「美鈴さーんっ!」
「おや穹ちゃん、どうしました?やっぱり今、私と手合わせして下さるのですかっ!?」
「いえ、レミリアさんに質問し忘れた事があり……!今すぐにでもお聞きしたい事なのです!」
「そういう事でしたか!大丈夫だとは思いますが……一応、確認してきますねっ!少々お待ちを!」
「はいっ!」
美鈴は駆け足でレミリアの元へ。彼女の答えは、当然の如くOKだった。まさに二つ返事。レミリアだって彼の子を産んだ一児の母。彼女からすれば、穹も我が子同然だからである。多少予定がズレても全く気にする事は無かった。
「すみませんレミリアさん、一度に済ませられればこんなお手間を取らせてしまう事には……」
「構わないわ。それで、追加の質問とは?何個でも受け付けるわよ?」
「いえっ、1つだけですのですぐに終わりますよ。ずっと……ずっと疑問だったのですが…………」
「うんうん」
「何故、鈴仙さんの子供達にはスカーレットの姓を与えるのを許可しているのでしょうか……?」
「……」
「レイチェルはレミリアさんの子。なのでその姓を持つ事に疑問はありません。それなのに巫月姉上、緋月もスカーレットの姓を持っている。何故です?皆、同じ父親の子です。大抵の子供は純粋な吸血鬼ではないですし、ましてや純粋な吸血鬼の子である弦月姫や霊麗、霊魔にさえも、その姓は無い。一体彼等とどのような違いがあるというのでしょう?」
「……エスカルゴは私の義弟。本来なら全員でもまぁ構わないかな、とは思うのだけど……なんと言うか、ほら、語感ってあるじゃない?」
「……ありますね」
「穹・射命丸・スカーレット……違和感しかないって自分で思わない?」
「う……」
「それはあなたの母が『射命丸文』だから。それに比べて、鈴仙は『鈴仙・優曇華院・イナバ』よね。つまり……そういう事なのよねぇ。例えばだけれど、霊愛・博麗・スカーレットだなんて違和感しかないでしょ?」
「ええ、違和感の塊ですね」
「弦月姫・十六夜・スカーレットは?」
「もはや滅茶苦茶では……」
「巫月・優曇華院・スカーレット」
「……しっくりくる……」
「そうでしょう?私もそう思う。エスカルゴもそう思ったらしいわ」
「ですが、長年そう呼んでいるから慣れ親しんで、不自然に思う事ができないのかもしれません」
「自分を客観的に見れるのね、あなた。良い事よ。そういう目線が新聞記者には欲しいものね」
「……ふむ」
メモをしつつレミリアの言葉も素直に受け入れ、長年の疑問の答えを簡潔に纏めていく。あまりにも当たり前、そして普通の答えだったが、それでも、きちんとメモをとるのが穹の良いところだ。
それにしてもまさか「語感」の問題だったとはと穹は内心溜め息をついていた。もっと、家族という輪の根幹に迫る問題や考えがあったのではと無駄に深く考えすぎていたらしかった。
「────そうそう、姓とエスカルゴのエピソードだったらまだあるわよ」
「えっ?」
「ほら、エスカルゴがこの姓を名乗るようになったのは、私が彼に姓を与えたからでしょう?だから彼、巫月ちゃんに名付ける時にね、わざわざ私に許可を取りに来たのよ?『この姓を与えていいか』って。変な所で律儀なのよねぇ〜、一度与えた以上は彼の姓でもあるんだから、許可なんて要らないのにね」
「許可……それもそうですね。レミリアさん、本当にありがとうございまし────」
立ち上がり礼をする穹、しかしその直後に、また彼女の脳裏にある事が浮かんできた。
「あーっ!」
「ど、どうしたの?」
「すみません、まだ質問あります!いや、たった今思い付いたんですけど!!質問というよりかは提案ですね!」
「い、いいから落ち着いて?それくらい、幾らでも相手するから」
「はい!えっと、吸血鬼は鏡に映らないというのは本当で、レミリアさんも映らないんですよね?」
「そうね」
「それ、銀のせいなのかもですっ!」
「銀?……どうして?」
「以前、何かの文献で知ったのですが、昔の鏡には銀が使われていたそうなのです。ガラスの後ろに、銀の膜を貼っていたとか何とかで。そして吸血鬼は銀が弱点。つまり相性が悪いので鏡に映らない!」
「!」
「そして、銀は幻想郷では極めて貴重です。河童もそんな銀を多くは使用できないでしょう。ですから吸血鬼も映るカメラを作れたのです!銀が使われていないカメラだから!!」
「という事は……」
「レミリアさん!
「────ッ!!咲夜!メイドを総動員して館中の鏡を調べなさい!もし銀が使われていたとしたら、新しいタイプのモノに取り替えてッ!今すぐ!!」
「御意」
穹の予想は見事に的中。紅魔館の鏡、そして一部ガラス枠などに、銀が使われている事が判明した。
そして数日後には紅魔館の鏡は総取っ替えされる事となり、レミリア達吸血鬼は、初めて鏡で自分の顔を見れたという。
その日以降、レミリア、レイチェル、弦月姫が、銀が使われていない手鏡をほぼ常に携帯するようになったというのは別の話。