リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐ 作:烏賊メンコ
『小雨がぱらつく大井レース場。これより第11レース、ダート2000メートルGⅠ、帝王賞が始まります。バ場状態は重の発表となっております』
『時刻が20時を過ぎましたが、今日はレース場の外にも多くのウマ娘ファンが駆け付けています。URAの発表によると平日にもかかわらず30万近い人々が集まっているとのことです』
ファンファーレが鳴り響き、実況と解説の男性がそれぞれ声を発する。そして解説の男性の30万人という人数にざわめく声が広がった。
大井レース場に入場できた人々を除いても20万を超える人々が集まっているらしい。先日の宝塚記念には到底及ばないものの、例年なら芝のGⅠレース並の人が集まっていると言える。
大井レース場は起伏のないダートコースで、今回の帝王賞2000メートルの場合右回りでスタート位置が第4コーナーの出口付近になる。そこから1周外回りで走り、ホームストレッチのゴールを目指す形だ。
観客席の中央から見れば右手のコースからスタートし、左手のゴールへ駆け抜けていくことになる。起伏はないが先日の宝塚記念と似たようなコースといえるだろう。
(バ場状態は重か……)
朝からぱらついていた雨はなんとか小雨といえる程度に落ち着いている。ナイター設備から放たれる光を見ればその雨脚も確認できるが、少なくとも視界を塞いだり雨が目に入ったりする危険性は低いだろう。
ただし、スタートのゲート周辺に待機しているウララ達は既に勝負服がしっとりと濡れるぐらい雨に打たれている。体が冷えないよう屈伸したり、その場で軽く足踏みをしたりと準備を整えているのが観客席からも見えた。
気温自体はそれなりに高く、蒸し蒸しとしている。それでも雨に直接打たれていると体温が奪われるため、気を付ける必要があるのだ。
パドックでも、ゲート前で待機している今も、ウララとスマートファルコンは言葉を交わしていない。最早言葉は不要ってことか……。
(……ん?)
遠目に見ていると、ウララが深呼吸をしたり、体に力を入れては脱力したりといった動作を繰り返しているのが見えた。あれは……ああ、そうか……。
(昔、俺が教えたことか……)
未勝利戦で勝ったレースで、朝から武者震いが止まらないウララに俺が教えたことだ。それを今でも覚えていてくれたのか……いや、これまでもたまにやってたっけ。
メイクデビューでアクシデントがあって、未勝利戦でも勝てなくて、それでも前に進んで初めて勝利して。今では勝負服を身に纏い、こうして数えきれないほど多くの観客の前でレースを走ろうとしている。
『3枠5番、スレーイン。3番人気です』
『未だGⅠの戴冠はありません。ですが、ダートを主戦場とするウマ娘の中ではトップクラスの実力の持ち主です。調子も良さそうですし、今日のレースには期待したいですね』
奇数番号からゲートインしていき、スレーインがゲートインする。その紹介を聞きながら、俺はじっとウララを見詰めた。
『5枠9番、スマートファルコン。2番人気です』
『ダートGⅠ3勝、サウジカップで2着。『砂の隼』スマートファルコン。今回は2番人気となりました。しかし1番人気とほぼ変わらず、3番人気以下には非常に大きな差をつけての2番人気となっています。今回のレースで勝利して『砂の帝王』へと至るのか、注目したいですね』
ちら、と視線を向けてみれば、スマートファルコンがぎこちなく観客席に向かって手を振っているのが見えた。
「がんばれー! スマートファルコンー!」
「今日も1着だぞー!」
「スマートファルコン、なんか様子がおかしくない?」
「いつもと違うよな……」
「ファル子おおおおおおおおお! 頑張れファル子おおおおおおおおお!」
そんなスマートファルコンの反応に、観客席からは応援と戸惑いの声が飛んでいる。
『2枠4番、ハルウララ。1番人気です』
『2月のフェブラリーステークスで勝利したのが影響したのか、スマートファルコンを抑えて1番人気となりました! GⅠ2勝! レコードブレイカーのハルウララ! 今回のレースに勝利してスマートファルコンに並ぶGⅠ3勝を達成するのか注目です!』
そんな紹介と共に、それまで緊張をほぐすために深呼吸を繰り返していたウララがにぱっと笑った。そして気合いを入れるように右拳を握り、上空に向かって突き上げるようにしてその場でジャンプする。
「パドックで見た時は大人びた感じがしたけど、やっぱりあの子はハルウララなんだよなぁ……」
「がんばってー! ウララちゃーん!」
「いつも元気を分けてくれてありがとおおおおおおおおぉぉっ!」
なんとなく『ウララゴー!』みたいな幻聴が聞こえた気がするけど、観客はそんなウララの様子に笑ったり喜んだり歓声を送ったりと、様々な反応をしていた。
そして、ゲートインが順調に進んで行く。最後の一人がゲートインすると徐々に観客席から音が消え、僅かな雨音と海風の音だけが大井レース場に響き始めた。
『各ウマ娘、ゲートイン完了……スタートしました』
バタン、というゲートが開く音と共にウマ娘達が一斉に飛び出していく。
『綺麗に揃ったスタートを切りました。最初にハナを切ったのは……やはりこのウマ娘、9番スマートファルコン。2番ハートシーザー、12番ソードラマティック、16番ドラグーンスピアが続きます』
『各ウマ娘が綺麗なスタートでしたが、やはりスマートファルコンのスタートが一番綺麗でしたね』
『逃げウマ娘に続いて3番プリスティンソング、7番ミッシングナイツ、8番ユニゾンフラッグ、13番ミニデイジー、11番インサイトキャッチ、14番ショーティショット、4番ハルウララはこの位置。続いて1番ミニロータス、6番マリンシーガル。シンガリ付近に5番スレーイン、10番ムシャムシャ、15番ルミナスエスクード』
スタート直後ということもあって、大きな差はない。それでもそれぞれの脚質に合わせて徐々に差が広がっていく。
『先頭のスマートファルコン、どんどん加速していきます。他の逃げウマ娘すら引き離して2バ身から3バ身』
綺麗なスタートを切ったスマートファルコンは、そのまま逃げウマ娘らしい速度でどんどん先へと駆けていく。
スタートからホームストレッチの直線を駆け、第1コーナーまで約500メートル。綺麗なフォームで、降り注ぐ雨を弾き飛ばすような速度で駆けていく。
雨によって砂地が
『9番スマートファルコン、後続のウマ娘達を引っ張るように先頭で第1コーナーへと突入していきます。ハナからシンガリまでは既に10バ身近い差が開いています』
『逃げるスマートファルコンをどのタイミングで、どうやって捉えるか……言葉にすれば簡単ですが、それができれば苦労はしないほどに良い逃げ足ですねぇ』
『後続は2番ハートシーザー、12番ソードラマティック、16番ドラグーンスピアが4バ身ほど離れた位置で2番手争い。先行組は3番プリスティンソング、7番ミッシングナイツ、8番ユニゾンフラッグ、13番ミニデイジー……差しが得意な4番ハルウララ、早くも先行集団に食い込んでいます。続いて11番インサイトキャッチ、14番ショーティショット』
加速して逃げ続けるスマートファルコンほどではないものの、ウララも序盤から速度を上げている。それでも逃げや先行を得意とするウマ娘が多いため、まだ9番手の位置だ。
最後まで垂れることがないスマートファルコンが相手だと、どうしても前の方へ上がっておく必要がある。ウララは自分の前を走るウマ娘達の位置を見定め、隙間ができると加速して器用に潜り込んでいく。
(……昔はあんなことはできなかったのになぁ)
そんなウララの走りを見て、俺はそんなことを思った。
誰かをマークしたり、自分にとって都合が良いポジションについたりする走り方はライスから学んだのだろう。俺が一人で育てていたのなら不器用なままだったかもしれないが、ライスといううってつけのお手本が傍にいることがウララの更なる成長を促していた。
当然ではあるが、他のウマ娘もウララに抜かされないようそれとなくブロックしたり、進路を限定したりする。それでもウララはフェイントにも引っかからず、フェイントを見抜いて逆に前へと上がっていく……いや、あれはフェイントを見抜いているというより、ウララ独特の勘かもしれんな。いけると思ったからいき、いけないと思えばいかないのだ。
『先頭の9番スマートファルコン、第2コーナーを抜けて向こう正面へと差し掛かります。そこから5バ身ほど離れて後続がコーナーを抜けていきます』
『先頭のスマートファルコンも良い逃げ足をしていますけど、後続のウマ娘達も全体的に加速していますね……序盤はどんどん開いていたバ身差が広がりにくくなっていますよ』
このままスマートファルコンに逃げ切られると判断したのだろう。解説の男性の言う通り、ウララ含めて後続のウマ娘達がペースを上げている。
『向こう正面を駆けるスマートファルコン、1000メートルを通過しました。通過タイムは……57秒9?』
『それはまた……いくら良バ場と比べてタイムが出やすいと言っても、芝のレースと比べても早いタイムですね……』
実況がどこか不思議そうに1000メートルの通過タイムを読み上げる。重バ場の方が速度が出やすいといっても、とんでもないハイペースだ。
以前、ジャパンダートダービーで良バ場にもかかわらずスマートファルコンが出したタイムが58秒8。
(そうだよな……
距離があるため怪しいが、ウララの表情に焦りはないように見える。去年のジャパンダートダービーの時と比べると今のウララは更にスタミナが増しているし、スマートファルコンの逃げ足の凄まじさは痛感しているからだ。
『レース中盤が過ぎて上がってきているのは……4番ハルウララが先行集団の先頭を走っていますね。すぐ目の前には逃げウマ娘、16番ドラグーンスピアの背中が迫っていますね』
『あれは……ハルウララ、狙っていますね。それとシンガリ付近にいたスレーインも1000メートルを過ぎてから徐々に加速しているように見えます』
スマートファルコンが相手となると、最終直線で加速して一気にかわす……なんてことは不可能に近い。最後まで垂れず、むしろ加速するようにして逃げるスマートファルコンに勝とうと思っても、普通の差し方では到底届かない。
(動いたか……)
シンガリ付近に控えていたスレーインが加速し始めているのを見て、俺は思わず前のめりになる。
スレーインはウララと同様に、いや、ウララ以上に遅咲きの選手だ。ウララが未勝利戦で勝利した後も挑み続け、ようやく未勝利戦に勝ち、次にぶつかったのがGⅢのユニコーンステークスである。
レースにかける熱意や思いは、並のウマ娘を軽く上回ることだろう。
だから、今回のレースが
『さあ、先頭のスマートファルコンが第3コーナーへ突入していきます。そして上がってきたぞハルウララ! 残り600の標識までまだ距離があるが上がってきた! 更に後方からロングスパートでスレーインが上がってきている!』
ウララもスレーインも、最終直線どころか向こう正面から第3コーナーへ突入する段階で勝負を仕掛けていた。
最終直線までスマートファルコンの好きに走らせていては届かない。だからこそロングスパートをかける――そんな単純な、しかしいざ実行するとなるとスタミナ配分と仕掛けるタイミングが難しいことをやりきらなければ、スマートファルコンには届かない。
ロングスパートと一口に言っても、自身のスタミナとゴールまでの距離がどれだけ残っているか、自身の前に誰が何人走っていてどういうコースで走るか、先頭とのバ身差はどの程度あるか。
それらを計算し、自身のスタミナがもって、なおかつ可能な限り最高速度を維持できて、理想はゴールを駆け抜けた直後にスタミナが全て尽きる塩梅でペースを調節する。
自分の足で時速60~70キロもの速度を叩き出しつつ、目まぐるしく変化するレース展開を見極めつつ、冷静かつ的確に勝負を仕掛けることができるか。あるいはライスのように並外れたスタミナである程度仕掛けどころを間違えても押し切るか。
ただ単純に長い距離がある状態でスパートをかけたらロングスパートとして成立するわけではない。ゴールする前にスタミナが尽きて逆噴射するということも当然のようにあり得るのだ。
おそらく、スレーインは緻密に計算してロングスパートを仕掛けた。自身のスタミナがギリギリまで尽きず、なおかつ最もスピードを出せるタイミングを狙って仕掛けた。
そしてウララはきっと、計算ではなく勘で仕掛けた。自身のスタミナやスピードから仕掛けるべきタイミングを計算したのではなく、
勘と言っても当てずっぽうではない。ライスと一年半、キングと一年もの間、トレーニングで併走してきて磨いた勘だ。芝とダートで違いがあるが、実力的には格上のライスとキングが相手だろうとウララは時折トレーニングでの範疇だが勝つことがある。
そしてこれは推測でしかないが、ウララは俺にはない物差しを持っている。それこそ今年の大阪杯で警戒するべきウマ娘を尋ねた際に、オイシイパルフェの名前を挙げたように。
『第3コーナーを回って第4コーナーへ! スマートファルコンはまだまだ元気に逃げている! しかしきた! 上がってきたぞハルウララ! 逃げる隼を捉えようとじわじわと距離を詰めてきている! その差は残り3バ身!』
少しずつ、ウマ娘達がダートを蹴りつけて走る音が近付いてくる。まるで地鳴りのような、数万人もの観客の声援にも負けない走る音が波のように押し寄せてくる。
『第4コーナーを抜けてとうとう最終直線に差し掛かった! 先頭は変わらずスマートファルコン! 残り400メートルをこのまま逃げ切るのか!? それとも後続が差し切るのか!? ハルウララがその背中に迫ってきている! そして更に! 上がってきたのはスレーイン! 追い込みウマ娘が早くもエンジン全開で上がってきている!』
最終直線400メートル弱で、差しウマ娘が逃げウマ娘の2バ身後方に迫っている。それは普通なら勝利を強く予感する状況だ。だが、先頭に立っているのはスマートファルコンである。
普通のウマ娘なら、GⅠ3勝など到底成し得ない。
『上がってきたハルウララがスマートファルコンをかわし……かわし、か、かわせないっ!? スマートファルコン、ここに来て更に伸びる!? 脅威の逃げ足でほんの僅かに、少しずつハルウララを引き離していく!?』
『ここまで逃げ続けてスタミナを消耗しているはずなんですけどね……いや、スタミナがすごいというより、スマートファルコンというウマ娘がすごいんでしょう。スタミナ、スピード、パワー、根性……まさか日本のダートレースでこんなウマ娘が出てくるとは……』
実況が興奮したように叫び、解説が感嘆したように呟く。
ウララとの競り合いになるかと思った瞬間、スマートファルコンが更に伸びてみせる。その姿は驚きと絶望をもたらすだろう。逃げウマ娘に追いついたと思えば、そこから更に再加速して逃げ出すのだ。
『スマートファルコンとハルウララの間にあった差が再び縮まっていく! しかしこれはどうだ!? 届くのか!? 残り200メートルの標識を今過ぎた! 後方から飛んできているスレーインはどうだ!? 苦しいか!?』
スレーインは……差しウマ娘と追い込みウマ娘。そして中盤までにスマートファルコンとの距離を詰めていたウララと、シンガリ付近に控えていたスレーインではロングスパートを仕掛けるにしても
追い込みで後方から一気にまくるのはスレーインの方がウララよりも上手いだろうけど、今日のレースはフルゲート16人。加速しながらかわしていく分、スレーインの疲労は大きかったようだ。
『スマートファルコンとハルウララが並んだ! 残り100もない! ここにきて横並びだ! どちらが勝つか!?』
ウララもスマートファルコンも、必死に駆けていく。その表情には笑顔もなければ余裕もない。隣を走るライバルに勝つことだけを考えて、一歩でも先にゴールへ到達しようと一生懸命だ。
「ウララアアアアアアアアアァッ! そのままいけええええええええええええぇぇっ!」
俺は柵から身を乗り出すようにして叫ぶ。ウララもスマートファルコンも必死で、全力で、観客の声援が聞こえているかも怪しい。
そう思えるほど一生懸命に走るその姿を見た俺は、再度叫ぼうとして息を呑む。後方に砂地を吹き飛ばすようにして駆けるウララの体が、ほんの僅か、スマートファルコンよりも前に出たからだ。
歯を食いしばって、汗を流して、両腕を振って、両足が地面を蹴りつけて。前へ、前へと進んで行く。
ライバルに、君に勝ちたいと言わんばかりにウララが駆けていく。走って、競って、見えてきたゴールを目指して。
スマートファルコンも伸びる――が、ウララは更に伸びる。
『ゴールまであと僅かでハルウララがかわした!? かわしたか!? 僅かにかわしているか!? ハルウララとスマートファルコンが並ぶようにしてそのままゴール!』
ゴールを通過する瞬間、大井レース場から音が消えた。そしてほんの一瞬だけ間を置いて歓声が爆発する。
ウララとスマートファルコンのどちらが勝ったのか、確信をもって判断できるほどの差はなかったが……。
ゴールを通過したウララは両手を膝に突き、むせるようにして必死に呼吸を整えている。スマートファルコンはウララほど必死に呼吸を整えている様子はない……というか、あれは何を……?
『3着は僅かに遅れてスレーイン! 続いて3バ身ほど離れてハートシーザー。それに続いてシンガリ付近から突っ込んできたムシャムシャが5着に滑り込む』
実況の声を聞きながらも、俺は困惑しながらスマートファルコンを見る。スマートファルコンは呼吸を整えるようにして胸が大きく上下しているが、何やら空を見上げたまま動かないのだ。
そんなスマートファルコンの姿に、歓声を上げていた観客達からもざわめきの声が上がり始める。故障したのか、動けないんじゃないか、どうしたんだ。そんな声が口々に聞こえるけど、あれはもしかすると。
(……泣いている?)
スマートファルコンは暗い空を見上げるようにして、雨では誤魔化せないほどに大粒の涙を零していた。
ぽろぽろ、ぽろぽろと、しゃくりあげるようにして次から次へと溢れる涙が頬を伝い、顎から地面へと落ちていく。それでいて顔は必死に笑顔を作ろうとしていて。
『着順が確定いたしました。1着4番、ハルウララ。勝ち時計は2分0秒8……れ、レコードです! レコードブレイカーハルウララ! ここにきて5度目のレースレコードを達成! GⅠ初レコード!』
そんな実況の言葉に、スマートファルコンの目から溢れる涙の量が増す。
最早隠す気はないのか、そんなつもりもなくなったのか、俯くようにして大粒の涙が雨と一緒に地面へと落ちていく。
そんなスマートファルコンの姿は初めてで。観客達からは戸惑いの声や
「スマートファルコン……そんなに悔しかったんだな……」
「でも、レースの3日前にも路上ライブをしていたって……」
「それで勝てると思ったのかね」
多くは今のレースを称賛し、応援する声だ。しかし耳を澄ませばそんな声も聞こえてきてしまう。
そして、俺が聞き取れるということは、ウマ娘なら聞き取れるということだ。
だが、スマートファルコンが何か反応をするよりも早く、ウララが動いていた。
ウララはスマートファルコンをぎゅっと、正面から抱き締めた。そして背中に回した両腕で優しく背中を叩き始める。
そんなウララの姿を見てどう思ったのか、スマートファルコンに2バ身差で3着になったスレーインが呼吸を整えながらも大きくため息を吐いたのが見えた。そしてスマートファルコンに手を伸ばし、その頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
ウララとスレーインがスマートファルコンに向かって何かを言っている。さすがに歓声が大きすぎて何も聞こえないけど、雰囲気と口の動き的に……ウララは『がんばったね』と言った……んだろうか?
少し口の動きと文字数が合ってない気もするけど、おそらくは似たような何かを言ったのだろう。スマートファルコンの動きが一瞬止まり、そのまま体を震わせてウララを抱き返す。
ウララに抱き締められたスマートファルコンの目からは、相変わらず大粒の涙が零れ落ちていた。それを見ながら、俺はふと首を傾げる。
(表情が変わった……か?)
気のせいか、スマートファルコンの表情が年齢相応の少女のものに変わった気がした。涙を流して泣いているからそう見えるだけか、あるいは張り詰めていたものが切れたのか。
涙と一緒にぽろぽろと、スマートファルコンがかぶっていた仮面が崩れ落ちていく。
――そんな風に見えたのだった。