001
川越市の、かつて商店街だった、今は岩肌の広場に、彼らは美少女の元に集まっていた。
――ヴィラン連合リーダー
――刺殺専門の殺人鬼
――轢殺専門の殺人鬼
――惨殺専門の殺人鬼
――神の落書き
――平和の象徴
――黄金の国
――魔術探偵八ツ星
――霊超類の魔法少女
――核融合の魔法少女
――理不尽の魔法少女
――転生の魔女
――最端の魔女
――異端の魔女
――犬歯の魔女
――死の魔法使い
睨み合い、笑い合い、語り合い。乱雑に掻き集められたような面々の中には、今にも殺し合いそうな我の強いものもいるが、しかし誰一人として手を出すことはない。
火花一粒で爆発しそうな面々の前に、少女が現れる。
「や。久しぶり。それとも初めましてかな」
目の怒った者達を嘲笑うように、言った少女に、十人十色の目が向く。
「なんで自分がここにいるのか分からない人もいるだろうし、来たくて来た人もいるだろうし、今すぐにでも帰りたい人もいるだろうけど、せめてどうか、ボクの話を聞いて欲しいな」
暗黒の目で微笑む少女に言葉を聞いて、その場を去ろうとする者はいない。
「今日だけここは戦場になる。相手は人間寸前の銀翼天使。誰かが死んだりなんてしないし、明日になれば何もかも元通りだけど、どうか今日だけ、みんなの身体を貸して欲しい」
全員が耳を傾けているのを見て、さらに笑みを深めて美少女は語る。
「ヒーロー、ヴィラン、異世界人に殺人鬼。みんな仲良く喧嘩しようね」
髪、目に似合わぬ明るい微笑みを振りまく。
聞き入っていた面々が歓声をあげようとして、しかしその声は喉半ばで押し戻された。
「いーっらっしゃいませぇ!! お客様ぁ!」
ビルどころか、電柱すら無い此処に、天高くから人間が着陸して来た。
――メイド喫茶のメイド長。
「皆さん逃げてくださいましっ! 失礼ながら名乗りは省略させていただきますわ! ――
「およよ、ジェーンちゃんじゃん」
転生の魔女――ジェーン・ドゥが飛び出し、不可視の弾丸を放つも、メイド長――刹那は羽虫でも払い落とすように、地面へと弾道を逸らした。依璃の足元に着弾し、地面が大きく抉れる。
「……相変わらず、意味不明なバケモノですわね」
「エリたんだね、この集まりは」
クツクツと、愉快そうに肩を震わせる刹那は、しかし笑みは口だけで目は鋭い。
「刹那さんは、敵なんだね」
「まったく。何を言っているのかな、このエリたんは」
既に何人もその場からいなくなっているのに気がついた刹那は、敵意と警戒を隠さぬ魔女と美少女に言った。
「覚えておくといいよ。主人の居ないメイドというのはね、神羅万象有象無象、修羅神仏邪魅魍魎の何物よりも自由なんだ」
002
刹那が着陸した時から、数十分が経過した頃の、白神家。
「警察も機能していないので、その辺に放っておけばいいですよ」
「え、でも腐らない?」
「死んでいないなら平気でしょう」
駅周辺は原型を残していなかったが、暫く歩いて離れた住宅街は何事もなく無事な様子。そんな中、彩織の実家の軒先には気を失った怪我人達が道路に並べられていた。
「うにゃぁ……、この人、強いんだね」
「黄彩は初対面でしたね。この顔だけは優しいバカは私の姉、詩織です」
「うん、初めましてだね。……響香ちゃんの弟くん?」
「んーん、違うよ。ボクは有製黄彩。芸術家だもんね」
「ウチの幼なじみで、同じ雄英生です」
黄彩は倒れている者達のうち、唯一の魔法少女らしき格好の少女の頬を突きながら名乗り、響香も突くのをやめさせながら言う。
「で、詩織。この者達は一体どうしたのですか?」
「えっと、駅まで迎えに行こうと思ったんだけど、その途中で襲われちゃってね。とりあえず気絶させたんだけど、もしかして拙かった?」
「いえ、お手柄ですよ。魔法少女なんてまともに相手して勝てる存在ではないので」
「……そんなの相手にして勝ってる詩織さんって一体……」
「やだなぁ、響香ちゃんまで。私もこの子も普通の女の子だよ?」
「普通の女の子どころか、普通の人間はまずこの街にはいませんよ」
何はともあれ、四人は荷物をおろしてリビングのソファに腰掛ける。
「一先ず、戦況の確認をしましょう。私達は現状四人。他にも何人かに声をかけてはいますが、応じるかは正直微妙なのでいないものとします。で、黄彩」
「うにゃ、なぁに?」
響香の膝の上で抱きしめられている黄彩は、出されたお茶に息を吹きかけて冷ましながら首を傾げる。
「先に詩織が倒した面々のことですが、あの中に主力クラスは何人いましたか?」
今も尚道路で気絶している者達は10人近いが、その全員を依璃が戦力と認識していると、彩織は欠片も思っていない。
「ん〜、個性云々は見ただけじゃ分かんないけど、殆どは避難しなかったか迷い込んだヴィランだと思うよ。二人だけ、魔法使いと魔法少女がいたかな」
「その二人の詳細は?」
「あつっ、……うにゅ、魔法少女の方は知らない。魔法使いは確か、……そう、死の魔法使い。黄金の国で目立ってたから覚えてる。不老不死と、その一般普及の研究をしてたはず」
個性で冷ませばいいものを、熱いまま口にして思わず口から離してから、黄彩は語った。
「研究者ですか。……積極的に参戦するとは思えませんが、まぁいいでしょう。ここももう敵に知られているでしょうから、最低限の荷物だけ持って移動しますよ」
お茶を飲み干した彩織は、最低限の荷物――大剣二本――を手に立つ。釣られるように詩織も、半ば呆れた表情で立った。
「安心してください。二人は戦力として当てにはしていますが、勝率への期待はしていません」
「てか、勝ちも負けもないんでしょ。彩織が死んだら負け? 依璃ちゃんが死んだら勝ち?」
立とうとした黄彩と響香は、詩織の言葉に動きを止めた。
「いえ、いえ。我々の勝利条件は、依璃を連れ帰ること。敗北、というか失敗条件は誰かが死ぬこと。物語に名の出ないヴィラン程度はどうなろうとどうでもいいですが、名だたる者は決して殺してはなりませんよ」
003
戦闘開始から、約一時間。
「んっん〜、あいっ変わらず弱っちぃね、ジェーンちゃん」
「……あなたが強過ぎるのですわ、メイド長」
死のうと終わらぬ転生の魔女、
しかし今回とった刹那の戦法は、生かさず殺さず。ジェーンの攻撃魔法を正面から叩きのめしながら、治癒魔法で即座に治癒可能な程度のダメージを与え続けた。転生による体力、魔力の回復もさせずに痛めつけられ続けたジェーンは地に伏せ、泡を口端から溢している。
「今の私は主人無きメイド。冥土にも生きる旅人。死ねない程度のことが敗因になるジェーンちゃんが、弱くないはずないでしょう? 処刑ばっかりで腕が鈍ったんじゃない?」
「……うっさいですわ。オレ様は天聖の魔女の弟子、転生の魔女。幼子を殺す最悪処刑人。……少女の一人や二人救わねば、命の捨てがいがありませんわ」
地に伏せたまま指鉄砲を向けられた刹那は、銃口を向けられているにもかかわらず、その笑みを抑えず、回避する素振りも見せない。
「いいぜ、殺せよ。冥土でも地獄でも、どこへでも送り込むといい。すぐにこっちへ迷い込んでくるとも」
「……死人を殺す術は持ち合わせていませんわ」
ジェーンはため息を吐きながら、銃を下ろす。
「そ、ありがと。妹によろしくね」
指鉄砲を解いて口端の泡を拭うジェーンにそう言い残し、刹那はその場を離れた。