リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐ 作:烏賊メンコ
さて、ライスシャワーの担当をすると決めたからには、色々とやることがある。
ウララとライスシャワーに準備運動を指示した俺は理事長室に向かい、ライスシャワーの担当トレーナーになることを直接伝えた。
そして、ライスの以前の担当トレーナーが残したデータなどを駿川さんから受け取り、理事長室を後にしたのだが――。
(ふふん、なるほどねぇ……何もわからないことがわかったぜ)
多分、ライスシャワーから受けた報告をそのまままとめて業務日報として提出していたのだろう。
どんなトレーニングをした、どのレースに出てどんな結果だった、などという情報が記されていた。一応、毎日きちんと業務日報は提出されていたようだが。
「どうしろと!?」
パシーン、と紙の束を廊下に叩きつける俺。そして我に返ると、いそいそと紙の束を拾い集める。
トレーナーが名前を貸し、独自にトレーニングを積むウマ娘というのは多いわけではないが一定数存在するらしい。ウマ娘なのに研究に没頭していたり、他のウマ娘の追っかけをしていたり、ウマ娘本人がコーチングに興味があって自分を自分で育成していたりと、様々な事情で様々なウマ娘がいるようだ。
また、トレーナーは割と人手不足であり、トレセン学園に在籍する2000人前後のウマ娘を全員きちんと指導するのは不可能である。だからこそ名義貸しみたいな状況も起こり得るのだろう。なお、そんな状況なのにウマ娘に一切のスカウトを断られたトレーナーもいるらしい。まあ、俺のことだが。
ライスシャワーのようにトレーナーに名前だけ借りて自主トレーニングに励み、GⅠを制したウマ娘となるとその数は極めて少ない。というか、多分ライスシャワーだけではないか。
その結果、俺の手には資料として何の役にも立たない紙の束が握られる羽目になったのである。一応、駿川さんからはライスシャワーが出走したレースの映像を全て収録したDVDをもらってはいるが、こっちは一から全て見なければ意味がない。
(くっそぉ……今からでもそのトレーナーの自宅に突撃してやろうか……)
そんなことを考えたものの、突撃したところで手元の資料が変化するわけもない。それならばウララとライスシャワーのトレーニングを見る方が万倍マシだろう。
資料に書かれていることを見た限り、以前のトレーナーも名前を貸しているだけでライスシャワーの賞金等を得るのは心苦しかったのだろう。必要経費と最低限の報酬だけ受け取り、残りはライスシャワーの口座に全額振り込まれるようにしてあったが、俺としては何の慰めにもならない。
ライスシャワーの以前のトレーナーに関する情報も受け取りはしたが、
(発想を変えよう。そう、俺が今からライスシャワーの情報をまとめる権利を得たんだ、と……だってGⅠウマ娘なんだぜ? その情報は貴重で、俺のこれからのトレーナー人生にも役に立つ……だから最初からまとめとけよチクショー!)
俺は再度資料を床に叩きつけた。これぐらいは許してほしい。いやもう、本当に。
ウララの場合は俺が育成を始めた当初からの情報が揃っている。どんなトレーニングをして、どんな結果になって、走りにどんな影響をもたらしたか、一から記録してあるのだ。
身長、体重、足の大きさ、腕の長さ、腕回りや足回り、筋肉の付き方まで逐一記録している。だからこそ当初の予測よりもウララが成長していることがすぐにわかったし、ウララの情報と他のウマ娘の情報を突き合わせて、どう鍛えれば勝てるようになるのかと検討することもできる。
だが、ライスシャワーにはそれがない。ライスシャワーの育成を引き受けたものの、どこから手をつけてどこまで鍛えることができるか。
ライスシャワー自身、ある程度自分のことは把握しているだろう。さすがに細かいラップタイムなどは記憶していないかもしれないが、どういうトレーニングをしてきたかを聞いて、実際にライスシャワーの体を確認すればおおよそのことはわかるはずだ。
(後で同期連中に土下座行脚して芝のウマ娘のトレーニングに関する情報もらって、育成に使えそうな情報まとめて、芝のクラシック戦線に出てくるウマ娘の情報もまとめて、ライスシャワーが狙えるレースの情報もまとめて……ふっ、死ぬかもしれん)
キリッ、と無駄に顔を引き締めてみるが、現実は変わらない。
悲しいかな、同期のトレーナー達に協力をお願いすることはできるが、先輩トレーナー達は一切頼れない。同期達はみんなウララと同世代のウマ娘を育成しているためライスシャワーとレースがかぶることはほとんどないが、先輩達はそうじゃないからだ。
(GⅠウマ娘の育成に関して情報をちらつかせれば、同期向けに十分な取引ができる……でも先輩方はマジで無理だな……はっはっはっ、難易度高くて笑えてくるわ)
安心材料があるとすれば、菊花賞を制することができるぐらいライスシャワーの
ライスシャワーが怪我をしないよう管理しつつ、あとはメンタルケアを兼ねてウララとうららーな休日でも過ごさせれば案外簡単に持ち直すやもしれぬ。
(でも、まあ……担当を引き受けちまったしなぁ……)
それでも、自分にできることはしなければなるまい。当面はライスシャワーの情報をまとめつつ、ウララの育成も並行して行うしかないだろう。というか、今日から取りかからないとやばい。有馬記念まであと一ヶ月半ぐらいしか余裕がない。
そんなことを考えながらウララとライスシャワーのところに戻ると、地面に座ったウララの前屈を手伝うライスシャワーの姿があった。
「うわぁ……ウララちゃん、体が柔らかいんだね」
「えっへへー……トレーナーがね、怪我だけは絶対にしちゃダメだからって教えてくれたんだー。前はすっごく固かったんだよー」
ライスシャワーと話をしつつ、前屈しながら額を地面につけるウララ。これから寒い時期になるし、柔軟は今まで以上に重要だろう。
「準備運動はそろそろ終わるか? っと、その前にライスシャワー」
俺が声をかけると、ウララとライスシャワーがすぐさま反応する。
「理事長と駿川さんにも報告してきた。これで俺が正式に君の担当トレーナーだ。改めて、これからよろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします、トレーナーさんっ」
俺の言葉に頭を下げるライスシャワー。相変わらず気弱そうな様子で、本当にGⅠウマ娘なのかと疑ってしまいそうになる。
「準備運動が終わったらライスシャワーには……いや、その前にライスシャワー、俺もウララと同じようにライスって呼んでいいか?」
ウララは愛称で呼んでライスシャワーはそのままというのは、どうにも据わりが悪い。そう思って問いかけると、ライスシャワーは何度も頷いた。
「う、うんっ……ライスもそう呼んでほしい、かな」
「そうか……それじゃあ、ライス。君にはまず、実際に走るところを見せてほしい。菊花賞のレース映像は見たけど、やっぱり生で見てみないとわからないことも多いしな」
ライスシャワー――ライスにそう話す俺。
昨晩見たレース映像だけでもライスの凄まじい走りは理解できたが、映像と目の前で見るのでは大きな違いがある。そのため、ウララの育成を始めた時のようにまずはライスの運動能力を確認しようと俺は思った。
「トレーナー、わたしは?」
「ウララはいつも通りダートで……いや、まずは俺と一緒にライスが走るところを見てくれ。あと、できれば応援してやってくれ」
「うん、わかったー!」
ウララにはダートコースで走ってもらおうと思った俺だったが、それを止めて観戦するよう指示を出す。なにせ、ライスというGⅠウマ娘が走る姿なのだ。見るだけでも勉強になるはずである。
あと、ウララの応援でライスがどんな反応を見せるかも確認したかった。
「そうだな、距離は芝の3000メートル……菊花賞と同じ距離だ。怪我をしない程度でいいけど、なるべく全力で走ってくれるか?」
「う、うん……わかった」
出走したレースの距離から判断する限り、ライスの適性距離は中距離から長距離。特に長距離に向いたステイヤーだろう。戦法は先行が向いているだろうが、他にも得意とする戦法があるかもしれない。
一緒に走る相手がいないため走り方は任せるが、どれほどの結果になるのかと思いながら俺はストップウォッチを構える。
「準備はいいな? それじゃあよーい……スタート!」
「っ!」
俺の合図と共にライスが駆け出す。
地面を蹴りつけると共にスタートダッシュを決め、どんどん加速していくライス。芝のコースが苦手なウララと違い、ライスは慣れた様子でターフを駆けて行く。
「わあー! すごいすごい! ライスちゃんはやーい!」
「…………」
両手を突き上げ、その場でぴょんぴょんと跳ねるウララ。ライスの速さに興奮しているのか、尻尾がすさまじい勢いで左右に振られている。その声が聞こえたのか、ライスは僅かに速度を上げてコーナーへと突入した。
「ふれっ! ふれっ! ライスちゃん! ふれっ! ふれっ! ライスちゃん!」
相変わらずぴょんぴょん跳ねながら、頭の上でぱちぱちと両手を叩くウララ。応援してくれとは言ったが、人によっては気が抜けそうだ。俺は落ち着くが。
さて、ライスのコーナーの走り方も見事なもので、外側へと膨らまないよう意識しつつも可能な限り速度を落とさず、最短距離を駆けるよう位置取りをしている。
俺は時折ストップウォッチの数値を確認しつつ、ライスの走りを見続ける。隣ではウララが歓声を上げ続けているが、俺は無言でライスの走りを観察し――首を傾げた。
(さすが、菊花賞を獲っただけのことはある……んだが……)
菊花賞のレース映像で見せたライスの走りと今の走り。それがいまいち噛み合わず、俺の中に違和感として膨らんでいく。
(ミホノブルボンを追走して最後に差したみたいに、前に誰かが走っていないと力が発揮しにくいのか? それとも純粋に調子が悪いのか……うーん……)
ライスの走りはたしかに速い。だが、ミホノブルボンを差し切った時のように、何がなんでも勝ってやろうという意思が見えなくなっていた。
(レース本番じゃないから力をセーブしてるんだろうけど……なんというか、走り方に違和感があるんだよなぁ)
ラップタイムはかなり正確で、1ハロンを1秒の誤差もなくペースを保って走っている。走っているコースは菊花賞で走った京都レース場ほどの起伏がないため、ライスも走りやすそうではあるのだが。
京都レース場の第3コーナー付近には、淀の坂と呼ばれる高低差4.3メートルもの坂路が存在する。心臓破りの坂とも呼ばれるほどの難所で、それがない分ライスの負担も軽くて速度も出やすいはずなのだ。
俺が考え事をしていると、ライスが3000メートルを走り切る。俺はゴールと共にストップウォッチを止めてそのタイムを確認したが、思わず眉を寄せてしまった。
(3分11秒4……このコースでこのタイムか……)
悪いタイムとは言わないが、良いタイムとも言えない。
菊花賞でライスが叩き出したタイムは3分5秒ジャストだ。このタイムはレースレコードにもなったのだが、今しがたライスが走った結果は6秒以上遅い。京都レース場と比べるとかなり平坦で走りやすいにもかかわらずだ。
(やっぱり調子が悪いのか? 昨日の今日だしな。フォームも少しおかしかったし……)
俺が走り方に違和感を覚えたのは、ライスのフォームだ。おかしいというほどではないが、綺麗なフォームとも言い難いものだったのである。
菊花賞ではミホノブルボンを差し切るために死力を振り絞ったような走りだったため、フォームが崩れてもおかしくはない。だが、練習でもフォームがおかしい状態で走らせては、怪我の元だ。
「はぁ……はぁ……ど、どう、かな?」
ライスシャワーは肩で息をしながら尋ねてくる。さすがにステイヤーのウマ娘といえど、3000メートルを走り切ると疲労が大きいのだろう。
「すっごいねーライスちゃん! すっごくすっごく速かったよ!」
「う、うん……ありがと、ウララちゃん。ウララちゃんの声援が聞こえたから……かな」
ライスの走りを見ていたウララは大興奮といった様子でライスに抱き着き、ライスは少しだけ驚いたような顔をしつつもウララを抱き留める。
ほのぼのとしそうな光景ではあるが、俺はウララを抱き留めるライスの体の動きを見ながら尋ねた。
「ライス、体の調子はどうだ? 走ってみて変なところはないか?」
「えっ? 調子は普通……ぐらい、かな? トレーナーさん、ライスの走り、どうだった?」
「悪くはない……でも、良くもないって感じだな」
俺は正直に伝えると、ストップウォッチをライスに見せる。するとライスも驚いたように目を見開いた。
「あ、ほ、本当だ……あのっ、ライス、手を抜いたわけじゃ……」
怒られると思ったのか、ライスは目を伏せて頭部の耳を倒す。俺、そんなに怒りそうな顔をしているんだろうか、などと密かにショックを受けながらも、表面上は苦笑を浮かべた。
「菊花賞からそんなに経ってないし、調子が落ちても別に問題はないさ。でもまぁ……うーん……なんだろうな」
俺はライスの周りをぐるぐると回る。そして頭のてっぺんから爪先までじっくりと観察していくが、トレセン学園のジャージは長袖長ズボンのためいまいちよくわからなかった。
(まさかこの場で服を脱げとか言えんしなぁ……フォームの崩れ方からして、足か?)
俺はウララにライスから離れるよう言うと、ライスのすぐ傍にしゃがみ込む。
「ライス、ズボンの裾を上げてくれるか? 足を見せてほしいんだが」
「……えっ? 足? ライス……の?」
「そう、足だ。出来ればふとももから足首まで全部見せてくれ。ああ、短いズボンを持ってるならそっちに穿き替えてくれると助かる。できれば上も半袖がいいな」
見にくいから着替えてきてくれというと、ライスはなんとも言い難い顔をしていた。しかし小さく頷いたかと思うと、着替えてくると言って駆け出し、五分と経たない内に戻ってくる。
「ど、どうぞ……?」
「悪いな……どれどれ?」
トレセン学園指定の短パン――ではなくブルマに穿き替えてきたライスに感謝を告げ、俺はライスの足をじっくりと見ていく。
頭の片隅で、さっきの言い方ちょっとやばくない? という声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
GⅠウマ娘の体をじっくりと観察できる機会など滅多にない。ライスの今後の育成方針にも関わるし、ウララの育成にも活かせる何かがあれば良いのだが。
ライスはウララよりも5センチほど身長が高いが、体付き自体はウララよりも若干華奢な感じがする。筋肉で引き締まっているというのもあるが、全体的に細身な印象があった。
今でこそ菊花賞を制したライスだが、この小柄さとなると中等部の頃は更に小さく、体も細かったのではないか。体格が大きい方がウマ娘として有利とまでは言わないが、やはり体の大きさが体力に直結する部分もある。
ライスの体を観察する限り、この細さならば以前のトレーナーが名前だけ貸すレベルでしか協力していないのも理解はできる。納得までは、まあ、難しいが。
(さすがGⅠウマ娘、良い筋肉をしているな……でもちょっと細すぎるか? 二の腕も細い……ん? これは……はぁ?)
ライスの足の筋肉を観察していた俺だったが、心の中で思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。そして頭の中に盛大に疑問符が飛び交った。いや待て、ちょっと待てと混乱しそうになる。
「なあ、ライス……できれば違うって言ってほしいんだけど、以前、右足を怪我してないか?」
「えっ? う、うん……去年折った、よ」
平然と骨を折った、と答えるライス。苦労をしたという比喩表現で骨を折ったのなら全然かまわないのだが、物理的にぽっきり折れたのでは洒落にならない。
――そして、洒落にならない事態になりかけていることに気付いた俺は、背中に冷や汗を流す。
「……いつ、どんな感じで折ったんだ?」
「きょ、去年の芙蓉ステークスで、1着を取った時……走り終わった後に、変だなって思ったら折れてて……」
ライスの言葉を聞いた俺は、思わず顔に手を当てる。そして、ため息を吐くようにして言った。
「これ、左右で筋肉のバランスが崩れてるぞ……」
何かフォームに違和感があるな、とは思ったものの、いざ原因を見つけると俺は頭痛を覚えそうになった。
たとえば右足を怪我したとして、右足をかばうために左足に体重をかけるなどして負担をかけていたら左足も傷めたというのは人間でもよくあることだ。
それがウマ娘という人間以上の身体能力を持ち、時速60キロメートルを超えて走れるような存在ならばどうか。
今はまだ、そこまで酷い状態ではない。ライスも無意識に庇っていた程度で、実際に悪影響が出始めるまでしばらく時間がかかっただろう。
だが、ライスシャワーはこれまで自己流でトレーニングを重ねていた。それによって負荷がかかり、これからもかかり続けていたとなると、最悪、今度はレース中に左足が折れかねない。
そこまで考えた俺は、ふと、ライスの背中や腰に視線を向ける。
「ライス、芝の上で悪いけどちょっとうつ伏せになって寝てくれるか?」
「えっ? こ、ここに?」
「ここに。寝てくれ……いや、寝なさい」
最後はやや強めに言うと、ライスは恐る恐るといった様子で芝の上にうつ伏せになった。
「足だけじゃなく、背中とかにも触るぞ。大丈夫だとは思うけど、もしも痛かったらすぐに言ってくれ」
俺はそう言うなり、ライスの足や筋肉を指で押していく。そして筋肉の付き具合を確認していくが、徐々に表情が険しくなっていくのを自覚する。
「トレーナー? なんかね、テレビで見たお面みたいな顔になってるよー?」
般若だね、わかるとも。でもあれ、女性のお面だから違うよね。
そんなことを頭の中で考えることで、心中にふつふつと湧き上がる怒りをなんとか無視する俺。
本職の整体師ではないが、筋肉の付き具合のチェックなどは養成校で学んだ範疇だ。実践経験はウララ一人だが、それでも十分にわかることがある。
「ライス……まずは医者に診てもらおうか」
「……え?」
トレセン学園と提携している医者ならば、すぐに診てくれる。そのため俺は今日のトレーニングを中断し、即座に医者へと連れて行くのだった。
結果は良好とは言えないが、最悪でもない。
以前折った右足の骨は綺麗にくっついていたが、俺が確認した通り筋肉のバランスが悪かった。
きちんとトレーナーの指導を受けてこなかった弊害なのだろう。俺はここまで体を酷使したライスを怒ればいいのか、それとも以前のトレーナーに突撃をかませばいいのか。
俺は渋るライスを寮に帰らせ、今日のところは自主トレーニングをさせてしまったウララの様子を見に行きながら、遠い目をする。
(まずは軽い調整メニューで疲労を抜きつつ、足だけじゃなくて全身の筋肉のバランスを整えていくしかないな……有馬記念は……ギリギリ、か? 出走するだけなら問題はないだろうけど、勝てるレベルになるか?)
ある程度回復するところまではもっていける――と、思いたい。だが、いくらウマ娘といっても怪我がすぐに治ることはないし、長い時間をかけて起こしてしまった
現状では、怪我とも言えない程度の歪みだ。ただし、その歪みは徐々にライスの体を蝕んでいきかねない。ウマ娘にとっては致命的な形で、突如として表に出かねない。
(リハビリ、栄養学、整体……何を参考にすれば……全部? トレセン学園ならその辺の資料も揃ってるだろうし……ウララを寮に帰した後は残業だな、こりゃ)
ウララのことと同様に、ライスの育成を引き受けたことに後悔はない。
だが、これから先のことを考えた俺は、思わず頭を抱えてしまうのだった。