボクじゃ無い。せっかく初登場で語り手という、特別扱い枠に仕立てられたのだから、ボクらしく期待を裏切り、無駄話で花を裂かせるとしようか。誤字じゃなくてね。

 

 

 ボクはチームの一因だ。九の因果と笑い合いながら使命を執行するのがこのボクだ。

 

 でもボクの立ち位置というのは、新入りのメイド長、刹那さん以上に異端で、端的に言ってしまえばボクとチームは極端と極端の関係と言える。水と油というより、1と0の関係かな。二進数なんてほとんど知らないけどさ。

 

 ボクが彩織ちゃん達と出会ったのは、まだチームにチームという名前が付いていない頃。イジメ撲殺委員会とかいう、弱いものイジメを虐めるような組織だった頃。

 

 ボク達と彩織ちゃん達の戦いは、大戦争と、ここ川越では密かに呼ばれてたりする。もちろん裏ながら、影ながらね。

 ママ(カイン)と彩織ちゃん、詩織ちゃんの三人の軍団に対して、ボクは母親と父親、母親の再婚先の男と、父親の再婚先の女、計四人とボクで五人の群勢を組んだ。

 

 人数では勝ってるとはいえ、実力差は明確。核兵器よりも殺せる人間三人を相手に、サイコロよりも役に立たないクズ四人じゃあ格が違う。

 

 たった八人の喧嘩が大戦争までに発展したのは、概ねボクせいだ。ボクのおかげと言い直してもいいかもしれないけど、それは単に視点の違いだからね。

 

 大戦争の末に、ボクの親四人は便宜上事故死ということになったが、まぁつまりは死んだ。全滅だった。四人が四人とも啀み合って憎み合って睨み合ってたわけだし、一括りに全滅と纏めてしまうよりは、一人が死んで、一人が死んで、一人が死んで、一人が死んだ。と言った方が事の顛末を正確に表しているだろう。

 

 そのことに対して思うことはあまり無いし、大戦争唯一の敗者になったことも、家族が死んだことも、ボクは全く悔やんでなんかいない。

 

 ボクを産んだ両親はボクを虐待するクズ親だったし、再婚先の男は三日三晩、ボクをベッドで縛り上げた。再婚先の女なんて面識どころか認識もしてなかったけれど、情緒不安定なのか出会い頭にボクに往復ビンタをかましてくれた。

 

 我ながら、よく美少女と呼ばれてるよね。ここまでされておいて。

 

 いや、容姿に由来した異名じゃないけどさ。

 

 

 大戦争はせいぜい八人こっきりのちょっとした大戦争だったけど、これからの大戦は話が違う。

 

 芸術家も、人間寸前も、神の落書きも、美少女も、魔術師名探偵も、愛弟子も、惨殺専門も、轢殺専門も、刺殺専門も、黄金の国も、転生の魔女も、魔の魔法使いも、犬歯の魔女も、核融合の魔法少女も、霊超類の魔法少女も、理不尽の魔法少女も、最端の魔女も、異端の魔女も、死の魔法使いも、何もかもを巻き込んでの大戦になる。

 

 

 

002

 

 

 

 とは言ってみたものの、いきなり前触れなく誰かが街中で殺戮したり芸術したり探偵したり魔術したり魔法少女をしたりするはずもない。

 最初に動き出したのは、彩織ちゃんと一人の雄英生。相手はアベル。

 大戦の序章よりもずっと前の、前日譚の後片付けのような蹂躙。

 

 いや、詩織ちゃんがあんな化け物になってるのは予想外というか想定外というか、……。

 あの可思議ちゃんを諦めさせただけのことはあるね。

 

 可思議ちゃん。そう、不可思議可思議ちゃん。唯一の部外者にして無二の部外者。平和の象徴オールマイトが生ける伝説なら、可思議ちゃんは生ける都市伝説。表の住人でも裏の住人でも影の住人でもなく、文字の住人。

 七七七ちゃん曰く、物語は可思議ちゃんの掌の上。いや、紙の上のインク。

 今語るボクとて、七七七ちゃんのインク瓶の住人だ。

 

 大戦だって、その前のお話だって、その後のお話だって、可思議ちゃんにしてみれば電子の紙束だ。

 

 さていい加減、物語のページを捲るとしよう。

 

 あっちでドッカン、こっちでドッカン、何もかもの衝突事故だ。

 

 第一回戦は、外からの内戦。

 

 魔女と魔法少女の処刑劇だ。

 

 

 

003

 

 

 

「霊超類の魔法少女――赤星(あかほし)紀利(きり)

 

 腰あたりまで伸びた赤髪を三つ編み一本に束ねた魔法少女が、ファイティングポーズを向ける。

 

「天聖の魔女の弟子、転生の魔女――名はとうに捨てていますわ」

 

 対して、金髪を三つ編み二本に束ねた魔女が、気怠げに左手を鉄砲の形にして、向ける。

 

 

 

 都会と言うには建物が低く、田舎と言うには人も建物も盛んな街中でのこと。都会でなきにしても不自然なほどに人通りのない国道の中央で、二人の少女は戦争をしていた。

 

 魔女の名乗りを聞き、魔法少女はせせら笑う。

 

「魔女如きが、魔法少女に敵うと思っているのか?」

 

「あなたこそ、オレ様に勝てるとお思いで?」

 

 本来車両が川のように流れているはずの大地で、戦争は始まった。

 

 先に動いたのは魔法少女。両拳に橙色の炎を灯しながら、魔女に駆け寄り殴りかかる。応戦するように魔女は左手の照準を合わせる。

 

 瞬く間もなく魔法少女は魔女の懐に潜り込み、鳩尾に燃える拳をねじ込んだ。

 

 

「萌え死ね! ――嫉妬の枝槍!」

 

 情け容赦一切なし。炎は魔女に燃え移り、槍という実体を持って魔女を八つ刺しにした。

 

 見るまでもなく、訊くまでもなく、即死だ。心臓を貫いたとかいうレヴェルではない。脳も心臓も肺も胃も腸も膣も子宮も喉も骨も、何もかもを貫き、毛細血管の一本も残さず焼き尽くした。

 

「けっ。んだよ、やっぱ大したことねえな」

 

 残った灰を、虫の死骸でも眺めるような目で見る魔法少女。そこに人を殺したという感傷は微塵も見られなかった。

 

――しかし。

 

「その程度でオレ様が終わるわけないでしょう?」

 

 突然に。亡骸たる灰とは一切関係の無い位置に魔女は現れた。

 

「所詮は、死に遅れのはぐれ魔法少女ですわね」

 

  傷一つなく復活――転生した魔女は、変わらず鉄砲の形の指先を向ける。

 

「知っていまして? オレ様、転生の魔女ですのよ?」

 

 魔女は『オレ様』なんて、外見にも口調にも似つかわしく無い一人称で語りかける。魔法少女は目つきを変え、その表情を、驚愕と怒りに染めた。

 

「テメェ、まさか不死か!」

 

「もちろん違いますわ。確かに死の魔法使いは不老不死を確立し、一般普及を計画していますが、オレ様はいま間違いなく死亡しましたの」

 

「死ね! 死ね! 死ね! ――憤怒の木刀!!」

 

 魔法少女の手に握られたのは、二本の赤い炎の棒。大気を歪ませるほどの熱を放つ木刀で撲殺せんと振り回す。

 

「速いし重たいですが、しかし単調になりましたね?」

 

 一振り一振りが爆音を轟かせる攻撃。だが、当たらない。

 

「うるせえ! 死んでたまるか! 私は死ぬわけにはいかないんだ!!」

 

「魔法少女の年齢制限は十五歳。先月に誕生日を迎え、貴女は十六歳になりましたわよね?」

 

「ざけんな! 私が何をした!」

 

「十六歳になった。貴女が殺されるに十分な理由ですわ」

 

 魔女の指先から、不可視の何かが数十、数百と放たれた。

 

 さながら銃弾。さながら砲撃。魔法少女は難なく躱すが、アスファルトを粉砕し爆散する衝撃が背後から連続した。

 

「意味わかんねぇんだよ! そのクソみてぇな法律も! それに従うテメェも!」

 

「意味なんてありませんわ。そのためのオレ様ですもの。死になさい。――名無しの弾丸(クリアバレッド)

 

 突き出た魔女の右腕を、木刀は千切り飛ばした。

 

 好機と、攻撃のペースを早める魔法少女だったが故に意識の外だった。

 

 まるで魔女。まるで悪女。

 

「あ……、」

 

 その不可視の弾丸は、千切られた右腕から放たれた。

 

「来世でまた逢ったら、今度は仲良くしてくださいませ」

 

 魔法少女の胸から下を木っ端微塵に砕骨粉身し、魔女の頭部をも打ち抜き、粉砕した。

 

「……はてさて、一体ここは何処なのでしょうね」

 

 次の瞬間には生まれ変わってきた魔女は、幼くなった魔法少女を抱き抱えながら無人の国道に立ちすくんだ。

 

 

 川越大戦、最初の戦争は転生の魔女による処刑で幕を閉じた。

 

 そしてボクは使命を執行する。





キャラ紹介

 赤星紀利 16歳 女
 霊超類の魔法少女

 黄金の国生まれの少女で、とある悪への復讐に燃えて魔法少女になった。

 年齢制限に達した魔導士の一部は自ら出頭し、本人の意思により普通の処刑でただ死ぬか、転生の魔女による処刑で生まれ変わるかを選ぶことができる。
 紀利はその一部になることを拒否し、転生の魔女による強制処刑が実施された。


 霊超類とは、霊長類を超越した存在であるということを表しており、悪感情を意味する七つの大罪を魔法にして武器として戦うことを得意としている。また、あらゆる能力が霊長類の限界を越えてる。

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