「そろそろ夕方ですね……。それでは2人共、潜入、宜しくお願いします!」
「任せてっ!行こ、弥生!」
「はいはい……」
陽が沈む頃、穹達3人は賭場の近くに集合。穹はカメラを持った友人2人を見送ると、自身は近くの木の影に身を隠しつつ入口にカメラを向け見張る。
賭場に入り込んだ2人は早速経営主の駒草山如に挨拶に向かう。
「こんばんはーっ!」
「こんばんは。今日も宜しくお願いします」
「はい、こんばんは、節度を持って楽しむんだよ。今日はお客さんも少なめだけど、騒ぎすぎちゃダメだからね?」
「はーいっ!」
「わかりました」
「ん?……ちょっと待ちな。そりゃ……カメラかい?撮影か何かするのかな?卓は撮影禁止だよ」
「あ……大丈夫、撮影帰りなだけなの!」
「今帰ると、実家暮らしなせいで親からこれ以上の外出を制限されそうで。あ、ほら、私の親は過保護なので……」
「ふーん。……まぁいい、賭博の様子じゃなくて人物なら撮影OKさ。じゃ、楽しんできな」
「あのっ……山如さん、何処に行くんですか?」
「あー……お客さんさ。私だけのね」
「私、だけの……?」
「そらっ、賭博しに来たんだろう?そちらで遊んできなさい。小遣いが尽きない程度にね」
「はーい!」
「……はい」
実は、言わないだけで、山如は弥生と朱美が子供である事を見抜いている。しかし普段からそこまで大きな額を賭けたりせず、まるで出店で飲み物でも買うような少額しか所持せず、賭けもしないので、彼女の温情により、黙認してもらっている。
勿論それは、2人の外見がガッツリ子供ではない事も関係してはいるのだが。
「朱美」
「なぁにー?ほら弥生、半丁やってこよーよ?」
「目的を忘れちゃダメでしょ、呑気に半丁やってる場合じゃないよ」
「えっ?まさか……来たの?」
「ううん。でも山如さんが賭場を出るなんてそうは無いでしょ。ここの空気は、あの人がコントロールしてるようなもんなんだから」
「そーいえば、最近はやけに出て行くね?……えっ?まさかそういう事?」
「外であの方と会ってる。……つまり逢瀬よ」
「……!追わなきゃっ!」
「だから言ってんの!ったくもう!」
「ひゃ〜っ、気付かなかったぁ!」
足早に出入り口から外に出て、山如の追跡に移る2人。チラリと穹の方を見ると、近くの木陰に居るはずが彼女の気配は無く……。
それはつまり、彼女の身に何かあったか、ここに彼女の父、エスカルゴが訪れ、穹は彼の追跡を開始したと見るのが自然だった。
◆
「ここまで来ればもう大丈夫だろう。近くに気配も無い」
「……まーそうかな。あーあ、山如のせいでキメセククセになっちまったよ」
駒草山如は、賭場まで来たエスカルゴの手を引き賭場から離れた地点の木陰まで連れてくる。上空は木々の葉が生い茂っているので、上空からの撮影はほぼ不可能。仕方なく、穹は離れた地点に着地し、枝の間を縫うように細かく軌道を変えてその地点に戻っていく。
「そんなつもりで
「そうかもね。俺に打たれる薬の大半は、永遠亭の永琳の薬だからさ。効きやすいし、吸血鬼用だからちょっと強めなんだ。耐性はあるだろうさ」
「……やれやれだ。ま……求められるのも、存外悪い気はしないけどね。『裏メニュー』は秘密だよ?」
「言わねーよ、山如は俺だけの花魁だし♡」
壁ドンのように樹木に手を付くと、エスカルゴは山如の顎を指だけで優しく持ち上げ、唇だけで軽くキスをする。穹はその瞬間を逃さずに、予め無音に設定しておいたカメラでシャッターを切る。
……撮れた。賭場の経営主、駒草山如と山の英雄、エスカルゴ・スカーレットの夜の密会。
しかしそんな現場を目撃しながら、穹は不思議と安心していた。父親が賭博をしていたのではなく、いつも通り女遊びに耽っていて良かったと感じた。
「ったく……でもまぁ、確かにこんなナリでは遊郭の女に見られても仕方ないのかもしれないがね……」
「それも、ただの女じゃあねーぜ?最高位の花魁、または太夫!駒草太夫の異名に相応しいよ、全く」
「まさか賭場の皆が私を駒草太夫と呼ぶのも、皆も私をそういう性的な目で見ているからなのかねぇ」
「男共はそうなんじゃあないか?だって見るからにエチチだもんなぁ」
「何なんだそれは……。それで、また外なのか……?物好きな奴だ……別に構わないが……」
「夜特有のさ、普段より澄んだ空気……好きなんだ。田舎は都会より空気は綺麗、大抵はそうだ。でも、田舎の中でも飛び抜けて空気が綺麗に澄む瞬間……。それが夜なんだよ」
「そのクセに昼間も勤しんでるんだものなぁ」
「あ、バレてる?」
「バレないと思っていたならお前さんはバカだよ。ここよりも少し低地の方では、あの厄神様と頻繁に致してるじゃないか」
「頻繁ってワケじゃあないと思うけどな」
「二、三日に一度は頻繁じゃないんだね、成程ね」
新情報が来た、と穹はメモ帳にペンを走らせる。駒草山如とエスカルゴ・スカーレットは、この夜の交わりを複数回に亘って行っており、しかも、彼は厄神様こと鍵山雛とも頻繁に……二、三日に一度もの頻度で、更に昼間に……シている。
もう少し情報を集められたら一面を飾れそうだと穹はほくそ笑んだ。ただし山如の「裏メニュー」については絶対に黙っておこうと考えた。
穹とてエスカルゴの娘。父の独占欲の強さは娘の穹だってよく分かっているからだ。それに加えて、山如自身も秘密にしたがっているようなので、尚更である。
恐らく、賭場に表も裏も無くて、純粋に賭け事を楽しむだけなのだろうが……、エスカルゴは強引だ。
山如も仕方なくそれに付き合ってやり、あくまで
「……んっ……」
「くちゅくちゅって鳴ってんね。もう垂れるくらい濡れてんじゃん」
「イイからっ……早く始めな……」
「ヤリたがりィ♡」
「それはお前さんだ、全く……。
片足を持ち上げるなり、エスカルゴは山如に己のアレをインサートする。穹はその瞬間のみを改めて写真に収め、これ以上は見ていられないとその場を後にした。
それに加え、山如が席を外した後の賭場に残った2人が気掛かりでもあった。
────が、穹が賭場の近くに戻る道中、朱美と弥生の2人と合流。山如の気配を追ってきたとの事なので、穹は事の次第を2人に話した。
「やっぱりそうか……山如さんとエスカルゴさんが、既に男女の仲になっていたなんて……」
「……穹は、それを新聞にするの?」
「いいえ。これは……山如さんの為にも、表沙汰にはしない方がいい気がします。ハーレムの一員かは、結局分かりませんからね。ただ、父上が誰かと夜の密会を楽しんでいた、という形で書きたいですね、折角ですし♪」
「……。エスカルゴさんも凄い娘を持ったものだわ。まさか親のスキャンダルを嬉々として報道したがる娘だなんてね……やれやれだわ」
「スキャンダルも何も、父上にとって、その程度の報道は痛くも痒くも無いはずですよ。いつもの事、ですからね♪」
「つまり……どっちもどっちって事ね」
「あはははっ、そうとも言いますね!」
結局、蒼穹新聞第一号は「英雄、夜の妖怪の山で密会か!?」という見出しで一面を飾る事になり、そこそこの反響が得られた。
しかしまだまだ満足しない穹は、もっと徹底的に父親を追う事を決意した。たとえ、センシティブな事態を目にしようとも。
次回、本編でセリフの中にだけ出てきたあの子が。