週刊っ!英雄追跡譚・蒼穹新聞   作:エスカルゴ・スカーレット

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3週目:紅魔館と父上①

 ある日、射命丸穹は紅魔館に向かい飛んでいた。というのも、この日は、紅魔館に取材に行く約束をしているからだ。

 潜入や聞き込みではない。穹にとっては初めてのしっかりしたインタビューである。

 

「こんにちは美鈴さん!」

 

「あ、穹ちゃん。取材に来たんですね?お嬢様から聞いてます、さ、お入り下さい!」

 

「ありがとうございます!後程、美鈴さんにも色々お伺いしますので宜しくお願いします!」

 

「ええっ!?こ、心の準備がぁ〜!」

 

 美鈴の守護する門を難なくパス。次は玄関へ続く広大な敷地を敢えて歩き巨大な玄関扉の前に立つ。深呼吸してノブに手を掛けようとするが、その直後扉がガチャリと開かれる。

 一瞬ビクリとした穹だが、向こう側にいた2人を見てホッと胸を撫で下ろす。そこに居たのは自分の一歳年下の弦月姫、そしてその母の咲夜だったからである。

 

「お待ちしておりました、お姉様」

 

「どうぞお入り下さい、お嬢様がお待ちですわ」

 

「ッ!?」

 

 咲夜が自分に敬語を使っている。その事に、穹は驚きを隠せなかった。しかし、文譲りのその頭脳をフル回転させ、その理由にすぐに気付いた。

 今の自分は客であり咲夜はそれを迎えるメイド。だからではないか……と。

 

「あっ……よっ、よろしくお願いしますっ!えっと、咲夜さんにも後で取材に行きますので!」

 

「あらあら、そうなんですか?」

 

「お姉様っ、私にもインタビューしますかっ!?」

 

「あー……その予定はありませんねぇ……。姉上達もそうですが娘は何故か父上に惚れ込みやすい傾向にあります。なのであくまで彼女さんやお嫁さんだけという方向性でインタビューさせて頂くのです」

 

「あくまで血縁関係無しの者からという事ですね……残念です」

 

「いずれ、子供達から見た父親像、のような感じで子供達にもインタビューしたいと思いますので少々お待ち下さいね」

 

「……!!わかりましたっ!」

 

「こら弦月姫、穹さんは仕事で来られているのよ?プライベートな質問は後にしなさいな」

 

「はぁい……」

 

「……咲夜さん、いつも通りに『穹ちゃん』でお願いできませんか……?『穹さん』だとその……ムズ痒いといいますか……。それから敬語も無しのいつも通りでお願いします……」

 

「そう、そういう事なら……わかったわ」

 

 ニコリと微笑む咲夜を見て、穹はふぅっと大きく息を吐いた。自分含む子供達に対しタメ口の咲夜がここ10年以上の穹にとっての普通だったのに、こう突然に敬語を使われると調子が狂いそうだったので素直に聞き入れてくれて安心したらしい。

 

「お嬢様は応接室(ここ)におられます。どうぞ」

 

「しっ……失礼しますっ…………」

 

 催し物や家族行事で紅魔館には何度も来ている。それこそ10年以上だ。それでも穹は、緊張せざるを得なかった。

 初めてのまともなインタビューという事もあるが何よりあの(・・)レミリア・スカーレットとの一対一だ。緊張するな、と言われる方が無理である。

 

「ようこそ穹ちゃん、我が紅魔館へ。さ、お座りになって?」

 

「は、はひっ……失礼しますっ!」

 

「ふふっ、そんなに堅くならないで?いつも通り、紅魔館で遊ぶ時のように話しましょう?その方が、あなたも色々聞き出しやすいでしょう」

 

「そう、ですねっ……はいっ……」

 

 咲夜が用意した紅茶に口をつけ、一息つく。その紅茶のお陰か僅か数口だけ飲んだだけにも関わらず嘘のように穹から焦りが消え去った。

 

「では、まず……。父上を拾ったのはレミリアさんと伺っています。父上をまず初めに見た時、あなたは何を思って見ず知らずの男を拾ったのですか?」

 

「おっ、ズバリ来たわね?……そうね、日常に新たな刺激を与えてくれるかも……と思ったわね。それに、フランを変えてくれるような……そんな気がしたの」

 

「フランさんを変える?」

 

「そう。紅霧異変で魔理沙と出会い、その時で十分外との関わりを持てて昔より良い子にはなっていたけれど……なんというかその……お嬢様気質というか、無意識の内に周囲を振り回す事があったの。子供のワガママに近いものだけれど、もう500歳にもなるのだから、いい加減に落ち着いてほしかったのよね」

 

「そして父上と引き合わせた……?付き合わせたのはレミリアさん?」

 

「そこまでは想像していなかったわね。寧ろ、彼と付き合うのはこの私だと思っていたわ」

 

「!?」

 

「『面白そうな奴』は手に入れたくなるものなの。でも、フランに先を越されてしまった。……酷く後悔したわ。もっと早くこっちが動くべきだったとね。彼もフランにゾッコンだった。そりゃあそうよね、ほぼ常にフランと行動していたし……その時の彼は、人間で言う思春期の男子。フランを女性として意識しても、おかしくはなかった────」

 

「『面白そうな奴』を手に入れるのに『付き合う』つもりだったのですか?……なんというか、父上ならそういう時、『ペット』とか言って、『付き合う』という方向性とは違う方に進みそうですが……」

 

「近年の彼は『悪魔らしさ』をモットーとしているみたいでね。だからわざと、自分の思う悪魔らしく振る舞う事があるわ。でも私は違う。普通の方法、真っ当な方法で手に入れたいのよ、私はね」

 

「成程……」

 

 父親に比べ、優しい悪魔に思える。

 

「では次に……父上のハーレムを肯定しているのは、何故ですか?」

 

「それはまぁ割と普通の理由よ?『複数の女性との付き合い』を認めなくては、自分の幸福も無い、と悟ったからなのよ。だってそうでしょう?フランに先を越された私が彼と付き合えたのは、フランが、私とエスカルゴが付き合う事もOKしたからで……。だから、鈴仙とエスカルゴが付き合うのも、私は、OKせざるを得なかったのよね。フランがOKした手前、私も認めなくちゃいけなかった」

 

「フランさんは何故OKしたんでしょう……」

 

「自分の彼がモテる事に誇りを持っていたみたい。自慢の彼氏!そんな彼の初めての彼女は私!って、その頃からそんな感じに思っていたみたいよ」

 

「な……成程……そう来ましたか」

 

「なのに、姉の私が反対するのは……フランに対して願った『ワガママを治す』事を反故にしてしまう。私がワガママになってしまうからね……」

 

「そう……ですよね…………。でもそれが無かったら、遠回しにはなりますが、私も生まれてこなかったと考えると……何がどうなるか分かりませんね……」

 

「ふふっ、そうね。運命って、不思議なものだわ。思えば、彼のハーレムは、私が彼と付き合い始めた所から始まったのかもしれない。私以降は私も絶対許容するしかないのだからね」

 

「……そんなレミリアさんが、ハーレム入りを嫌だと思った女性は居ますか?」

 

「!……中々鋭い事を言うわね……うーん、そーね……それ答えてもいいけれど、これだけ新聞にしないでくれる?理由とかも含めてね」

 

「分かりました!」

 

「ありがと、穹ちゃん。……霊夢のハーレム入りは、本気で反対したかったわね。嫌だったわ」

 

「霊夢さんですか!……因みに何故ですか?」

 

「霊夢が好きだから」

 

「ほうほう、好きだから……え?」

 

「ほら……悪魔をも恐れず正面から立ち向かってくる霊夢、カッコイイでしょう?悪魔を恐れないのは、魔理沙もそうなんだけれど……私は特に霊夢が凄いと思ったわね。だから私はハーレム入りを認めたくはなかった……。好きな人と好きな人が想い合うなんて辛いものだから……」

 

「……それでも、自分や鈴仙さんが既に居る以上は、OKするしかなかった、と?」

 

「そうね。それに、表向きの理由としては、霊夢の脅しに屈したという形にもできたからね」

 

「あー脅し……ふむ…………」

 

 思い当たる節があるのだろうか、穹は思わず深く納得し、ゆっくり、そして大きく何度も頷いた。

 これは記事にできないので、この部分だけは穹もメモやペンを足の上に置き、話だけを聞いていた。記事にしたくて堪らないがそれこそ争いが勃発する可能性があるので、記事にしないでおくしかない。

 

「────レミリアさんありがとうございました!続いて、咲夜さんにも幾つか質問させて頂きたいのですが……!」

 

「あら、そうなのね。咲夜、私の隣に座りなさい」

 

「えっ?いえ、私はこのままで」

 

「インタビューに答える者として、当然の礼儀よ?今だけは私が主人である事を忘れなさい。そして、隣に座りなさい」

 

「……承知しました」

 

 クスッと笑い、レミリアの隣に腰を下ろす咲夜。瀟洒という言葉に相応しい、本当に美しい所作だ。彼女の行動の一つ一つが目を引く。瞬き一つですら魅入ってしまう。

 

「え、と……咲夜さんは、実はフランさんよりも先に父上に惚れていた、という話がありますが……これは事実なのでしょうか?」

 

「ええ、事実ね。一目惚れとはまた少し違うけれど出会ったその日の夜に惚れましたね」

 

「「早っ!?」」

 

「なんというかその……子供っぽいのよ、あの人は。お世話してあげたくなるというか……。ええ、そんな感じで、思わず気に掛けたくなる。そして出会ったその日に熱い夜を過ごしたの」

 

「あ、熱い夜…………あ、でも、父上の初体験の方は鈴仙さんなんですよね?」

 

「そうです。……穹ちゃんはおませさんね、熱い夜と聞いてそちら(・・・)を思い浮かべるなんて……♪」

 

「はわわっ!?」

 

「コラコラ、咲夜……」

 

 思わず苦笑いを浮かべる。思わぬ罠に穹は一気に顔を赤らめ、咲夜はそれを見てクスクス笑っているのを見ると、昔と比べて成長したな、と思った主人ことレミリアであった。

 

「あなたが思ったのとは少し違うわ。ただの添い寝だったもの」

 

「添い寝……初対面の、ましてや異性ですよ!?手を出されなかったのですか!?」

 

「あなたは、自分の父をなんだと思っているの……?いや、普通ならそう思うかしら。でもね、あの時のあの人は……知らない人ばかりの世界に突然飛ばされただ寂しがっていただけのお子様。……少なくとも、私にはそう見えたのよ。不思議よね、人間年齢なら私と違いは無いのに」

 

「……咲夜さんは大人っぽいですから……」

 

「そうかしら。自覚は無いけれど……でも、旦那様もそう言って下さるわ。旦那様はやっぱり今でも子供らしい一面を見せて下さるから、その度に、何度も惚れ直しちゃうのよね…………フフッ♪」

 

「母性本能を擽られた……みたいなものでしょうか」

 

「そうかもしれないわ。私は、普段から妖精という子供を相手にしているからね。あの人にもそういう要素を見出したのかもね」

 

(そう言う割に咲夜はメイド達から恐れられているけどね……)

 

「ふむふむ……」

 

 サラサラとペンを走らせる穹を優しい目で見守る咲夜、そしてレミリア。こうして子供ながら必死に何かに取り組む姿は、子を持つ母として見守らずに居られなかった。

 それを書き終えると、今度は、穹は2人を交互に見てこう言った。

 

「今度は、お2人に向けての質問です。鈴仙さん、そして霊夢さんは2人以上の子を為していますが、お2人はそれに対しどう思っていますか?」

 

「小悪魔の所は双子だからノーカンなのね?」

 

「そうです」

 

「ふむ……ならその質問は私ではなくお嬢様向けね」

 

「「へっ?」」

 

「私、今は2人目を宿してるから」

 

「ええええええっ!?咲夜!?」

 

「ふふっ、すみません、検査したのが昨日でして♪嬉しくて妊娠報告を怠ってしまいました♪」

 

「そ、それなら仕方ないけれど……」

 

「おめでとうございますっ!!3人目の弟かなぁ……それとも妹かなぁ……楽しみです!あ、これも記事にしても宜しいでしょうか!?」

 

「OKよ」

 

「やったぁ!」

 

「……いつ種を仕込んだのかしら?」

 

「はて……いつでしょうか?お嬢様程の頻度ではないですから、予想はつきますが……恐らく、アビリティカードのあの異変の時ですかね」

 

「ああ、虹龍洞とやらの……。泥棒に来た魔理沙から聞いたわよ?何なのよ、異変解決中に交わるって……そんなの前代未聞よ?」

 

「申し訳ありません……ついそういう(・・・・)雰囲気になったと言いますか……」

 

「ったく……」

 

「異変解決中にッ!?ああぁっ……その頃から父上を見張っていれば……」

 

「エスカルゴをストーキングしてるの!?ちょっとそれはまずいと思うわよ……?彼、そういうのに敏感だから、止めておいた方が……」

 

「えっ?ですが気付かれてないのですが……」

 

「気付かないフリ……だと思うわよ。ね、咲夜?」

 

「そうですね。……穹ちゃん、旦那様を追うのなら、これは覚えておいてね。私達吸血鬼は、気配のみで相手を探知するのではないのよ。超音波を放って、返ってきたそれを感じ取る。エコーロケーション、反響定位と呼ばれるこの技術を使って誰かの存在を探知する事もできる。旦那様は、欠伸に偽装して、超音波を発するわ。欠伸に心当たりは?」

 

「……!」

 

「……あるみたいね。なら気付かれてるわよ。如何に気配を隠していたとしても、物理的に存在している以上、超音波の反射はどう足掻いても防げないの。完璧に自分の姿を覆い隠せる壁か何かに隠れれば、誤魔化せるけれど」

 

「完璧に隠したら、目撃もできませんし、ましてや撮影なんかもできません……」

 

「そうよ。だからバレるの。ほら、彼は鳥獣伎楽……今は鳥獣鬼楽だったかしら。……に加入して、色々と活動してるじゃない?元から有名だったけれど尚更有名になったから、そういう厄介な奴らの存在をもすぐに察知できるよう、気を付けているらしいわ」

 

「ッ……」

 

「気を付けてね、としか言えないわ。咲夜と違って時を止められる訳ではないのだから、もし追うなら警戒しかないわね」

 

「……多くの方に、気を付けろ、注意しろと言われてこの活動をしています。ですから流石にもう十分に理解しています、父上を追う事の危険さは……」

 

「……そう、それなら良いわ。話を続けましょうか。えぇと……子供を2人以上作る事にどう思ってるか、だったかしら。……うーん……私はレイチェル1人で十分だと思っているから、これ以上は増やそうとは思わないわね。もし次に妊娠したなら、その時は、セックスに疲れた時、または飽きた時……かしらね。彼、妊娠しないと、私を求めて止まないもの♡」

 

「な……成程……?」

 

「レイチェルの時は……その……情けない話だけど、外の世界で言う『できちゃった』だから、狙った子じゃないのよ。それはそれとして愛してるけどね、腹を痛めて産んだ我が子だもの♡」

 

「レミリアさんの妊娠については我々お父様の子の間でも話題になっていましたよ。まさか本当に出産なさるとは思いませんでした……。やはり苦しかったですか?」

 

「かなりね。だから、2人以上出産した霊夢や鈴仙なんかには本当に敬意を払っているわ。今の私には無理だと思ってるわ。……咲夜、あなたも凄いわよ。あの苦しみを経て尚、また子を……ね……」

 

「嬉しいですわ。ありがとうございます♪」

 

「……凄まじい苦しみだと聞きます。特に吸血鬼等の尖った翼を持った子だと、裂けるような痛みが伴うらしいですし……」

 

「裂けるようなっていうか……裂けるわよね?咲夜、弦月姫ちゃんの時どうだった?」

 

「裂けましたわ」

 

「やっぱりそうよねぇ……。あの痛みは出産と同等の痛みだと言っても過言ではないわ。子宮口にも裂け目が入ってたみたいだし」

 

「ひぇっ」

 

「ま……子供を作るならよく考えて、って感じよね。色んな意味で」

 

「それはそれとしてエッチは止められない、と?」

 

「穹ちゃんにはまだ早いわ♪」

 

「同感ね。あなたはまだ子供だもの」

 

「はぁ……やっぱりそうなんですね。同期達は、もう済ませているのに……私はまだなんですよね……」

 

「同期達とやらが早すぎるだけ。あなたが普通よ。変に合わせる必要は無いわ」

 

「そう……なんですね。ありがとうございます」

 

 それからも質問を続けて、到着から1時間が経過する頃に、漸くレミリアと咲夜への取材を終えた。穹が次に向かうは紅魔館の内部にある大きな大きな図書館────。

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