週刊っ!英雄追跡譚・蒼穹新聞   作:エスカルゴ・スカーレット

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7週目:父上と白玉楼

 次の取材は、白玉楼に行こうと計画していた穹。しかしここでたった2つ、問題が起きてしまった。

 冥界への行き方を穹は知らないのである。そして白玉楼のメンツと父の間のエピソードを、あんまり知らない。冥界は気温が低い。そして、幻想郷から見たら結界を隔てた異世界同士。

 穹は異世界間での移動をほぼしないので、これは仕方ない事ではある。妖舞と会うのも、茜の能力を使って集合する時だとか、妖舞が何かの用があって幻想郷に来ている時、または家族間の催し物だけ。穹から異世界である冥界に行く事など、無かった。

 

「困りましたね……どうやって世界を超えればいいか全く分からない……。背に腹は変えられぬ……ここは母上に頼るしかないですかねェ……イヤ、でも……」

 

 穹にとって、母……つまり記者としての先輩に頼るというのはある意味敗北するのと同義だった。何に敗北するのか。自分のプライドである。

 母の反対を押し切ってこの新聞を始めたのだから母には頼れない。そう思い直し、穹は博麗神社へと向かった。

 

「こんにちは!」

 

「こんにちは。どうしたの穹ちゃん」

 

「霊夢さんはかつて春雪異変を解決する為に冥界に乗り込んだと聞き及んでおります!つきましては、冥界への行き方をご教示ください!」

 

「冥界ねぇ……この季節に行くのは丁度良さそうね。幽霊ばかりだけど大丈夫?」

 

「大丈夫です!」

 

「ふーむ。理由……一応、聞かないでおくわ。プライベートな事だったら困るし」

 

「あ……そう、ですね。そうして頂けると私としても有難いです。お気遣い感謝します」

 

「霊愛ー、私の代わりに掃除やっといてー!」

 

「やだー」

 

「霊麗ー」

 

「はーい」

 

 こうして霊夢の代わりに霊麗が掃除をする事に、霊夢は穹の案内をする事になった。その道中、霊夢は新聞についてほんの少しだけ穹に尋ねてみる事に。

 

「穹ちゃん。エスカルゴの事を追うのは面白いし、私達もあなたの新聞を楽しみにしてる。だけどね、あんまり危険な事はしちゃダメよ?ほら……アイツは不老不死だから多少危険でもイイけどね」

 

「……はい、その辺は分かっています。なので安全な方法でしか取材やその他ネタ集めはしませんので、ご安心下さい。ご愛読ありがとうございます♪」

 

「エスカルゴ本人には秘密にしておいた方がいい……のよね?内容的に、隠し撮りなんでしょうし」

 

「ですね。他の皆様も察していらっしゃるようで、父上に秘密にして下さっているようです。父上から私の新聞についての話題が出た事がありませんし」

 

「アイツならあなたの新聞の存在を知ったら絶対にあなたに何か聞きそうだし……話題が出ないのなら、バレてはなさそうね」

 

「ええ。本当に良かったです皆さん察しが良くて。お陰様でのびのびと新聞が書けていますし……それにとても楽しいです」

 

「そ。それなら良いわ。やれるだけ頑張って。応援してるから」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 博麗霊夢の応援があれば心強い。穹は小躍りして霊夢の言葉を頭の中で何度も何度も反芻していた。

 やがて幽明結界を超えてからも暫く飛ぶと、長い階段が見えてくる。とても高い。これは博麗神社を地上から向かうくらいには長い階段な気がする。

 

「この階段を辿って行くと白玉楼に出るわ」

 

「ありがとうございました、霊夢さん!ここからは自分で行けますっ!」

 

「そう?ならいいけど……ボディガードは必要?……じゃないわね、あなたも結構強いものね」

 

「えへへ、それ程でもありませんが……」

 

「魔界に行くメンバーに実力で入ったのよ?それ程だわ、あなたは」

 

「ありがとうございます……!」

 

 霊夢の言葉を素直に受け取ると、穹は彼女に手を振りながらバヒュンと飛び立った。吸血鬼ですらも姿を見失う程の超加速。霊夢はそんな彼女の将来をふと頭に思い浮かべ、自分の子供達が負ける場面を想像して、つい苦笑を浮かべたのだった。

 

 

 ◆

 

 

「遠い……どれだけ遠いんですか、白玉楼まで……!私の速度を以てしても、軽く10分は飛んで…………!あ、やっと見えてきた……っ」

 

 音速を軽く超越する穹の飛行速度を以てしても、冥界の入口から白玉楼まで軽く10分以上を要した。

 今日は冥界の下見と、取材の予約だ。焦る必要は無い。そして、もし「今日でも大丈夫」と言われた場合に備えて予め質問は考えてきてある。だから、どちらのパターンでも特に問題は無い。

 白玉楼は和風のお屋敷。門番こそ居ないものの、巨大な門があるのは紅魔館と同じだった。

 壊さない、且つ音をしっかり届けられるように、ゴンゴンッと門を叩いた。すると────。

 

「何方かな?」

 

「ひぃっ!?」

 

 穹が門を叩いた直後、妖忌が門を開けた。叩いた直後、そして不機嫌そうで今にも怒鳴りそうな顔の老人が現れた事で、穹は思わず後退りしてしまう。妖忌は内心、そこまで驚くのかとショックを受けていたものの、そんな思いはおくびにも出さずに話を継続する。

 

「君は……あの男の、エスカルゴの子供さん、かね」

 

「……!はいっ!射命丸穹と申しますッ!」

 

「射命丸…………ああ、あの山の天狗じゃったかの。妖夢から聞いているぞ。その山の天狗の娘さんが、こんな世界まで何の御用かね?」

 

「私、新聞記者をやっていまして!父上と白玉楼の皆さんとの関係性やエピソードを、広められるだけ広めたいので、取材に来ましたっ!本日は、取材の可不可、可能でしたら日時などの約束の取り付けが目的です!」

 

「取材対象は?」

 

「妖夢さん、幽々子さん、妖忌さんです!」

 

「ほ。儂もか」

 

「子供達以外は全員です!」

 

「成程。儂はいつでも構わんのでな、儂については気にするでない。……では、幽々子様と妖夢の都合を知る必要があるな。一先ず案内する、ついて参れ」

 

「は、はいっ!」

 

 当然だが白玉楼は和風なので穹は和風の応接室に通された。和風、しかも応接室だなんて、これまで天魔の屋敷くらいしか経験が無かったので、どこか新鮮な感じがしていた。

 

「羊羹と茶菓子、どちらが好みかな?」

 

「あ、お構いなく……」

 

「では両方置いて行く、2人を呼んでくるので少し待っていてくれい」

 

「は、はい……」

 

 半ば強引に菓子類を押し付けると、妖忌は足音を立てずにその場を離れたものの、程なくして2人を連れて応接室へ戻ってくる。

 

「お待たせしてごめんね〜。ようこそ、白玉楼へ。遠かったでしょう、道中何も無かった?」

 

「ええ、大丈夫です。えぇと、用件は────」

 

「妖忌から聞いているわ。取材の予約ですって?」

 

「はいっ!できれば揃っての取材がいいですので、近いうちに、御三方がある程度お時間の取れる日はあったりしますでしょうか?」

 

「私はいつでも大丈夫よ、夜以外はね。妖夢は?」

 

「私も大丈夫です。修行や買い物、家事以外には、特にやることもありませんので」

 

「────という事で、私達はいつでも大丈夫よ。どうせなら今でも構わないわ。ね、妖忌、妖夢?」

 

「そうですな」

 

「ですね。穹ちゃんとしても、なるべく早めに執筆作業に入りたいでしょうし」

 

「……っ!ありがとうございますっ!では早速質問をさせてください!」

 

 日時を書き込む為のスケジュール帳を仕舞うと、ネタ帳の方を取り出し、ペンを構える。こんな事もあろうかと事前に用意した質問を数秒見返し、逸る気持ちを抑えつつ早速質問に移る。

 

「ではまず、妖夢さんと幽々子さんに質問です!」

 

「はいっ」

 

「どうぞ♪」

 

「父上……エスカルゴ・スカーレットに惚れた理由を教えて頂けますでしょうか?」

 

 穹がそう問うと、妖夢は何と答えればいいのかと腕を組み悩み始めた。そんな従者を他所目に、まず幽々子が彼女の質問に答えた。

 

「うーん……色々あるけれど…………端的に言うなら……聞き上手だから、かしら?」

 

「聞き上手?……お喋りが大大大好きな、あの父上がですか?」

 

「そうよ。私も、誰かとお話するのが好きだから、そこそこの頻度で彼と話すのだけど……。彼、思わずこちらがもっと話したくなってしまうくらい、話をさせるのが上手いのよねぇ……」

 

 妖夢だと私の話は聞き流すし、妖忌だと聞いてるのか聞いてないのか分からないし、と小声で続けた幽々子。

 妖舞はそもそも理解ができないだろうな、と穹は邪推する。決して弟をバカにしているのではない。ただ、子供達同士の会話でさえも酷い有様だった、そんな弟だからこそ……穹でさえもそう穿った見方をしてしまうのだった。

 

「そんな一面があったのですか……うぅむ……。話し上手な所しか知りませんでした」

 

「それはあなたが話を聞く(・・)姿勢を持っているから、じゃないかしら。それはそれで悪くないわよ?」

 

「そう……なんでしょうか」

 

「ええ。あなたのそういう姿勢は、彼に似たのかもしれないわね。記者には必須の才能だわ」

 

「……母上はひたすら質問攻めする節があります……私もそのパターンだと思っていたのですが、幽々子さんから見て私は『聞き上手』な部類、だと?」

 

「そうね、まだ彼の域には達していないけれど」

 

「ふむ……」

 

 聞き上手なだけで好意を得られるものだろうかと首を傾げたくはなる穹だったが、ここは聞いた事を素直に受け止めてそのまま記事にしようと、余計な脚色はせずにネタ帳にメモしていく。

 

「妖夢さんは、どうですか?」

 

「ん……ん〜……惚れた理由、かぁ…………。自分でも、どうして好きになったのかはよく分からないけど、なんか好きになってたっていうか……そんな感じ?」

 

「うーん、どうも要領を得ないですね……」

 

「うーんとね……んー…………うう、幽々子様ぁ……」

 

「私を頼っても何もできないわよー」

 

「あうう……」

 

 ──もしや妖夢さんは、魔力の操作が下手だった当時の父上の『無意識魅了(チャーム)』で、心を堕とされたのではないだろうか。

 邪推に次ぐ邪推、しかも、妖夢の好意を否定するような、失礼の極みであるこの仮説。穹は軽く頭を振って、そんな考えを脳から追い出す。

 

「ど、どうしたの?」

 

「あ、いえ……何でもありません。取ってつけたような理由では信憑性も何もありませんし、特に理由は考えてもらわなくても大丈夫ですよ」

 

「あうぅ……」

 

「では妖忌さん」

 

「ム」

 

「妖忌さんは、父上についてどう思っていますか?妖夢さんの婿です、きっと何かしらは思うところはあるはず。あなたの想いを、忌憚なく私にお聞かせください。私が父上の娘だからと、遠慮する必要はありません」

 

「では言わせてもらおう。奴は頼り無しッ!妖夢の婿というのは認める、しかし男として頼りなきことこの上ないッ!!」

 

「と、言いますと?」

 

「奴は甘いッ!!他の女子(おなご)に言い寄られ、振られた痛みを思うと断れない……という話は聞いたが、その女子の痛みを背負ってこそッ!とはいえ、儂が奴の存在を知った時には既に奴のハーレムとやらは完成していたのでな、今となっては強要はせぬ。そして妖夢らの邪魔をしたくはないのでな、もう、奴にも言いもせぬ。だが、あくまで儂はそう思う!」

 

「ま、思想は自由よね〜」

 

「成程、確かに……。父上のその『甘さ』についてはレミリアさんも幾度と無く言及されている、という話を聞いてますし、やはり誰から見ても父上は甘い性格なのですね」

 

「無論だ!妖夢が惚れておる以上は応援する、だがそうでなかったならあのような不埒な男、妖夢には近付けさせぬし指一本触れさせぬッッ!」

 

「もしかして嫌いです?」

 

「そうは言っとらんッ!!嫌いならば妖夢の前でも奴をたたっ斬るッ!」

 

「は、はぁ……そうなんですね」

 

 ボロクソに言っておきながら、嫌いではない……。そうは言うが、やはり嫌いなのではないか、と穹は考えずにいられなかった。

 

「」

 

 

 

 

 

 

「姉上っ!」

 

「おや妖舞、どうしたんです?」

 

「最近、姉上の新聞、読んでるよ」

 

「これはこれは、読者さん自らの報告とは有難い事ですねぇ。ありがとうございます」

 

「で、質問なんだけど」

 

「そちらからですか?構いませんよ」

 

「何で父上の情報を集めてんの?」

 

「創刊号の社説欄を参照してください」

 

「そーじゃなくって!妖怪の山や里の人間達も含め父上の事を広めたいんだろ、それは分かってる!」

 

「では、先程の質問の意図が分かりかねますがね。広めたいから父上の情報を集めている……と、説明がつくではありませんか」

 

「確かに、それはそうだけど……っ、なんか違和感があるんだ……」

 

「……?失礼、おバカさんの戯れ言に付き合っている暇は無いのですが」

 

「んなっ!?姉上まで俺をバカにすんのか!?」

 

「いえ、客観的にあなたを見たらそう見えるなー、というだけですので、悪しからず」

 

「余計ムカつくんだけどそれ!」

 

「失礼しました。で、違和感とは?」

 

「な……んだろう…………姉上らしくない、みたいな。そんな感じ?」

 

「っ……変な事を言いますね、寧ろ私らしいと思うんですけど。情報を集め報道する、ほら、まさに私!射命丸文の娘ですっ!」

 

「でも姉上、父上の事が好きとかじゃないじゃん。父上の事を良くも悪くも広めたい……だなんてさぁ、父上が好きな姉上がやりそうな事じゃん、弦月姫の姉上とかさ。『私のお父様はこんなに凄いんです』みたいにしそうじゃん」

 

「そう……ですかね?男脳だとそう考えるんですか?やっぱりモテませんねェ妖舞、女の子の考え方とはまるっきり違います」

 

「男脳?じゃあ女脳だとどうなるんだよ」

 

「ど・く・せ・ん♡……ですよ。私のように、父上を調べる事はあったとしても、それを意図的に万人に広めようとはしないのですよ。何故か?『私だけがあの人のこんな面を知ってるんだわ♡』といった、優越感に浸りたいからです。現に母上はそうです。盗撮した写真をコレクションしていますから」

 

「そ……そんじゃ、姉上は父上が……嫌いなのか?」

 

「世の中は、好きか嫌いの2択ではないのですよ。正直に言いますが、私は父上の事を知りたいので、皆さんへの取材ついでに父上についても調べているだけなのです」

 

「好きか嫌いの2択じゃない…………よく分かんないけど、つまり、『普通』って事か」

 

「………………もうそれでいいですよ」

 

「?」

 

 妖舞にも聞こえないような溜め息をつき今度こそ帰ろうと背を向ける穹だったが、ある事を思い付きもう一度彼に向き直る。

 そしてわざとらしいまでの笑みを見せると、少し上擦った声で言う。

 

「あぁそうだ妖舞、今度からあなたは『マルキュー妖舞』と名乗りなさい!」

 

「マルキュー?何だそれ」

 

「カッコイイ称号、だそうですよ?父上が言ってたので間違いないです」

 

「ふーん。父上が、ね。そこは気に入らないけど、カッコイイってんなら……次からそーしよっかな」

 

「ええ、ええ、そうするといいでしょう。少しは、カッコもつきますよ?」

 

「……あー、でも爺ちゃんさ、昔は『山の冥王』って呼ばれてたみたいでさ」

 

「!」

 

「俺も冥王って呼ばれたいから…………これからは、

『マルキュー冥王・妖舞』って名乗ろうかな」

 

「くふッ……あぁ失礼、あまりに突然だったのでつい笑いが……くふふふっ……!!」

 

「なァんで笑ってんだよ?長いからか?」

 

「ふ、ふふっ……、確かに、そうかもしれませんね。ですがいいのではないですか?外の世界には、親が子供に名付ける際に、親戚縁者や聖人などの名前を詰め込んだせいで本人ですら暗記できないくらいの名前を持った画家さんが存在しますから。パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソさんです」

 

「ディエゴ以降が全く分かんねェ!!」

 

「パブロ・ピカソさんです。なので、本名じゃないなら、二つ名くらい長くていいんじゃないですか?私はそう思いますよ」

 

「分かった!サンキュ姉上、そうする!これからは

『マルキュー冥王・妖舞』って名乗るぜ!!」

 

「ッ……分かり、ました……私の提案を聞いてくれて嬉しい、ですよ……んふふっ…………で、ではまた……」

 

 口元がピクピクと動いてしまう程に、穹は笑いが隠しきれていない。そんな表情をこの弟に見られてなるものかと逃げるように白玉楼から飛び立った。

 

 

 ◆

 

 

(あ……今回の記事は白玉楼について、か。早速ね。って、何かしらコレは、今回のはインタビューだけじゃないの?『魂魄妖舞、遂に二つ名を確定!』?へぇ、妖舞くんが……。『マルキュー冥王・妖舞』?あれ……マルキューって確か『バカ』って意味じゃ?前にエスカルゴが言ってたような?……まっ、放っておきましょうか)




妖忌は穹が白玉楼に近付いてきた時点で気配を察知して門の方でスタンバっていました。妖夢や妖舞は気配に気付く様子がまるで無かったので、幽々子と妖忌はちょっとガッカリしています。
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