リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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第105話:新人トレーナー、2度目の宝塚記念に挑む その1

 6月になり、また梅雨の季節がやってきてしまった。

 

 晴れの日はウララ達をコースで走らせ、曇りの日もコースを走らせ、雨の日はプールで泳がせたりジムでルームランナーを使って走らせたり、あるいは筋トレさせたり……時には敢えて雨の中を走らせたりと、トレーニングメニューを考えるのが大変な時期である。

 

 これでもチームを設立してからはかなり楽になった方で、ウララと二人三脚でやっていた頃は屋根のあるところで筋トレをさせたり、やっぱり雨の中を走らせたりと、実行できるトレーニングが少なかった。

 

 風邪を引くかもしれないから雨の中を走らせるのは極力やりたくない。しかしレース当日に雨が降っている可能性を考慮すると、雨の中で走ることに慣らすためにも走らせないわけにもいかないというジレンマよ……。

 しかもレース当日の雨の降り具合もわからないため、小雨だったり大雨だったり、風邪を引かないよう注意しつつ何回も雨の日に練習用コースを走らせていた。

 

 この時期はバスタオルやウララ達の体操服、あとは下着なんかを乾かすために、部室に設置してある洗濯機兼乾燥機が大活躍だ。ちなみに洗濯と乾燥を分けるために2台に増やした。両方の機能がついた一体型を近所の商店街にある電気屋に注文し、すぐに届けてセットしてもらったのである。これで万が一故障してももう1台で乗り切れるだろう。

 

「この前のレースで酷い目に遭ったし、宝塚記念は晴れてくれると良いのだけど……いえ、雨は嫌いじゃないのだけど、ね……」

 

 今日はジムでトレーニングをしていたが、休憩中にキングが窓の外を見ながらぽつりと呟く。

 

 春の天皇賞では顔の右半分に泥が直撃したし、しばらく右目に眼帯を付ける必要があったしな……ちなみにそれを自分がやったと思ったのか、教室ではスペシャルウィークやセイウンスカイが甲斐甲斐しくキングの世話を焼いていたらしい。

 レース中のことだからとキングは気にしていなかったけど、スペシャルウィークやセイウンスカイとしては、眼帯を付けて不自由にしているキングを見ると申し訳なく思ってしまうようだ。

 

 ただしキング曰く、セイウンスカイはともかく、最近のスペシャルウィークは何かあればスズカさん、スズカさんと口走っているらしい。なんでもサイレンススズカは海外進出を視野に入れているらしく、サイレンススズカとルームメイトかつ仲が非常に良いスペシャルウィークは応援しつつも落ち込んでいるようだ。

 

 『もしもウララさんが海外に羽ばたくのなら、同じようになるかもしれないわね』とはキングの談である。一度何かしらの海外のレースに挑むだけなら俺もついていくだろうけど、サイレンススズカの場合は長期間海外で活動するつもりらしく、ウララが同じように長期間海外に行く場合はさすがに俺もついていけないだろう。

 

 ついていけるならついていきたいけど、トレセン学園での仕事もある。実際、チームスピカの先輩もこちらに残るみたいだしな。

 

 そんなウララは帝王賞に向けてルームランナーを走っている。ルームランナーは風景が変わらないから以前のウララはすぐに飽きていたけど、今のウララは真剣な表情で走り続けている。

 

 ルームランナーの速度や走行距離をチェックしつつ、少しでも自身のスタミナを増やそうと一生懸命だ。

 

 余談だが、ルームランナーといってもウマ娘用のため非常に頑丈である。ウララが走ると足元のベルトが凄まじい速度で回転するため、俺が乗ったらそのまま弾き飛ばされそうだ。

 

 そんなこんなでウララ達はルームランナーで走ったり、筋トレをしたりとそれぞれの身体能力に合わせたトレーニングを行っている。そしてライスみたいな小柄な女の子がベンチプレスでバーベルをひょいっと持ち上げているところを見ると、ウマ娘ってすごいなぁなんて改めて思う。

 

 俺も割と体を鍛えている方だけど、明らかに体格で劣るはずのウララ達に身体能力で勝てないのだ。筋力瞬発力スタミナその他諸々。これで聴覚や嗅覚も優れているっていうんだから、俺としては驚くほかない。

 

 でも、それは俺が前世の記憶なんて持っているからである。元々この世界で生まれた人達はウマ娘の身体能力に疑問を覚えていないどころか、普通の人間同士で結婚して生まれてきた赤ちゃんがウマ娘だろうと平然と受け入れる。

 逆にウマ娘から普通の子どもが生まれたりもするらしいし、その辺、何が起きているのか割と謎だ。

 

 俺がそうやってウマ娘の不思議な生態に関して思考していると、休憩していたキングがルームランナーに向かう。俺がいちいち指示を出さなくても一切手を抜かず、常に真剣だ。

 

 宝塚記念が迫っているというのもあるが、キングにとって友人であるエルコンドルパサーがつい最近、海外のレースに挑んで上位に入ったのがキングを発奮させているのだ。

 

 エルコンドルパサーが出走したのはフランスのロンシャンレース場で行われるイスパーン賞で、レースの格付けはGⅠである。ロンシャンレース場は凱旋門賞という前世でもなんか聞いたことがあるなってぐらい有名なレースが行われる場所でもある。

 

 エルコンドルパサーは海外のレース、それもGⅠに初挑戦で2着になったというのだ。1着以外は負けとはいえ、これは大きな意味がある。レース映像を見てみると十分通用していたし、次のレースは勝てるんじゃないか、と思わせる走りだった。

 

 そのレース映像をキングに見せたら発奮した。元々ストイックだし、友人にしてライバルが頑張っている姿を見て燃えないキングじゃないのだ。

 

 そんなキングと比べても負けないぐらい、ウララも気合いのノリが良い。トレーニングに対して常に真剣だし、帝王賞に向けて熱心に励んでいる。

 

 そしてそんな二人が頑張り過ぎそうになると、それとなくライスが止める。年長者として、チームキタルファのチームリーダーとして、しっかりと面倒を見てくれる。

 それによってウララもキングもトレーニングを止め、笑顔を浮かべたり苦笑したりと、程良くリラックスした姿を見せていた。

 

(うん……良い調子だな)

 

 梅雨の時期は他のチームやトレーナーもトレーニング内容が似た感じになる。それならあとは本人達のやる気と、周囲の環境によって差が出てくるだろう。

 

 ウララとキングの仕上がりを確認しながら、俺はそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 そして6月の後半……というか、宝塚記念の3日前。

 

 放課後になる頃、俺は部室で一通の封筒を開封していた。中身は宝塚記念の出走表だけど、出走表を確認する時はいつもドキドキするな。

 

(さて、キングの枠番は、と……)

 

 特定のGⅠレースはレースの3日前に出走ウマ娘や枠番に関して全部ひっくるめて発表される。レースによって前々日の発表だったり、発表の時間が14時だったり、16時だったりと変わるけど、宝塚記念は木曜日の14時発表である。

 

 宝塚記念や有記念みたいなファン投票だと事前にある程度出走ウマ娘がわかるけど、蓋を開けてみなければ正確なところはわからない。今開けているのは蓋じゃなくて封筒だけども。

 

「んー……んん?」

 

 封筒を開けて中身を確認した俺は、思わずそんな声を漏らしていた。

 

 宝塚記念はフルゲートなら18人が出走するGⅠレースである。年末……というか一年の後半に行われる有記念と並んで、一年の前半に行われるウマ娘レースの祭典だ。

 

 1着賞金が1億5000万円と有記念の3億円と比べれば半分だけど、その人気も半分になる、なんてことはない。

 

 去年はライスが出たけど、阪神レース場で行われる宝塚記念は大盛り上がりだった。GⅠレースでは毎度のことだけど、テレビで生中継されるしインターネット上でも動画が配信される。

 

 街頭の巨大スクリーンで流せば道行く人々がその場で足を止め、全く動かなくなるぐらいには大人気のレースだ。下手したら道路を走っていた車さえ止まる。それを取り締まるべきパトカーさえ止まる。

 

 しかし、今年の宝塚記念は出走メンバーが12人と去年よりも更に減っている。去年ライスが出た時は14人だったし、必ずしも毎回フルメンバーで出走するってわけじゃないから気にしなくても良いんだろうけど……。

 

(キングは……7枠10番か……)

 

 比べることに意味はないけど、去年のライスの14人出走で8枠14番の大外枠よりはマシ……だろうか。それでも外枠に変わりはないけど。

 

 あとはキングの枠番以外にも気になる点として、出走メンバーに関して予想が外れた部分が色々とあったことか。

 

(ミークが出てきたか……グラスワンダーはやっぱり出てきたな。でもセイウンスカイがいないし、ウイニングチケットも……まだ治ってなかったのか? もしかしたらナリタブライアンが出てくるかもって思ってたけど、見送ったか……)

 

 ミークが出てくるかは半々と見ていたけど、どうやら出てくるようだ。そして復調したと聞いていたグラスワンダーも出てくる。

 

 その反面、ウイニングチケットは調子が上がらないと聞いていたからまだわかるけど、セイウンスカイも出走を回避している。故障したとは聞かないから、ウイニングチケットと同様に調子が上がらないんだろうか?

 

 そして出てくるかもしれない、なんて思っていたナリタブライアンは出てこなかった。同じチームのグラスワンダーが出てくるから見送ったのか、それともさすがに厳しいと判断してクラシック三冠の最後、菊花賞の獲得に向けて舵を切ったのか。

 

(宝塚記念は見送っても、有記念には出てきそうだなぁ……)

 

 有記念の時期になれば、クラシック級のウマ娘もほとんどシニア級と変わらない。現状でさえ並のシニア級を蹴散らしそうなナリタブライアンがその時期になれば、どれほど強くなっているのやら。

 

 まあ、今は年末の有記念より目先の宝塚記念である。俺は部室に来たキング達に宝塚記念の出走表に関して伝えると、残り僅かなトレーニング期間を活用するためにも早速トレーニングに取りかかるのだった。

 

 

 

 

 

 そして、宝塚記念当日。

 

 兵庫県の阪神レース場で行われるということもあり、土曜日から前泊した俺達は午前中はキングの調子を確認し、早めに昼食を取ってから阪神レース場へと向かう。

 

 今日の天候は正直微妙なところだ。雨は降っていないものの空には分厚い雲が浮かんでおり、ふとした拍子に雨が降り出しそうである。今のところはギリギリ降り出していないから、このままもってくれればいいんだけど。

 

 最近は雨が降ったり止んだりを繰り返しているため、バ場状態は良ではないだろう。しかしこの分なら不良ってこともないだろうし、多分、稍重ぐらいで済んでいる……と、いいなぁって思う。

 

 キングの調子は絶好調だ。ここ数日のトレーニングは疲労を取るためにも徐々に軽いものへ変えていたし、昨日は午前中だけのトレーニングで現地入りしてからはゆっくりと休ませた。

 

 今日の午前中に行った調子の確認も体をほぐす程度の軽いものだ。柔軟をウララやライスが手伝い、3人で一緒に宝塚市を走って回るぐらいのものである。

 

 そんなこんなで準備を整えて、タクシーを手配して阪神レース場に向かったんだが……。

 

「おおう……今日もまた、ずいぶんと人が多いな……」

 

 10万人弱収容できる阪神レース場だったが、周辺に溢れかえった人々を見ると明らかにキャパシティをオーバーしている。

 

 これ多分、上限10万人ぐらいなのに5~6倍近い人が集まっちゃったな。今も続々と近くの駅で人が下りてきてる感じがするけど、全然人が動いてない……そういえば前泊するのにトレセン学園が提携しているホテルはあっさりと予約が取れたけど、他のところは全滅だって話だったか。

 

 というか、トレセン学園と提携しているホテルもトレーナーとウマ娘用に必要最小限の部屋だけ確保しといて、あとは一般向けの予約を取っていたっぽい。下手すると手違いで部屋が足りなくて、ウララ達と一緒の部屋に寝泊りするなんてことが起こり得るかもしれん……うん、その場合俺はホテルのロビーで寝るか、テキトーに外をぶらついて一晩過ごすけど。

 

 そういうわけで阪神レース場に到着した俺達は、人波を掻き分けるようにして入場する。はいごめんなさいよー、ちょっと通してねー、チームキタルファ通りますよー、なんて言いながら進んだら快く道を譲ってくれた。

 

 中にはバッと音が立ちそうな勢いで進路上から飛び退いた人もいたけど……あれはなんだったんだろう? そのあと右手を伸ばしてきたからハンドシェイクして笑顔で別れたけど。

 

「よし……なんとか入場できたな……」

 

 毎回余裕をもってレース場に到着するようにしているけど、今日はまた一段と大変だった。そのため時間は割とギリギリ……ってほどでもないけど、極端に余裕があるってわけでもない。

 

 そのため俺はキングを控室に送り、その足をパドックへと向けた。通路も人が多いため、ウララとライスははぐれないようお互いに手をつないでいる。

 

 そして俺が前に立って通りやすい道を進むんだけど、わざわざレース場にくるような筋金入りのウマ娘ファンからすればウララとライスは有名過ぎたのだろう。二人が手をつないで歩いてくるのを見るとなんとも形容し難い笑顔になり、すっ、と道を空けてくれた。

 

 中には写真を撮らせてください、なんて声をかけてくる人もいるけど、今日は時間がないため断って進む。そうやってなんとかパドックに辿り着いた俺達だったけど、そこから最前列に進もうとすると更に時間がかかってしまう。

 

 はいごめんよー通してねーキングヘイローのトレーナーだよーなんて言いながらなんとか進み、最前列に辿り着く頃には丁度パドックにウマ娘が姿を見せるところだった。 

 

『1枠1番、ツインターボ』

 

 ギリギリ間に合ったな、なんて安堵の息を吐く暇もなく、ツインターボが姿を見せる。ツインターボは腰に両手を当て、胸を張って大口を開けて笑っていた。

 

「今日こそターボがテイオーとライスに勝つもんね! ……違った。えっと……キングヘイローとスペシャルウィークに勝つ!」

 

 なんでそこでキングとスペシャルウィーク? と思ったけど、キングはライスの一番弟子って言えるし、スペシャルウィークはトウカイテイオーだけでなくメジロマックイーンも所属するチームスピカのウマ娘だ。

 ライスとトウカイテイオーの後に倒そうと思うのなら、間違ってはいない……いや、そもそも本人達を倒すべきでは? ツインターボなら高い人気があるし、ドリームシリーズへの出走を希望すればいけそうな気もするんだが。

 

 なお、ツインターボの調子は普段通りに見えた。つまり、エンジンがもつかもたないかで全てが決まる。それは何度も生でツインターボのレースを見ている俺も、まったくわからない。

 

『2枠2番、ナイスネイチャ』

 

 ツインターボに続き、苦笑を浮かべたナイスネイチャが出てくる。苦笑を浮かべているのは調子が悪いから……ではない。ツインターボの声が聞こえていたのだろう。

 

 今年の大阪杯、春の天皇賞は両方3着だったし、今回もしっかりと仕上げてきたように見える。ツインターボのエンジンは丁半博打みたいなもんだけど、ナイスネイチャは安定して高い実力を発揮するからこちらの方が脅威だろう。

 

『3枠3番、オイシイパルフェ』

 

 そしてこの子も大阪杯、春の天皇賞から続いて出てきた。過去2レースの走りが観客の心を掴んだのか、ファン投票でも割と上位だった。

 

 調子は……どうだろう? 最近、この子は追い込み版のツインターボみたいに思えてきたから、調子の良し悪しはアテにならない気もする。

 

 見た感じで言えば、調子は良さそうなんだが……。

 

『4枠4番、ハッピーミーク』

 

 次に出てきたのはミークだ。調子は……ぼちぼちって感じか。体の仕上がりは良さそうだ。

 

 ミークは短距離、マイルのGⅠを獲っているし、今回のレースで勝てばGⅠ3勝にして全距離GⅠ制覇に王手がかかる。

 

 ……あれ? そう考えると桐生院さん、もしかしてキングと同じ目標を掲げてる? それとも偶然かな?

 

『5枠5番、グラスワンダー』

 

 次に出てきたのは復帰したグラスワンダーだ。久しぶりに見た勝負服姿だけど……。

 

(おっと……こいつはまた……)

 

 本当に長期療養を挟んだのか? なんて疑問を浮かべるほどに、体の仕上がりが良さそうだ。あと、非常に研ぎ澄まされた雰囲気を感じる。抜き身の刃みたいな、寄らば斬る、とでも言わんばかりの気配があった。

 

 それでいて表面上はおっとりと笑顔を浮かべており、久しぶりのレースへの期待と興奮も垣間見える。

 

『6枠8番、ビワハヤヒデ』

 

 今回のレースで……いや、春のシニア三冠のレースで最も警戒するべきはこの子だろう。大阪杯、春の天皇賞でも調子が良さそうだったけど、今日のビワハヤヒデは格別だ。

 

 足の筋肉を見てみると、非常に良い仕上がりなのが見て取れる。表情も溌溂としており、調子は絶好調と見るべきだろう。

 

(今日は……いや、今日も難敵だな)

 

 ビワハヤヒデの様子を確認した俺は、思わずそう思った。

 

『7枠9番、スペシャルウィーク』

 

 続いて出てきたのはスペシャルウィークである。去年の日本ダービー以降GⅠの冠を獲得できていないものの、この子の末脚は非常に強力だ。微塵も油断できる相手じゃない……んだけど……。

 

(うーん……なんか覇気がないというか、他のことに気を取られているような……)

 

 体の仕上がり自体は良い。だが、気もそぞろというか、集中できていないというか。

 

『7枠10番、キングヘイロー』

 

 スペシャルウィークの次に出てきたのはキングだ。普段通りきっちりと勝負服を身に纏い、凛とした立ち姿を観客に披露する。

 

「なんか最近のキングヘイロー、風格が出てきたよな……」

「わかる。戦績とか知らない状態で見ても、この子強いんだろうなってわかる……みたいな?」

 

 観客のそんな会話が聞こえて、俺は腕組みをしながら何度も頷いた。そうだよ、キングだからね、強いんだよ。キングだもんよ。

 

『8枠11番、マチカネタンホイザ』

 

 俺がうんうん、と頷いていると、次にマチカネタンホイザが姿を見せる。

 

 この子もなんだかんだでGⅠに出走し続ける実力があり、油断できる相手じゃない。というかGⅠのレースだと全員油断できる相手じゃないんだよな。

 

 調子は……悪くはなさそうだ。体の仕上がり自体は良いんだけどな……というかチームカノープスはGⅠにまた3人出走させてきたのか。

 

 カノープスの先輩、今年も新入生をスカウトしてないんだよな。御眼鏡に適う子がいなかったのか、あるいは……。

 

「トレーナー」

 

 そうやって俺が考え事をしていると、パドックの柵越しにキングが歩み寄ってくる。それを見た俺はキングを真っすぐ見つめた。

 

「キング……今日はビワハヤヒデとグラスワンダーが怖いぞ」

「わかっているわ。私だって感じているもの」

 

 そう言ってビワハヤヒデやグラスワンダーに視線を向けるキング。

 

 ビワハヤヒデは何やらパドックの柵越しに他のウマ娘と話をしている……って、あれはナリタブライアンじゃないか。ナリタブライアンはビワハヤヒデの背中を軽く叩いており、ビワハヤヒデは苦笑するように口の端を吊り上げている。

 

 グラスワンダーは……あ、やばい。目が合った。いやうん、思わずやばいって思ったけど、別にまずいことは何もない……すっごく()()()()を浮かべてるけどな。

 

「ふふっ、グラスさんったら……ええ。私だって楽しみにしていたんだから」

 

 そんなグラスワンダーの笑顔を見て、キングは不敵に笑って返す。

 

 キングにとって初めての宝塚記念。

 

 ――そして俺にとって2度目の宝塚記念の幕が今、上がる。

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