転移オリ主はエンキの使者のようです 作:アノロン在住の銀騎士
手のひらには黒い瞳。
それが、奏を見る。
「死んで、天羽奏」
百々目鬼がそう言うと、奏は。
ガングニールのシンフォギアは。
弾け飛んだ。
「うわあああああッ!」
奏は吹き飛ばされる。
「う……ぐ……ッ」
アームドギアも、シンフォギアの装甲も砕けているが、それでも奏は生きていた。
「ふぅん」
百々目鬼が
「とっさに助けたね」
「まぁね」
百々目鬼が言う通り、流水はとっさに奏の前に力場を発生させて攻撃を和らげたのだ。
百々目鬼の不可視の攻撃を。
本来は即死級の攻撃のダメージを和らげ、奏を救ったのである。
「君の眼、タダの眼じゃないね」
「うん。私の眼、全部魔眼だよ」
百々目鬼が両手を広げる。
両手に犇めく眼が全て、開く。
その全てが禍々しく、悍ましかった。
百々目鬼の両腕の眼は、全て魔眼と呼ばれる聖遺物なのだ。
魔眼、邪視あるいは邪眼と呼ばれる信仰は世界各地に存在する。ケルト神話にはバロールという神が見るものを殺す目を持ち、ギリシャ神話には見たものを石に変えるメデューサがいる。
それらの信仰の習合、それが百々目鬼の両腕の魔眼たちなのだ。
「あなたも私が見てあげる。バロールの魔眼」
右手のひらの黒い目を、流水に向ける。
バロールの魔眼と呼ばれた黒い目は不可視の攻撃を射出する。
殺意の圧力を、視線に乗せるのだ。
流水は力場を発生させる魔法陣展開。
攻撃を弾く。
「バジリスク、コカトリス、メデューサ」
更に左腕の3つの魔眼開放。
石化の魔眼3段重ねである、
魔法陣が石化して砕ける。
「反射じゃッ!」
流水は水を操り、鏡を作る。
その鏡に百々目鬼の姿が映る。
石化の視線を反射させようという試み。
だが結果は、鏡が石化して砕けた。
「フグは自分の毒で死なないんだよ?」
「チートじゃぁ〜!」
流水は百々目鬼の視界に入らぬよう、飛び回る。
だが。
百々目鬼の腕に犇めく魔眼の視界から逃れるのは難しい。
「歪曲、炎熱、束縛、バロール」
「のじゃあー!?!?」
空間が捻じれ、衣服が発火し、体が動かなくなり、吹き飛ばされる。
防御はしているものの、ジリ貧である。
しかし、流水は逃げようとは思わなかった。
奏を置いて、逃げたくはなかったのだ。
「るみ、すごいね。ここまで生き残った人はじめて」
「ならもう諦めてほしいのじゃぁ〜」
「だめ。お仕事だもん」
右手のひらのバロールの瞳が光る。
天羽奏を殺す為に、殺意の圧力で押しつぶそうとする。
奏は息も絶え絶えで避けられそうもない。
「のじゃアッ!!」
すかさず間に入り、防御する。
だが……。
「境界」
左手のひらを向ける。
それは、ある少女の瞳。
結界の境目を見る程度の力を持つ、遠い異世界にある目だ。
その目が、光る。
人界とバビロニアの宝物庫の境目が綻ぶ。
ノイズが、呼び出される。
「─────あ」
流水の目の前にノイズが迫る。
位相差障壁により、魔法陣から発せられる力場では拒めない。
流水にノイズが触れる。
その、直前。
「ハァーッ!」
一閃。
ノイズが切り裂かれる。
斬ったのは、風鳴翼だ。
気絶から目を覚ましたのだ。
「翼さん、気が付いたのじゃ!?」
「のじゃ? ええ、そうよ。奏を守ってくれたのね」
ありがとう、そう言いながら奏と流水の前に立つ翼。
折れたアメノハバキリのアームドギアを構える。
「あなたじゃ私に勝てないよ」
「それでもッ! 貴女が奏を殺すというのなら!」
飛び掛かるノイズを切り払う翼。
「私は何度でも立ち上がるッ!」
「カッコいい……、じゃなくて!」
翼に見惚れる流水は頭を振ると、百々目鬼の相手を翼に任せて奏の元に駆け寄る。
「回復させるのじゃぁ〜!」
流水の手から緑色の魔法陣が現れ、奏を傷を回復させていく。
「ああ、助かった」
「まだ休んどくのじゃぁ!」
立ち上がろうとする奏を抑える流水。
しかし……。
「歪曲。境界。石化。バロール」
そうこうしている間に百々目鬼の猛攻が翼を襲う。
「くぅ……ッ!」
翼は、空間の捻じれとノイズの攻撃を避けた隙に石化の魔眼でアームドギアを完全に石化させ、バロールの魔眼でアームドギアを完全に破壊される。
「翼ッ!」
「動かないで」
倒れる翼を助けようとした奏を静止させる百々目鬼。
右手のひらのバロールの魔眼を翼に、左手のひらの境界の魔眼を奏に向ける。
「大人しく死んで、天羽奏。じゃないと風鳴翼を痛めつけるよ?」
「クソ……ッ!」
右手を翼に向けている状況で、奏は動けなかった。
冷や汗が流れる……。
「あたしが死んだら、翼を開放するのか……?」
「奏ッ!」
「うん。風鳴翼は殺す必要がないから」
淡々と百々目鬼は言う。
翼の目から一筋の涙。
「……あ。そうだ。殺す前にやることあった」
ふと、思い出したかのように百々目鬼が言う。
「ザントマン、あの子取ってきて。
「もう狗神が探している」
「こいつだよな?」
狗神が、ステージ近くの客席から、一人の少女を肩に抱えて来る。
狗神はそのまま、百々目鬼の側でその少女を放り投げた。
「きゃッ」
と痛みから声を上げる少女。
流水はその子の声に聞き覚えがあった。
「主人公……? おい、その子もしかして」
「うん。立花響」
なんでもないように百々目鬼が言った。
「魔眼で金縛りにして、捕まえておいた」
「……その子、どうするつもりだ」
奏が聞く。
百々目鬼は答えた。
「新しいガングニールの装者にする」
「……なにを、言ってる?」
奏は百々目鬼の言葉の意味がわからなかった。
シンフォギアの適性はそう簡単に手に入るものではないからだ。
それは、血反吐を吐くほどの苦痛を味わいながらも、無理矢理ガングニールと適合した奏はよく知っていた。
「ザントマン」
「これで良いか?」
ザントマンは散らばったガングニールのアームドギアの欠片を一つ百々目鬼に見せた。
百々目鬼は頷いた。
「
百々目鬼はシナリオに忠実である。
このライブの日、天羽奏は死んで、立花響がガングニールを継承する。
それを再現しようと言うのだ。
百々目鬼の指示にザントマンと狗神が従う。
狗神が響の肩を抑える。
ザントマンは響の服を剥ぎ取った。
白い下着が顕になる。
「いやぁ!! 助けて!」
本能的な恐怖から暴れる響。
しかし、狗神の力が強く逃げられない。
「やめろッ!」
目前の非道から奏が声を荒げる。
狗神が面倒そうに答えた。
「安心しろよ。こんなガキに勃ちはシネェよ」
ザントマンが、響の胸元にガングニールを近付ける。
「やだッ! やだぁッ!!」
暴れる響。
ガングニールが、響の胸元に刺さる。
そして。
一気に押し込まれた。
「痛ッ!」
響が泣く。
血が流れる。
さらに深く押し込まれるガングニール。
「ぅ……ッ!」
声も無く泣く響。
ガングニールが心臓に到達する。
「天羽奏、安心してよ。貴女の遺志を継ぐガングニール装者が今、生まれたよ」
「……クソッタレのクズだよ、お前ら」
百々目鬼の声に怒りで返す奏。
「知ってるよ? でも、世界を守る為だもん」
境界の魔眼が見開かれる。
「天羽奏、貴女も世界の為に死んでね」
「奏ッ!」
ノイズが現れる。
翼の悲鳴を聞きながら、百々目鬼を睨む奏。
せめて、最期まで目を閉じまい。
そう、考えて……。
「お主ら、俺の事忘れてるじゃろ?」
魅惑の低音のじゃボイスが響く。
ノイズの前に立った流水は、ノイズが実体化した瞬間高圧水流でノイズを切断した。
来るとわかっていれば、流水はノイズを迎撃可能である。
「るみ?」
奏の側に立つ立派な男性を見る百々目鬼。
「今更貴方に何が出来るの?」
「俺には無理じゃな。俺には」
「……天羽奏も風鳴翼ももう戦えないよ?」
指を振り、百々目鬼の言葉を否定する。
「まだ一人、いるじゃろ?」
「……?」
百々目鬼が首を傾げる。
その、直後。
「Balwisyall nescell gungnir tron」
歌声が響く。
そして。
「グワーッ!」
ザントマンの悲鳴が響く。
百々目鬼が振り向く。
ザントマンは顔面を殴られ吹き飛んでいた。
「……なんで?」
百々目鬼は驚愕した。
狗神が槍をとっさに構えて警戒。
しかし。
「ヤァッ!」
響の拳が狗神の槍を砕く。
狗神は咄嗟に後退。
「クソッ! どうなってやがるッ!?」
「るみッ! あなた何をしたの!? 立花響の覚醒は二年後のハズだよッ!」
百々目鬼が顔を怒りと恐怖に歪ませ、流水を睨む。
流水は答えた。
「秘密なのじゃぁ〜」
流水は煽った。
話は響の心臓にガングニールが刺さった直後に遡る……。
(響ちゃん、聞こえますか? 今、アナタの心に直接話しかけてますのじゃ)
流水は念話で響とコンタクトを取った。
念話はエンキから教わったのだ。
と言っても出力は弱いので、月にいるエンキと通信は出来ない。
あくまで近くにいる人と秘密裏に話す為の技術だ。
(え……だれ?)
(奏さんの隣に居る男が発信しているのじゃ)
(のじゃ?)
(あ、そのまま動いちゃダメなのじゃ)
(あっはい)
響は俯いたまま、静止する。
心に響く声に耳を傾ける。
(まずは謝らせて欲しい。君を、助けることが出来なくて)
(そんな……。あなたのせいじゃないですよ)
(それでも、君を怖い目に合わせてしまった。そして)
流水の声は真剣である。
のじゃも付かなくなっていた。
(これから君に大変な頼みをすることになってしまう)
(大変な、頼み……?)
(うん。君にはこれから翼さんや奏さんみたいに戦ってもらう)
流水の言葉に僅かに震える響。
(えぇ!? 無理です怖いです!)
(わかる。でも、君に埋め込まれたガングニールが有れば戦えるッ!)
流水の話では。
ただ心臓に刺さっただけのガングニールは、シンフォギアたり得ない。
響の身体と一体化していかないと、融合症例にならない。
その癒着に、2年。
なのだろう。
なので今の響はシンフォギア装者たり得ないのだ。
だから、流水の人の細胞を活性化させる異端技術を応用して、無理矢理短時間でガングニールと癒着させるのだ。
(……それでも、怖いです。私の身体がそのガングニールと一つになるなんて。それに、そのガングニールが、少しずつ身体の中に拡がっていくんですよね)
(ああ、そうだ。だけどそれは後で治すことが出来るんだ)
聖遺物を消滅させる聖遺物、神獣鏡を用いれば、身体内に拡がったガングニールも消滅させられる。
響を治せる。
その神獣鏡の入手経路については、フィーネを利用する算段だ。
(……それでも。私なんかじゃ)
(戦いなら、俺がサポート出来る。怪我も治せるッ!)
流水は水を操ることに長けている。
人の7割は水で出来ていると言われている。
全身には血液やリンパ液が流れている。
それらの流れをリモコンのように操れば、戦いなどしたことの無い響を一人前の戦士並みに戦わせる事が、出来るのだ。
(君にしか、頼めないんだ。このままじゃ、奏さんが殺される)
(奏さん、が……)
流水の言葉に動揺する響。
(怖いのもわかる。痛いのが嫌なのも。でも、君にしか頼めないんだ。……すまない)
(うぅ……。わかりました!)
響は決意した。
戦うことを。
(……ありがとう)
(その代わり! ちゃんと奏さんを守ってくださいね!)
(任せてほしい。本当に、ありがとう)
こうして。
流水からの介入により、ガングニールとの融合が早まった響がシンフォギア装者として覚醒。
流水に肉体を操作された響がまずザントマンを殴り飛ばし、次に狗神の槍を折ったのであった。
そして。
驚愕し、流水に注目していた百々目鬼を響が殴り飛ばした。
「キャアッ!?」
かわいい悲鳴を上げて倒れる百々目鬼。
その隙に奏が翼を救出する。
「させるかァ!」
折れた槍で襲撃する狗神を、流水が飛び膝蹴り。
膝が狗神の顔にめり込む。
「グエッ!」
「のじゃぁ〜!」
勝利の雄叫びを上げる流水。
その流水に文句を言う響。
「ちょっと流水さん! なんか全身からブチブチって音がしたんですけど!?」
「筋肉が切れた音なのじゃ。もう治したから安心なのじゃ。……明日筋肉痛が凄いけど」
「えぇッ!?」
流水は目をそらした。
非力な響に一人前の戦士並みの動きをさせたなら、どこかで無理が出るのは道理であった。
「るみ……、あなたが立花響を覚醒させたんだよね」
「そうじゃぁ〜!」
起き上がった百々目鬼が、流水に問う。
その問いに頷く流水。
「……あなたのせいで、シナリオが滅茶苦茶」
「人生は筋書きのない即興劇のようなものなのじゃ(てきとう)」
「……天羽奏も殺せなかった」
百々目鬼の左手のひらの魔眼が開く。
「ザントマン、狗神。撤退だよ」
「……ぬ」
「チッ……了解だ」
百々目鬼の近くに侍るザントマンと狗神。
「待てッ!」
奏が追いすがるが。
「またね」
その言葉を残して、百々目鬼は消えた。
ザントマンと狗神を連れて。
世界と世界を隔てる境界、そこに綻びを作り、世界の狭間に消えたのだ。
「クソッ!」
奏は近くにあった瓦礫を殴る。
拳から血が出る。
「奏……」
翼がそっと、その拳を手で包み込む。
「奏が生きてて、良かった」
「翼……」
「本当に、良かった……」
翼はそっと涙を流した。
ツヴァイウィングのライブは崩壊した。
ノイズに一万人殺害された。
転移者に手も足も出なかった。
それでも、奏が生きていたことが翼には嬉しかった。
「あたしたち、もっと強くならないとな……」
「うん……」
決意を新たにした奏と翼。
だが、その側で。
「う……ッ!」
流水が倒れた。
「流水さんッ!?」
響が駆け寄る。
響の声につられて見た、奏と翼もひとあし遅れで駆け寄った。
「おいどうした!?」
「わかりません。いきなり倒れて……!」
響が泣きそうになりながら、流水の肩をゆする。
苦しそうに、流水が答えた。
「ガング、ニールの制御と抑制。響ちゃんの、操作で、魔力切れ、じゃあ……」
そう言って、流水は気絶した。
「流水さんッ!……う、ぁ」
流水を起こそうとする響。
だが、その直前でシンフォギアが解ける。
そして、そのまま気絶する。
流水の力で無理矢理シンフォギア装者として覚醒した響は、そのまま戦闘を行った。
その負荷や疲労は流水が抑えていたのだが、流水が気絶した為に制御出来なくなり、一気に響に降り掛かったのだ。
その結果として、響は気絶した。
「あ、おい! 二人ともしっかりしろ!」
奏が響を抱き止める。
「おい! おいッ!」
奏の声が、崩壊したライブに木霊する。
だが、その返事は。
流水と響の寝息だけであった……。
◆
今日のツヴァイウィングのライブで発生した爆発事故と、同時に発生した認定特異災害ノイズによる炭素変換での死傷者・行方不明者は12874名に達した。
原作においては、ノイズによる死者は全体の1/3程であり、残りは逃走中の将棋倒しによる圧死や避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死である。
だが、この世界においては
ノイズによる死者は9948人である。
避難路に発生したノイズによる、逃げ場のない大殺戮が原因である……。
その裏に転移者の存在がある事は、政府により隠蔽される事となる───。
○百々目鬼の魔眼
百々目鬼とは本来、今昔画図続百鬼に描かれた妖怪である。
スリを行う女性の腕に、盗んだお金の精霊が眼となって顕れている、というもの。
この百々目鬼と同じ名を持つ少女は古今東西ありとあらゆる魔眼をその腕に顕している。
歪曲の魔眼、炎熱の魔眼、束縛の魔眼、バロールの魔眼、境界の魔眼。
遠い遠い平行世界の創作魔眼さえも。
それはそれは残酷な話ですわ───。
○融合症例のガングニール
立花響の胸に宿る聖遺物。
Twitterのシンフォギア有識者によれば、心臓に刺さったガングニールの欠片が奏さんの絶唱に反応して響ちゃんと融合したとかなんとか。
今作ではそんな事なんて知らない流水が異端技術で無理くり融合させた。
○流水の異端技術
エンキにより、以下の事を教授された。
①液体操作と真水の生成
②生体細胞の増殖・操作
③魔力を束ねたビーム
流水の場合、パワーよりも精密動作性に優れるらしい。
だから響ちゃんの肉体を巧みに操れたんですね。
一般的な錬金術師や異端技術者が同じ事をやろうとすると、血の流れやリンパの流れ、筋肉の動きを完全制御しないといけないので術者の脳がパァンと弾けるか響ちゃんの肉体がパァンと弾けるらしい。
○魔力切れ
MPが切れた。
Twitterのシンフォギア有識者会談によれば、シンフォギア世界の魔力も弦十郎さんが使う気も、生命の鼓動が生み出すメロディらしいです。
その生命力が底をついたので、流水も気絶したんですね。