リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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第100話:新人トレーナー、春の天皇賞に挑む その1

 そんなこんなで、ゴタゴタがあっても時間は待ってくれない。

 

 キングが出走予定の春の天皇賞は間近に迫っており、今は仕上げの時期だ。復帰したライスにも手伝ってもらい、キングに最後の追い込みを施す必要がある。

 

 そんなわけで朝から理事長室に呼び出され、スピカの先輩と話をして、後輩を捕まえてうちのチームから離脱した子達と顔合わせだけでも頼むと、俺は部室に戻った。

 

 昨日までは5人分使用されていたロッカーも、元のウララ達3人だけが使用するようになっている。新入生の2人は昨日のうちに私物も全部持って帰ったため、チームキタルファの部室は()()()()()しまった。

 

 朝から色々とあり、今日の分の仕事を片付けるのが普段より遅れると判断した俺は、仕事しながら昼飯代わりの固形栄養食品をかじり、ウララ達が部室へ来る放課後にはなんとか全部の仕事を終わらせることができた。

 

 だが、部室を訪れたウララはライスとキング以外のウマ娘が来ないことを確認するとしょんぼりと尻尾を垂らし、ライスはチームリーダーとしての責任を感じているのか表情が暗い。

 

「さあトレーナー、今日のトレーニングの予定はどうなっているの? それと春の天皇賞の手続きは終わっているのかしら?」

 

 そんなウララやライスと異なり、キングだけは普段通りの様子だった。敢えて普段通りを装っている風でもない。普段通りの、凛とした表情で俺を見てくる。

 

「……レースの手続きは済んでるから、あとは出走表が届くのを待つだけだな」

「そう。私の収得賞金なら問題なく出られるでしょうし、あとは誰が出てくるかが問題ね。あなたの予想は?」

 

 そう言って衝立の向こうに消えたかと思うと、衣擦れの音が聞こえてきた。どうやら着替えながら会話を続けるつもりらしい。

 

「出てきそうなのはビワハヤヒデ、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、ナリタタイシン、ミーク……はどうだろうな」

「高松宮記念で勝ったものね。ここから春の天皇賞に出たら、世間から何と言われるかしら」

 

 私たちみたいに、なんて言って、キングから笑っているような雰囲気が伝わってくる。

 

 ミークは先日出走した高松宮記念で1着を獲った。これによってGⅠで2勝目を挙げたわけだが、いくらミークが全距離走れるといっても春の天皇賞に出てくるかは微妙なところである。

 短い距離に路線変更したのなら、春の天皇賞ではなく5月前半のヴィクトリアマイルか、6月前半の安田記念に出走しそうだ。

 

「あとはチームカノープスの面々だな。ナイスネイチャにマチカネタンホイザ、それにツインターボ……は、さすがに出てこないか。距離が長すぎる」

「故障している人達は? ああ、グラスさんは本人と話をしているからいいわ。まだ厳しいらしいのよね」

「ウイニングチケットもまだ調子が戻らないらしい。それとオグリキャップなんだが……繫靭帯炎だそうだ」

 

 オグリキャップは捻挫して大阪杯を回避したが、4月に入って繫靭帯炎を発症したらしい。ウマ娘としては致命的な、引退を視野に入れざるを得ない症状である。ただ、引退ではなく療養に入ったようで、症状はそこまで重くないのかもしれない。

 

「メジロパーマーもまだ療養が長引いてるって話だ。つまり、何もなければ強いライバルは大阪杯と似たような面子になると思う」

「オイシイパルフェさんも出るのかしら?」

「いやそれは……どうだろうな……怪我をしたって話も聞かないし、担当トレーナーとオイシイパルフェが出たいって思うかどうか次第だろうけど……去年は出てたし、今年も出てくるかもしれないな」

 

 春の天皇賞は3200メートルだし、大阪杯みたいに中盤からのロングスパートはいくらなんでも無理だろう。残り1000メートルからの超ロングスパートをかけるとしても、それまでに大阪杯以上の距離を走っているわけで……去年はシンガリ走ってシンガリでゴールしてたっけ?

 

「というかキング、オイシイパルフェを意識してるのか?」

「大阪杯では意表を突かれたもの。警戒をしておくに越したことはないわ」

 

 そりゃまあ、俺も大阪杯ではビックリしたけどさ。俺がキングと話をしていると、衝立からキングがひょっこり顔を覗かせる。そして、制服姿のままで入口付近に立っているウララとライスへ視線を向けた。

 

「ウララさんとライス先輩も、いつまでそうしているの? 早く着替えないと。トレーニングの時間は有限よ」

「キングちゃん……」

「そう……なんだけど……」

 

 気にしてないの? と言わんばかりの視線をキングに向けるウララとライス。キングは衝立の向こうに消えると、手早く着替えたのか体操服姿になって出てくる。

 

「あの2人のこと? それを言ったら私だって元々は別のトレーナーが担当だったのよ? でも、以前の担当との契約が打ち切られた後にこのチームに入って、色々あったけど後悔はしていないわ。むしろ最高のチームに入れたと思っているもの」

 

 キングはそう言って自身の髪を払うと、俺に真っすぐな視線を向けてくる。

 

「合う合わないはどうしても出てくるわ。トレーナーとウマ娘然り、友人関係然り……親子でさえ合う合わないがあるんだもの。このチームを辞めたあの子達にとっては、他にもっと合った環境がある……それだけの話ね」

 

 至極当然のように語るが、そう言えるのはキングだからこそだろう。実際に他のトレーナーの下で鍛えられたものの、方針の違いやら相性やらでうちのチームに入ってきたのだから。

 

 一応、ライスも他の担当トレーナーから俺が育成を引き継いだパターンではあるけど、ライスの場合は元担当トレーナーとの相性とか育成方針とかがどうって言える関係じゃなかったしな……名義貸しだったからライスは自分で自分を鍛えてたし。

 

 だからこそ、新入生2人がチームを抜けてもキングはすぐに切り替えたのかもしれない。しかしキングは俺に意味ありげな視線を向けると、顎でしゃくるようにして扉へ視線を向ける。何か二人きりで話をしたいということか。

 

「……とりあえずウララとライスも着替えること。俺は表に出てるから」

 

 二人にそう言って、俺はキングと部室から出る。するとキングはウマ耳をピクピクと動かし、近くに人の気配がないことを確認するように周囲を見回した。

 

「トレーナー、私は今から己の信念を曲げるわ。そして一度しか言わないからよく聞きなさい」

 

 そして何やら真剣な目で俺を見てくる。ウララとライス抜きで話をしたいみたいだが、一体なんだろうか? 己の信念を曲げるって、何を……。

 

「あなたが私達に取り組ませているトレーニングメニュー……これがきついのはこのキングも認めるわ。正直今でもきつすぎて吐きそうな時があるし、寮に戻ったらウララさんと一緒に寝落ちしかけて慌てることもあるもの」

「…………」

 

 そんなキングの言葉に、俺は無言になる。やっぱりキングでもきついのか、という思いと、()()()()()が弱音とも文句とも取れる言葉をぶつけてきて思わず言葉を失ってしまった。

 

「多分、このチームのトレーニングはトレセン学園でもトップクラスにきついと思うわ。あと、今では慣れてしまったけど、歳が近い上に異性のあなたにデータ取りと疲労の確認のためとはいえ、毎日のように触診されるというのもちょっとどうかと思うわね」

 

 それは俺の育成に関する文句だ。キングは今、真正面から俺に文句をぶつけてきている。

 

 キングは気にしていないように見えたが、やはり、新入生2人が退部したことに思うところがあったのだろうか。

 だが、キングは真剣でこそあったが、そこに不満や悪意の色はない。ただただ真っすぐに俺を見詰めて、言葉をぶつけてくる。

 

「あと正直、デリカシーが足りないと思うの。私達も年頃の女の子なのよ? あなたが部室の中にいても、まああなただからいいか、なんて思って着替えちゃうけど、私達……とりあえず私は恥ずかしくも思うの」

「うん……」

「以前から疑問だったのだけど、あなたには私達が小さい子どもにでも見えているのかしら? 私達、年齢的にそんなに大きな差はないわよね? 特にライス先輩なんか、あなたと3歳ぐらいしか違わないと思うのだけど?」

「はい……」

「ウララさんに対する扱いなんて小さい娘か姪と接しているように見える時もあるし、ライス先輩が相手でも大差ないわ。もう少し異性として……違った、女性として……ううん、これも違う……話がずれているわね」

 

 俺の育成に関する文句……育成に関する文句? をぶつけてくるキングに、俺は大人しく頷くことしかできない。

 

「こうやって探せばいくらでも文句が出てくるわ。でも……」

 

 キングは僅かに視線を逸らすと、深呼吸をして改めて俺を見る。その真っすぐな視線は、出会った頃と変わらず力強かった。

 

「――あなたは私にとって最高のトレーナーよ」

 

 そう言って、キングが一歩距離を詰めてくる。

 

「さっきも言ったけど、合う合わないはあると思うわ。私だってあなたに対して不満に思う部分もある。もう少し……いえ、()()はいいとして、あなたの良いところ、悪いところ全部ひっくるめて、私にとっては最高のトレーナーだわ」

 

 まるで俺に言い聞かせるようなその言葉に、俺は思わず呆然としてしまった。

 

「もしかして、だけど……慰めようとしてくれてるのか?」

 

 そして呆然とした拍子に、そのまま思ったことを尋ねてしまう。するとキングは頬を赤らめ、そっと視線を逸らした。そして髪の毛を指先でいじると、口元をもごもごと動かしてから声を発する。

 

「昨日と比べれば表情も落ち着いていたし、必要ないと思ったわ……でも、心配……だったのよ」

 

 だからこそ、キングは普段は決して口にしないような愚痴や文句や弱音を俺にぶつけ、()()()()肯定してくれたのか。

 

 どんな苦境にあっても歯を食いしばって弱音を吐くことがないキングが、己を曲げてまでぶつけてくれた言葉。それが俺を案じてのことだと悟り、俺は反射的に空を見上げてしまった。

 

 ウララといい、ライスといい、キングといい。なんでこうも簡単に、涙腺を破壊するようなことを()()()()()()のか。

 

(本当に……俺なんかにゃもったいないウマ娘達だよ……)

 

 なんて、口に出したら更に怒られるようなことを思ってしまう。キングは俺のことを最高のトレーナーだって言ってくれたけど、俺からすればチームキタルファのメンバーはみんな最高のウマ娘だ。

 

 スピカの先輩に励まされて、同期や後輩達と話をして、自分では落ち着いたつもりだったんだけど……キングからすればこんなに心配をさせてしまうような顔をしていたらしい。

 

「ありがとうな、キング」

 

 視界が滲むのを自覚しつつも、俺はお礼を言う。頭を下げたらそのまま涙が零れ落ちそうで、空を見上げたままだ。

 

 するとキングは何を思ったのか、更に俺に一歩近づいたかと思うと両手を伸ばしてくる。そして何事かなんて思っていると、俺の両頬を挟み込むようにして、バチン、と軽く叩かれた。

 

「あなたは本当に……おばかなんだから」

 

 その言葉にどんな意味が込められていたのか、俺には全てを察することはできない。ただ、キングに叩かれた両頬がジンジンと熱を持ち、その熱が自覚しないうちに落ち込んでいた俺の心を熱してくれる。

 

 俯くのは容易だが、俯いてばかりではいられない。

 

 ――だってよ、俺はチームキタルファのトレーナーなんだぜ?

 

 その思いと共に、俺は頬に叩きつけられたキングの手をぎゅっと握り返すのだった。

 

 

 

 

 

 そして、週末。

 

 春のシニア三冠の中継点。春の天皇賞の日がやってきた。

 

 春の天皇賞はフルゲートなら18人での出走だ。しかし、大阪杯と同様に回避するウマ娘が多いのか、出走表に載っている人数はフルゲートに満たない13人である。

 

 黄金世代やチームカノープスといった面々が出てくると思えば、回避して他の4月後半に行われるレースや5月前半に行われるレースに照準を合わせてもおかしくはない。

 

 前日から現地入りし、当日を迎えて京都レース場に向かいながら、俺は先日届いた出走表を再確認して眉を寄せた。

 

(やっぱり、ミークがいない……大阪杯も避けて高松宮記念に出たし、春の天皇賞を避けてヴィクトリアマイル狙い……か?)

 

 ミークはジュニア級の頃に阪神ジュベナイルフィリーズを勝ってるし、仮にヴィクトリアマイルに出て勝てばマイルのGⅠ2勝目だ。

 

 高松宮記念と合わせればGⅠ3勝になるが、まずはしっかりと勝ち数を伸ばすのが目的なのか、あるいはキングのように全距離での勝利を狙っているのか……。

 

(年末年始にご両親と喧嘩したって言ってたし、春のシニア三冠みたいな称号狙いじゃなくて、ミークをレースでしっかりと勝たせていく方針に切り替えたのかな?)

 

 そういえば最近、桐生院さんとしっかり話をしていないな、なんて思う。しかしお互いに独立したトレーナー同士、毎日のように親しく話をするわけでもない。

 

 それに桐生院さんのことよりも、目の前のレースに集中しなければならないのだ。

 

(今日は雨、か……)

 

 電車は混むようなのでタクシーを拾い、京都レース場まで移動した俺は傘を差しながら空を見上げる。

 

 大雨というほどの雨ではないが、小雨と言えるほど弱くもない。この分だとバ場状態は重か不良のどちらかだろう、なんて思う。

 

 レースに使用する勝負服が入ったバッグを抱えたキングが雨に濡れないよう、俺はキングを傘の下へと招き入れる。こういう時のために傘は大きめのものを買っており、キングが入っても濡れることはない。

 

 ただ、大きめの傘を使うのはレース場の外だけだ。観客席で使うと迷惑になるため、もう一本透明なビニール傘を用意している。

 

「ふわぁ……雨なのに人がおおいねー」

「ほんとだ……」

 

 タクシーから降りたウララとライスは、京都レース場周辺に集まっている人々を見て感嘆した声を漏らす。今日のメインレースがGⅠということもあり、天気が悪いにもかかわらず大勢の人々が詰めかけているようだ。

 

 京都レース場だと最大で15万人弱は入場できるはずだが、集まった人々がその場から動いていないことから、既にレース場では入場制限がかかっているのだろう。

 

 俺達は雨に濡れないよう注意しつつ、周囲の人が差す傘に気を付けつつ、京都レース場へと入場する。そしてキングを控室に送り出すと、普段通りパドックへと足を向けた。

 

 そうしてパドックに到着すると、見慣れた顔のトレーナーがちらほらと見える。今日のレースでは3人の同期とぶつかるのだ。それに加えて、遠目にチームスピカの先輩の顔も見える。

 

 あとはチームカノープスの先輩もいるけど……視線を向けた瞬間、向こうはこちらの視線に気付いたのかにこりと笑みを向けてくる。そのすぐ傍にはさすがに長距離レースを回避したツインターボと、シニア級から卒業したイクノディクタスがいた。

 

 今日のレースでは同期が育てているウマ娘が3人……大阪杯から続いての出走となるアンチェンジング。それに昔ライスを交えた模擬レースで走ったステイシャーリーンにインペリアルタリスが出てくる。

 

 あとは大阪杯と同様に、黄金世代からビワハヤヒデにスペシャルウィーク、セイウンスカイ。

 

 チームカノープスからはナイスネイチャとマチカネタンホイザが出てくるし、最近復調したように見えるナリタタイシンも油断できる相手ではない。

 

 あとは……ライスとも同じレースで何度も競ってきたミニキャクタスに、一応、オイシイパルフェも警戒対象か。というか、警戒対象ばかりで苦笑も出ない。

 

 13人中8人が今年になってシニア級になったウマ娘だが、残り5人は数年に渡ってシニア級で走り続けている子達だ。その分、身体能力のピークは過ぎているかもしれないけど、経験値ではキング含めて今年シニア級になったウマ娘を軽く上回る。

 

 というか、オイシイパルフェなんて一度も怪我せずにほぼ月1回のペースでレースに出続けている。ウマ娘ファンの間ではコアな人気があるらしく、入着はゼロだがGⅠの常連だ。

 

 前世では無事之名馬なんて言葉があったけど、多分、オイシイパルフェみたいな子を指して使う言葉なんじゃないか。

 

 そんなことを考えているとパドックでのお披露目が始まる。ただし今日は雨のため、お立ち台に立つとパドックには下りず、そのまま屋内に引っ込む形になった。

 

『1枠1番、キングヘイロー』

 

 今日のキングは内枠での出走だ。メインレースまでに芝が荒れていて、なおかつバ場状態が悪いことがどう影響してくるか……。

 表情は普段通りで、緊張は見受けられない。自信満々に胸を張るその姿に、俺は自然と頬を緩めてしまう。

 

『3枠3番、スペシャルウィーク』

 

 アナウンスと共に姿を見せたスペシャルウィークに、俺は警戒するように目を細める。さすがはスピカの先輩だ。スペシャルウィークの体は完璧に仕上がっており、表情を見る限り調子も良いのが伝わってくる。

 

『4枠4番、ナイスネイチャ』

 

 続いて出てきたナイスネイチャもスペシャルウィーク同様に調子が良さそうだ。仕上がりも万全といった様子で、気合いが入った顔つきをしている。

 

『4枠5番、マチカネタンホイザ』

 

 マチカネタンホイザは……ナイスネイチャに勝るとも劣らないって感じだ。調子も仕上がりも良好に見える。むん、と気合いを入れるように胸の前で拳を構えているのが見えた。

 

『5枠6番、ナリタタイシン』

 

 大阪杯の時と比べて、更に調子が上がっているように見える。勝負服の構造上右足しかしっかりと見れないけど、体付きも仕上がっているようだ。

 

『6枠8番、セイウンスカイ』

 

 普段通り、というべきか。とぼけた表情で手を振っている。

 

 最近のレースでは思うような結果が残せていないが、セイウンスカイは去年の菊花賞、つまりは長距離のGⅠで世界レコードを出したウマ娘だ。今回の春の天皇賞は3200メートルと文句なしの長距離レースのため、警戒が必要だろう。

 

『7枠10番、オイシイパルフェ』

 

 先月の大阪杯もそうだけど、去年の春の天皇賞でも走ったんだよな……さすがに大阪杯の時みたいなことはないと思うけど、どうなるか……。

 

『7枠11番、ビワハヤヒデ』

 

 そのアナウンスと共に姿を見せたビワハヤヒデに、パドックまで詰めかけていた観客達からは大きな歓声が上がる。大阪杯で勝ち、今日のレースで勝てばシニア三冠に王手がかかるのだ。観客の期待も大きいのだろう。

 

(相変わらず大きい子だ……)

 

 今日の天気の影響か、ただでさえ長くて量がある髪の毛が膨らんでしまっている。そのせいか以前よりも更にビワハヤヒデが大きく見えた。

 

 しかし仕上がりはばっちりって感じだし、調子も良さそうだ。良くないのは髪が広がり過ぎることぐらいだろうか。

 

 同期が育てているウマ娘、ステイシャーリーンは2枠2番、インペリアルタリスは5枠7番、アンチェンジングは8枠12番だ。

 

 それぞれ気合いが入った顔付きをしているし、仕上がりも良い。

 

 ただ、まあ……。

 

(今日の問題は、この雨か)

 

 仮に今日のレースがウララのレースだったとしても、ダートでさえバ場状態が悪化して酷いことになりそうだ。

 

 それでも気合い十分といった顔付きのキングと視線を交わすと、お互いに大きく頷き合うのだった。


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