リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐   作:烏賊メンコ

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第118話:新人トレーナー、キングと秋の天皇賞に挑む その1

 秋はたくさんの芝のレースが行われるシーズンである。

 

 キングもスプリンターズステークスに出走して1着を獲り、同期や後輩も担当ウマ娘が続々と重賞で1着を獲ったり、悪くても入着したりと好成績を残している。今年入った新人達も担当ウマ娘がそれぞれオープン戦やGⅢで勝ったりと、良い流れができていると言えるだろう。

 

 ただまあ、良い流れと言えるのは勝っているからこそだ。最近はどうにも俺だけでなく同期や後輩、新人達も俺より上の年代の先輩からの風当たりが強い。一部の人を除いて先輩方の当たりがきついというか、雰囲気が悪いというか。

 

 一部の先輩……東条さんやチームスピカの先輩、ミホノブルボンのトレーナーにスマートファルコンのトレーナーは普通に接してくれる。あとはチームカノープスの先輩も人当たりが良くて後輩や新人が懐いている。

 

(うーん……そりゃまあ、新人が育成しているウマ娘にオープン戦で負けたら荒れるか……)

 

 それがレースの結果だから、というのは勝った側だからこそ言えるのかもしれない。必死に、一生懸命頑張って育てて鍛えたウマ娘が負ければ誰でも悔しいのだ。

 

 俺もトレーナー生活3年目の今でさえ、ウララ達が負ければ一晩どころか下手すると数日眠れないぐらい悔しくて悔しくて仕方がない。

 

 だからまあ、先輩方も当たるなとは言わんけど、せめて俺とか同期までにしておいてほしいものである。今年入った新人にきつい当たり方をするのはどうかと思う。

 

 既に10月も半ばとなり、少々肌寒くなってきた部室でスポーツ新聞のレース結果欄を見ながら俺はそんなことを考えた。

 

 いくら勝負は水物といっても、トレーナー歴5年以上、下手すると10年以上のトレーナーが今年トレセン学園に配属されたばかりの新人が育てるウマ娘に敗れる。

 

 育成ノウハウやこれまでの経験から圧倒的に有利で、担当しているウマ娘の才能に大きな差がなければ()()()()()()()()()()()()で新人達が不利なはずだ。

 

 もちろん新人達が全てのレースで勝っているってわけじゃない。それでも今年の新人達は中々に勝率が高いらしい。

 

 しかし、今年度は20人近く新人が入ったため、それだけの数の新人の勝率が高いってことは他のトレーナーの勝率が下がってるってことで……。

 

(スピカの先輩はダイワスカーレットとウオッカを大事に育ててるっぽいな……メイクデビューで勝ってから他のレースに出してないけど、次は何を狙うんだろ?)

 

 勝率を考えたら頭が痛くなりそうだったため、俺は思考を逸らす。

 

 夏の合宿でも見かけたダイワスカーレットとウオッカだが、メイクデビューは見事に勝利。しかしそこからレースには出ておらず、スピカの先輩がしっかり育てているんだろうなって思う。

 

 まだジュニア級だし、あの2人は焦らず本格化を待ってからでも巻き返しが利くだろう。というか、来年のクラシック級では大暴れしてそうだ。

 

 あとは気になることと言えば、チームリギルのテイエムオペラオーなんだが……。

 

(骨折とはな……合宿の時は元気そうだったんだが……)

 

 合宿終了後、トレーニング中に足を傷めて骨にヒビが入ったらしい。幸い既に治りつつあるようだが、疲労が溜まっていたんだろうか?

 

 前世ではハルウララの名前ぐらいしか知らなかった俺としては、今世にはいない馬もここまで怪我をしやすい生き物だったのかな、なんて思う。ここまで怪我をしやすいのなら戦国時代の馬とかどうだったんだろう? もしくはサラブレッドだから怪我をしやすいのかな?

 

 まあ、今世に馬はいないし、いるのはウマ娘だ。そしてウマ娘はとんでもない身体能力を持つけど、人間大の生き物が時速60キロ以上で走るんだから怪我をしやすいのも仕方ない面がある。

 

 ただ、馬と違ってウマ娘は意思疎通ができるし、異常があれば自分で理解して言葉で伝えてくれる。我慢強くて何も言わなかったり、気が付かない内に骨折していたりと油断はできないけども。

 

 とにかく酷い故障も手術をしたり湯治をしたり、安静にした後リハビリしたりするだけでレースに復帰してくる子も多い。

 というか、だ……。

 

(おかしいなぁ……オグリキャップ、繫靭帯炎って聞いてたんだけどな……)

 

 つい先日、オグリキャップが復帰してGⅡの毎日王冠に出走していた。ただしオグリキャップは繫靭帯炎というウマ娘にとって即引退を検討されるような症状だったはずなんだが、復帰して元気に走っていた。

 

 グラスワンダーとバチバチにやり合って2着だったけど、明らかに長期療養明けの動きじゃなかった。噂によると毎日食堂でたくさんご飯を食べて近所の温泉に浸かっていたら治った、なんて話を聞いたが噂に過ぎないだろう。

 

 それで治るのならとんでもない情報である。繫靭帯炎を発症して泣く泣く引退するウマ娘は毎年それなりにいるし、引退せずとも年単位の長期療養を余儀なくされる子が多いのだ。そして長期療養して症状が落ち着いたかと思いきや、走り出したら再発して引退する、なんてウマ娘がどれだけいるか。

 

 繫靭帯炎を発症して半年と経たない内にまともにレースでGⅠウマ娘とやり合えるレベルまで復帰するなど、ゼロとは言わないが滅多にあることではない。ここは繫靭帯炎ではなく重度の炎症だった、ぐらいに考えておくべきだろう。あるいは繫靭帯炎でも治るぐらいオグリキャップの体が回復力に優れているとか。

 

 春の天皇賞以降、右足を骨折した上に屈腱炎を発症したナリタタイシンは未だに復帰の話が聞こえてこない。屈腱炎と繫靭帯炎はウマ娘にとって本当に厄介な症状のはずなんだが……オグリキャップは本当に繫靭帯炎だったのだろうか、なんて疑うレベルで復帰が早い。

 

(オグリキャップの治療の経緯、資料として回ってこないかな……さすがに無理か)

 

 他のトレーナーにとっては喉から手が出るほどに貴重な情報だ。オグリキャップの担当トレーナーもそんな貴重な情報を拡散はしないだろう。トレーナーにとって繫靭帯炎を治せるっていうのはとんでもないアドバンテージだ。教えてやるから足を舐めろとか言われたらノータイムで舐めに行くレベルでとんでもない情報である。

 

 仮にたくさん食べて温泉に浸かっていたら治ったっていうのが本当だとしても、どんなものをどれほどの期間どれだけ食べさせて、温泉はどんな効能が謳われているものにどれだけの期間、一日あたり何分浸かったか。その辺りの情報があるはずである。

 

 そう考えるといくら俺に借りがあったとはいえ、トウカイテイオーやメジロマックイーンのリハビリメニューを俺にくれたスピカの先輩は本当にすごい。

 

 オグリキャップの繫靭帯炎を治した方法もそのまま他のウマ娘に適用できるとは限らないが、一定の指針にはなる。

 

 繫靭帯炎も屈腱炎も、注意していれば必ず避けられるというわけではない。というかどんなに厳しいトレーナーでも必ず避けようと注意しているはずだ。それでも避けられないため、もしもに備えて情報を得られるなら得ておきたいところだった。

 

 しかしオグリキャップの担当トレーナーは誰が話を聞きに行ってもはぐらかすばかりで、教えるつもりはないらしい。そのため現状では諦めるしかない。

 

(秋のシニア三冠はオグリキャップも狙ってくるかな?)

 

 復帰した以上、オグリキャップも出てくるだろう。ただ、毎日王冠から1ヶ月も経っていない状態で出てくるのならどこまで仕上がっているかはわからない。

 

 それでもキングなら勝ってくれると信じ、俺は秋の天皇賞の出走登録を行うのだった。

 

 

 

 

 

 そして10月後半、秋の天皇賞当日。

 

 秋の天皇賞は東京レース場で第11レース、出走時刻は15時40分だが、俺は普段よりも早めに現地へと到着していた。

 

 その理由は単純だ。きっと今回のレースも人が多くて大変だろうと思ったからである。そしてその考えを肯定するように、東京レース場周辺には人が溢れていた。

 

 公共交通機関も人が多くて止まる可能性があるかもしれん、と思ってトレセン学園の車を借りて来たけど、これは正解だったかな。人が多すぎて最寄りの駅から東京レース場まで歩くのにどれだけ時間がかかったかわからんぞ。

 

「ふわぁ……今日もすっごくたくさんの人がいるねー」

 

 車から降り、大きく伸びをしたウララがウマ耳をピクピクとさせながらそう呟く。目で見てわかるし、ウマ娘の場合周囲からの音でどれだけの人がいるかわかるのだろう。

 

 ガヤガヤ、ザワザワ、とお祭りにも似た喧騒が聞こえるが、ウマ娘のレースはファンにとってお祭りみたいなもんである。夏の合宿での喧騒を思い出せばそれも理解できるだろう。

 

「キングちゃん、大丈夫? 緊張はしてない?」

「ええ、普段通りよライス先輩」

 

 ライスはキングに気遣うような声をかけるが、答えるキングは言葉通り平然としている。このプレッシャーへの耐性も一つの才能だろうか、なんてことを俺は思った。

 

 どんなに優れた才能を持ち、努力を重ねるウマ娘だろうと本番のレースで緊張して力を発揮できずに負けた、なんてのはよく聞く話だ。そしてそれはウマ娘に限らず、人間でもよく聞く話だろう。

 

 キングはプレッシャーへの耐性があるというか、慣れたというか……あるいは緊張する自分自身すら律して平然としているのかもしれない。いずれにせよ頼もしい限りだ。

 

 そうして俺達はいつも通り東京レース場に入場し、まずはキングを控室へと送る。これも慣れたもんだなぁ、なんて思っていると、ライスが不自然なほどにキョロキョロと周囲を見回していた。

 

「どうした? もしかして何か落としたか?」

 

 財布かスマホでも落としたのだろうか、と心配していると、ライスは慌てたように首を横に振った。

 

「う、ううん! なんでもないよお兄さま!」

 

 そうか、と俺は頷く。もしかしてお花を摘みに行きたいのかしら、なんて思ったが、今更遠慮し合う仲でもない。そのため何か気になることがあったんだろうと結論付けて俺はパドックへ足を向けた。

 

 だがまあ、これも当然というべきか、パドックまでの道のりがきつい。パドックでの様子からしっかり見たいというウマ娘ファンが増えたのか、あるいは単純に人が多すぎるだけか。俺は人混みを掻き分けるようにして進んでいく。

 

「すいませーん、これから担当ウマ娘が出走するトレーナーでーす。通してくださーい」

「チームメイトでーす! 通してくださーい!」

「と、通してくださーい」

 

 ウララはニコニコと笑顔で俺の真似をして、ライスは恥ずかしそうに真似をする。いやうん、真似してなんて言ってないけどね? ウララは俺の両肩に手を置き、ライスはウララの両肩に手を置き……これなんだっけ? 電車ごっこ?

 

 ウマ娘のレースファンの人達は何故か俺の顔を見てギョッとしたあと、俺の後ろにウララとライスが続いているのを見てほっこりとした顔で道を譲ってくれる。

 

 中にはずいぶんとごついカメラをこちらに向けて構える人もいる……って、商店街の肉屋の旦那さんじゃん。俺が足を止めるとウララも足を止め、ライスも慌てた様子で足を止める。そして肉屋の旦那さんに向かって笑顔でサムズアップすると、旦那さんも笑顔でシャッターを切った。

 

「わーい! お肉屋のおじちゃんだー!」

「こらっ、ウララ。甘えに行くのは後日にしなさい。今はキングの応援が先だよ」

 

 写真を撮ったらウララがそっちに行きそうになったため、俺は苦笑しながら止める。そして再び歩き出すと、なんとかパドックの最前列へ出ることができた。

 

 以前だったらそこまで苦労せずに辿り着けたというのに、今ではパドックに移動するだけでも一苦労である。それでもなんとか間に合ったため、俺はほっと安堵の息を吐いた。

 

『2枠2番、ビワハヤヒデ』

 

 数分と待たない内にパドックでのお披露目が始まる。そして最初に俺がチェックしたのはビワハヤヒデだ。

 

(うーん……良い仕上がりだなぁ。やっぱり真夏の時期を過ぎるとみんなぐっと成長するな)

 

 キングも成長したが、当然ながら他のウマ娘達も真夏のトレーニングによって以前より大きく成長している。ビワハヤヒデの場合恵まれた体格をしているため、その成長ぶりは余計顕著に思えた。

 

(相変わらず良い体格で……ん? なんだ? 左足を気にしている……か?)

 

 お披露目台で観客に向かって手を振るビワハヤヒデだが、ほんの僅かに姿勢がおかしいような……いや、気のせい……か?

 

『3枠4番、ハッピーミーク』

 

 続いてチェックしたのはミークだ。スプリンターズステークスには出てこなかったため、もしかするとキングと同様に全距離でのGⅠ制覇を狙っているんじゃないか、なんて思っている。

 

 全距離GⅠ制覇といかずとも、重賞で全距離制覇するだけでも偉業だ。そしてミークはそれを成せる実力と距離適性がある。

 

(ミークも……昔と比べたら成長したよなぁ……)

 

 そして俺は、ミークの体付きをチェックしながら思わずそんなことを考えた。俺にとってはウララの次に出会ったウマ娘といっても過言ではない。

 

 桐生院さんの担当ウマ娘のため当初は深いつながりもなかったが、ウララの併走相手を務めてくれたことは嬉しかったし非常に助かった。さすがに練習にならないと思ったのか途中からは断っていたが、ミークとの併走でどれだけ助かったか。

 

(勝負ですね、桐生院さん)

 

 俺と同じようにパドックの最前列でミークを見詰めている桐生院さんを見つけて、俺は心中だけでそんな声をかける。

 

『4枠7番、セイウンスカイ』

 

 パドックに姿を見せたセイウンスカイは相変わらずどこかとぼけた表情をしている。逃げウマ娘かつ表情が読みにくいこともあり、調子の良し悪しもわかりにくい子だ。ただ、体付きはきちんと仕上がって……?

 

(あれ……セイウンスカイも姿勢が少しおかしいような……んん? 左足を庇ってる?)

 

 姿勢が少し不自然な形で右側に寄って、左足を浮かせているような……セイウンスカイだけなら何か不調を抱えていると判断するところだけど、さっきはビワハヤヒデも似たような仕草をしていたんだよな。

 

『5枠8番、マチカネタンホイザ』

 

 俺が首を傾げていると、今度はマチカネタンホイザが出てきた。この子は……仕上がりも悪くないし、調子も良好って感じだ。ある意味いつも通りって感じだけど、常にレースで()()()()()に仕上げられるってのはとんでもないことである。

 

『5枠9番、スペシャルウィーク』

 

 続いてスペシャルウィークが……っと、こいつはまた……。

 

「おお……」

「仕上がってるな……」

「見ろよあのトモ。良い形に発達してるな」

 

 観客からも感嘆の声が出るほどに、スペシャルウィークの仕上がりは完璧だった。そして調子も絶好調といった感じで、これまでにはない覇気を感じる。

 

(ふむ……これで出るのがライスだったら即、マーク対象だったんだけどな……)

 

 そう思うほどに仕上がりが良い。しかし、今回競い合うのはキングだ。マーク戦法もライス直伝だが、出走している面子が面子だけに一人をマークするのも博打である。

 

『6枠10番、ナイスネイチャ』

 

 ナイスネイチャは……マチカネタンホイザと同様に、仕上がりはいつも通りといった感じだ。ただし気負った様子もなく、観客に向かって苦笑しながら手を振っている。

 

 というか今回はツインターボが出てないんだよな。7月前半にGⅢの函館記念で11着になってたけど、てっきり今回も出てくるものと思ったんだが。

 

『6枠11番、ウイニングチケット』

 

 続いてウイニングチケットが……うーん……。

 

(ビワハヤヒデといいセイウンスカイといいウイニングチケットといい、ほんの少しだけ姿勢がおかしいような……3人同時となると、何かしらの作戦か? 担当トレーナーは……)

 

 俺は視線を巡らせて3人を担当しているトレーナーをそれぞれ見つける。いずれも俺にとっては先輩に当たるトレーナーで、自分の担当ウマ娘を見て満足そうに頷いていた。

 

(3人で組んで八百長……なんて真似はしないだろうしな。バレたらトレーナーライセンスを剥奪されるし、メリットがない……となると、あの3人は何を……)

 

 これで誰か一人の様子がおかしいっていうのなら故障を疑うところだが、3人同時となると判断がつかない。ビワハヤヒデ達も表情を見る限り平然としているから、痛みはないみたいだし……自分が担当しているウマ娘なら声をかけられるし、調子の良し悪しも尋ねられるんだが……。

 

 さすがにレース当日のパドックで他所のトレーナーが担当しているウマ娘に調子を尋ねたり、ちょっかいをかけたりってのは無理だ。下手すると俺が退場処分を喰らうだけでなく、キングにも出走取消処分が下るかもしれん。まあ、先輩方の様子を見る限り、不調ってわけでもないのかな?

 

『8枠14番、オグリキャップ』

 

 そうやって不思議がっていると、とうとうオグリキャップが出てきた。

 

 アナウンスと共にパドックに姿を見せるオグリキャップ。その姿を俺はじっと見つめる。

 

(調子は良さそうだな……姿勢も偏ってないし、本当に繫靭帯炎が治ったのか……)

 

 右足を注視するが、おかしな点はない。庇っている様子もないし、オグリキャップは普段通りぼーっと……してないな。緊張しているわけではなく、表情は気合い十分といった様子だ。

 

 繫靭帯炎という厄介な症状を発症したというのに、一体どんな魔法を使えばその治りにくさから考えれば短期間と思える期間でここまで復調させたのやら。

 

 あるいは繫靭帯炎と言っておいて復調したてと油断を誘う情報戦とか……いや、それなら毎日王冠に出さずいきなりGⅠにぶつけるかな?

 

『8枠15番、キングヘイロー』

 

 俺がオグリキャップに関して思考を巡らせていると、最後にキングが出てきた。秋の天皇賞はフルゲート18人だが、出走を回避したウマ娘がいるため15人での出走である。

 

 つまり今日のキングは8枠15番と大外枠だ。第11レースともなると内ラチが荒れているから悪いスタート位置ではない、と思いたいところである。レースの合間合間に整備員さんが一生懸命整備してくれるけど、さすがに限度があった。

 

「キングヘイロー! がんばってー!」

「キ・ン・グ! キ・ン・グ!」

「よっ! 『世代のキング』!」

 

 パドックに姿を見せたキングに対し、観客達が囃し立てるようにして歓声を上げる。そんな観客達からの声にキングは自身の髪を掻き上げ、優雅に笑ってみせた。

 

 うーん……サマになってるなぁ。先月スプリンターズステークスで勝ってGⅠ5勝目を挙げたため、観客達の期待も大きいものがある。

 

 それでもキングならやってくれると、俺は信じている。

 

 こうして、キングと挑む秋のシニア三冠、その最初のレースの幕が上がったのだった。


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