リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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いつも感想や誤字脱字の報告をいただきありがとうございます。
100話到達していたのをいただいた感想で気付いた作者です。

以前からいただいていた支援絵を活動報告にまとめて掲載しました。

多分きちんと見れると思うので、もしも支援絵を見たいと思われたら活動報告をご覧くださいませ。


第94話:新人トレーナー、偵察する

 3月後半に行われる大阪杯。それがどんどん近付いてくる中、俺にできることは普段通りキングを鍛えること、あとはライバルの偵察ぐらいである。

 

 最近はトレーニング時にウララとキングに柔軟運動をさせ、それをライスに監督させている間に他のウマ娘を偵察するようにしている。そして偵察していて思わぬ事態に陥った――というか、気付いた。

 

(オグリキャップもだったけど、まさかウイニングチケットも故障とは……)

 

 足の調子が悪いとのことで、つい最近になって療養を始めたらしい。骨折や炎症はないものの、どうにも足に違和感があるようだ。そして長期療養から復帰し、去年の後半になってレースに出始めたグラスワンダーも足に異常があるらしい。

 

 こうなると大阪杯に出てきそうなキングのライバルはスペシャルウィークにセイウンスカイ、ビワハヤヒデとミーク……あとはナリタタイシンぐらい、か。

 

 更にチームカノープスの面々がどうするのか。イクノディクタスは昨年末にシニア級からの引退を表明しているけど、ナイスネイチャやマチカネタンホイザ、ツインターボはまだまだシニア級で走るつもりらしい。

 

 今日も元気にツインターボが打倒トウカイテイオー、打倒ライスシャワーと叫びながら練習用コースを走っている……あれ? もしかしてドリームシリーズに進むことを知らない?

 

 チームカノープスの面々が出てくれば、強力なライバルウマ娘が8人。普通に多い。というかいくらキングでもこれまでシニア級の一線で走り続けてきたチームカノープスの面々は厳しいかもしれん。

 

(おかしいな……療養や海外進出を目指すウマ娘が多いのに、キングのライバルが減ったようには思えないぞ……)

 

 あとは気になるのはメジロパーマーぐらい、なんだけど。

 

(右足の調子が良くないらしいんだよな……寒いからか、トレセン学園全体で足に違和感を覚える子が増えてる……うちのチームも気を付けないとな)

 

 ウマ娘は走る速度の関係上、どうしても足を傷めやすい。仮に骨折や炎症といった()()()()()()故障が発生していなくても、冬になって寒くなると関節が痛い、低気圧が近づくと足に違和感がある、なんてことは割とよくある。

 

 それを我慢してトレーニングするか、大事を取って軽めのメニューにするか、いっそ本格的に休むか。それはウマ娘の性格と症状、あとはトレーナーの方針次第だろう。

 

 そんなことを考えつつ、俺はライバルウマ娘達を偵察していく。そこでふと、気になるウマ娘を見つけて目を細めた。

 

(あれは……ビワハヤヒデか)

 

 練習用コースを走るビワハヤヒデの姿を見つけて、俺は足を止める。そのままじっと眺めるが、体格に恵まれた肉体を躍動させてコースを駆けるその姿は並のウマ娘を遥かに凌駕している。

 コースを走り、足を止めるビワハヤヒデ。その表情は真剣そのもので、トレーニングでも一切手を抜いた様子がない。

 

「うーん、相変わらず大きいな……いや、以前より更に大きくなっているか?」

 

 身長もそうだが、やっぱり体格が良いと走る姿も圧巻だった。汗を拭う姿を眺めながら俺は呟くが、あの子はスペシャルウィークやオグリキャップに勝るとも劣らないポテンシャルがあると俺は見ている。

 

 今のところGⅠでの勝利はないものの、いつ勝ってもおかしくない実力を持ったウマ娘だ。シニア級になったキングにとって、間違いなく強敵と言える子である。

 

 そうやってビワハヤヒデを見ていた俺は、そろそろ戻るか、と踵を返した。偵察も大事だが、トレーニングはもっと大事である。

 

 他のウマ娘の偵察をしようにもうちのチームのトレーニングがある時間帯と被っているため、時間が限られているのが厳しい。

 

(他のウマ娘を偵察できる人手が欲しい……ライスは完全復帰に時間がかかるし、頼んでみるのもありか?)

 

 ライスなら俺がどんな情報を求めているか正確に把握し、きちんと偵察してくれるだろう。あの子が見て感じた情報なら、俺も迷うことなく信頼できる。

 

 しかしそれはそれでライスが復帰するまで、という制限がつくため、やっぱりこうして俺が自分で見て回るのも仕方ないか……なんて、思っていた時である。

 

「――誰の頭がでかいって?」

「ん?」

 

 なんか肩を掴まれたから振り返ったら、真顔のビワハヤヒデが立っていた。据わった目で俺を見てくるが、気のせいか俺の肩を掴む手も力が強い。いやうん、気のせいじゃないわ。普通に力が強いわ。

 

「ビワハヤヒデじゃないか。どうかしたかい?」

「どうかした、はこっちのセリフだ。さっき聞こえたぞ……誰の頭がでかいって?」

「???」

 

 ビワハヤヒデの言葉に俺ははてなマークを浮かべる。え? 頭がでかい? 誰だよそんなこと言ったの。周りを見回すけど、そんなことを言いそうな人、誰もいないんだけど。

 

「誰もそんなこと言ってないぞ?」

「いいや、たしかに聞こえた。それで? 誰の頭がでかいって?」

「???」

 

 俺は再びはてなマークを浮かべる。この子大丈夫? 幻聴が聞こえてない? でも……うーん……あ、もしかして。

 

「相変わらず大きいな、とは言ったけど、頭がでかいなんて言ってないぞ?」

「私の頭が相変わらずでかい……だと?」

「言ってない言ってない」

 

 俺はパタパタと手を振って否定する。いきなり頭がでかいとか、暴言にもほどがある。

 

 しかしまあ、こうして間近で見るとやっぱりでかいな。身長は俺より若干低いけど、170センチを越えているだろう。体格も良い。体付きは豊満で、身長の高さも加えてモデル体型って感じだ。眼鏡をかけているからか理知的な感じがするし、ウマ娘らしく整った顔立ちはとても美人さんである。

 

 ただ、こうして繰り返し『頭がでかい』なんて言ってくるあたり、その辺が気になってるんだろうか?

 

「勘違いさせたのならすまんね。俺が大きいって言ったのは君の体付きのことだよ。身長に体格……うーん、良いなぁ。君みたいなウマ娘だとどんなトレーニングをしたら強くなるんだろうなぁ」

 

 俺は肩に置かれた手をそっと握り、優しく剥がす。女性らしい繊細な手だが、その見た目に反してウマ娘らしい力強さがあった。

 

 チームキタルファで一番体が大きいのはキングだが、身長は159センチとビワハヤヒデと比べれば10センチ以上低い。スリーサイズなんかはバランス良くまとまってる感じだけど、ビワハヤヒデと比べれば一回り以上小柄に見えてしまう。

 

 競技によるが、体格ってのはやっぱり才能だ。その点で見れば、ビワハヤヒデは恵まれた体付きをしていると俺は思う。

 

「……私の頭がでかいと言ったわけではないのか?」

「頭がでかいって……君、どちらかというと小顔じゃないか」

 

 あれ? 髪が癖っ毛でボリュームがあるからそう見えるだけか? でも改めてまじまじと顔を見ても、特別大きいようには見えない。

 

「こ、小顔……だと? 私が……か?」

「顔は……うん、大きくないよ。頭が大きく見えるのは髪の毛のボリュームがあるからじゃないか? 癖っ毛で髪の量が多いから大きく見えるかもしれないけど……うん、別に大きいってわけじゃないと思うんだけど」

 

 これでビワハヤヒデが担当ウマ娘なら直接触って確認するんだけど、さすがに他所のウマ娘の頭を撫でるわけにもいかない。しかしこうして間近でビワハヤヒデを見るのは初めてで、俺は思わずじっと観察してしまう。

 

「そんなに髪が多いと、梅雨の時期とかは大変そうだなぁ。あと、寝起きも手入れが大変そうだ。寝ぐせがついたらなおすのが大変じゃないか?」

「ああ……そうなんだ。わかってくれるか?」

「ははは、そこまで伸ばしたことがないから、わかったなんて気軽には言えないかな。でもしっかりと手入れがされてるみたいだし、綺麗な髪だと思うよ」

 

 俺がそう言うと、ビワハヤヒデは若干照れたように眼鏡の位置を指で整え始める。

 

「そ、そうか……いや、失礼した。私の聞き間違いだったようだ。昔からどうにも()()()()()()が気になっていてな。迷惑をかけて申し訳ない」

 

 どうやらビワハヤヒデは頭の大きさにコンプレックスがあるらしい。自分の勘違いだと認めると、素直に謝罪してくる。

 

「……ん? よく見ると、あなたは……チームキタルファのトレーナー、か?」

 

 そして謝罪をしたかと思うと、俺の顔を数秒見てからそう呟いた。

 

「ああ、一応はじめましてって言った方がいいかな? チームキタルファでトレーナーをやってる者です」

 

 そう言って俺が右手を差し出すと、ビワハヤヒデは少しばかり好戦的な笑みを浮かべながら俺の右手を握る。

 

「ビワハヤヒデだ。そうか、あなたがあのライスシャワーやキングヘイロー、それにハルウララを育てているトレーナーか」

 

 続いて、俺の右手を握る手に力を込めていく。ウマ娘の全力で握られると俺の右手がとんでもないことになるが、その辺りは理解しているのかほどほどで力が弱まる。 

 

「それでは、キングヘイローに伝えてほしい。大阪杯では私が勝つ、と。そろそろGⅠの冠を被りたいと思っていたんだ」

 

 そう言ってにやりと笑うビワハヤヒデ。うーん……この鼻っ柱の強さ、良いなぁ。この子も育ててみたいなぁ。

 

「伝えとくよ。でも、勝つのは君じゃない。俺のキングが勝つ」

 

 ビワハヤヒデに倣ってにやりと笑って返す。すると、ビワハヤヒデは笑みを深めた。

 

「なるほど……キングヘイローだけでなくトレーナーも強敵というわけだ。私もより注意してかかるとしよう」

 

 そんな言葉を残し、ビワハヤヒデがトレーニングに戻っていく。それを見送った俺は、キタルファの元へ戻ろうと踵を返した。

 

「……妹にも先を越されたしな」

 

 風に乗って、そんな声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 その後、ウララ達のもとに戻った俺は、ウララとキングがきちんとウォーミングアップを済ませているのを確認してから走らせる。

 

 ライスも骨折から二ヶ月近く経ち、多少なら体を動かしても問題ないため最近はプールだけでなく少しずつトレーニングの強度を上げている。

 

 最初は歩かせ、次に早歩き、そこから小走りさせて、最後に流す程度に走らせる。しかし少しでも痛みや違和感があればそこでストップをかけ、治ったばかりの左足に負担がかからないようにしていた。

 

 ただ、今日のライスは何か思うところがあるのか、走っていくウララとキングを見つめながら動かない。それに気付いた俺はライスの隣に立つと、何かあるのかと尋ねようとした。

 

「お兄さま、ライス、相談があるんだけど……」

 

 だが、俺よりも先にライスが口を開く。相談と言っているが、はて……なんだろうか? こうしてトレーニング中に相談事を持ち掛けてくるなんて、滅多にあることじゃない。

 

「これからの進路について、なんだけど……レースの方はね、ドリームシリーズに進もうと思ってるの。でも、()()()()がちょっと……」

 

 そこまで話して言いよどむライス。ライスは走るだけでなく勉強もできるし、真面目だ。望むなら大学なんかも普通に通えると思うんだが、何やら言いづらそうな顔をしている。

 

「えっとね、最近……ううん、ここ数ヶ月のことなんだけど、ライス、ウマ娘の育成に興味が湧いてて……将来的な話なんだけど、その、と、トレーナーを目指してみたいなって……」

「…………」

 

 いきなり振られた話に、俺は思わずフリーズする。ライスがトレーナー? え? マジで? ライス自身現状でもGⅠ6勝しているのに、その経験を元に教えられるトレーナーとか……いや、どうなんだろう?

 

 前世だけでなく今世でもよく聞くのが、優れた選手が優れた指導者になるとは限らない、なんて話だ。現役中に優れた成績を残したウマ娘だからといって、トレーナーになって大成するとは限らない。

 

 ただ、ウマ娘として自分の足で頂点に立ったライスなら、トレーナーとしての才能がゼロとは思わなかった。自分の足で頂点(そこ)までいけたのなら、育成を担当したウマ娘を引っ張っていくことも可能に思えるからだ。

 

「トレーナーか……どうしてトレーナーになりたいって思ったのか、聞いてもいいかい?」

「うん……あのね、ライスね、キングちゃんと一緒に走ってたでしょ? その時、ライスが教えられることは全部教えて、キングちゃんが少しでも強くなるように頑張ったの。キングちゃんはライスが教えたことを覚えて、強くなってくれた……それがね、すっごく嬉しかったの」

 

 そう言ってライスはウララと併走するキングを見る。たしかに、ライスがキングに色々と教え込んでいるのは俺も知っている。中距離や長距離の走り方、距離が長いレースの力の抜き方、それにロングスパートのかけ方や狙い方等々。

 

 俺だけでなく、ライスの助力があったからこそキングも急成長を遂げていると言っても過言ではない。それを裏付けるように、ライスが怪我をしてからというものキングの成長曲線がやや緩やかになってしまった。

 

「ライス、これまでは自分が走ることだけで精一杯だった。でも、キングちゃんと一緒に色々と教えてみて、楽しいなって……こんな自分でも、誰かの役に立てるんだってあうっ」

 

 あ、いかん。ライスが()()()()()()()なんて卑下したから、反射的におでこにデコピンをしちゃった。

 

「こんな自分でも、か……ライスのそれ、久しぶりに出たなぁ」

「あっ……」

 

 デコピンしたあと、俺はライスの頭を撫でる。年末年始はライスのこれからの進路に関して話をするべく実家への帰省にもついていったけど、そうか……トレーナーか。

 

「ライスがトレーナーか……俺は止めないけど、いきなりトレーナー養成校に進むってわけじゃないんだな?」

「うん。まずはトレセン学園のサポート科に進もうかなって……そこでウマ娘のサポートに関して学んで、ライスにトレーナーとしての適性があるのかを見極めたいなって……」

 

 そう語るライスに、俺は目を細めて思わず遠くを見てしまう。

 

 トレーナーとしての適性云々なんて考えず、中学卒業後にトレーナー養成校に進学し、進級できるギリギリの成績、卒業できるギリギリの成績で四年間を過ごした俺としては、ライスの言葉がなんとも眩しいし心が痛い……。

 

 中央のトレーナーライセンスも試験を一発合格したものの、点数は本当にギリギリであと1問間違えてたらアウトだった、なんてぐらいギリギリだったのだ。

 

 その点で見ると、ライスはまずはサポート科に進んで勉強しつつドリームシリーズを走る。そしてあと何年で引退するかはわからないけど、()()()()()()()()トレーナーの育成過程に進むのもアリだろう。

 

 トレーナーと一口に言っても中央と地方の二種類があり、ライスなら地方のトレーナーライセンスならあっさりと取りそうだ。

 

 中央のトレーナーライセンスは……俺もなんでギリギリでも合格できたかよくわからん。もう一回試験受けたら多分落ちるなってぐらい難しかった。

 

 トレーナー養成校で四年間みっちりと勉強し、なおかつ前世というアドバンテージがあり、そのアドバンテージを活かすために小学生の頃から勉強し続けてようやくギリギリの合格である。

 

 ライスは……どうだろうか? 学校の勉強はしっかりしてるタイプだけど、トレーナーライセンスの筆記試験は選択問題じゃなくて記述問題ばっかりだからなぁ……。

 

 まあ、以前も思ったけど、ライスが本当にトレーナーを目指すとしてもじっくり時間をかけても良いだろう。ライスには時間をかけて道を選べるだけのお金がある。仮に向いていないと思ったのなら、別の道に進めるだけのお金を既に稼いでいるのだ。

 

 ライスは高等部で既に三年だ。世間で言えばもうじき高校卒業の時期である。というかもう、3月に入るから卒業シーズン真っ盛りの時期だ。

 

 ドリームシリーズに進むとしても、トレセン学園としてはどこかしらの科に進まなければいけないのならライスが望む道に進むべきだと思う。

 

 一応、進学しておいて授業は進級できるギリギリしか出ず、トレーニングに集中するなんて荒業もあるだろうけど……トレセン学園は文武両道を掲げているし、すぐに理事長やたづなさんに呼び出されそうだ。

 

「そうか……ライスがサポート科になぁ……ご両親と話はしてるんだな?」

「うん……実は年末年始の時に相談してて……トレーナーなら()()()()()()()()()から、色々と参考にできるかなって……」

「おう。俺が教えられることなら何でも教えるからな。しかしトレーナーか……俺が使ってた教科書や参考書で良ければ持ってくるぞ? あ、でもそういうのって新品の方が」

「いるっ! お兄さまが使ってた教科書や参考書でライスも勉強したいっ!」

「いいかな……って、思ったんだけど、うん、そっか……今度持ってくるな」

 

 勢いよく食いついてきたライスに、俺は苦笑をしてしまう。やる気があるのは良いことだけど、それがいつまでもつか。そしてちょっとした壁にぶつかったり、やる気がなくなってしまった時にどうなるか。

 

(まあ、勉強したことは無駄にはならないし、ライスはそういった回り道ができるぐらい稼いでるし……というか実家があんなにお金持ちだし、何かあればお見合いで結婚して家庭に入る、なんて道もありそうだよな)

 

 俺はそんなことを思いながら、ライスを見る。出会った時と比べてライスも大きく……成長期を過ぎたからか体は大きくなってない気もするけど、精神面では大きな成長をした。

 

 ライスがどんな大人になっていくのか、実に楽しみである。

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