第九話 体育祭の道徳参戦と芸術不参
001
ヴィラン襲撃事件の後、臨時休校になり、さらに翌日。雄英は予定通り開校された。
しかし通学路の至る所にヒーローや警察が警備していて、物騒な雰囲気が醸し出ている。
「おはよう」
「相澤先生復帰早えええ!!!」
生徒達が登校してきて、もうすぐホームルームの時間という頃。誰が大怪我を負った相澤の代わりをするのかと胸を躍らせていたら、まさかの全身に包帯を巻いてミイラのような装いになった相澤がホームルームを始めた。
「俺の安否はどうでもいい、それよりいくつか話があるから聞け」
そう言いながら、相澤は教室の巨大なドアを全開まで開けた。
誰が来るのかと生徒達が身構えると、やってきたのは黄色のワイバーン型ドラゴン《道徳的な龍》だった。
「キュイッ」
翼と一体化している腕を、挨拶するように挙げながら堂々と入ってきた。
「このドアが役立つところ、初めて見たな。……あー、いろいろあってしばらく雄英にいることになった有製の作品、つっても生物だ。紹介しろ」
道徳的な龍の横幅がドアとちょうどいい幅なのを見て思わずぼやいた相澤は、黄彩を教壇に立たせた。
「はーい。この子はボクの傑作No.10《道徳的な龍》、ボクが十歳の時に作った子だよ! かわいいでしょ!」
「キュイー」
「ウフフ。今年の文化祭で展覧会を開くことになってね。成長する作品はどうしても人と関わり少ない子が多いから、あらかじめ慣れてもらおうと思って、ちょっと前に連れてきたの。同じような子がこれからちょくちょく来ると思うけど、仲良くしてあげてね」
「雄英の敷地内に限るが、空中からの警備もしてくれるそうだ。丁重に、つーか丁寧に扱えよ」
「人を食べたりはしないけど、怒ると噛むからみんな気をつけてね」
「キュ?」
「《道徳的な龍》、これから授業だから、外で飛んでて。ご飯の時間になったら呼ぶからさ」
「キュイィー!」
声高に鳴きながら、《道徳的な龍》は天井すれすれを飛び去って行った。
「次の話だが、……戦いが来るぞ」
「戦い?」
「まさか……!」
「まだヴィランが!?」
「いや、雄英体育祭が迫ってる!」
「「「「クソ学校っぽいの来たああああ!!!」」」」
生徒達が一斉に叫んだ。
「待って待って! ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「逆に開催する事で雄英の危機管理体制が磐石だと示すって考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」
「あ、ボクは道徳的な龍と一緒に撮影と実況するから、みんな頑張ってね」
一人余裕な黄彩に鋭い視線が向くが、相澤は気にせず話を続ける。
「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。しかし今は知っての通り規模も人口も縮小し、形骸化した。そして、日本において今かつてのオリンピックに代わるのが、雄英体育祭だ!!」
「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」
八百万の言葉に相澤も頷く。
「年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」
締めの言葉に、生徒達の目が燃える。
そんなこんなで、今日のホームルームが終わった。
002
午前の授業が終わって、お昼休み。
「黄彩、ランチラッシュにお弁当作ってもらってきたよ」
「ん、ありがとー、きょーか」
美術室で、黄彩は《道徳的な龍》に粘土を食べさせていた。
「……前会った時は普通なもの食べてなかった?」
「この子、好き嫌いはあるけど雑食だよ? 流石に料理をお腹いっぱい食べさせるのは大変だからさ」
「雑食っていうか、悪食っていうんじゃないの? それは」
「身体の主成分が粘土だから、大丈夫でしょ。人間がお肉食べるのと一緒」
「まあ、その子がいいならいいけどね。……それより、体育祭出ないってほんとなの?」
「きょーか、ボクが運動苦手なのは知ってるでしょ?」
「いや、アレあるじゃん。オールマイトをモデルに作ったパワードスーツ」
「あー、あれねぇ。一応申請したんだけどね、流石にチート過ぎるからって」
「んー、それもそっか。……ちょっと残念」
「うにゃん、どうして?」
響香自分の分の弁当から、唐揚げを道徳的な龍に食べさせながら言った。
「ウチ、黄彩と戦えるチャンスだと思ったの」
「……ボクと? きょーかが?」
「うん。なんていうかさ、ウチ、ずっと黄彩に守られたり助けられたりしてばっかりじゃん? 示したかった。ウチは黄彩がいなくても戦えるぞ、みたいな」
「ん、ボクもきょーかにいっぱい助けてもらってるんだけど……」
黄彩は弁当を摘みながら、口をしどろもどろさせ、言葉に悩ませた。
「……うん、わかった。じゃあいつか、ちゃんと喧嘩しよっか。それはともかく、体育祭はちゃんと見るよ」
「応援、よろしくね」
「うん。全力で応援する」
「アハハ、少しでいいよ。人形劇みたいな黄彩の応援の仕方、ちょっと恥ずい」
「ウフフ、ママ直伝だもの」
「蒼さんかぁ……」
有製
黄彩の母親で、個性は《人形劇》
人形を思うがままに操る個性の持ち主で、黄彩の異様な五感と天然な性格は母親譲りのものだ。
蒼の人形は全て夫、
003
雄英体育祭当日。出場予定の生徒達は各クラスに分けられた部屋に待機して、入場時刻を待っていた。
響香のクラスである一年A組の待機室では、十人十色に準備をしながら待機していた。
「ケロ、残念だったわね、有製ちゃん」
「かっこいいとこ見せないとね!」
耳のイヤホンジャックにスマホを繋いで音楽を聴いていた響香に、蛙吹と芦戸が話しかけた。
「……ん、ああ、うん」
音楽を停止し、イヤホンジャックを抜いてから響香は蛙吹に笑いかけた。
「ま、しゃーないよ。アイツ、そもそも運動苦手だし」
「そういえば! あのドラゴンと一緒に実況するって言ってたよね!」
「道徳的な龍よ、三奈ちゃん。実況といえばプレゼント・マイク先生だし、意気投合でもしちゃったのかしら」
蛙吹が口元に人差し指を当てながら首を傾げると、響香が頷く。
「ありうる。オールマイトとミッドナイトも入れて四人で遊んでるみたいだし」
「……うっかり体育祭より派手なことになりそうな面子ね」
「てか何して遊ぶの? オールマイトとミッドナイトとプレゼント・マイクと、黄彩くんで」
「あー、桃鉄とかスマブラとか、大体黄彩が持ち込んだゲームかな」
「学校でゲーム! 男の子だね!」
「オールマイト、あの手でコントローラー握れるのかしら」
「あれ、もしかして先生達もサボりなのかな」
「それは、……相澤先生が怒るんじゃない?」
話しているうちに時間は過ぎ、飯田の号令に従い入場ゲートへ向かった。
『雄英体育祭!! ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ!! こいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!! ヒーロー科一年A組だろぉ!!』
プレゼント・マイクの実況と、観客の歓声を浴びながらA組が入場した。
そこからA組に続き、次々とクラスが入場していき、次は選手宣誓。
「選手宣誓!」
台に立つ、黄彩曰くおっぱいの人、18禁ヒーローミッドナイトが宣言する。
「一年A組! 有製黄彩!!」
「はいはーい!」
A組の固まりからではなく、上空から道徳的な龍に跨って登場した。
「出場しなくても、こういうのは出るんだな」
「まあアイツ、入学首席らしいしな」
「あんの、クソガキィ!」
着陸すると、黄彩は実況のために装着したインカムのスイッチを入れた。
『せんせー! ボクはみんなを映像でアピールしまくるから! ボクが撮るに値する、プロが観るに値する、綺麗に可愛く楽しい体育祭を、一緒にファンに魅せようねっ!』
『キュイイッ!』
「「「「ウオオオオオオオオ!!!」」」」
選手、観客両方の歓声をバックに、黄彩はカメラを天高く掲げながら空へ飛び立ち、会場を一周回って戻ってきた。
『ウフフ、もし見苦しい展開になったら、ボクが無理やり盛り上げるから頑張ってね?』
『キュィィ?』
「「「「「ウ、ウォォオオオ!!」」」」」
もはやそれは、歓声というより断末魔だった。
「……おい、誰だ龍にもインカムつけたバカ」
「キュ?」
「……ちくわ、食うか」
「キュイッ!」
「おいミイラマン、マイクつきっぱだぞ。あとなんでそんなもん持ってんだ」
「…………」
「キューキュー!」
歓声と悲鳴から始まった体育祭、第一競技は、一度和みを挟んでから始まった。
キャラ紹介
有製黄彩 男 十五歳
個性:図画工作
響香より頭ひとつ背の低い子供体型。
黄色のメッシュが混じった長いツインテール。
身体は成長していないのではなく、成長するたびに子供の体型に戻している。これは黄彩が全盛期だと信じている小学生時代の発想力に、少しでも縋りたいという思いからしていること。
全盛期に作った、中でも傑作なものだけ《作品No.XX》ではなく、《傑作No.XX》という別枠に括られている。
個性で肉体を女体化できるが、精神は男。
作るという行為そのものが好きで、図工以外にも料理や裁縫など、家庭科も得意教科。
耳郎一家とは家族ぐるみの仲でお隣さん、響香とは幼なじみ。
人の名前を覚えるのが苦手なのではなく、人の名前を呼ぶのが苦手。ハイになっていないときに名前で呼ぶのは響香と作品くらい。
天然なだけで性欲も人並みにあり、性癖の衝突で一部男子とは特別不仲。『惚れた女が好みのタイプ』が長年染み付いている。
モチーフになっている他作品のキャラは《伊吹かなみ》《玖渚友》《哀川潤》《姫菜真姫》