週刊っ!英雄追跡譚・蒼穹新聞   作:エスカルゴ・スカーレット

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「暇じゃ!」

 

「……天魔様、唐突にどうされましたか?」

 

「おう飯綱丸、良い質問じゃ!」

 

(そう答えなきゃ、話が進まないでしょう……色んな意味で……)

 

「儂はな、飽き飽きしとるのだ。部下共は山の中のどこかにあるという賭場へ遊びに行っているのに、儂はダメだ、我慢しろと天狗共に念押しをされる!日々の会議などで疲れているのだ、儂だって色々と遊んでみたい!」

 

「長ともあろう者が賭博など言語道断だからでは?私もそれは反対致します」

 

「だから暇なのだ!部下共の新聞は、揃いも揃って内輪向けの内容ばかり!つまらん!!知ってる事を改めて文字にされて何が楽しいッ!?しかも、変に誇張されていてどこか気持ち悪いぞ!これでは山に未来も何も無いではないか?」

 

「……」

 

「同じ事を改めて文字にして知らしめるというのは同じ場所をグルグルと回っているに等しい行為だ。森の中で彷徨う愚者の如く、進まずに回っている。ただそれのみの愚かな行為よ。だが新聞の内容まで儂が口出しをするのもまた間違っている行為だ」

 

「……どうぞ、お酒です」

 

「気が利くのぅ飯綱丸。……どれ……うん美味い!」

 

「お口に合ったようで何よりです」

 

 グイッと猪口から酒を飲んだ天魔。その味を確認するや否や徳利から直接飲み始めた。部下の手前、下品な飲み方だと分かってはいたが、過大な鬱憤、上等な酒という組み合わせの前に天魔は弱かった。

 

「紫や隠岐奈と酒を飲むのはいつも楽しいぞ!鬼と違い限度を弁えているからな、楽しく酒が飲める!英雄との切磋琢磨、これも悪くは無い!だが何年も繰り返しているとな、こう……」

 

「……マンネリ化?」

 

「そうそれじゃ!」

 

「つまり天魔様は『新しい刺激が欲しい』と、そう仰りたいワケですね」

 

「その通りッ!話が早くて助かるのう!」

 

 それを聞いた飯綱丸龍は、天魔に見られぬように口元を手で隠しながら、フッと静かに微笑んだ。

 そして表情を戻し、如何にもな真面目な顔付きで天魔に進言する。

 

「────それでしたら、私に一計が御座います。尤もこれは、私の右腕が考案したモノなのですが」

 

「聞かせろ!」

 

「はっ。それではお耳を拝借……」

 

 

 ◆

 

 

「母上、母上〜ッ!!」

 

「……どうしたんですか穹、こんな月夜に騒ぐなんて趣きもへったくれも無いですねぇ」

 

「そそ、それどころじゃないんですっ!天魔様が、新たなお触れを出しまして……それに私がっ……」

 

「えっ……あなた何かやらかしたんですか?」

 

「違いますよぉっ!!」

 

 ある日の夕方、天狗の子供達は上司の大天狗達に招集を掛けられ、天魔の屋敷に集合していた。その対象となったのは、新聞を担当している種族。

 射命丸文────鴉天狗の血を引く穹も例外ではなかった。

 

「私達が……天狗の子供達による新聞のコンテストが開催される事になりました!!」

 

「へー、そうなんですか。それは良かったですね、記者デビューへの第一歩が、大幅にショートカットされましたねぇ」

 

「何ですかその反応はぁ!もうっ!」

 

「お触れだなんて言うから焦りましたよ。あの方、最近やけに思い付きで行動しますからね……。もしも厄介な動きをしようものなら困り果てましたがね、成程、新聞コンテストですか。しかも対象者は子供だけという。ふむ、興味はありませんね」

 

「ヒドイッ!」

 

「え〜?だってあなた、新聞を書く練習していないでしょう。ネタ集めは悪くないですが、そればかり優先して肝心の書く練習を疎かにしているのです。応募しても無駄だと私は思いますがねぇ……他の子を見習いなさい」

 

「それでも書きます!応募しますよ!」

 

「いいですか?執筆というのはですね、一朝一夕に上手くなるものではないのですよ。繰り返し、同じような作業をひたすら繰り返し積み重ねるからこそ己の書き方が見つかり、己の方向性が見つかる……。そういうものなのですよ」

 

「やると言ったらやります!見てて下さい、絶対に優勝してやるんですから!」

 

「因みにですけど、優勝賞品とかあるんですか?」

 

「天魔様が褒めて下さいます!あと高品質なペンとメモ帳が与えられるそうです!」

 

(それ、ほぼやりがい搾取なのでは……?)

 

 

 ◆

 

 

 コンテスト当日。穹は文に自分の作品を見せて、母親の反応を見てみることにした。しかし、彼女の予想以上に文の反応は良くないようで……。

 

「これ、新聞というより『新聞のような形に纏めたレポート』じゃないですか……?まさか、これを提出するなんて事はしませんよね?」

 

「……?そのつもりですが問題ありましたか?」

 

「やめなさい!こんな書き方じゃ私まで恥ずかしい思いをするじゃないですかッ!せめてこう、内容はどうにかしなさい!どうしてこうエスカルゴさんに固執するのですかあなたは!身内をネタにするのはダメですよ!何年も言ってるじゃないですか!」

 

 そう言いつつ、母上も父上をネタにした事があるじゃないですか、と、穹は内心母に反抗していた。

 しかしそれは敢えて口にしない。そうなると母が多少なりとも不機嫌になるのは分かっていたから。それに、あの頃は「彼」なので「身内」ではないと言い訳も可能だ。つくづく母は手強いなと穹は苦い顔をしてしまう。

 

「いいですかッ!?私が霊夢さんの武勇伝をネタにしないのは、裏が取れないというのもありますが、遠回しに霊夢さんが私の身内になったからです!!エスカルゴさんを通してですが、身内だからです!身内をネタにするなとあれ程……!」

 

「……すみません……」

 

「分かればいいんですよ分かれば!ほら、私のネタ分けてあげますから、テキトーに使ってください。人里向けの内容ではありますがエスカルゴさんネタよりはあなたでもマシな内容にできるでしょう」

 

「……もう提出しちゃってまして……」

 

「……?はい?今…………何と?」

 

「ですからもう提出しているのです。母上に渡したそれ(・・)は……原本ではなくコピーした物です」

 

「ッ!!そう言えばこの紙、ヤケに手触りが悪い!粗悪品だ!……子供の行事だからと粗悪品を使わせているのかと思いましたが、よもやコピー用紙とは……いやはやこれは参りましたね……」

 

「……てへっ☆」

 

「『てへっ☆』じゃなあああああい!!んもーっ、どーしてこんな赤裸々に書くんですかぁぁ!!」

 

 何だかんだと言いつつ、文はキチンと娘の書いた新聞を読んだらしい。読まなければ

 

「コンテストの結果はどうなったんです?」

 

「なんと、最終選考まで残りましたよ!しかもその最終選考は天魔様直々に判断を下されるそうです!選考に残ったのは私と朱美と弥生だけです!」

 

 朱美、弥生とは穹の同僚もとい友人である。ただ2人共、典型的な天狗の例に漏れず、かなり重度のショタコンである。

 少し前に、集団である少年を性的暴行した事で、ちょっとした問題になった。

 

「あやややや……!これはもう、私のコネでどうにかできるレベルじゃないですね……。困りましたねぇ、優勝しなければ大衆の目に付くことはあまり無いと思いますが……ま、きっと、優勝するのは朱美ちゃんでしょう。問題無さそうですね」

 

「えー?なんで分かるんですかぁー?」

 

「さぁ、何ででしょうねぇ。フッフッフ……」

 

 ……そう、穹が知らないだけで、朱美は天魔の親戚なのである。しかも叔母と姪というそれなりに近い親戚だ。だから文は、最終選考に残った者達の中に朱美が居ると穹が発言した時点で、娘の落選を確信していた。流石に今回ばかりは身内を優先し、能力などを誇示したがるはずだと、そう確信したのだ。

 文とて、娘には優勝してほしいとは思っている。しかし内容が内容だけに、プライベートな内容ならとにかく伏せておきたいのだった。

 そして迎えた最終選考の結果発表。これは予選と違って天狗の里にて大々的に行われるようで、ただ結果を知りたい者、関係者、印刷担当の天狗達など多くの者が里に集まっていた。

 終始無関心、知らぬ存ぜぬを貫き通したかった文だったが、万が一の事も考え、彼女もまた里に顔を出していた。

 里の中心部には、簡易的ではあるが審査員の席が設けられていて、その前部には野次馬もとい文達のような観客とを仕切る為の柵が用意してあった。

 やがて審査員達がフワリと空から舞い降り、席に着いた。その審査員とは、よりにもよって文も穹もよく知るあの人物達だった。

 そして出場者である3人も現れ、審査員達の前に立つ。3人からすれば審査員は上司達なので、直立不動のまま動かずに居る。

 

「よく来たな皆の衆!此度の子供新聞コンテストの最終選考の審査員は、儂の独断と偏見で決めたぞ。まず儂!そして隣に控えるは飯綱丸龍!」

 

「宜しくお願いします♪」

 

「その向こうに控えるは姫海棠はたて!」

 

「よ、よろしく……」

 

「それでは、早速始める事にしよう。最終選考まで残ったのは、奇遇な事に、全員同い年の如月弥生、有明朱美、射命丸穹の3名の新聞である」

 

「まずは如月弥生さんの『満天新聞』。星に関する新聞は初めて見ました。渾天儀の使い方もキチンと勉強されたのですね。星の観測結果も暦の計算も、大体正しい……。星空に関する能力を持っている私が言う事なので自信を持って下さいね」

 

「ありがとうございます!!」

 

「うむ、儂もかなり興味深い内容だと思う。しかしこれは、メインの内容に置くというよりは、新聞のワンコーナーに据えるべき内容だろうと思うのは儂だけだろうか?」

 

「それは思いますね。それに加えて、星というのは常に動いているけれど観測上はあまり変わらない。つまりこれを新聞にしようとしても、いつも大して変わらない内容になってしまう。否が応でも、ね。計算しているあなたなら、それは分かりますね?」

 

「はい……」

 

「私も悪くはないと思うわ。私、星に関しては全く無知だけど、ド素人にもすんなり分かるくらいには丁寧な説明もされてる。それだけでも、新聞に掲載しちゃうくらいの価値はあるとは思うわね。計算にどれくらいの時間が掛かるかは分からないけれど、私達くらいの発行のスパンなら余裕で計算できそうではあるし」

 

「無知な割に『余裕で』とか言わないの……。でも、弥生さんは何日でこれらの計算を済ませた?これを見たところ、ここ数日の観測結果よね?これまでに貯めた記録をここに書いた訳ではないのでしょう?まさか、渾天儀や天球儀を使ったからと検算しない訳ではないわよね?」

 

「コンテスト開催が決まった直後に改めて観測し、提出数刻前まで書いていましたので……一つの計算に四半刻から半刻、という所でしょうか……」

 

「ふむ、その年齢でその早さはまぁまぁ……かしら。不慣れ……ではなさそうね」

 

「ありがとうございます……!」

 

「では質疑応答に移ろう。新聞の名の由来は?」

 

「はい!美しい星空のように煌びやかな内容を紙に書き記し、空はこんなにも美しいという事を読者に知ってほしいという想いから付けました!」

 

「ふむ、良いな。姫海棠、飯綱丸、何かあるか?」

 

「私は特にありませんかね。はたては?記者の先輩として、何か彼女にアドバイスとか」

 

「そーね……。文章が少し子供っぽいかしら。私は、それくらいしか指摘する点は見付けられなかった。これは練習が必要ね。後は大丈夫だと思う。でも、その『文章の子供っぽさ』のお陰で、難しい説明が簡潔に纏められているようにも思えるから、一概に悪い部分とは言えないかもね。ド素人には、子供のような簡単な言葉で説明してあげるのが一番よ」

 

「それは良い事だな。ではとりあえず保留じゃの」

 

「「ですね」」

 

 3人が3人共それなりに良い方向の反応を見せた事で弥生はホッと胸を撫で下ろす。しかし「記事のワンコーナーに据えるべき内容」という発言だけはプライドの高い彼女は許容できなかった。

 これは、彼女のみならず3人揃っての隠れた共通認識だが、もしこのコンテストで己の記事が天魔に気に入られれば、発行・販売を許可される可能性があった。

 天魔は慎重な割に、こういった遊び事に関しては少々気軽に行動する性格をしているからだ。もしも気に入るようなモノがあれば、定期的に読みたい。そしてそれを皆にも読んでほしいと考える。それが現在の天魔だ。

 だから、もしこの3人の内の誰かが幼いながらに発行許可を得られたら、自分の記事は誰かの記事の隅に追いやられる。弥生は、それが許せなかった。

 決して穹や朱美の事を見下している訳ではない。ただただ、同い年に負けるのが嫌なだけだ。

 

「次に移りましょう。有明朱美さんの────」

 

 

 ◆

 

 

 朱美の新聞の審査も終え、ついに穹の番になる。野次馬に混じって娘の様子を見ていた文は、娘が、家庭での様子からは全く想像できなかった程に緊張しているのがここに来てやっとわかった。

 手足は震えて、手に至っては血管が浮き出る程に強く握り拳を作っているのが遠目に見ても分かる。気丈に振る舞うように見せていても、本当は彼女も酷く緊張していたらしい。

 

「では最後に、射命丸穹じゃな。今度は、姫海棠。お主から読んでみぃ」

 

「はい。…………んっ?」

 

「どうした?」

 

「これ、は……うーん……私からは、何とも……一先ず最初の項目は目を通しましたが…………んー、これは何と言えば良いのか……」

 

「何じゃその曖昧な返事は。飯綱丸、読んでみぃ」

 

「はい。……んん?……これは……新聞というよりは、レポート…………に、近いですかね……?」

 

「どれ見せてみぃ。う……うーむ、確かに。これは、新聞形式とは言えんなぁ……。ま、まぁ、内容だな、内容を見て判断しよう」

 

 にこやかにそう言うとはたてや龍と違いキチンと順番に読み進める天魔。そんな可能性の表情変化の豊富さたるや、まさに百面相であった。

 

「…………うむっ!実に読ませる文章だった!思わず全文読んでしまった。飯綱丸、姫海棠、これは傑作かもしれんぞ。ちと形式は違うがな、実に興味深い内容だった。よもや、ヤツにこのような一面があるなどとは、露ほども知らなかったぞ?ほれ飯綱丸、姫海棠、読め読め!」

 

「は、はぁ」

 

「内容、と言っても〜……エスカルゴの事ばっかりが纏められてるというか……。いやまぁ、確かに面白い内容ですけどね……」

 

「そうだのう……いやぁ参った。判断ができん。穹はこんなにも父親を客観視できておるというのに……、儂らの方が穹を客観視できぬ。内容が内容だけに……うぅむ……」

 

「どう……判断したものでしょうか……。内容だけで比べるなら、甲乙つけ難い。しかし、私たちがどう判断を下そうと、周囲からの反発は免れない……」

 

「んじゃこうすれば?この3人の新聞を、その辺の天狗達に読んでもらって、それを最終選考の結果にする。……天魔様はどう思います?」

 

「お、おおそうだな、それが良さそうだ。これは、我々がどう判断を下そうとも、英雄に忖度した……と捉えられてしまうだろうからな……困ったものよの。では先着5名じゃ、適当に紙を用意するから読後に投票せよ」

 

「天魔様、その前に質疑応答を」

 

「忘れておった。ではまず新聞の名の由来は?」

 

「はい!晴れ渡る青空のように隅々まで晴らしたいという願いから付けましたっ!また、蒼穹と早急を掛けました!私も母上のように、何かあれば号外を早急に出したいと思います!」

 

「ふぅむ、成程、言葉遊びか。射命丸文の娘らしい思い付きよの。では何故テーマを実の父親にした?普通であれば、身内の情報をこのように新聞にしてバラ撒くなど言語道断である。お主の母ならば絶対反対するであろう所業だ。母に反対される事も当然わかっているであろう?」

 

「っ……はい……!」

 

「では分かっているのに何故、実の父親を題材に?赤の他人であれば、『山の英雄』を追求したくなるというのは儂とて分かる。理解するぞ。だが、実の父親であるにも関わらず、敢えてそうする意図が……儂には読めぬのだ」

 

「それ、は…………」

 

「それは?」

 

「父上を、もっと皆さんに……幻想郷中の皆さんに、知って頂きたいからです!!」

 

「今でも十分、誰しもがエスカルゴを知っていると思うがの。それこそ、その辺の妖精や、お主の同期だろうと知っておるだろう。それなのに改めて父を知らしめる必要があるだろうか?」

 

「いいえ天魔様!皆さんは、父上を知らないッ!!本当の『エスカルゴ・スカーレット』を知っている者などは、そうは存在しません!私や母のような、幻想郷で上位に食い込む程の身近な者でなければ、父上の事など、理解も、知る事すら叶いません!」

 

「…………ほう」

 

「皆さんが知っているのはせいぜい、実力者だとか女たらしだとか、そんな事のはず!だから父上は、好かれながらも嫌われている!!私はっ……確かに、私も父上を色々と疑ったりはしていますし、嫌いな面も、正直あるにはあります!しかし実の父親が、他の誰かに嫌われる様なんて、私は見たくない!」

 

「……ふむ」

 

「父上を嫌う人は、何故、よく知りもしない父上を嫌うのでしょう?あなたが父上の何を知っていると言うのでしょう?嫌うのも好くのもその人の勝手!それ自体の否定はしません!しかし知りもしないで

 判断を下されたくないッ!!だから、私が皆さんに知らしめるのです!父上が、一体、普段からどんな生活を送っているのか?どんな人物なのか?動機は彼の娘だからこそのモノだと自覚はしていますが、対象への客観視には些か自信がございます!それはその『蒼穹新聞』を見ての通り!」

 

「……確かに、実の娘目線とは思えない。まるで私や文が書いたかのように、全体を……客観的に見てる。それは凄いと思うけれど、父親を題材にするのは、私は少し反対するかな……」

 

「はたてが言うのだ、記者から見ても褒められる程見事な客観視ができているのだろう。当然、本人は新聞にされている事は知らぬのだろう?」

 

「はい!もし知られてしまえば、父上の事ですから良い所だけを見せようとするはずです!」

 

「うむ。その通りだの。知られず悟らせず、だぞ。分かっているな?」

 

「はいっ!」

 

「……ふむ。ではこれで質疑応答を閉じよう。さぁ、野次馬共よ!先着100名だ、挙手せよ!」

 

「数が増えてますよ天魔様!?」

 

「こういうのは、時間が掛かってもしっかりとした結果を出すのが良い。そうだろう、飯綱丸?」

 

「は……はっ。その通りでございます」

 

 最終選考は思わぬ方向に流れた。天魔、はたて、龍、その全員が穹の父親、エスカルゴとそれなりに関わりが深く、周囲もそれを知っているからこそ、天魔達としても迂闊な判断は下せなかった。

 この子供の新聞コンテストなんて遊びだ。しかしあまりに一方面に偏った判断を下す恐れがあるならその可能性は可能な限り無くしておきたい。天魔はそう考えていた。

 その結果────。

 

「────以上100名のアンケートを集計した結果、射命丸穹、有明朱美、如月弥生…………。52:28:20という結果に終わりました」

 

「うむ!ならば此度のコンテストは射命丸、其方が一等じゃの!まぁ独特な書き方だとは思うがそれが読者にウケたのも確かなようじゃな。事実、儂らもそれで楽しませてもらったよ。それも、お主の個性というヤツなのだろう。……よし、射命丸穹。お主の

『蒼穹新聞』に、発行・販売を許可する!」

 

「「えっ」」

 

 審査員の2人は天魔の唐突なその発言にギョッとする。優勝の景品はペンとメモ帳のはずだ。しかし実際は、子供達が密かに思っていたように、発行や販売の許可が降りてしまった。当然ながら、周囲の驚き様は凄まじいものがあった。

 

 

 ◆

 

 

 その後、穹、朱美、弥生の3人は秘密裏に集まり仲間内だけでの軽い打ち上げをしていた。木の上で茶を飲み、最終選考の感想やその後のドタバタを、しんみりと思い返していた。

 

「……とりあえず穹、改めてになるけど、発行許可と優勝、おめでと」

 

「おめでとー♪」

 

「ありがとうございます弥生、朱美!まさか本当にこうなるなんて、未だに信じられません……!」

 

「鞍馬諧報の鞍馬大天狗様も言ってたけど、10代で発行許可されるなんて凄い稀な事らしいわ。まぁ、剥奪されないよう頑張ってね。私の天文の記事も、たまには載せてもイイし……?」

 

「あ、それは結構です、私あまりお星様には興味がありませんので」

 

「穹はさぁ……。いやまぁ、そういうキャラってのは前から分かってたけどさ」

 

「?」

 

「そういうキャラ辞めたらもっと友達とかできると思うよ」

 

「友は、少数でいいのですよ。人付き合いで自分の時間が無くなってしまっては、それこそ記者生命に関わってしまう。私はそう思っています」

 

「穹のスピード的に時間なんてのはほぼ関係ないと思うけどねー……」

 

「朱美の言う通りよ。もう少し人付き合いってのを学んだ方がいいと思う。取材できる対象からも取材拒否されるかもだしさ?」

 

「取材対象は家族やそれに近しい人々だけですし、問題は無いと思われます」

 

「でもね。友人として、一つ忠告させてもらうわ。身内の何かを暴くような事をしていると、いつか、痛い目に遭う事になるわよ。気を付けなさい」

 

「…………これが負け惜しみってやつですかね?」

 

 目をぱちくりとさせる穹。本人としては嫌味等のつもりは一切無い。ほんの少しも無い。ただ単に、そう思ったから聞いた。ただそれだけである。

 すると弥生は、持ち前のツリ目を更に釣り上げ、捲したてるように怒鳴る。

 

「違うわよ!それで大変な目に遭った事があるの、私は!……だからまぁせいぜい気を付ける事ね!」

 

「まぁ、私には父上の後ろ盾がありますから!普段どこ行ってるのかもよく分からない方ですが、結構頼りになる時は頼りになるんです!」

 

「その『後ろ盾』をどうこうしようとしてるのは、あなた自身なんだけどね。……まっ、忠告はしたわ。あとはあなたがどう解釈するかに賭けるわね」

 

「賭けですかー、そういえば弥生、駒草さんのとこ行ってるんでしたっけ?子供なのに……」

 

「穹と違って見た目は大人に近いもの。全然問題は無いわよ。朱美も行ってるしね」

 

「ええっ!?ちょっと朱美ぃ〜、なんで私にそれを隠してたんですかぁ〜っ!」

 

「だって穹は誰より好奇心旺盛だもの、そんな事を言えば潜入だってしかねないし……」

 

「うぐぐぐ……っ……では2人に『お願い』です!」

 

「うんうん、どーしたの?」

 

「はぁ?……ったく、何よ?」

 

「実は、少し前に母上と飯綱丸様とが話していた事なのですが……父上が駒草さんの賭場へ通っていると話していたんです」

 

「じゃあ……穹の養育費とかは賭博で得たお金とか、そういう事なの……?」

 

「嘘……私の尊敬する英雄が……。それさ、穹が話を聞き間違えた可能性は無いの……?」

 

「私、父上の血を継いでいるので、あなた方よりもずっと優れた聴力ですよ?」

 

「う……そうだった……。どうしよ、朱美……行く?」

 

「…………行こう!カメラ持って毎日通って、真実を写真に収めようっ!」

 

「……そだね、あの方は潔白だと思いたいし。ねぇ、穹、確認だけどさ?私達があの方の賭博現場の写真撮ったら、穹はどうするの?早速新聞にするの?」

 

「新聞にすると父上のハーレムが崩壊しかねませんから、2人きりになって写真を見せ付け、誠心誠意賭博を辞めるようお願いしますよ。それでもダメで賭博を辞めないのであれば、ハーレム崩壊を覚悟で記事にして、世に出します」

 

「……嫌な予感しかしないよ、もう……。でも、もう遅いよね。引き受けたからには……」

 

「やるしかないよ、弥生!」

 

「はぁ……気ィ重いわ〜…………」

 

 かくして、射命丸穹は己の新聞を時たま発行し、販売する事が許可された。穹が父の暴悪を暴く日もそう遠くはない────かもしれない。




朱美も弥生も本編で出てきてますね。それなりに前だけど……。

少し修正(2021/06/01 05:22:51)。
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